145 / 1,544
第四部・婚約 編
マジもんの御劔佑
しおりを挟む
『じゃあ、メシ行くか』
『オッケー。ていうか、二人だと味気ないから、誰か女の子が一緒してくれたら嬉しいんだけど』
『それなー』
何とも軽薄な事を言いながら、二人は準備をしたあとスイートルームを出ていった。
**
それから数週間が過ぎ、四月の下旬に香澄は札幌に戻っていた。
「まだこっちは肌寒いんだな」
四月の下旬にもなると札幌もさすがに暖かくなってきているが、日陰にはまだ雪がある状態だ。
それでも天気のいい日は最高気温が十五度以上にはなるので、着る物はすっかり冬物を脱してスプリングコートになる。
また、桜も咲いてきていて丁度良かった。
二人は新千歳空港で佑のプライベートジェットを下りたあと、札幌のガレージから出した佑の車に乗り、高速道路で札幌中心部に向かう。
西区まで行った頃には移動で疲れていたが、香澄は久しぶりの地元に浮き足立っている。
住宅街の中の一軒の前で車が停まり、二人が降車する。
「おかしくない?」
「可愛いよ」
結婚の挨拶という事で、香澄は品のあるベージュピンクのワンピースを着ていた。
髪も緩く巻き、ハーフアップにしてヘアクリップで留めている。
佑はいつも通り、体型に合ったスーツをビシッと着ている。
少し緊張して深呼吸したあと、香澄は自分の家のチャイムを押した。
ピーンポーン……と音がしたあと、インターフォンから弟の芳也の声が『はい』と返事をする。
『わっ! マジもんの御劔佑だ! ちょっと待って!』
弟の声がそこで切れたあと、香澄は恥ずかしくなって佑に謝る。
「ごめんね……」
「いや、いいよ。仲良くなれたらいいな」
すぐに玄関の鍵が開き、家着にしてはきちんとした、シャツにズボンという姿の芳也が顔を出した。
「いらっ…………しゃいませ……」
片足でサンダルを踏み、玄関ドアを開けたままの体勢で、芳也は佑を凝視して放心する。
芳也は身長百七十五センチ少しで、爽やかアナウンサー風の髪型の、札幌市内の会社勤務サラリーマンだ。
普段は中央区にある賃貸マンションで一人暮らしをしている。
最近体作りに嵌まっているというのも、姉が付き合っている佑が立派な体躯をしているから、という理由らしい。
その男の子らしい憧れに、姉としてはニコニコなのだが、あまり弄ると怒られるので黙っている。
「初めまして。御劔佑です」
いつもテレビの向こうで活躍している有名人が、自分の家を訪れてにっこり笑う様子を見て、芳也は再び放心する。
「中冷えるから入れて」
香澄が弟の腕をトントンと叩くと、彼は「お、おう」と我に返って二人を招き入れた。
「御劔さん、ようこそいらっしゃいました」
おめかしした母の栄子がニコニコして玄関まで出てきて、隣には父の崇もいる。
二人とも佑と面識があるからか、好意的に迎えてくれて第一段階クリアだ。
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
とっておきの笑みを浮かべる佑を前に、両親はすでに骨抜きだ。
家に上がったあと、佑が栄子に手土産を渡す。
香澄からも個人的に「東京土産だよ」と言って、沢山お菓子を渡した。
やがて栄子がお茶とお茶菓子を用意し、リビングに座った五人に微かな緊張が走る。
「以前は、突然の事でしたが、大切な娘さんを私に託して頂き、東京に連れて行く事を許可してくださり、ありがとうございました」
佑が口を開くと、両親が「いいえ、そんな……」と微笑む。
「香澄は東京でうまくやれてるのか?」
父に尋ねられ、香澄は「うん」と頷く。
「上司で松井さんっていうベテラン秘書さんがいるんだけど、温厚で仕事ができて、とても尊敬できる人なの。それと佑さん……社長にも大切にされていて、東京で嫌な目に遭ったとかは一度もないよ。大切にされすぎていて、不安になるぐらい」
笑って伝えると、両親も芳也も安心したようだ。
「仕事は大変?」
母に尋ねられ、香澄は「うん」とまた頷く。
「あのChief Everyの社長秘書だもん、忙しいよ。でも、やりがいはある。八谷にいた時もやりがいはあったけど、まったく別の職種だから別のやりがいがある。毎日発見があって、大変だけど楽しいよ」
「そう」
東京で香澄が充実しているようだと知り、栄子は安心したように微笑んだ。
『オッケー。ていうか、二人だと味気ないから、誰か女の子が一緒してくれたら嬉しいんだけど』
『それなー』
何とも軽薄な事を言いながら、二人は準備をしたあとスイートルームを出ていった。
**
それから数週間が過ぎ、四月の下旬に香澄は札幌に戻っていた。
「まだこっちは肌寒いんだな」
四月の下旬にもなると札幌もさすがに暖かくなってきているが、日陰にはまだ雪がある状態だ。
それでも天気のいい日は最高気温が十五度以上にはなるので、着る物はすっかり冬物を脱してスプリングコートになる。
また、桜も咲いてきていて丁度良かった。
二人は新千歳空港で佑のプライベートジェットを下りたあと、札幌のガレージから出した佑の車に乗り、高速道路で札幌中心部に向かう。
西区まで行った頃には移動で疲れていたが、香澄は久しぶりの地元に浮き足立っている。
住宅街の中の一軒の前で車が停まり、二人が降車する。
「おかしくない?」
「可愛いよ」
結婚の挨拶という事で、香澄は品のあるベージュピンクのワンピースを着ていた。
髪も緩く巻き、ハーフアップにしてヘアクリップで留めている。
佑はいつも通り、体型に合ったスーツをビシッと着ている。
少し緊張して深呼吸したあと、香澄は自分の家のチャイムを押した。
ピーンポーン……と音がしたあと、インターフォンから弟の芳也の声が『はい』と返事をする。
『わっ! マジもんの御劔佑だ! ちょっと待って!』
弟の声がそこで切れたあと、香澄は恥ずかしくなって佑に謝る。
「ごめんね……」
「いや、いいよ。仲良くなれたらいいな」
すぐに玄関の鍵が開き、家着にしてはきちんとした、シャツにズボンという姿の芳也が顔を出した。
「いらっ…………しゃいませ……」
片足でサンダルを踏み、玄関ドアを開けたままの体勢で、芳也は佑を凝視して放心する。
芳也は身長百七十五センチ少しで、爽やかアナウンサー風の髪型の、札幌市内の会社勤務サラリーマンだ。
普段は中央区にある賃貸マンションで一人暮らしをしている。
最近体作りに嵌まっているというのも、姉が付き合っている佑が立派な体躯をしているから、という理由らしい。
その男の子らしい憧れに、姉としてはニコニコなのだが、あまり弄ると怒られるので黙っている。
「初めまして。御劔佑です」
いつもテレビの向こうで活躍している有名人が、自分の家を訪れてにっこり笑う様子を見て、芳也は再び放心する。
「中冷えるから入れて」
香澄が弟の腕をトントンと叩くと、彼は「お、おう」と我に返って二人を招き入れた。
「御劔さん、ようこそいらっしゃいました」
おめかしした母の栄子がニコニコして玄関まで出てきて、隣には父の崇もいる。
二人とも佑と面識があるからか、好意的に迎えてくれて第一段階クリアだ。
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
とっておきの笑みを浮かべる佑を前に、両親はすでに骨抜きだ。
家に上がったあと、佑が栄子に手土産を渡す。
香澄からも個人的に「東京土産だよ」と言って、沢山お菓子を渡した。
やがて栄子がお茶とお茶菓子を用意し、リビングに座った五人に微かな緊張が走る。
「以前は、突然の事でしたが、大切な娘さんを私に託して頂き、東京に連れて行く事を許可してくださり、ありがとうございました」
佑が口を開くと、両親が「いいえ、そんな……」と微笑む。
「香澄は東京でうまくやれてるのか?」
父に尋ねられ、香澄は「うん」と頷く。
「上司で松井さんっていうベテラン秘書さんがいるんだけど、温厚で仕事ができて、とても尊敬できる人なの。それと佑さん……社長にも大切にされていて、東京で嫌な目に遭ったとかは一度もないよ。大切にされすぎていて、不安になるぐらい」
笑って伝えると、両親も芳也も安心したようだ。
「仕事は大変?」
母に尋ねられ、香澄は「うん」とまた頷く。
「あのChief Everyの社長秘書だもん、忙しいよ。でも、やりがいはある。八谷にいた時もやりがいはあったけど、まったく別の職種だから別のやりがいがある。毎日発見があって、大変だけど楽しいよ」
「そう」
東京で香澄が充実しているようだと知り、栄子は安心したように微笑んだ。
41
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる
ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。
正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。
そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる