145 / 1,548
第四部・婚約 編
マジもんの御劔佑
しおりを挟む
『じゃあ、メシ行くか』
『オッケー。ていうか、二人だと味気ないから、誰か女の子が一緒してくれたら嬉しいんだけど』
『それなー』
何とも軽薄な事を言いながら、二人は準備をしたあとスイートルームを出ていった。
**
それから数週間が過ぎ、四月の下旬に香澄は札幌に戻っていた。
「まだこっちは肌寒いんだな」
四月の下旬にもなると札幌もさすがに暖かくなってきているが、日陰にはまだ雪がある状態だ。
それでも天気のいい日は最高気温が十五度以上にはなるので、着る物はすっかり冬物を脱してスプリングコートになる。
また、桜も咲いてきていて丁度良かった。
二人は新千歳空港で佑のプライベートジェットを下りたあと、札幌のガレージから出した佑の車に乗り、高速道路で札幌中心部に向かう。
西区まで行った頃には移動で疲れていたが、香澄は久しぶりの地元に浮き足立っている。
住宅街の中の一軒の前で車が停まり、二人が降車する。
「おかしくない?」
「可愛いよ」
結婚の挨拶という事で、香澄は品のあるベージュピンクのワンピースを着ていた。
髪も緩く巻き、ハーフアップにしてヘアクリップで留めている。
佑はいつも通り、体型に合ったスーツをビシッと着ている。
少し緊張して深呼吸したあと、香澄は自分の家のチャイムを押した。
ピーンポーン……と音がしたあと、インターフォンから弟の芳也の声が『はい』と返事をする。
『わっ! マジもんの御劔佑だ! ちょっと待って!』
弟の声がそこで切れたあと、香澄は恥ずかしくなって佑に謝る。
「ごめんね……」
「いや、いいよ。仲良くなれたらいいな」
すぐに玄関の鍵が開き、家着にしてはきちんとした、シャツにズボンという姿の芳也が顔を出した。
「いらっ…………しゃいませ……」
片足でサンダルを踏み、玄関ドアを開けたままの体勢で、芳也は佑を凝視して放心する。
芳也は身長百七十五センチ少しで、爽やかアナウンサー風の髪型の、札幌市内の会社勤務サラリーマンだ。
普段は中央区にある賃貸マンションで一人暮らしをしている。
最近体作りに嵌まっているというのも、姉が付き合っている佑が立派な体躯をしているから、という理由らしい。
その男の子らしい憧れに、姉としてはニコニコなのだが、あまり弄ると怒られるので黙っている。
「初めまして。御劔佑です」
いつもテレビの向こうで活躍している有名人が、自分の家を訪れてにっこり笑う様子を見て、芳也は再び放心する。
「中冷えるから入れて」
香澄が弟の腕をトントンと叩くと、彼は「お、おう」と我に返って二人を招き入れた。
「御劔さん、ようこそいらっしゃいました」
おめかしした母の栄子がニコニコして玄関まで出てきて、隣には父の崇もいる。
二人とも佑と面識があるからか、好意的に迎えてくれて第一段階クリアだ。
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
とっておきの笑みを浮かべる佑を前に、両親はすでに骨抜きだ。
家に上がったあと、佑が栄子に手土産を渡す。
香澄からも個人的に「東京土産だよ」と言って、沢山お菓子を渡した。
やがて栄子がお茶とお茶菓子を用意し、リビングに座った五人に微かな緊張が走る。
「以前は、突然の事でしたが、大切な娘さんを私に託して頂き、東京に連れて行く事を許可してくださり、ありがとうございました」
佑が口を開くと、両親が「いいえ、そんな……」と微笑む。
「香澄は東京でうまくやれてるのか?」
父に尋ねられ、香澄は「うん」と頷く。
「上司で松井さんっていうベテラン秘書さんがいるんだけど、温厚で仕事ができて、とても尊敬できる人なの。それと佑さん……社長にも大切にされていて、東京で嫌な目に遭ったとかは一度もないよ。大切にされすぎていて、不安になるぐらい」
笑って伝えると、両親も芳也も安心したようだ。
「仕事は大変?」
母に尋ねられ、香澄は「うん」とまた頷く。
「あのChief Everyの社長秘書だもん、忙しいよ。でも、やりがいはある。八谷にいた時もやりがいはあったけど、まったく別の職種だから別のやりがいがある。毎日発見があって、大変だけど楽しいよ」
「そう」
東京で香澄が充実しているようだと知り、栄子は安心したように微笑んだ。
『オッケー。ていうか、二人だと味気ないから、誰か女の子が一緒してくれたら嬉しいんだけど』
『それなー』
何とも軽薄な事を言いながら、二人は準備をしたあとスイートルームを出ていった。
**
それから数週間が過ぎ、四月の下旬に香澄は札幌に戻っていた。
「まだこっちは肌寒いんだな」
四月の下旬にもなると札幌もさすがに暖かくなってきているが、日陰にはまだ雪がある状態だ。
それでも天気のいい日は最高気温が十五度以上にはなるので、着る物はすっかり冬物を脱してスプリングコートになる。
また、桜も咲いてきていて丁度良かった。
二人は新千歳空港で佑のプライベートジェットを下りたあと、札幌のガレージから出した佑の車に乗り、高速道路で札幌中心部に向かう。
西区まで行った頃には移動で疲れていたが、香澄は久しぶりの地元に浮き足立っている。
住宅街の中の一軒の前で車が停まり、二人が降車する。
「おかしくない?」
「可愛いよ」
結婚の挨拶という事で、香澄は品のあるベージュピンクのワンピースを着ていた。
髪も緩く巻き、ハーフアップにしてヘアクリップで留めている。
佑はいつも通り、体型に合ったスーツをビシッと着ている。
少し緊張して深呼吸したあと、香澄は自分の家のチャイムを押した。
ピーンポーン……と音がしたあと、インターフォンから弟の芳也の声が『はい』と返事をする。
『わっ! マジもんの御劔佑だ! ちょっと待って!』
弟の声がそこで切れたあと、香澄は恥ずかしくなって佑に謝る。
「ごめんね……」
「いや、いいよ。仲良くなれたらいいな」
すぐに玄関の鍵が開き、家着にしてはきちんとした、シャツにズボンという姿の芳也が顔を出した。
「いらっ…………しゃいませ……」
片足でサンダルを踏み、玄関ドアを開けたままの体勢で、芳也は佑を凝視して放心する。
芳也は身長百七十五センチ少しで、爽やかアナウンサー風の髪型の、札幌市内の会社勤務サラリーマンだ。
普段は中央区にある賃貸マンションで一人暮らしをしている。
最近体作りに嵌まっているというのも、姉が付き合っている佑が立派な体躯をしているから、という理由らしい。
その男の子らしい憧れに、姉としてはニコニコなのだが、あまり弄ると怒られるので黙っている。
「初めまして。御劔佑です」
いつもテレビの向こうで活躍している有名人が、自分の家を訪れてにっこり笑う様子を見て、芳也は再び放心する。
「中冷えるから入れて」
香澄が弟の腕をトントンと叩くと、彼は「お、おう」と我に返って二人を招き入れた。
「御劔さん、ようこそいらっしゃいました」
おめかしした母の栄子がニコニコして玄関まで出てきて、隣には父の崇もいる。
二人とも佑と面識があるからか、好意的に迎えてくれて第一段階クリアだ。
「お久しぶりです。お変わりないようで何よりです」
とっておきの笑みを浮かべる佑を前に、両親はすでに骨抜きだ。
家に上がったあと、佑が栄子に手土産を渡す。
香澄からも個人的に「東京土産だよ」と言って、沢山お菓子を渡した。
やがて栄子がお茶とお茶菓子を用意し、リビングに座った五人に微かな緊張が走る。
「以前は、突然の事でしたが、大切な娘さんを私に託して頂き、東京に連れて行く事を許可してくださり、ありがとうございました」
佑が口を開くと、両親が「いいえ、そんな……」と微笑む。
「香澄は東京でうまくやれてるのか?」
父に尋ねられ、香澄は「うん」と頷く。
「上司で松井さんっていうベテラン秘書さんがいるんだけど、温厚で仕事ができて、とても尊敬できる人なの。それと佑さん……社長にも大切にされていて、東京で嫌な目に遭ったとかは一度もないよ。大切にされすぎていて、不安になるぐらい」
笑って伝えると、両親も芳也も安心したようだ。
「仕事は大変?」
母に尋ねられ、香澄は「うん」とまた頷く。
「あのChief Everyの社長秘書だもん、忙しいよ。でも、やりがいはある。八谷にいた時もやりがいはあったけど、まったく別の職種だから別のやりがいがある。毎日発見があって、大変だけど楽しいよ」
「そう」
東京で香澄が充実しているようだと知り、栄子は安心したように微笑んだ。
42
お気に入りに追加
2,544
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる