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癒やしの手2

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 ――が、彼女の直感は外れていなかった。
「僕がもっと色々隠さなかったら、君は僕の妻になってくれたんだろうか?」
 零された本音に、モニカは軽く瞠目する。
「それは……」
「どういう意味?」と聞きかけて、随分失礼だと思ったモニカは口を閉ざす。
 幼い頃から一緒にいて、自然とオーガストの好意も知るようになった。
 結婚できる年齢になって、改めて「君と結婚したい」とは言われなかったが、彼がそう望んでいるだろうことは察していた。
 けれどオーガストも聡明な少年だったので、公爵の息子という立場で「王女と結婚したい」と言えば、ただの口先の願望で済まなくなることも分かっていた。
 そうして彼が時期を見ていた間に、オーガストは聖爵に選ばれ、モニカにはクライヴが現れた。
「……俺は公爵家を継げなくなったし、聖爵というものに不安があった。君のことが……好きだと思って、……結婚。……したいと思っていても……僕は……」
 苦しげに言うオーガストに、モニカは何も声を掛けられなかった。
「幼い日に、百合が咲き誇る庭園で君にプロポーズをしたの、覚えているかい? 本当はあの時から、ずっと君を想っていた」
 オーガストが在りし日を思い出し、懐かしむ目で言った時、モニカは『百合』という単語でまた頭痛を覚える。
「っあ……!」
 片手で頭を押さえ、モニカが苦しみだした。
「モニカ!?」
 焦ったオーガストは立ち上がり、彼女の側に跪く。
「陛下?」
 ケイシーも慌てて近寄り、彼女を寝かせたものか、すぐにクライヴに知らせたものか迷いだす。
「どうしたんだ? モニカ」
 背中を丸めて苦しむモニカをさすり、オーガストは心から心配そうに彼女を覗き込む。
 モニカの白い顔は蒼白になり、額には汗が浮かんでいた。
 頭の中でパレードの鼓笛隊が大音量で行進しているようで、耐えがたい痛みがモニカを遅う。
「あ……っ、ん、……ぁ」
 長椅子の端にオーガストがクッションを重ねると、それに頭を乗せるようモニカを横にした。
 けれど結局オーガストの目に入るのは、苦しそうに上下する真っ白な胸元だ。
 コルセットで押し上げられ、強調されているだけに、まろい双丘は存在を主張するようにオーガストの目に飛び込んでくる。
 そして苦しんでいる声も、非常に色っぽい。
「ケイシー、医者を呼んできてくれないか?」
 オーガストの声に、オロオロしていたケイシーはハッと我に返った。
「はいっ! 陛下もお呼びして参ります!」
 医者を呼ぶというオーガストの判断は正しい。けれど、彼とモニカを二人きりにするのも心配なので、ケイシーはクライヴの名前も出して牽制しておいた。
 すぐに扉の外に姿を消したケイシーを見送り、オーガストは一人困り果てる。
「モニカ、大丈夫か?」
「うん……、大丈夫……」
 頭を抱えてモニカは寝返りを打ち、横向きになったために豊かな胸がギュッと押しつぶされた。
「…………」
 結果現れた深い谷間の線に、オーガストは目が釘付けになる。
「モニカ……」
 ずっと抑えていた気持ちが、男の欲と一緒に溢れそうになった。
 同時に彼女は一国の王妃で、人妻だ。「いけない」と自分を律する気持ちが、必死に本能を押さえ込む。
「大丈夫……」
 先ほどからそれしか言えないモニカは、意識を埋め尽くすほどの白百合と戦っていた。
「百合……」
「百合?」
 うわごとのように呟かれた単語に、オーガストは目を見開く。
「百合が見えるの……。百合が、……私を襲ったわ」
 ギュッと目を瞑り、モニカは宙に向けて手を差し伸べる。
 その脳裏にあったのは、誰かの指に嵌まっていた百合紋の指輪だ。
 宝石に彩られたモニカの細い手が震えるのを見て、オーガストはつい彼女の手を握りしめた。
「大丈夫だ。百合はここにない」
 室内を見回しても、花瓶に生けられてある花はあれど、その中に百合はない。安心してもう一度モニカに言い聞かせようとした時――。
 バタバタと廊下を走る足音がし、乱暴に扉が開けられた。
「モニカ!」
 客と談笑していた場から走ってきたのか、クライヴは撫でつけた髪を乱していた。
 瞬間、ギクッとしたオーガストはモニカの手を離す。
 その手の動きと強張ったオーガストの顔を見て、クライヴは眉をひそめた。
 咄嗟にオーガストは、「何もしていない」と首を振る。
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