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悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
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「……は?」
私は、目の前に広がる白い空間を見て間抜けな声を漏らした。
どういう事?
確か、私は王宮の中にいたはずだ。
私はセイブレベル王国の伯爵令嬢、エトラ。
我ながら美しいと思う金髪は、大切に手入れをしている。
いつも侍女に綺麗に巻かせているそれを靡かせ、気の強い顔立ちに合った強い色味のドレスで颯爽と歩いていると、誰もが私を〝薔薇の令嬢〟と呼び羨望の眼差しを向けてくる。
呼吸するように「美しい」と言われているので、もはやそれらの言葉は私にとって意味をなさなくなっていたのだけれど……。
加えて、私は少し特殊な立ち位置にいた。
多少、ものをハッキリ言う性格だからか、知らない間に周囲から恐れられていたのだ。
令嬢たちは私を見ればおもねる表情を浮かべ、怒らせたら首を撥ねられるというような態度を取ってくる。
あいにく、私は女王ではない。
ただの伯爵家令嬢だ。
男性たちの間にはどんな噂が流れているのか、私の顔を見れば流し目を送ってきたり、片目を瞑って目配せしてくる。
どうも、誘えばホイホイと応じる股の緩い女と思われているようだ。
残念! 私はいまだ誰にも体を許していません!
そんな周囲の人間に辟易としつつ、私は日々それなりに上手く立ち回っていた……はずだった。
「ちょっと待って?」
どこまでも広がる果てのない白い空間の中に、一つだけ異物があるのだが、見ない事にする。
私は〝それ〟に背中を向け、腕を組んで考えた。
さっきまで、お茶会にいたはずよね?
王女殿下と、聖女アリアが主催するお茶会に招待され、他の令嬢たちと一緒に楽しいひとときを過ごしていたはずだ。
様々な話をし、王女殿下が私にやたらと兄君――王太子殿下の話題を振ってきた。
とはいえ、私は事情があって王太子殿下が苦手なので、のらりくらりと話題をかわしてようやくお茶会が終わった――はずだったのだ。
お喋りをしながら何倍もお茶を飲んで、私の体は温まっていた。
火照りを覚えていたから、許されるのなら一刻も早く外に出て風を浴び涼みたかった。
「それで……、終わりを確認してから、まっさきに部屋を出た……はずなのよね?」
独り言ちながら、私は当時を再現すべく行動に出た。
「立ち上がって……お辞儀をして、歩いて、ドアを開けて、廊下に出た」
白い空間はどこにでも広がっているので、行動範囲など構わず当時を再現した。
ドアを開けた時、確かに私は向かいに広がる大理石の床や、その向こうにある大階段、階段の手すり上にある女神像などを目にしていた。
それが、一歩踏み出した途端にすべてが消え、ここにいたのだ。
「……魔術のトラップ?」
いやいや……と思わず顔の前で手を振りながら、私は嫌な顔をする。
この世界では聖女がいて奇跡を起こし、また王国の顧問的存在の魔女や魔術師もいる。
他国には世界一と言われている、ルドルフという美形な魔術師がいるようだ。
人外とも関わっているらしい彼の手に掛かれば、さすがにどれだけ権力を持っていてもひとたまりもないらしく、彼は大陸中の人から一目置かれていた。
「いや……、まさかそんな大物に構われるなんて思っていないし」
一人つぶやき、私はそろーり……と振り向く。
〝あれ〟はいまだ変わらない場所にあった。
「万が一、他の魔術師の罠に掛かったとして……」
私はいやぁ……な顔をして、ようやく〝あれ〟の方を向いた。
目に入ったのは、何とも珍妙な形をした木馬だ。
木馬と言えば馬の形をした乗り物だが、その鞍――跨がる箇所には、明らかに男根とおぼしき形の異物が二本生えていた。
「冗談でしょ……」
おまけに、この白い世界の床なのか地面なのか分からないが、特大の文字でこう書いてある。
『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』
「あぁあああぁああっっ!!」
私は突如として声を上げ、血走った目でその文字を踏みつける。
ダンッダンッと踏みつけてその場でジャンプすらし、激しく暴れた――あとに、呼吸を整えながら自分を落ち着かせる。
「いや……、待って? 流石にこれはないでしょ?」
額に手を当てて誰もいないのに、私は必死に「待って」を繰り返す。
落ち着いて……。
そう、深呼吸をして、吸って、吐いて。
目を閉じて何度も呼吸を繰り返して、少し落ち着いて目を開けると、足元の文字が変わっていた。
『初めてでしょうから、こちらの特製オイルをご自由にお使いください』
「へっ!?」
『こちら』と書かれた先に矢印があり、その先にはこの状況の中で嘘のように優美な瓶が置かれてあった。
中には到底まともな物と思えない色――ピンクの液体が入っていて、ガラスの蓋には繊細な妖精の飾りがついていた。
こんな状況だというのに、恐ろしく凝った物を出してくる。
「何なのよこれ……」
うめくと、足元の文字がパッと変わった。
『お茶会でエトラ様はしこたま媚薬入りのお茶を飲んだはずですが、頑強な理性を働かせているので、あともう一歩を押す媚薬です』
「媚薬!!」
私はまた足元の文字をダンッと踏みつけた。
道理で動悸息切れがしていた訳よ……。
ずっと体が火照っていて、下半身がおかしかったのは、お手洗いに行きたいと思ってからかだと思っていたけれど……。
「まさかの媚薬!」
誰にともなく盛大に突っ込み、私は自慢の金髪をかき乱してうなる。
「そんな物、使える訳がないでしょう! 私はまだ誰にも体を許していないのよ!」
『知ってます(笑)』
…………ちょっと待って。
(笑)ってなに?
あからさまにおちょくられているのに気付き、私はこの状況に対する怒りがふつふつとこみ上げるのを感じる。
「誰か見ているの!?」
大きな声を上げ、私は前後左右、天と地を見回す。
だが白い空間に私の声が響くだけで、人影はおろか、生き物の陰すら見つける事ができない。
「……魔法ね」
『ご名答!(笑)』
「だから、いちいちその(笑)ってつけるのやめなさい!」
足元の文字を怒鳴りつけてから、私はイライラとして指でこめかみをうつ。
落ち着くために地面に座り、瞑想するように呼吸を整えた。
しばらくしてから目を開くと、目の前の文字がまた変わっている。
『こうしている間にも、〝外〟の時間は刻々と流れていますよ。あなたが意地を張れば張るほど、〝外〟では時間が流れ、あなたが行方不明になっている期間が延びます』
「な……っ」
それは困る。
『現在、〝外〟では王太子殿下が愛しのエトラ嬢を探すために、捜索隊を指揮しています』
「えぇっ!?」
世界で一番苦手な人の名前が出て、私はお腹の底から声を出した。
「ぜっったいにあの方に借りを作りたくないわ!」
私は王太子クーゼルに求婚されていた。
どうも、気に入られてしまったのが原因のようで……。
クーゼル様は三十歳を目前にして、今まで女性とお付き合いした事がないらしく、国王陛下からも早く結婚をするよう言われているようだった。
王女殿下からの招待を受けて王宮まで向かった時、空き時間に庭園を歩いていたら、バラ園近くにあるガゼボで偶然クーゼル様に出会った。
彼はたびかさなる「結婚しろ」に参っていたようで、落ち込んで今にも首に縄を掛けそうな顔をしていた。
それまで私にとってクーゼル様は別世界の人で、特に彼がどうなっても自分の人生には関わりがないと思っていた。
けれどさすがにそんな姿を見ては気の毒になり、可能な限り彼を励ましたのだ。
私に他意はなく、その場にもし第三者がいても、親切からの激励だと思うものだった。
だがその翌日から、クーゼル様は私に猛烈な勢いで求婚し始めた。
いわく、「運命の女神だ!」らしいのだが、刷り込みもいいところだ。
王女殿下のお気に入りになるのは嬉しかったけれど、最近は顔を合わせれば「お兄様とはどう?」ばかりで辟易としていた。
この白い空間に来る前も、その話題ばかりで私は精神的に疲れていた。
とはいえ、現実世界と隔離されたここで時間が過ぎ、行方不明状態が続くのは困る。
『可哀想に……。王太子殿下は今にも死にそうな顔をしてあなたを探していますよ』
……そりゃあ、あの方なら命がけで私を探すでしょうとも。
「〝あなた〟は魔術師なの? 誰の依頼を受けたの?」
尋ねても、床の文字が変わる事はなかった。
応えるつもりはないという事ね。
……となれば、あの木馬に跨がってこの世界を出るしか、手段はないという事になる。
「……勘弁してよもぉ……」
思わず令嬢らしからぬ弱音が漏れるが、知った事ではない。
『少しだけ種明かしをすると、依頼主はあなたがこの木馬に跨がる事をお望みです。なので、この課題をクリアしなければ本当に現実には戻れません』
今までになくまじめな雰囲気で文字が出て、私は溜め息をつく。
「私を嫌っている令嬢か誰かかしら」
世間では悪役令嬢だの、美しい薔薇にはトゲがあるだの、陰で好きなように言われているので、もはや誰に恨まれていてもおかしくない。
『恨みではありません。そこだけはお答えします』
「……恨みじゃない?」
ポカンとするものの、どうであれ私がここから出られない、出るには処女を失わないといけないのは確かだ。
「……魔術師に依頼したら、処女膜の再生ってしてもらえたかしら」
さすがに、貴族の娘がこれから嫁ぐのに生娘ではないというのは問題がある。
『医療も囓っている魔術師なら、可能だと思いますよ』
この文字も、初めから見ると随分砕けた口調になっている。
『あとからやり直し可能ですから、さあ、やってみよう!』
軽い文字の口調に、私はギリィ……と歯ぎしりをする。
「……ここから出て、あとで正体が分かったら、その減らず口が叩けなくなるまで、ぶちのめしてやるわ」
悔し紛れの言葉を口にし、決意してから私は立ち上がった。
『やりますか?』
「やるわよ!」
『それでは、お手伝いします!』
「え? きゃあああああああっ!!」
手伝いという文字を見て何事かと思った瞬間、私は全裸になっていた。
全裸!
もう綺麗さっぱり全裸だ。
ストッキングを残すとか、靴を残す、アクセサリーを残すという慈悲すらくれない。
「悪魔!!」
『はいはい、次はそこの媚薬を使ってくださいね』
私の文句をサラリと流し、文字は矢印を浮かべて点滅までさせて、先ほどのピンク色の液体が入った瓶を示す。
っはぁあああぁ…………。
海より深い溜め息をつき、私は瓶の前でしゃがむ。
「どうすればいいの?」
『座って、足を開いてオイルを指に付け、秘部に塗りつけてください』
文字はあくまで文字だが、この状況を誰かに見られているのだと思うと、恥ずかしくて堪らない。
でも、やるしかないのだわ。
私は心の底から嫌そうな顔をし、座って足を広げると瓶の蓋を取った。
愛の妖精がついた蓋を床に置き、瓶を傾けて掌にピンクの液体を取る。
トロリとしたそれは粘度があり、私の掌に溜まる。
「うぅ……」
私は脚を開いて、なるべく見ないようにして液体のついた指先で秘部に触れた。
「ん……っ」
手に取った液体は少し冷たかったのに、秘部に塗った途端温かくなった。
しかもジワジワと体の奥に浸透してくる気がし、気持ちが落ち着かない。
『その調子でどんどんいきましょう! 胸にも、全身にもつけてくださいね!』
文字通り、文字が躍っている。
何がそんなに嬉しいのかしら。
私はすっかり諦めの境地に陥り、仰向けになると瓶の中身を次々に全身に塗っていった。
お腹に零してぬりたくり、胸や太腿にも伸ばしていく。
「あぁ……っ、あ……」
紅茶で体の奥に蓄積していた熱が、今度は外部からの媚薬によってどんどん呼び覚まされてくる。
「ん……っ、んぅ……っ、うーっ」
下腹部を襲う疼きはどんどん高まり、私は仰向けになったまま腰を浮かせ、くねらせる。
乳首もピンと尖り、全身が性感帯になったかのようだ。
――と、今度は天にあの文字が浮かび上がった。
『準備完了ですね! では木馬にいってみましょう!』
私は思わず口元でチッと舌打ちをしてしまう。
『舌打ち、はしたない!』
たしなめる文字を無視し、私はノロノロと起き上がる。
「これ、滑って転ばない?」
『滑らない床になっておりますので、ご安心ください。もし転倒しても、その瞬間柔らかくなりますから、お怪我はしません』
「何もかも不親切なのに、変なところだけ親切なのね」
思わず突っ込むと、木馬に向かっている矢印がクネクネと動いた。
気持ち悪い。
「この木馬、乗る所が高くて足が届かないわ」
言った途端、足元に階段ができた。
ほんっとうに変なところだけ親切だ。
濡れた足で恐る恐る階段を上っても、滑る事はなかった。
私は目の前にある、木馬の突起――男性器を模した張型を睨む。
体の疼きはますます酷くなり、下腹部にあれを含めば、慣れた女性なら気持ちいいと思うのだろう。
「……私、処女なのよ」
弱々しい声が漏れる。
『分かっていますよ。いま体に塗った薬は、痛みを散らす作用も含まれています。恐れずにいきましょう!』
優しいのか悪魔なのか分からない。
「はぁ……」
私はこれ以上ない重たい溜め息をつき、木馬の頭についている取っ手を握った。
鞍を跨がると、向こう側にも足場ができあがって、私がゆっくり腰を下ろせるよう補助してくれる。
ふぅ……、ふぅ……と呼吸を整えながら、私は少しずつ腰を下ろしていった。
「お父様、お母様、ごめんなさい……。親不孝な娘を許してください……」
『別に死ぬ訳じゃないんですから』
前方に文字が見え、私はクワッと目を見開く。
『怒らないでくださいよ! 初めてでも痛くないし、後ろも柔らかくなっています。さあ、ズブッといってみよう!』
「……覚えてなさいよ……」
私は悪魔をも睨み殺す勢いで文字を凝視しながら、蜜口に張型の先端を当てた。
「あぁ……、あ……」
片手で張型の竿の部分を支え、私は目を閉じる。
入れる場所を確認したあと、今度は後ろの少し細い張型にも手を添え、後孔に当たるよう調整する。
おかしな事に、木馬についている張型だというのに、魔法のせいなのか妙な弾力と温かさがあった。
しかも指で確認すると血管まで浮き出ていて、生きているかのように時折ビクンと跳ねる。
「大人しくしていなさいよ」
口元で悪態をつきながら、私は二本とも入れる角度を定めたあと、一気に腰を下ろした。
「っあぁあああぁ……っ!」
「気持ちいいっ! エトラ!」
いきなり男性の声が聞こえ、私はギョッとして目を開けた。
「えっ!?」
視界に飛び込んだのは、四柱式の天蓋付きベッドの中だ。
加えて私の下には人がいる。
人――。
「王太子殿下ああぁあああっ!?」
悲鳴を上げ、とっさに立ち上がろうとしたが、腰を掴まれて下からズンッと突き上げられた。
「あぁああんっ」
「待って、エトラ!」
私に縋るような目を向け、クーゼル様はさらにズンズンと続けざまに私を突き上げた。
「いやっ、やめてくださ……っ、あぁああっ」
初めてのはずなのに、あの白い空間でたっぷり媚薬を体に纏ったせいか、まったく痛くない。
それどころかひと突きごとにこの世のものと思えない悦楽が私を襲い、頭の中が真っ白になる。
知らないうちに私は涎を垂らし、蜜壷をきつく引き絞って絶頂していた。
「あぁあああ……っ、あーっ!」
「あ……っ、きつい……っ、素敵だ……っ、エトラ!」
クーゼル様は私を抱き締め、問答無用で唇を奪ってきた。
唇を舐められ、吸われ、嫌なはずなのに、彼からされるキスで私は気持ちよさを得ていた。
怯えて奥に逃げようとする舌を舐められたかと思うと、尻たぶをギュッと掴まれる。
「んぅっ!」
その時になって私は自分の後孔に異物が入っているのに気付いた。
慌ててお尻に手をやると、何か硬い物が入り口から飛び出ていて、中身は直腸の中でウネウネと動いている。
「やめてぇええ……っ、お尻、やめてぇええっ、やだあぁああっ」
「君のお尻には、特製の張型が入っているから、十分楽しんで。エトラとの初めては最高のものにすると決めていたんだ」
「ま……っ、まさか……っ、すべてクーゼル様が仕組んだのですか!?」
私の問いに、顔だけは誰よりも美しい王太子は、青い瞳を細めてそれは嬉しそうに笑った。
「この変態! っあぁああんっ」
悪態をついた瞬間、お尻をパンッと叩かれて全身に甘い痺れが走る。
何という事。
あの媚薬は、痛みすら快楽に変えてしまうものだった。
「エトラはお尻を叩かれて感じる変態だね? 俺たち、似合いの夫婦になれるね?」
顔を紅潮させて興奮したクーゼル様は、ゴロリと転がって私を寝台の上に押し倒した。
そして銀髪を掻き上げ、これ以上の幸せはないという笑顔を見せる。
「君とこうなる事をずっと夢みていたんだ」
「ちょ……っ、まっ、あぁああっ!」
もう、そのあとは何を言っても彼は聞いてくれなかった。
私の太腿を抱え上げ、太くて硬い一物をズンズンと突き立てる。
エラの張った雁首で膣襞を擦られるたび、私は本能の声を上げて感じた。
彼が腰を叩きつけると、グチュグチュと蜜が攪拌される音がする。
さらに感じ切って肥大した陰核を指の腹で撫でられ、私は絶叫して愛潮を飛ばした。
「可愛いよ、エトラ。君が好きで堪らない」
私が何度絶頂しても、愛潮を飛ばしても、クーゼル様は賛辞の言葉をやめない。
「エトラの蜜壷が俺の肉棒を思いきり吸い上げているよ。そんなにコレが好きなの?」
あまりに感じてぷっくりと腫れている乳輪を指でなぞられ、私は腰をしならせて喘いだ。
「あぁあああ……、あぁあ、あーっ!」
「なに? ここが好き?」
私の子宮口に亀頭を押しつけ、クーゼル様はグリグリと腰を回す。
私は涎を垂らして激しくいきみ、何回目になるか分からない絶頂を迎える。
それでも彼は私の乳首に決して触ろうとせず、執拗なまでに乳輪のみを指先で撫でていた。
「それぇ……っ、やぁっ、やだぁっ」
とうとう涙の混じった声を出したが、クーゼル様はとろりと愉悦の籠もった笑みを浮かべるのみだ。
「〝それ〟? どれ? 何をどうしてほしい?」
言いながら、彼はゆっくり肉茎を引き抜き、雁首が見えるまで腰を引いてからドチュッと私を突き上げた。
「はぅううぅうっっ! うーっ、あぁああ……っ」
「これ? エトラの子宮をトントンするのが嫌?」
「それも……っ、そうだけどぉ……っ」
私はのたうちまわりながら、必死に足を踏ん張らせて彼から逃げようとする。
けれどクーゼル様がパチンと指を鳴らすと、お尻に入っていた張型がいっそう激しく身をうねらせた。
「っんあぁあああぁっ!」
私は獣のような声を上げ、激しく全身を痙攣させる。
「あれ? 違った?」
嬉しそうに笑うクーゼル様は、私の乳輪をなおも撫で回す。
もう私の乳首は、腫れ上がって破裂してしまいそうな疼きを得ていた。
「乳首……っ、乳首に触ってくださいぃいっ!」
泣きながら懇願すると、クーゼル様はそれはいい笑顔を見せた。
「喜んで」
そして私のたっぷりとした乳房をむにゅりと握ると、両手の人差し指でクリクリと勃起した乳首を捏ね回してきた。
「っひあぁあああぁっ、あーっ!」
途端に、プシュッと私の胸の先端から白いものが噴き出した。
「えぇええっ!? あぁあ、やだっ、やぁあああっ!」
混乱した私をよそに、クーゼル様は私の胸に顔を寄せ、噴き出たもの――母乳を吸い始めた。
「美味しいよ、エトラ」
妖艶に唇を舐め、そしてクーゼル様は猛然と私を突き上げ始めた。
「んぁああぁあっ、んぅぅっ、うーっ、ぅ、あぁああっ」
あまりに激しさに私の乳房はゆさゆさと揺れ、とめどなく噴き出る母乳が雫となって胸の丘を滴る。
髪はシーツの上でグシャグシャになり、下腹部近くでシーツは濡れそぼって冷たくなっていた。
滝のように愛蜜が溢れ、クーゼル様の肉棒が出入りするたび飛沫を上げる。
全身の毛穴が開いたかと思うような興奮の限界がずっと続き、私は自分を犯す美しい男を見入ったまま嬌声を上げ続けた。
「好きだよ、エトラ。この世の誰よりも美しい。俺には君しかいない。君を丸ごと愛せるのも俺だけだ」
青い瞳に見つめられたまま囁かれ、その言葉が愛の呪詛となって私の脳髄を冒す。
「あ……、あぁあ…………」
とろぉ……、と粘ついた意識の中、私はクーゼル様に愛される事をいつしか喜びと感じていた。
「エトラ、俺の妻になって。俺の子を孕んで」
愛しげに笑ったクーゼル様は、私にキスをしてから仕上げと言わんばかりに、さらに激しく腰を叩きつけた。
「んぉっ、おっ、ぁ、あぁああ、うーっ、う、あぁああっ!」
あまりの快楽に、内臓を揺さぶられるような突き上げと共に口から本能の声が出る。
子宮を押し潰されそうな勢いで何度も突き上げられ、直腸ではクネクネと張型が容赦なく動いている。
この世のものと思えない悦楽に涙を流した私は、つま先をピンと伸ばして大きくのけぞった。
「っあぁああああぁーっ!!」
全身を激しく痙攣させ、身をくねらせて官能を貪る。
顔をあおのけて晒された私の喉を、クーゼル様が甘噛みしてきた。
「出すよ……っ! 全部残さず呑んでっ」
喉に唇を当てて彼が最後の声を絞り、大きく体を震わせて遠慮なく私の子宮めがけて射精した。
「っはぁあああ……っ、あーっ!」
「んんン……っ、ん、エトラ……っ、ぁ……っ」
私をきつく抱き締めたまま、クーゼル様はドプドプと精を放ち続ける。
やっと彼の動きが止まったと思っていたのに、彼は最後の一滴まで絞り出すために、さらに数度腰を最奥まで叩きつけた。
「は……っ、は、……ぁ、あぁあ……っ、あ、…………あ……」
普通の人間の精液の量を超えている、とても大量な精を吐き出され、結合部から逆流したものがはみ出るのが分かった。
疲れ切った私は、もう考える力すら残されず、そのまま気を失ってしまった。
**
「説明してください」
寝台の上には、全裸で正座している私と、やはり正座して頬にくっきりと手のあとをつけているクーゼル様がいる。
シーツの上はもう凄惨な事になっているが、今は話をするほうが先だ。
「……どうしてもエトラと結婚したいと思って。子を作るしかないと思ったんだ」
「大事な過程を何もかもすっとばして、助走つきジャンプでゴールした感じですね」
容赦のない私の突っ込みにもめげず、クーゼル様は自慢げに笑う。
「一発で孕むように、精液の量を増やす魔術をかけてもらった」
「自慢する事じゃないでしょう!」
クワッと怒りを剥き出しにした私の前で、クーゼル様は唇をつきだしぶーたれる。
「……とにかく、もしこれで子を授かったのなら仕方ありませんが、とにかくやり方が気に入りません! 魔術師はどこなのです!?」
「呼んでも構わないのか?」
「呼べるのですか?」
尋ねた私の肩に、クーゼル様はガウンを掛ける。
そして、帳の外に向けて声を掛けた。
「アリア」
「えぇっ!?」
その名前は……!
《本当に行ってもいいんですか? お二人とも事後じゃありません?》
空気を震わせるような声が、直接私の頭に響く。
間違いない、この声は聖女アリア様だ。
でも、どうして彼女が?
「エトラの裸を見ないのなら、構わないぞ」
クーゼル様は私の肩を抱き、返事をする。
その後、帳の外に人影が見えた。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」
実に楽しそうに言った肉声は、私の感覚ではつい先ほどまで一緒にお茶を楽しんでいた聖女アリア様のものだ。
「エトラが理由を聞いている」
「お答えしますわ」
笑みを含んだ声で、アリア様は語り出す。
「私、聖女というお役目柄、クーゼル様とは幼馴染みの関係にありますの。そして聖女という奇跡の力は神の聖なる力に属するものですが、同時にそのような力を持つ者は魔術の適性もとても高いです。よって、表沙汰にはされていませんが、私は魔術師としても王族の方々のお役に立っています」
「あぁ……」
段々、種明かしが見えてきた。
「クーゼル様が陛下たちに『結婚しろ』と言われていたのは周知の事実ですが、殿下はずっとエトラ様に想いを寄せていました。ですが何をしても相手にされないとの事で、思い切った手を使おうという事になりました」
「そこ、すっごい乱暴に過程をすっ飛ばしていません? もっと地道に、手紙でアプローチするとか、舞踏会で距離を詰めるとかあったでしょう」
思わず突っ込んだが、帰ってきた言葉はかなり厳しい。
「そんなぬるい手を使っても、エトラ様は靡かないでしょう? クーゼル様は心の底からエトラ様との将来をお望みでした。ですから、逃げられないようにバッチリとあらゆる準備を整え、お茶会のあとの移動トラップからすべて仕組ませて頂きました」
「……あの文字って、アリア様だったのですか?」
「はい!」
聖女のイメージがガラガラと音を立てて崩れそうな、あの憎たらしい〝文字〟を思いだして、私は思いきりシーツを殴った。
深く長い溜め息をつく私を無視し、アリア様は続ける。
「殿下には一発必勝の魔術を掛けさせて頂きましたし、これで必ずお子ができるでしょう。エトラ様も生娘でも善がり狂う媚薬をたっぷり使って頂きましたし、これで解決ですね!」
あっけらかんと言われ、私は脱力してヘッドボードに積んであるクッションに身を任せた。
「終わってる……。この国は終わってる……。聖女も、王太子も全員腐ってる……」
「あら、いやですわぁ。それじゃあ、また何か困りごとがあったら、いつでもお声を掛けてくださいね」
コロコロと笑ったあと、アリア様の気配は消えた。
屍のようになっている私を、クーゼル様はしばらく優しく撫でていた。
「……強引な手を使ったけど、俺は本当に君を愛しているんだ。俺以上に君を大切にできる男は、他にいない」
真剣に言われ、私は溜め息をつく。
「……本当に強引ですね。私の気持ちなど、どうでもいいのでしょう」
「確かに強引な手を使ったけど、心底自分を嫌っている人にこんな手を使わないよ。エトラが少なからず俺に好意を持ってくれていると思ったから、こうしたんだ」
言われて、なくもない……と思う。
確かに私はクーゼル様につれない態度を取っていたけれど、彼に好意を寄せられて迷惑とか、関わりたくないとまでは思っていなかった。
むしろ周囲から恐れられ、男性からは貞操観念の緩い女として見られている中、唯一まともに迫ってくれるのがクーゼル様だけだった。
けれど彼に想いを返すには身分の差があり、彼はあまりに私にベタ惚れすぎた。
このまま素直に彼の想いを受け入れて、何か手ひどいしっぺ返しを喰らうのでは……と慎重になった結果、私は彼にそっけない態度を取り続ける事になったのだ。
「……酷い人。もっとロマンチックなやり方があったはずなのに」
「ロマンチックを求めているなら、これから幾らでも叶えるよ。君の望む結婚式を用意するし、王宮の部屋も君好みに整える。庭園だって造り直すし、君用の宮殿を建ててもいい」
「無駄遣いは嫌いです」
溜め息をつき、私はクーゼル様の両頬を手で包み、ジッと見つめる。
「こうなったら諦めて殿下と結婚しますが、必ず大切にしてくださいね?」
「もちろん!」
破顔したクーゼル様は、私を思いきり抱き締めてきた。
こうして私は、王太子殿下の罠にまんまと嵌まったのだった。
完
私は、目の前に広がる白い空間を見て間抜けな声を漏らした。
どういう事?
確か、私は王宮の中にいたはずだ。
私はセイブレベル王国の伯爵令嬢、エトラ。
我ながら美しいと思う金髪は、大切に手入れをしている。
いつも侍女に綺麗に巻かせているそれを靡かせ、気の強い顔立ちに合った強い色味のドレスで颯爽と歩いていると、誰もが私を〝薔薇の令嬢〟と呼び羨望の眼差しを向けてくる。
呼吸するように「美しい」と言われているので、もはやそれらの言葉は私にとって意味をなさなくなっていたのだけれど……。
加えて、私は少し特殊な立ち位置にいた。
多少、ものをハッキリ言う性格だからか、知らない間に周囲から恐れられていたのだ。
令嬢たちは私を見ればおもねる表情を浮かべ、怒らせたら首を撥ねられるというような態度を取ってくる。
あいにく、私は女王ではない。
ただの伯爵家令嬢だ。
男性たちの間にはどんな噂が流れているのか、私の顔を見れば流し目を送ってきたり、片目を瞑って目配せしてくる。
どうも、誘えばホイホイと応じる股の緩い女と思われているようだ。
残念! 私はいまだ誰にも体を許していません!
そんな周囲の人間に辟易としつつ、私は日々それなりに上手く立ち回っていた……はずだった。
「ちょっと待って?」
どこまでも広がる果てのない白い空間の中に、一つだけ異物があるのだが、見ない事にする。
私は〝それ〟に背中を向け、腕を組んで考えた。
さっきまで、お茶会にいたはずよね?
王女殿下と、聖女アリアが主催するお茶会に招待され、他の令嬢たちと一緒に楽しいひとときを過ごしていたはずだ。
様々な話をし、王女殿下が私にやたらと兄君――王太子殿下の話題を振ってきた。
とはいえ、私は事情があって王太子殿下が苦手なので、のらりくらりと話題をかわしてようやくお茶会が終わった――はずだったのだ。
お喋りをしながら何倍もお茶を飲んで、私の体は温まっていた。
火照りを覚えていたから、許されるのなら一刻も早く外に出て風を浴び涼みたかった。
「それで……、終わりを確認してから、まっさきに部屋を出た……はずなのよね?」
独り言ちながら、私は当時を再現すべく行動に出た。
「立ち上がって……お辞儀をして、歩いて、ドアを開けて、廊下に出た」
白い空間はどこにでも広がっているので、行動範囲など構わず当時を再現した。
ドアを開けた時、確かに私は向かいに広がる大理石の床や、その向こうにある大階段、階段の手すり上にある女神像などを目にしていた。
それが、一歩踏み出した途端にすべてが消え、ここにいたのだ。
「……魔術のトラップ?」
いやいや……と思わず顔の前で手を振りながら、私は嫌な顔をする。
この世界では聖女がいて奇跡を起こし、また王国の顧問的存在の魔女や魔術師もいる。
他国には世界一と言われている、ルドルフという美形な魔術師がいるようだ。
人外とも関わっているらしい彼の手に掛かれば、さすがにどれだけ権力を持っていてもひとたまりもないらしく、彼は大陸中の人から一目置かれていた。
「いや……、まさかそんな大物に構われるなんて思っていないし」
一人つぶやき、私はそろーり……と振り向く。
〝あれ〟はいまだ変わらない場所にあった。
「万が一、他の魔術師の罠に掛かったとして……」
私はいやぁ……な顔をして、ようやく〝あれ〟の方を向いた。
目に入ったのは、何とも珍妙な形をした木馬だ。
木馬と言えば馬の形をした乗り物だが、その鞍――跨がる箇所には、明らかに男根とおぼしき形の異物が二本生えていた。
「冗談でしょ……」
おまけに、この白い世界の床なのか地面なのか分からないが、特大の文字でこう書いてある。
『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』
「あぁあああぁああっっ!!」
私は突如として声を上げ、血走った目でその文字を踏みつける。
ダンッダンッと踏みつけてその場でジャンプすらし、激しく暴れた――あとに、呼吸を整えながら自分を落ち着かせる。
「いや……、待って? 流石にこれはないでしょ?」
額に手を当てて誰もいないのに、私は必死に「待って」を繰り返す。
落ち着いて……。
そう、深呼吸をして、吸って、吐いて。
目を閉じて何度も呼吸を繰り返して、少し落ち着いて目を開けると、足元の文字が変わっていた。
『初めてでしょうから、こちらの特製オイルをご自由にお使いください』
「へっ!?」
『こちら』と書かれた先に矢印があり、その先にはこの状況の中で嘘のように優美な瓶が置かれてあった。
中には到底まともな物と思えない色――ピンクの液体が入っていて、ガラスの蓋には繊細な妖精の飾りがついていた。
こんな状況だというのに、恐ろしく凝った物を出してくる。
「何なのよこれ……」
うめくと、足元の文字がパッと変わった。
『お茶会でエトラ様はしこたま媚薬入りのお茶を飲んだはずですが、頑強な理性を働かせているので、あともう一歩を押す媚薬です』
「媚薬!!」
私はまた足元の文字をダンッと踏みつけた。
道理で動悸息切れがしていた訳よ……。
ずっと体が火照っていて、下半身がおかしかったのは、お手洗いに行きたいと思ってからかだと思っていたけれど……。
「まさかの媚薬!」
誰にともなく盛大に突っ込み、私は自慢の金髪をかき乱してうなる。
「そんな物、使える訳がないでしょう! 私はまだ誰にも体を許していないのよ!」
『知ってます(笑)』
…………ちょっと待って。
(笑)ってなに?
あからさまにおちょくられているのに気付き、私はこの状況に対する怒りがふつふつとこみ上げるのを感じる。
「誰か見ているの!?」
大きな声を上げ、私は前後左右、天と地を見回す。
だが白い空間に私の声が響くだけで、人影はおろか、生き物の陰すら見つける事ができない。
「……魔法ね」
『ご名答!(笑)』
「だから、いちいちその(笑)ってつけるのやめなさい!」
足元の文字を怒鳴りつけてから、私はイライラとして指でこめかみをうつ。
落ち着くために地面に座り、瞑想するように呼吸を整えた。
しばらくしてから目を開くと、目の前の文字がまた変わっている。
『こうしている間にも、〝外〟の時間は刻々と流れていますよ。あなたが意地を張れば張るほど、〝外〟では時間が流れ、あなたが行方不明になっている期間が延びます』
「な……っ」
それは困る。
『現在、〝外〟では王太子殿下が愛しのエトラ嬢を探すために、捜索隊を指揮しています』
「えぇっ!?」
世界で一番苦手な人の名前が出て、私はお腹の底から声を出した。
「ぜっったいにあの方に借りを作りたくないわ!」
私は王太子クーゼルに求婚されていた。
どうも、気に入られてしまったのが原因のようで……。
クーゼル様は三十歳を目前にして、今まで女性とお付き合いした事がないらしく、国王陛下からも早く結婚をするよう言われているようだった。
王女殿下からの招待を受けて王宮まで向かった時、空き時間に庭園を歩いていたら、バラ園近くにあるガゼボで偶然クーゼル様に出会った。
彼はたびかさなる「結婚しろ」に参っていたようで、落ち込んで今にも首に縄を掛けそうな顔をしていた。
それまで私にとってクーゼル様は別世界の人で、特に彼がどうなっても自分の人生には関わりがないと思っていた。
けれどさすがにそんな姿を見ては気の毒になり、可能な限り彼を励ましたのだ。
私に他意はなく、その場にもし第三者がいても、親切からの激励だと思うものだった。
だがその翌日から、クーゼル様は私に猛烈な勢いで求婚し始めた。
いわく、「運命の女神だ!」らしいのだが、刷り込みもいいところだ。
王女殿下のお気に入りになるのは嬉しかったけれど、最近は顔を合わせれば「お兄様とはどう?」ばかりで辟易としていた。
この白い空間に来る前も、その話題ばかりで私は精神的に疲れていた。
とはいえ、現実世界と隔離されたここで時間が過ぎ、行方不明状態が続くのは困る。
『可哀想に……。王太子殿下は今にも死にそうな顔をしてあなたを探していますよ』
……そりゃあ、あの方なら命がけで私を探すでしょうとも。
「〝あなた〟は魔術師なの? 誰の依頼を受けたの?」
尋ねても、床の文字が変わる事はなかった。
応えるつもりはないという事ね。
……となれば、あの木馬に跨がってこの世界を出るしか、手段はないという事になる。
「……勘弁してよもぉ……」
思わず令嬢らしからぬ弱音が漏れるが、知った事ではない。
『少しだけ種明かしをすると、依頼主はあなたがこの木馬に跨がる事をお望みです。なので、この課題をクリアしなければ本当に現実には戻れません』
今までになくまじめな雰囲気で文字が出て、私は溜め息をつく。
「私を嫌っている令嬢か誰かかしら」
世間では悪役令嬢だの、美しい薔薇にはトゲがあるだの、陰で好きなように言われているので、もはや誰に恨まれていてもおかしくない。
『恨みではありません。そこだけはお答えします』
「……恨みじゃない?」
ポカンとするものの、どうであれ私がここから出られない、出るには処女を失わないといけないのは確かだ。
「……魔術師に依頼したら、処女膜の再生ってしてもらえたかしら」
さすがに、貴族の娘がこれから嫁ぐのに生娘ではないというのは問題がある。
『医療も囓っている魔術師なら、可能だと思いますよ』
この文字も、初めから見ると随分砕けた口調になっている。
『あとからやり直し可能ですから、さあ、やってみよう!』
軽い文字の口調に、私はギリィ……と歯ぎしりをする。
「……ここから出て、あとで正体が分かったら、その減らず口が叩けなくなるまで、ぶちのめしてやるわ」
悔し紛れの言葉を口にし、決意してから私は立ち上がった。
『やりますか?』
「やるわよ!」
『それでは、お手伝いします!』
「え? きゃあああああああっ!!」
手伝いという文字を見て何事かと思った瞬間、私は全裸になっていた。
全裸!
もう綺麗さっぱり全裸だ。
ストッキングを残すとか、靴を残す、アクセサリーを残すという慈悲すらくれない。
「悪魔!!」
『はいはい、次はそこの媚薬を使ってくださいね』
私の文句をサラリと流し、文字は矢印を浮かべて点滅までさせて、先ほどのピンク色の液体が入った瓶を示す。
っはぁあああぁ…………。
海より深い溜め息をつき、私は瓶の前でしゃがむ。
「どうすればいいの?」
『座って、足を開いてオイルを指に付け、秘部に塗りつけてください』
文字はあくまで文字だが、この状況を誰かに見られているのだと思うと、恥ずかしくて堪らない。
でも、やるしかないのだわ。
私は心の底から嫌そうな顔をし、座って足を広げると瓶の蓋を取った。
愛の妖精がついた蓋を床に置き、瓶を傾けて掌にピンクの液体を取る。
トロリとしたそれは粘度があり、私の掌に溜まる。
「うぅ……」
私は脚を開いて、なるべく見ないようにして液体のついた指先で秘部に触れた。
「ん……っ」
手に取った液体は少し冷たかったのに、秘部に塗った途端温かくなった。
しかもジワジワと体の奥に浸透してくる気がし、気持ちが落ち着かない。
『その調子でどんどんいきましょう! 胸にも、全身にもつけてくださいね!』
文字通り、文字が躍っている。
何がそんなに嬉しいのかしら。
私はすっかり諦めの境地に陥り、仰向けになると瓶の中身を次々に全身に塗っていった。
お腹に零してぬりたくり、胸や太腿にも伸ばしていく。
「あぁ……っ、あ……」
紅茶で体の奥に蓄積していた熱が、今度は外部からの媚薬によってどんどん呼び覚まされてくる。
「ん……っ、んぅ……っ、うーっ」
下腹部を襲う疼きはどんどん高まり、私は仰向けになったまま腰を浮かせ、くねらせる。
乳首もピンと尖り、全身が性感帯になったかのようだ。
――と、今度は天にあの文字が浮かび上がった。
『準備完了ですね! では木馬にいってみましょう!』
私は思わず口元でチッと舌打ちをしてしまう。
『舌打ち、はしたない!』
たしなめる文字を無視し、私はノロノロと起き上がる。
「これ、滑って転ばない?」
『滑らない床になっておりますので、ご安心ください。もし転倒しても、その瞬間柔らかくなりますから、お怪我はしません』
「何もかも不親切なのに、変なところだけ親切なのね」
思わず突っ込むと、木馬に向かっている矢印がクネクネと動いた。
気持ち悪い。
「この木馬、乗る所が高くて足が届かないわ」
言った途端、足元に階段ができた。
ほんっとうに変なところだけ親切だ。
濡れた足で恐る恐る階段を上っても、滑る事はなかった。
私は目の前にある、木馬の突起――男性器を模した張型を睨む。
体の疼きはますます酷くなり、下腹部にあれを含めば、慣れた女性なら気持ちいいと思うのだろう。
「……私、処女なのよ」
弱々しい声が漏れる。
『分かっていますよ。いま体に塗った薬は、痛みを散らす作用も含まれています。恐れずにいきましょう!』
優しいのか悪魔なのか分からない。
「はぁ……」
私はこれ以上ない重たい溜め息をつき、木馬の頭についている取っ手を握った。
鞍を跨がると、向こう側にも足場ができあがって、私がゆっくり腰を下ろせるよう補助してくれる。
ふぅ……、ふぅ……と呼吸を整えながら、私は少しずつ腰を下ろしていった。
「お父様、お母様、ごめんなさい……。親不孝な娘を許してください……」
『別に死ぬ訳じゃないんですから』
前方に文字が見え、私はクワッと目を見開く。
『怒らないでくださいよ! 初めてでも痛くないし、後ろも柔らかくなっています。さあ、ズブッといってみよう!』
「……覚えてなさいよ……」
私は悪魔をも睨み殺す勢いで文字を凝視しながら、蜜口に張型の先端を当てた。
「あぁ……、あ……」
片手で張型の竿の部分を支え、私は目を閉じる。
入れる場所を確認したあと、今度は後ろの少し細い張型にも手を添え、後孔に当たるよう調整する。
おかしな事に、木馬についている張型だというのに、魔法のせいなのか妙な弾力と温かさがあった。
しかも指で確認すると血管まで浮き出ていて、生きているかのように時折ビクンと跳ねる。
「大人しくしていなさいよ」
口元で悪態をつきながら、私は二本とも入れる角度を定めたあと、一気に腰を下ろした。
「っあぁあああぁ……っ!」
「気持ちいいっ! エトラ!」
いきなり男性の声が聞こえ、私はギョッとして目を開けた。
「えっ!?」
視界に飛び込んだのは、四柱式の天蓋付きベッドの中だ。
加えて私の下には人がいる。
人――。
「王太子殿下ああぁあああっ!?」
悲鳴を上げ、とっさに立ち上がろうとしたが、腰を掴まれて下からズンッと突き上げられた。
「あぁああんっ」
「待って、エトラ!」
私に縋るような目を向け、クーゼル様はさらにズンズンと続けざまに私を突き上げた。
「いやっ、やめてくださ……っ、あぁああっ」
初めてのはずなのに、あの白い空間でたっぷり媚薬を体に纏ったせいか、まったく痛くない。
それどころかひと突きごとにこの世のものと思えない悦楽が私を襲い、頭の中が真っ白になる。
知らないうちに私は涎を垂らし、蜜壷をきつく引き絞って絶頂していた。
「あぁあああ……っ、あーっ!」
「あ……っ、きつい……っ、素敵だ……っ、エトラ!」
クーゼル様は私を抱き締め、問答無用で唇を奪ってきた。
唇を舐められ、吸われ、嫌なはずなのに、彼からされるキスで私は気持ちよさを得ていた。
怯えて奥に逃げようとする舌を舐められたかと思うと、尻たぶをギュッと掴まれる。
「んぅっ!」
その時になって私は自分の後孔に異物が入っているのに気付いた。
慌ててお尻に手をやると、何か硬い物が入り口から飛び出ていて、中身は直腸の中でウネウネと動いている。
「やめてぇええ……っ、お尻、やめてぇええっ、やだあぁああっ」
「君のお尻には、特製の張型が入っているから、十分楽しんで。エトラとの初めては最高のものにすると決めていたんだ」
「ま……っ、まさか……っ、すべてクーゼル様が仕組んだのですか!?」
私の問いに、顔だけは誰よりも美しい王太子は、青い瞳を細めてそれは嬉しそうに笑った。
「この変態! っあぁああんっ」
悪態をついた瞬間、お尻をパンッと叩かれて全身に甘い痺れが走る。
何という事。
あの媚薬は、痛みすら快楽に変えてしまうものだった。
「エトラはお尻を叩かれて感じる変態だね? 俺たち、似合いの夫婦になれるね?」
顔を紅潮させて興奮したクーゼル様は、ゴロリと転がって私を寝台の上に押し倒した。
そして銀髪を掻き上げ、これ以上の幸せはないという笑顔を見せる。
「君とこうなる事をずっと夢みていたんだ」
「ちょ……っ、まっ、あぁああっ!」
もう、そのあとは何を言っても彼は聞いてくれなかった。
私の太腿を抱え上げ、太くて硬い一物をズンズンと突き立てる。
エラの張った雁首で膣襞を擦られるたび、私は本能の声を上げて感じた。
彼が腰を叩きつけると、グチュグチュと蜜が攪拌される音がする。
さらに感じ切って肥大した陰核を指の腹で撫でられ、私は絶叫して愛潮を飛ばした。
「可愛いよ、エトラ。君が好きで堪らない」
私が何度絶頂しても、愛潮を飛ばしても、クーゼル様は賛辞の言葉をやめない。
「エトラの蜜壷が俺の肉棒を思いきり吸い上げているよ。そんなにコレが好きなの?」
あまりに感じてぷっくりと腫れている乳輪を指でなぞられ、私は腰をしならせて喘いだ。
「あぁあああ……、あぁあ、あーっ!」
「なに? ここが好き?」
私の子宮口に亀頭を押しつけ、クーゼル様はグリグリと腰を回す。
私は涎を垂らして激しくいきみ、何回目になるか分からない絶頂を迎える。
それでも彼は私の乳首に決して触ろうとせず、執拗なまでに乳輪のみを指先で撫でていた。
「それぇ……っ、やぁっ、やだぁっ」
とうとう涙の混じった声を出したが、クーゼル様はとろりと愉悦の籠もった笑みを浮かべるのみだ。
「〝それ〟? どれ? 何をどうしてほしい?」
言いながら、彼はゆっくり肉茎を引き抜き、雁首が見えるまで腰を引いてからドチュッと私を突き上げた。
「はぅううぅうっっ! うーっ、あぁああ……っ」
「これ? エトラの子宮をトントンするのが嫌?」
「それも……っ、そうだけどぉ……っ」
私はのたうちまわりながら、必死に足を踏ん張らせて彼から逃げようとする。
けれどクーゼル様がパチンと指を鳴らすと、お尻に入っていた張型がいっそう激しく身をうねらせた。
「っんあぁあああぁっ!」
私は獣のような声を上げ、激しく全身を痙攣させる。
「あれ? 違った?」
嬉しそうに笑うクーゼル様は、私の乳輪をなおも撫で回す。
もう私の乳首は、腫れ上がって破裂してしまいそうな疼きを得ていた。
「乳首……っ、乳首に触ってくださいぃいっ!」
泣きながら懇願すると、クーゼル様はそれはいい笑顔を見せた。
「喜んで」
そして私のたっぷりとした乳房をむにゅりと握ると、両手の人差し指でクリクリと勃起した乳首を捏ね回してきた。
「っひあぁあああぁっ、あーっ!」
途端に、プシュッと私の胸の先端から白いものが噴き出した。
「えぇええっ!? あぁあ、やだっ、やぁあああっ!」
混乱した私をよそに、クーゼル様は私の胸に顔を寄せ、噴き出たもの――母乳を吸い始めた。
「美味しいよ、エトラ」
妖艶に唇を舐め、そしてクーゼル様は猛然と私を突き上げ始めた。
「んぁああぁあっ、んぅぅっ、うーっ、ぅ、あぁああっ」
あまりに激しさに私の乳房はゆさゆさと揺れ、とめどなく噴き出る母乳が雫となって胸の丘を滴る。
髪はシーツの上でグシャグシャになり、下腹部近くでシーツは濡れそぼって冷たくなっていた。
滝のように愛蜜が溢れ、クーゼル様の肉棒が出入りするたび飛沫を上げる。
全身の毛穴が開いたかと思うような興奮の限界がずっと続き、私は自分を犯す美しい男を見入ったまま嬌声を上げ続けた。
「好きだよ、エトラ。この世の誰よりも美しい。俺には君しかいない。君を丸ごと愛せるのも俺だけだ」
青い瞳に見つめられたまま囁かれ、その言葉が愛の呪詛となって私の脳髄を冒す。
「あ……、あぁあ…………」
とろぉ……、と粘ついた意識の中、私はクーゼル様に愛される事をいつしか喜びと感じていた。
「エトラ、俺の妻になって。俺の子を孕んで」
愛しげに笑ったクーゼル様は、私にキスをしてから仕上げと言わんばかりに、さらに激しく腰を叩きつけた。
「んぉっ、おっ、ぁ、あぁああ、うーっ、う、あぁああっ!」
あまりの快楽に、内臓を揺さぶられるような突き上げと共に口から本能の声が出る。
子宮を押し潰されそうな勢いで何度も突き上げられ、直腸ではクネクネと張型が容赦なく動いている。
この世のものと思えない悦楽に涙を流した私は、つま先をピンと伸ばして大きくのけぞった。
「っあぁああああぁーっ!!」
全身を激しく痙攣させ、身をくねらせて官能を貪る。
顔をあおのけて晒された私の喉を、クーゼル様が甘噛みしてきた。
「出すよ……っ! 全部残さず呑んでっ」
喉に唇を当てて彼が最後の声を絞り、大きく体を震わせて遠慮なく私の子宮めがけて射精した。
「っはぁあああ……っ、あーっ!」
「んんン……っ、ん、エトラ……っ、ぁ……っ」
私をきつく抱き締めたまま、クーゼル様はドプドプと精を放ち続ける。
やっと彼の動きが止まったと思っていたのに、彼は最後の一滴まで絞り出すために、さらに数度腰を最奥まで叩きつけた。
「は……っ、は、……ぁ、あぁあ……っ、あ、…………あ……」
普通の人間の精液の量を超えている、とても大量な精を吐き出され、結合部から逆流したものがはみ出るのが分かった。
疲れ切った私は、もう考える力すら残されず、そのまま気を失ってしまった。
**
「説明してください」
寝台の上には、全裸で正座している私と、やはり正座して頬にくっきりと手のあとをつけているクーゼル様がいる。
シーツの上はもう凄惨な事になっているが、今は話をするほうが先だ。
「……どうしてもエトラと結婚したいと思って。子を作るしかないと思ったんだ」
「大事な過程を何もかもすっとばして、助走つきジャンプでゴールした感じですね」
容赦のない私の突っ込みにもめげず、クーゼル様は自慢げに笑う。
「一発で孕むように、精液の量を増やす魔術をかけてもらった」
「自慢する事じゃないでしょう!」
クワッと怒りを剥き出しにした私の前で、クーゼル様は唇をつきだしぶーたれる。
「……とにかく、もしこれで子を授かったのなら仕方ありませんが、とにかくやり方が気に入りません! 魔術師はどこなのです!?」
「呼んでも構わないのか?」
「呼べるのですか?」
尋ねた私の肩に、クーゼル様はガウンを掛ける。
そして、帳の外に向けて声を掛けた。
「アリア」
「えぇっ!?」
その名前は……!
《本当に行ってもいいんですか? お二人とも事後じゃありません?》
空気を震わせるような声が、直接私の頭に響く。
間違いない、この声は聖女アリア様だ。
でも、どうして彼女が?
「エトラの裸を見ないのなら、構わないぞ」
クーゼル様は私の肩を抱き、返事をする。
その後、帳の外に人影が見えた。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」
実に楽しそうに言った肉声は、私の感覚ではつい先ほどまで一緒にお茶を楽しんでいた聖女アリア様のものだ。
「エトラが理由を聞いている」
「お答えしますわ」
笑みを含んだ声で、アリア様は語り出す。
「私、聖女というお役目柄、クーゼル様とは幼馴染みの関係にありますの。そして聖女という奇跡の力は神の聖なる力に属するものですが、同時にそのような力を持つ者は魔術の適性もとても高いです。よって、表沙汰にはされていませんが、私は魔術師としても王族の方々のお役に立っています」
「あぁ……」
段々、種明かしが見えてきた。
「クーゼル様が陛下たちに『結婚しろ』と言われていたのは周知の事実ですが、殿下はずっとエトラ様に想いを寄せていました。ですが何をしても相手にされないとの事で、思い切った手を使おうという事になりました」
「そこ、すっごい乱暴に過程をすっ飛ばしていません? もっと地道に、手紙でアプローチするとか、舞踏会で距離を詰めるとかあったでしょう」
思わず突っ込んだが、帰ってきた言葉はかなり厳しい。
「そんなぬるい手を使っても、エトラ様は靡かないでしょう? クーゼル様は心の底からエトラ様との将来をお望みでした。ですから、逃げられないようにバッチリとあらゆる準備を整え、お茶会のあとの移動トラップからすべて仕組ませて頂きました」
「……あの文字って、アリア様だったのですか?」
「はい!」
聖女のイメージがガラガラと音を立てて崩れそうな、あの憎たらしい〝文字〟を思いだして、私は思いきりシーツを殴った。
深く長い溜め息をつく私を無視し、アリア様は続ける。
「殿下には一発必勝の魔術を掛けさせて頂きましたし、これで必ずお子ができるでしょう。エトラ様も生娘でも善がり狂う媚薬をたっぷり使って頂きましたし、これで解決ですね!」
あっけらかんと言われ、私は脱力してヘッドボードに積んであるクッションに身を任せた。
「終わってる……。この国は終わってる……。聖女も、王太子も全員腐ってる……」
「あら、いやですわぁ。それじゃあ、また何か困りごとがあったら、いつでもお声を掛けてくださいね」
コロコロと笑ったあと、アリア様の気配は消えた。
屍のようになっている私を、クーゼル様はしばらく優しく撫でていた。
「……強引な手を使ったけど、俺は本当に君を愛しているんだ。俺以上に君を大切にできる男は、他にいない」
真剣に言われ、私は溜め息をつく。
「……本当に強引ですね。私の気持ちなど、どうでもいいのでしょう」
「確かに強引な手を使ったけど、心底自分を嫌っている人にこんな手を使わないよ。エトラが少なからず俺に好意を持ってくれていると思ったから、こうしたんだ」
言われて、なくもない……と思う。
確かに私はクーゼル様につれない態度を取っていたけれど、彼に好意を寄せられて迷惑とか、関わりたくないとまでは思っていなかった。
むしろ周囲から恐れられ、男性からは貞操観念の緩い女として見られている中、唯一まともに迫ってくれるのがクーゼル様だけだった。
けれど彼に想いを返すには身分の差があり、彼はあまりに私にベタ惚れすぎた。
このまま素直に彼の想いを受け入れて、何か手ひどいしっぺ返しを喰らうのでは……と慎重になった結果、私は彼にそっけない態度を取り続ける事になったのだ。
「……酷い人。もっとロマンチックなやり方があったはずなのに」
「ロマンチックを求めているなら、これから幾らでも叶えるよ。君の望む結婚式を用意するし、王宮の部屋も君好みに整える。庭園だって造り直すし、君用の宮殿を建ててもいい」
「無駄遣いは嫌いです」
溜め息をつき、私はクーゼル様の両頬を手で包み、ジッと見つめる。
「こうなったら諦めて殿下と結婚しますが、必ず大切にしてくださいね?」
「もちろん!」
破顔したクーゼル様は、私を思いきり抱き締めてきた。
こうして私は、王太子殿下の罠にまんまと嵌まったのだった。
完
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