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第二部・お見合い 編

TMタワー2

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「TMタワーの正面はこちらです」
「おお……」

 三階ぐらいまで吹き抜けになったガラスの外壁には、来月のバレンタインを意識した飾り付けがされている。

「凄いですね。高さがあるので迫力が……」
「このディスプレイも、デザイナーを雇っています。毎回テーマごとに見事なディスプレイになるので、〝ジャフォスポ〟になってますよ」

〝ジャフォスポ〟とは、写真SNSジャフォット用に映えるスポットという事だ。

「さぁ、寒いから入りましょう」

 入り口から入ってすぐの空間は、天井がステンドグラス風のアーチになっていて、左右は黒い背景にスポットライトを浴びたマネキンがCEPの服を纏っている。
 黒い壁にはChief Everyのロゴと、『Welcome to TMtower!』と歓迎を表すロゴもあった。

(持ちビルっていう感じがあるなぁ……。凄い)

「わ……」

 そして内側の自動ドアが開くと、目の前に巨大な空間が広がって思わず声が出た。

「凄いでしょう? ここは〝希望のドーム〟という名前が付けられています。初期案ではもう少しひねった名前も候補にあったのですが、分かりやすい方がいいという事で」
「確かに。カタカナとかだと忘れちゃうかもですね」

 見上げた天井にはまるで外にいるかのような青空が描かれ、三階までの吹き抜け空間の途中に、様々なオブジェが吊られてある。
 今の季節は勿論、バレンタインに因んだ物だ。

「ここで、季節ごとにイベントをやるんです。株式会社リアルファンタジアってご存知ですか?」
「あっ、はい! プロジェクションマッピングで有名な会社ですよね?」

 井内が口に出したのは、プロジェクションマッピングが有名になってきた頃、日本で一番に名を上げ、今も業界を牽引している会社だ。
 東京の違う場所には、会社保有のミュージアムもあり、テーマパーク並みに有名らしいので、香澄もいつか行ってみたいと思っていた。

「我が社はリアルファンタジアと契約を結んでいて、イベントやショーがある時に協力して頂いているんです。なので毎回イベントは盛況ですよ」
「でもここってオープンな場所じゃないですか。集客してもチケット制とかではないので、収支バランスが取れないんじゃないですか?」

「ここは商業施設ですからね。内装も凝りに凝って、訪れたお客様の購買意欲を増すように考えています。飲食店一つにしても、イベントメニューを出せば話題になるカフェやコーヒー店、高級料理店でもCEPとコラボしたデザートなどを出せば、皆さんジャフォ映えのためにどんどんいらっしゃいます」
「おお……」

 香澄も飲食店業界で働き、いかに集客するかは考えていた。
 だがTMタワーの場合、飲食店だけではないし、食欲だけでなく総合的な面でのアプローチが必要だ。

「……お金、掛かったんでしょうねぇ……」

 ぼんやりと呟くと、隣から井内がサラッと応える。

「建設費は一千億円以上と言われていますね」
「ひ……」

 桁違いの金額に、脳が考える事をストップする。

 香澄の生活では食事は高くて千円前後、一万円を超える洋服は冬のコート類ぐらいだ。
 本当に高額の金を使うのは、旅行に行く時ぐらいで、それも限度がある。
 以前に麻衣と一緒にベトナムに行った時は十万円台で、旅行会社のパンフレットを見ていても、行けると思えるのはヨーロッパの二十万円台だ。
 それ以上になると「あ、無理ですね……」となり、思考が逸れてしまう。

 なので本当に、佑と一緒にいると金銭感覚がおかしくなる。
 彼が高額な物を呼吸をするようにポンポン買うので、まるで自分まで金持ちになった気分になりそうで、非常に危うい。

「さて、まずCEPの店舗に行きましょうか」

 井内が歩き出し、香澄もあとを追う。
 ドームに面した所は二階、三階がバルコニーになっていて、ここでイベントをやっていたら上からも見学できそうだ。
 一階のドーム周辺は入りやすい雰囲気の飲食店になっていて、奥は店舗になっている。

「二階にCEPも含めたラグジュアリーブランドの店舗があり、三階はまるごとChief Everyのフロアになっています」

 エスカレーターを上がって二階は、高級感のある雰囲気になっていた。
 フロアに着いた目の前にCEPの店舗があり、入り口にはCEPのロゴが刻まれたマットが敷かれてある。
 左のディスプレイには互い違いの棚にCEPのモノグラムバッグが置かれ、右側のディスプレイではマネキンがもう春のドレスを纏っていた。

「こんにちは」

 井内がスタッフに挨拶して店内に入ると、黒いスーツに身を包んだスタッフたちが感じよく会釈をしてくれた。

「すご……。私、こんなハイレベルのお店に入った事ありません。緊張しちゃう……」

 店内はダークカラーの絨毯が敷き詰められ、白い壁を背景に木製の棚があり、そこに様々な形のバッグが置かれてあった。

「CEPについての説明は、彼女から」

 井内に言われ、三十代半ばの女性が近付いてきて香澄に一礼した。

「初めまして、CEP本店のチーフを務めさせて頂いております、白井(しらい)と申します」

 他のスタッフもだが、白井は上下黒のスーツに、白いシャツ、首元にはCEPのモノグラムのスカーフを巻いていた。
 男性スタッフはCEPモノグラムのネクタイで、女性は全員髪を纏める高さすらも決まっているように感じられた。

「CEPはご存知の通り、御劔と朔が共同デザイナーという形で生み出したブランドになります。現在は御劔が他の業務で多忙なため、ほとんどを朔がデザインし、御劔と一緒に決めて行く形で新作が生まれています」

(朔さんって、今夜会食する人だ)

 事前にネットなどで一通りの事は調べたが、スタッフから聞く話はまた違うと思うし、今夜本人に会えばまた異なる情報が得られるだろう。

「CEPでよく用いられている赤と緑の組み合わせですが、御劔と朔が二人とも六月生まれで、朔がアレキサンドライトを愛してるため、それを表した物となります」
「アレキサンドライト」

 言われて壁際にあるバッグを見れば、エナメル質のシリーズで、光の加減により玉虫色に輝く不思議な色味がある。

「それに合わせ、赤のパッションのシリーズと緑のリラックスのシリーズが展開されています。モノグラムはロゴ部分がアレキサンドライトの色味を用いられていますね」
「はぁ……、なるほど……」

 白井が言う通り、CEPは情熱的な赤を用いた華々しいドレスやワンピース、深い赤のニットなどがあるが、それと対照的にペールトーンの儚げなグリーンのワンピースや、水彩画をイメージさせるスカーフなどがある。
 イメージカラーが赤と緑と言うと、日本人的にはクリスマスカラーなどを思い浮かべるが、実際CEPの商品を目にすると、色味が違うので連想されなかった。

「勿論、他の色でも商品を作りますが、テーマカラーは赤と緑になります」

 店内にはモニターがあり、ファッションコレクションでモデルたちが歩いている映像が流れている。

「CEPはファッションウィークにも参加していますので、秘書となられた赤松さんも同行されるかもしれませんね」
「はい!」

 名だたるラグジュアリーブランドのショーがある場所に、自分が行けるとは思ってもみなかった。
 だが仮に海外出張があるとしても、その前にきっちり英語を習得しなければと思う。
 そのあともCEPの売れ筋商品などを紹介してもらったあと、店舗を出た。
 グルリと二階を回って入っているラグジュアリーブランドを確認したあと、三階に上がり、これぞChief Everyの楽園! という光景を目にする。

「凄いですね……」

 Chief Every内にあるファッションジャンルに応じて、内装もガラッと変わっており、それぞれ魅力的だ。
 Chief Every Gardenの花柄の店舗は、可愛らしい物が好きな女性なら足が向いてしまいそうだ。
 Chief Every Businessでは清潔感がありパキッとした色味の内装になっていて、内定の決まっていそうな大学生が真剣にスーツを見ていた。

「Chief Every全体の理念は、『すべての人に良質な服を』です。どんなジャンルにも対応し、どんな体型でも着られる。レディースシューズにしても、ワイズと呼ばれる横幅のバリエーションにも富んでいて、作りもいいので非常にニーズがあります」
「私も、Chief Every Basicの服を持っています」
「Basicは着心地やシルエットにこだわったシリーズですからね。老若男女問わず人気があります」

 ゆっくりフロアを歩きながら、井内は年間の繁忙期や新作の出るタイミングなどを話していく。

「セール時は混み合いますが、イベントと重なる事があるので、その分他の店舗も合わせて収益が見込めますね。持ちビルですのでテナント料などもありますから」
「あぁ、確かに」

 頷いたあと、『eホーム御劔』の不動産収入に、このTMタワー内にあるマンション収入も考え、彼の元に入る金額を想像して気が遠くなる。

「今後、展開していく新しいプロジェクトもありますし、Chief Everyは巨大化していくと思いますよ」

 その後、上の商業施設をまわり、各フロアにある店舗や飲食店、レストラン街などを見たあと、地下まで下りる。
 いわゆるデパ地下なグルメ街の活気を目にし、香澄は説明を受けながら美味しそうな物を思わずチェックした。
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