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初夜練習2
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「私を、一生大切にしてくださいますか?」
「言葉のままに、生涯添い遂げる相手として、敬い、愛するよ」
「……ふふ。もう司祭さまの前に立っているみたいですね」
クライヴはゆっくり腰を浮かし、モニカのベッドの端に座る。
「あ……」
近くなった距離にモニカは少し目を見張り、金色の睫毛の下エメラルドのような目がクライヴを見る。室内を揺らめかせながら照らす燭台に明かりを反射し、その目は溜息が漏れるほど美しかった。
「君も……約束してくれるか? もう俺の知らない所でケガをしないと」
クライヴはまたモニカの手を取り、じっと彼女を見つめたままその手を唇につけた。
指に柔らかな唇が触れ、その熱さにモニカは体を震わせる。
味わったこともないのに、何か淫猥な感覚を覚えたような気がした。
「はい……。ご心配をおかけして、申し訳ありません」
心の底で燃えようとするものを必死に抑え、モニカは王女らしく上品な対応をしたつもりだ。けれど、どうしてもクライヴの唇に触れている手が震えてしまう。
「俺が怖い? これから夫婦として閨を共にするのは……嫌か?」
そう尋ねられ、考えないようにしようとしていたことそのものの問いに、モニカは内心「ああ」と声を出す。
結婚をすれば、初夜というものがある。
国にいた頃も、然るべき年齢になってからそういう教育を受けた。
ケイシーとも、彼女の恋愛観を聞いたり、城内の浮き話などを聞いた。噂でどこの貴族とどこの令嬢がいい仲なのだとケイシーと話しては、彼らのロマンスを勝手に想像していた。
それに――今は自分が直面しようとしている。
「優しく……、してくださるのなら……」
彼の青い目を見つめられず、モニカは金色の睫毛を震わせ視線を落とした。
それが男の劣情を誘う行動だとも知らずに――。
「もちろん、優しくするよ」
クライヴは気が変になりそうだった。
記憶にあるモニカは、天真爛漫で性のことなどちっとも知識になさそうなイメージがあった。いい意味でも悪い意味でも、まだ子供っぽさを残していたように思える。
しかし目の前にいる彼女は、大人の女性の憂いと恥じらいを持っている。
明らかに自分を意識する態度に、握った手の火照ったかのような温度。小鳥か兎のように震えている乙女の手に、今すぐにでも舌を這わせたい衝動に駆られた。
(まだだ……。彼女を抱くのは結婚してからだ)
だが健康的な成人男性の本能に、クライブの王子としての矜持と誠実な性格が勝った。
色欲など微塵も見せない完璧なプリンス・スマイルを浮かべると、モニカも安心したように微笑む。
「良かった……。耳に入ってくる噂では、殿方って閨に入ると獣のように変貌すると聞きましたので」
「――――」
だが、どこか残っているモニカの無邪気さが、クライヴの折角の努力を台無しにしかけた。
「モ……モニカは、閨で男がどう変貌するのか知っているのか?」
我ながら、引き攣った微笑みを浮かべているのかもしれない。
そう思いつつ、クライヴは平常心を保つ。
「えっ? あの……、く、詳しくは……。ただ、子作りをするのでしょう? だ、抱き合って愛し合い、……と、殿方から子供の種を頂くのだと乳母が……」
「…………」
知ったような口をきいて誘惑したかと思えば、その実何も知らない生娘の顔を見せる。
(こんな……、魔性の女だったっけ? モニカは)
形のいい唇を引き結びすぎて曲がってしまい、クライヴはとても――変な顔になっていた。
「あの……、クライヴさま?」
何か変なことを言ってしまっただろうかと、モニカは心配になって彼を覗き込む。
「君は、俺とキスをしたことも忘れてる?」
燃えたぎるマグマのような欲望を抑え込み、クライヴは一度溜息をつく。それがモニカに誤解を与えてしまった。
「ご、ごめんなさい……。本当に……、あなたと恋をしたことは覚えていなくて……」
隣国にヴィンセント王国という国があるのも覚えていて、その王家にどのような人物がいるのかもちゃんと覚えている。けれどその第一王子であるクライヴとの思い出だけが、ポッカリと抜けているのだ。
それを、彼は悲しんで当然だと思った。
過去の自分を愛してくれたかもしれないのに、自分は薄情にも忘れてしまっている。
責められて当たり前だと思うし、こうやって溜息をつく権利だってあると思う。
「じゃあ、式の前に俺たちがしたことを、復習しようか」
クライヴの青い目の奥に、色を纏った炎が揺れる。
体をよりベッドの中央に乗り上げてモニカに寄り添うと、彼女を抱きしめた。
「言葉のままに、生涯添い遂げる相手として、敬い、愛するよ」
「……ふふ。もう司祭さまの前に立っているみたいですね」
クライヴはゆっくり腰を浮かし、モニカのベッドの端に座る。
「あ……」
近くなった距離にモニカは少し目を見張り、金色の睫毛の下エメラルドのような目がクライヴを見る。室内を揺らめかせながら照らす燭台に明かりを反射し、その目は溜息が漏れるほど美しかった。
「君も……約束してくれるか? もう俺の知らない所でケガをしないと」
クライヴはまたモニカの手を取り、じっと彼女を見つめたままその手を唇につけた。
指に柔らかな唇が触れ、その熱さにモニカは体を震わせる。
味わったこともないのに、何か淫猥な感覚を覚えたような気がした。
「はい……。ご心配をおかけして、申し訳ありません」
心の底で燃えようとするものを必死に抑え、モニカは王女らしく上品な対応をしたつもりだ。けれど、どうしてもクライヴの唇に触れている手が震えてしまう。
「俺が怖い? これから夫婦として閨を共にするのは……嫌か?」
そう尋ねられ、考えないようにしようとしていたことそのものの問いに、モニカは内心「ああ」と声を出す。
結婚をすれば、初夜というものがある。
国にいた頃も、然るべき年齢になってからそういう教育を受けた。
ケイシーとも、彼女の恋愛観を聞いたり、城内の浮き話などを聞いた。噂でどこの貴族とどこの令嬢がいい仲なのだとケイシーと話しては、彼らのロマンスを勝手に想像していた。
それに――今は自分が直面しようとしている。
「優しく……、してくださるのなら……」
彼の青い目を見つめられず、モニカは金色の睫毛を震わせ視線を落とした。
それが男の劣情を誘う行動だとも知らずに――。
「もちろん、優しくするよ」
クライヴは気が変になりそうだった。
記憶にあるモニカは、天真爛漫で性のことなどちっとも知識になさそうなイメージがあった。いい意味でも悪い意味でも、まだ子供っぽさを残していたように思える。
しかし目の前にいる彼女は、大人の女性の憂いと恥じらいを持っている。
明らかに自分を意識する態度に、握った手の火照ったかのような温度。小鳥か兎のように震えている乙女の手に、今すぐにでも舌を這わせたい衝動に駆られた。
(まだだ……。彼女を抱くのは結婚してからだ)
だが健康的な成人男性の本能に、クライブの王子としての矜持と誠実な性格が勝った。
色欲など微塵も見せない完璧なプリンス・スマイルを浮かべると、モニカも安心したように微笑む。
「良かった……。耳に入ってくる噂では、殿方って閨に入ると獣のように変貌すると聞きましたので」
「――――」
だが、どこか残っているモニカの無邪気さが、クライヴの折角の努力を台無しにしかけた。
「モ……モニカは、閨で男がどう変貌するのか知っているのか?」
我ながら、引き攣った微笑みを浮かべているのかもしれない。
そう思いつつ、クライヴは平常心を保つ。
「えっ? あの……、く、詳しくは……。ただ、子作りをするのでしょう? だ、抱き合って愛し合い、……と、殿方から子供の種を頂くのだと乳母が……」
「…………」
知ったような口をきいて誘惑したかと思えば、その実何も知らない生娘の顔を見せる。
(こんな……、魔性の女だったっけ? モニカは)
形のいい唇を引き結びすぎて曲がってしまい、クライヴはとても――変な顔になっていた。
「あの……、クライヴさま?」
何か変なことを言ってしまっただろうかと、モニカは心配になって彼を覗き込む。
「君は、俺とキスをしたことも忘れてる?」
燃えたぎるマグマのような欲望を抑え込み、クライヴは一度溜息をつく。それがモニカに誤解を与えてしまった。
「ご、ごめんなさい……。本当に……、あなたと恋をしたことは覚えていなくて……」
隣国にヴィンセント王国という国があるのも覚えていて、その王家にどのような人物がいるのかもちゃんと覚えている。けれどその第一王子であるクライヴとの思い出だけが、ポッカリと抜けているのだ。
それを、彼は悲しんで当然だと思った。
過去の自分を愛してくれたかもしれないのに、自分は薄情にも忘れてしまっている。
責められて当たり前だと思うし、こうやって溜息をつく権利だってあると思う。
「じゃあ、式の前に俺たちがしたことを、復習しようか」
クライヴの青い目の奥に、色を纏った炎が揺れる。
体をよりベッドの中央に乗り上げてモニカに寄り添うと、彼女を抱きしめた。
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