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第二部・お見合い 編
バレンタインデート2
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「うん。……ふふっ、変なの。佑さんなら世界中の高級チョコをいつでも食べられそうなのに」
「それは否定しないけど、好きな女性の手作りチョコは、すべての男の夢だと思うけどな」
佑が大げさな事を言うので、香澄は声を上げて笑った。
彼と話しただけで、昔の事を思い出して少ししょんぼりしていた気持ちが温かくなる。
「何で別れたのか、聞いてもいいか?」
「……何だったかな。あんまりこれっていう理由がなかった気がしたけど。三年生になったらそれぞれ違うゼミに入って、一緒に行動しなくなったっていうのが大きいと思う」
「なるほど、それはあるな」
「今言ったような事がちょこちょこあったから、私も健二くん……元彼の事を『好きで堪らない』っていう程じゃなかったの。向こうも私に対して『思っていたのと違う』とか多分あって……、自然消滅した感じ……なのかな。三年生の後半になったら、キャンパスの中で元彼が別の女の子と仲良く歩いているのをよく見かけたし、『ああ、終わったんだな』って実感した」
「……勿体ないな」
三角座りをしていた佑は胡座をかき、息をつく。
「佑さんって大学生時代、どうったったの? モテたでしょう」
佑は日本で一番頭がいいと言われる大学に通っていたのは、世間の皆が知る情報だ。
「いや? 友達はいたけど、モテたっていう程じゃないよ」
「嘘だぁ。気を遣わなくていいんだよ?」
香澄は笑いながら、肘でツンツンと佑をつつく。
「嘘じゃないよ」
「ミスターなんとか……とか、ならなかった?」
「そういうのは逃げ回ってた。断る権利もあるから。というか、高校時代から起業したから、勉強の傍ら仕事で忙しくて、色恋とか飲み会とか、そういうノリじゃなかったかな」
「あぁ、そっか……」
佑は高校生時代からの親友である、真澄と学生時代に起業した。
Chief Everyの前身となるファッションアプリを、機械に強い真澄の協力を得て開発し、大学生時代には佑がデザインして自作した一点物の服の通販なども、アプリを通じて行っていたそうだ。
今ではその時期の商品にはプレミアがついているらしい。
「……でも、元カノはいたでしょう? ……ごめんなさい。あんまりこういうの、聞きすぎると良くないね」
聞いてしまってからすぐに反省し、香澄は自嘲めいた笑みを浮かべる。
「いいや? 俺に興味を持ってくれてるんだって思えて、嬉しいよ」
「佑さんはポジティブだね」
思わず笑った香澄の頭を、佑はポンポンと撫でてくる。
「元カノはいたけど……。今は少しも関わってないから、それは安心してほしいな」
「うん」
一緒に暮らして二か月になるが、思っていた以上に女性の影がない。
彼が言っている事はほぼ本当なのだろう。
「何人とお付き合いしたの?」
「ん、あー……」
質問を聞いて佑は目を眇め、考え込む。
「あ、いや、いいよ。答えなくていい」
「いや、そうじゃなくて」
「違うの、数え切れないほど付き合ったとか思ってないよ。ただ、佑さんが〝何人〟って即答できるお付き合いをしたんじゃないっていうのは、すぐに理解して……。馬鹿な質問をしたって思ってる」
「ん……」
そのあと少し微妙な空気になり、佑が「風呂、沸いたかな」と立ち上がった。
彼の後ろをついて歩き、下まで行くと先にバスルームに向かった彼が指でOKサインを作って出て来た。
「もちろん、一緒に入るよな?」
「う……うん……」
ベッドルームに上がった時には、彼はすでにジャケットを脱いでいた。
ベストのボタンに手を掛けネクタイを緩める佑を見ると、どことなく罪悪感が湧いてならない。
(こんなに格好いい人、独り占めしちゃうんだもんなぁ……)
佑に背中を向け、香澄はワンピースと共布になっているリボンベルトを外す。
首元から裾まで縦一列に並んでいるボタンを胸の下まで外すと、ワンピースを一気に脱いだ。
それを佑が受け取ってくれ、ハンガーに掛けて癖が付かないよう軽くボタンを留める。
「ありがとう」
ワンピースを脱いだ下は、下着と揃いのキャミソールだ。
花柄の薄い布地の縁にレースがあり、胸元にはダリアの花が咲いている。
裾は花柄の布地がギザギザになるようカットされていて、残る部分をたっぷりとしたレースが飾っていてとてもゴージャスだ。
「こっち向いて」
目ざとく香澄の下着に気付いた佑が、微笑んで声を掛けてくる。
「……は、派手じゃない?」
思わず両手で胸元を隠そうとすると、その手を優しく取られ左右に広げられた。
香澄がつけているのは、日本の大手下着ブランドの中で最高峰と呼ばれている〝レディ〟シリーズだ。
香澄の今日のフル装備――ブラジャー、パンティ、ガーターベルト、キャミソールだけでも、五万五千円近くする高級さだ。
しかし高級なだけあって、あしらわれているレースや大きなダリアの刺繍は、うっとりするほど美しい。
「……凄く美しいよ」
佑はとろけそうな目で香澄を見つめてから、不意にまじめな顔になる。
「写真撮っていい?」
「駄目です」
脱衣所で丁寧に佑に脱がされ、メイク落としや歯磨きなど済ませる。
シャワーボックスで髪と体を洗ってから、二人はジェットバスで体を寄せ合っていた。
「いいバレンタインだな」
「あとでチョコあげるね。私もたっぷりご馳走になっちゃったけど」
「大切に食べるよ」
香澄は佑に後ろから包み込まれるように抱かれていて、彼はこめかみにキスをしてくる。
「私……。凄く、幸せ」
ぽつんと呟くと、今度は耳の裏あたりにキスをされた。
自分が男性とこうやってイチャイチャしているのが嘘のようだ。
(毎年、麻衣と友チョコ送り合って、二人でバレンタインのコースメニュー食べてたっけ)
それを〝寂しい〟とは思わないが、自分がいわゆる〝リア充〟になったのをいまだ信じられないでいる。
「俺も幸せだよ。本当に、久しぶりに……、いや、初めてこんな満ち足りたバレンタインを経験した」
(やっぱり大げさだなぁ)
彼ならもっと素敵な女性と、いいバレンタインを過ごしていそうだ。
分かっていながらも、自分には甘い言葉を吐いてくれるのが嬉しくて堪らない。
(……好き……。かも)
心の中で呟き、香澄は少しだけ納得した。
(好きって、こうやって何気ないところからジワジワ感じるものなんだろうな。ある地点から〝好きになった〟とかは、私の場合は当てはまらない)
一般的に〝恋に落ちた瞬間〟があると言われているが、少なくとも香澄は佑に対してとまどってばかりで、それを感じられなかった。
逆を言えば佑はいつ見ても完璧に格好良くて、どのタイミングで恋に落ちればいいのか分からない。
「外見で好きだと思ったら、きっと嫌がられる」と自分に言い聞かせているうちに、本来なら自然に恋に落ちていただろうタイミングを見失ってしまった。
「佑さんは、自分のどういうところを好きになられたら嬉しい?」
「え? 難しい質問だな。香澄が俺を好きになってくれるなら、どんな点でも嬉しいけど」
「でも、顔とか外見が素敵っていうのは、言われ慣れてるから嫌でしょ?」
「うーん……。確かに言われ慣れてはいるけど、香澄が俺の顔を好きだって思ってくれるなら、素直に嬉しいよ」
「本当?」
チラッと彼を振り向くと、彼は香澄の脚を揃えたまま自分の太腿に掛け、横向きに抱いてくる。
「俺の顔、好き?」
そう言って微笑んでくる佑は、実に魅力的だ。
髪が濡れているからかいつも以上に色気があり、柔らかな照明を受けてまろく光っている頬のすべらかさも、そこに影を落としている睫毛の長さも、すべて芸術品のように思える。
彼の美貌に半ば見入ったまま、香澄は小さく頷く。
「……好き。とても綺麗」
溜め息交じりに賛辞し、香澄は佑の頬をそっと撫でる。
「なら良かった。俺は香澄の顔も好きだよ」
微笑んだ彼は目を細め、顔を傾けるとチュッとキスしてきた。
自分の顔は特に美形の類いではないと分かっているのに、佑に褒められるとどこか嬉しくなる。
「唇も、柔らかくてずっと味わっていたくなる」
甘い声で囁き、佑はまた香澄の唇をついばんできた。
「ん……、ぅ」
上唇や下唇を甘噛みされ、気持ちがフワフワしてくる。
「それは否定しないけど、好きな女性の手作りチョコは、すべての男の夢だと思うけどな」
佑が大げさな事を言うので、香澄は声を上げて笑った。
彼と話しただけで、昔の事を思い出して少ししょんぼりしていた気持ちが温かくなる。
「何で別れたのか、聞いてもいいか?」
「……何だったかな。あんまりこれっていう理由がなかった気がしたけど。三年生になったらそれぞれ違うゼミに入って、一緒に行動しなくなったっていうのが大きいと思う」
「なるほど、それはあるな」
「今言ったような事がちょこちょこあったから、私も健二くん……元彼の事を『好きで堪らない』っていう程じゃなかったの。向こうも私に対して『思っていたのと違う』とか多分あって……、自然消滅した感じ……なのかな。三年生の後半になったら、キャンパスの中で元彼が別の女の子と仲良く歩いているのをよく見かけたし、『ああ、終わったんだな』って実感した」
「……勿体ないな」
三角座りをしていた佑は胡座をかき、息をつく。
「佑さんって大学生時代、どうったったの? モテたでしょう」
佑は日本で一番頭がいいと言われる大学に通っていたのは、世間の皆が知る情報だ。
「いや? 友達はいたけど、モテたっていう程じゃないよ」
「嘘だぁ。気を遣わなくていいんだよ?」
香澄は笑いながら、肘でツンツンと佑をつつく。
「嘘じゃないよ」
「ミスターなんとか……とか、ならなかった?」
「そういうのは逃げ回ってた。断る権利もあるから。というか、高校時代から起業したから、勉強の傍ら仕事で忙しくて、色恋とか飲み会とか、そういうノリじゃなかったかな」
「あぁ、そっか……」
佑は高校生時代からの親友である、真澄と学生時代に起業した。
Chief Everyの前身となるファッションアプリを、機械に強い真澄の協力を得て開発し、大学生時代には佑がデザインして自作した一点物の服の通販なども、アプリを通じて行っていたそうだ。
今ではその時期の商品にはプレミアがついているらしい。
「……でも、元カノはいたでしょう? ……ごめんなさい。あんまりこういうの、聞きすぎると良くないね」
聞いてしまってからすぐに反省し、香澄は自嘲めいた笑みを浮かべる。
「いいや? 俺に興味を持ってくれてるんだって思えて、嬉しいよ」
「佑さんはポジティブだね」
思わず笑った香澄の頭を、佑はポンポンと撫でてくる。
「元カノはいたけど……。今は少しも関わってないから、それは安心してほしいな」
「うん」
一緒に暮らして二か月になるが、思っていた以上に女性の影がない。
彼が言っている事はほぼ本当なのだろう。
「何人とお付き合いしたの?」
「ん、あー……」
質問を聞いて佑は目を眇め、考え込む。
「あ、いや、いいよ。答えなくていい」
「いや、そうじゃなくて」
「違うの、数え切れないほど付き合ったとか思ってないよ。ただ、佑さんが〝何人〟って即答できるお付き合いをしたんじゃないっていうのは、すぐに理解して……。馬鹿な質問をしたって思ってる」
「ん……」
そのあと少し微妙な空気になり、佑が「風呂、沸いたかな」と立ち上がった。
彼の後ろをついて歩き、下まで行くと先にバスルームに向かった彼が指でOKサインを作って出て来た。
「もちろん、一緒に入るよな?」
「う……うん……」
ベッドルームに上がった時には、彼はすでにジャケットを脱いでいた。
ベストのボタンに手を掛けネクタイを緩める佑を見ると、どことなく罪悪感が湧いてならない。
(こんなに格好いい人、独り占めしちゃうんだもんなぁ……)
佑に背中を向け、香澄はワンピースと共布になっているリボンベルトを外す。
首元から裾まで縦一列に並んでいるボタンを胸の下まで外すと、ワンピースを一気に脱いだ。
それを佑が受け取ってくれ、ハンガーに掛けて癖が付かないよう軽くボタンを留める。
「ありがとう」
ワンピースを脱いだ下は、下着と揃いのキャミソールだ。
花柄の薄い布地の縁にレースがあり、胸元にはダリアの花が咲いている。
裾は花柄の布地がギザギザになるようカットされていて、残る部分をたっぷりとしたレースが飾っていてとてもゴージャスだ。
「こっち向いて」
目ざとく香澄の下着に気付いた佑が、微笑んで声を掛けてくる。
「……は、派手じゃない?」
思わず両手で胸元を隠そうとすると、その手を優しく取られ左右に広げられた。
香澄がつけているのは、日本の大手下着ブランドの中で最高峰と呼ばれている〝レディ〟シリーズだ。
香澄の今日のフル装備――ブラジャー、パンティ、ガーターベルト、キャミソールだけでも、五万五千円近くする高級さだ。
しかし高級なだけあって、あしらわれているレースや大きなダリアの刺繍は、うっとりするほど美しい。
「……凄く美しいよ」
佑はとろけそうな目で香澄を見つめてから、不意にまじめな顔になる。
「写真撮っていい?」
「駄目です」
脱衣所で丁寧に佑に脱がされ、メイク落としや歯磨きなど済ませる。
シャワーボックスで髪と体を洗ってから、二人はジェットバスで体を寄せ合っていた。
「いいバレンタインだな」
「あとでチョコあげるね。私もたっぷりご馳走になっちゃったけど」
「大切に食べるよ」
香澄は佑に後ろから包み込まれるように抱かれていて、彼はこめかみにキスをしてくる。
「私……。凄く、幸せ」
ぽつんと呟くと、今度は耳の裏あたりにキスをされた。
自分が男性とこうやってイチャイチャしているのが嘘のようだ。
(毎年、麻衣と友チョコ送り合って、二人でバレンタインのコースメニュー食べてたっけ)
それを〝寂しい〟とは思わないが、自分がいわゆる〝リア充〟になったのをいまだ信じられないでいる。
「俺も幸せだよ。本当に、久しぶりに……、いや、初めてこんな満ち足りたバレンタインを経験した」
(やっぱり大げさだなぁ)
彼ならもっと素敵な女性と、いいバレンタインを過ごしていそうだ。
分かっていながらも、自分には甘い言葉を吐いてくれるのが嬉しくて堪らない。
(……好き……。かも)
心の中で呟き、香澄は少しだけ納得した。
(好きって、こうやって何気ないところからジワジワ感じるものなんだろうな。ある地点から〝好きになった〟とかは、私の場合は当てはまらない)
一般的に〝恋に落ちた瞬間〟があると言われているが、少なくとも香澄は佑に対してとまどってばかりで、それを感じられなかった。
逆を言えば佑はいつ見ても完璧に格好良くて、どのタイミングで恋に落ちればいいのか分からない。
「外見で好きだと思ったら、きっと嫌がられる」と自分に言い聞かせているうちに、本来なら自然に恋に落ちていただろうタイミングを見失ってしまった。
「佑さんは、自分のどういうところを好きになられたら嬉しい?」
「え? 難しい質問だな。香澄が俺を好きになってくれるなら、どんな点でも嬉しいけど」
「でも、顔とか外見が素敵っていうのは、言われ慣れてるから嫌でしょ?」
「うーん……。確かに言われ慣れてはいるけど、香澄が俺の顔を好きだって思ってくれるなら、素直に嬉しいよ」
「本当?」
チラッと彼を振り向くと、彼は香澄の脚を揃えたまま自分の太腿に掛け、横向きに抱いてくる。
「俺の顔、好き?」
そう言って微笑んでくる佑は、実に魅力的だ。
髪が濡れているからかいつも以上に色気があり、柔らかな照明を受けてまろく光っている頬のすべらかさも、そこに影を落としている睫毛の長さも、すべて芸術品のように思える。
彼の美貌に半ば見入ったまま、香澄は小さく頷く。
「……好き。とても綺麗」
溜め息交じりに賛辞し、香澄は佑の頬をそっと撫でる。
「なら良かった。俺は香澄の顔も好きだよ」
微笑んだ彼は目を細め、顔を傾けるとチュッとキスしてきた。
自分の顔は特に美形の類いではないと分かっているのに、佑に褒められるとどこか嬉しくなる。
「唇も、柔らかくてずっと味わっていたくなる」
甘い声で囁き、佑はまた香澄の唇をついばんできた。
「ん……、ぅ」
上唇や下唇を甘噛みされ、気持ちがフワフワしてくる。
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