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第五部・ブルーメンブラットヴィル 編
人とカボチャ
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中からは陽気な音楽が聞こえ、玄関ホールから続く部屋の奥に皆がいるようだ。
「カスミ、どうぞ」
アロイスにエスコートの腕を出され、香澄は思わず「あ、どうも」と彼の腕を取りかける。
「こらこらこら」
が、佑にその手を掴まれ、彼の腕に導かれる。
「あっ、そうか」
「しっかり頼むよ」
佑に言われ、香澄は自分が緊張のあまり、エスコートしてもらう相手を思い切り間違えた事に赤面する。
(これはやっちゃいけない間違いだ……)
反省しつつも、緊張のあまりパンプスを履いた足が少し震えてしまう。
佑の実家という訳ではないが、同然でもある。
シャンデリアに照らされた廊下を進み、クラウスが「ここだよ」と入っていた奥からは、人の話し声と音楽が聞こえている。
「大丈夫か?」
「う……うん」
香澄はとっさに、掌に何かを書こうとして……固まった。
「……なんだっけ? カボチャって書くんだっけ?」
それを聞いて、側にいたアロイスがブフォッと噴いた。
「『人』じゃない?」
「あっ、そうだ!」
言われて香澄は掌に人、人、人、と書いてごくんと呑む。
「……香澄、そこまで緊張しなくていいんだけど」
よもや「人」と「カボチャ」を混同すると思わなかったのか、佑が気の毒そうな目で見てくる。
「大丈夫!」
元気いっぱいに言った香澄の目が緊張でグルグルしていたので、佑はあえて強攻策に出た。
「ん……っ?」
彼の両手に頬を包まれたかと思うと、キスをされる。
ほんのり頬を上気させて香澄が放心した時、佑が彼女をエスコートしたまま歩み出した。
『カイ!』
二人が姿を現した途端、近くにいた小学生ほどの少女が駆けよって来た。
『会いたかった!』
『俺もだよ』
佑はしゃがんで目線を合わせると、少女とハグ、チークキスをする。
(わ、可愛い)
金髪碧眼の少女は髪の毛が自然にカールしていて、まさに人形のようだ。
彼女がこちらを意味ありげな目で見た時、相変わらず着物を着ている節子が上品に微笑んで歩み寄ってきた。
「香澄さん、いらっしゃい」
「お招きありがとうございます」
彼女の後ろからはアドラーも笑顔で近づいてきて、その場にいる三十人近くの一族たちに話しかけた。
『皆、日本からはるばる、タスクが婚約者を連れて来てくれた』
その言葉に、双子たちを含めた全員がワッと沸き、拍手や指笛をくれた。
(良かった……。歓迎してもらえてる)
『皆、久しぶり。日本で元気にやっていて、この赤松香澄さんと出会った。来年の今頃には式を挙げる予定だから、ぜひその時祝福してほしい』
また拍手をもらったあと、佑が微笑みかけてきた。
「香澄、少し挨拶できるか? 英語だと緊張するなら、日本語で挨拶をして俺が訳してもいい」
甘やかそうとしてくれる彼に感謝しつつも、ここは自分がしっかりしなければいけないと思った。
「ううん。大丈夫。あのね、こっそり紙に書いて練習してたの。だから、大丈夫」
彼に微笑み返したあと、香澄は緊張しながら彼らに向けて丁寧にお辞儀をした。
そのあと自然な笑顔のまま、一生懸命覚えた挨拶をドイツ語で述べる。
《初めまして。赤松香澄と申します。佑さんの婚約者として皆さんとお会いできたのを嬉しく思います。滞在の間、どうぞ宜しくお願い致します》
香澄の挨拶が終わったあと、全員が笑顔で拍手をしてくれた。
「さあ、座ってちょうだい。ドイツのご馳走もあるし、ブルーメンブラットヴィルにある日本料理の料理人さんに来てもらって、口に合うよう作ってもらった物もあるわ」
節子に言われて長いテーブルを見ると、ご馳走が並んでいて、ホテルのようにウエイターのような格好をした男性たちが、今も料理を運んでいた。
シャンデリアが下がり、ライトアップされた美しい庭を窓から眺められるなか、香澄は佑と共にテーブルにつきシャンパンを注がれる。
「カスミ、どうぞ」
アロイスにエスコートの腕を出され、香澄は思わず「あ、どうも」と彼の腕を取りかける。
「こらこらこら」
が、佑にその手を掴まれ、彼の腕に導かれる。
「あっ、そうか」
「しっかり頼むよ」
佑に言われ、香澄は自分が緊張のあまり、エスコートしてもらう相手を思い切り間違えた事に赤面する。
(これはやっちゃいけない間違いだ……)
反省しつつも、緊張のあまりパンプスを履いた足が少し震えてしまう。
佑の実家という訳ではないが、同然でもある。
シャンデリアに照らされた廊下を進み、クラウスが「ここだよ」と入っていた奥からは、人の話し声と音楽が聞こえている。
「大丈夫か?」
「う……うん」
香澄はとっさに、掌に何かを書こうとして……固まった。
「……なんだっけ? カボチャって書くんだっけ?」
それを聞いて、側にいたアロイスがブフォッと噴いた。
「『人』じゃない?」
「あっ、そうだ!」
言われて香澄は掌に人、人、人、と書いてごくんと呑む。
「……香澄、そこまで緊張しなくていいんだけど」
よもや「人」と「カボチャ」を混同すると思わなかったのか、佑が気の毒そうな目で見てくる。
「大丈夫!」
元気いっぱいに言った香澄の目が緊張でグルグルしていたので、佑はあえて強攻策に出た。
「ん……っ?」
彼の両手に頬を包まれたかと思うと、キスをされる。
ほんのり頬を上気させて香澄が放心した時、佑が彼女をエスコートしたまま歩み出した。
『カイ!』
二人が姿を現した途端、近くにいた小学生ほどの少女が駆けよって来た。
『会いたかった!』
『俺もだよ』
佑はしゃがんで目線を合わせると、少女とハグ、チークキスをする。
(わ、可愛い)
金髪碧眼の少女は髪の毛が自然にカールしていて、まさに人形のようだ。
彼女がこちらを意味ありげな目で見た時、相変わらず着物を着ている節子が上品に微笑んで歩み寄ってきた。
「香澄さん、いらっしゃい」
「お招きありがとうございます」
彼女の後ろからはアドラーも笑顔で近づいてきて、その場にいる三十人近くの一族たちに話しかけた。
『皆、日本からはるばる、タスクが婚約者を連れて来てくれた』
その言葉に、双子たちを含めた全員がワッと沸き、拍手や指笛をくれた。
(良かった……。歓迎してもらえてる)
『皆、久しぶり。日本で元気にやっていて、この赤松香澄さんと出会った。来年の今頃には式を挙げる予定だから、ぜひその時祝福してほしい』
また拍手をもらったあと、佑が微笑みかけてきた。
「香澄、少し挨拶できるか? 英語だと緊張するなら、日本語で挨拶をして俺が訳してもいい」
甘やかそうとしてくれる彼に感謝しつつも、ここは自分がしっかりしなければいけないと思った。
「ううん。大丈夫。あのね、こっそり紙に書いて練習してたの。だから、大丈夫」
彼に微笑み返したあと、香澄は緊張しながら彼らに向けて丁寧にお辞儀をした。
そのあと自然な笑顔のまま、一生懸命覚えた挨拶をドイツ語で述べる。
《初めまして。赤松香澄と申します。佑さんの婚約者として皆さんとお会いできたのを嬉しく思います。滞在の間、どうぞ宜しくお願い致します》
香澄の挨拶が終わったあと、全員が笑顔で拍手をしてくれた。
「さあ、座ってちょうだい。ドイツのご馳走もあるし、ブルーメンブラットヴィルにある日本料理の料理人さんに来てもらって、口に合うよう作ってもらった物もあるわ」
節子に言われて長いテーブルを見ると、ご馳走が並んでいて、ホテルのようにウエイターのような格好をした男性たちが、今も料理を運んでいた。
シャンデリアが下がり、ライトアップされた美しい庭を窓から眺められるなか、香澄は佑と共にテーブルにつきシャンパンを注がれる。
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