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男の人を、拾いました

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「美幸、今日の飯なーに?」

「肉じゃがにしようかと思って」

「やったー! 俺、肉じゃが大好き」



**



 無邪気に喜ぶ〝彼〟の本名を、私――橋本はしもと美幸みゆきは知らない。

 会社帰りに同僚と飲み、上司の愚痴を言ってしたたかに酔ってしまった金曜日。

 帰り道に、ビルとビルの間に挟まれるように座っていた彼を見つけた。

 金髪で背の高い男性で、酔っぱらって喧嘩をしたらしく、綺麗な顔には怪我を負っていた。

「大丈夫ですか?」と声を掛けたあと、どうしてか分からないけれど私は彼を持ち帰ってしまったようだった。

 怪我をしているのに放置するのは、声を掛けてしまった以上寝覚めが悪い。

 季節は十月で、夏の暑さにも冬の寒さにも怯えなくて済むとはいえ、外で寝たまま一晩過ごすのは良くない。

 とはいえ、私には付き合っている彼氏がいるので大失敗をした。

 支配欲の強い彼氏がこれを知ったら、大激怒するだろう。

 男性を拾ってしまったのは、私がもともと、他人のお世話をするのが好きな性格をしているからかもしれない。

 母は私が中学生の時に亡くなり、悲嘆に暮れる父と弟を見て「私がしっかりしなければ」と決意した。

 遠方に住む祖母からビデオ電話越しに料理を教えてもらい、慣れないながら〝母〟の真似事をする。

 それから私は父と弟のためにご飯を作り、洗濯をして掃除をして、アイロンを掛けゴミ出しをしてお弁当を作り……。

 誰かのために一生懸命働いている自分が好きだった。

 好き。……と思わなければ、やっていられなかったのだと思う。

 そんな生活は、私が大学を卒業して一人暮らしを始めた頃に終わりを告げた。

 その頃には「しっかりしないと」と自覚したらしい父と弟が「もう大丈夫だから」と言って私を送りだした。

 でも一人で都内に住むようになって、強い孤独を感じた。

 二十四歳になるこの歳まで、十年以上、私は父と弟のために働き続けた。
 それがいきなり「もうしなくていいよ」とポイと放り出された気持ちになり、強い不安すら抱いた。

 大学生になった弟には彼女ができ、父には付き合っている女性がいるらしい。

 十年以上経ったんだもの。前に進んで当たり前だ。

 なのに私は二人からお役目御免だと、捨てられた気持ちになっていた。

 だからなのか、社会人になっても私は常に人の役に立ちたいと思って動き始めた。

 仕事は勿論するけれど、それ以外に自主的に掃除をして、お茶くみをする。
 職場全体の流れも掴み、連絡が滞っていそうな人がいたら、さり気なく手助けした。

 そんな私を「気の利くいい人」と思う人もいれば、「お節介な人」と感じる人もいるようだった。

 男性の多くは前者で、女性の多くは後者だった。

 金曜日に一緒に飲んだ同僚は亜子あこと言い、数少ない友達だ。

 亜子は〝ダメンズホイホイ〟と呼ばれる私を励まし、いい彼氏ができるよう合コンにも誘ってくれる。

〝彼〟と出会ったのは、亜子と飲み交わした金曜日だった。

 どうして〝彼〟がそこで座り込んでいたのか分からない。

 酷く酔っていたようで、私も酔っていたけど、お互い支え合うようにしてタクシーに乗り込み、自宅住所を告げた。

 もつれ込むようにして家に入り、彼のために布団を敷いて自分も寝た。

 ――のだけれど、違和感を覚えて目を覚ましたら。彼が私のパジャマを脱がせてのしかかっていた。

 常夜灯に、ブリーチした金髪が淡く光る。
 その目は冷たく、見つめられただけで体の奥がゾクゾクッと震えてしまった。

 いまだかつて、私をそんな目で見る人はいない。

 私は皆に親切にしていたから、感謝の目を向けられる事が多かった。

 でも〝彼〟の目には何の温度もなく、私を〝モノ〟としか思っていないようだった。

「……誰?」

〝彼〟は私の顎を掴み、尋ねてくる。

「……え、……み、みゆき……」

 思わず、馬鹿正直に名乗ってしまった。

「そ。俺の事は、………………ポチとでも呼んで」

「ポチ……くん?」

 明らかな偽名に私は当惑し、聞き返すように名前を繰り返す。
 ポチくんは「ホントに呼ぶのかよ」と笑い、ポケットから煙草を取り出すとライターで火を付けた。

「あ……、煙草……」

「なに?」

 禁煙だと言いたかったけれど、ポチくんに見られただけで何も言えなくなってしまった。

「拾ってくれてありがとう。お礼にイイコトしてあげる」

 酷薄に笑ったポチくんは、そのあと煙草を吸いながら私を抱いた。

 金髪で煙草を吸っているって言ったら、怖い印象しかない。
 でもそんな印象から想像できないぐらい優しい手つきで、彼は私を愛撫した。

 大きな手で胸を包み、優しく揉んで乳首を捏ねる。

 煙草の味がするキスをされ、ねっとりと舌を絡められながら胸を弄られ続け、気がつけば私はひどく秘所を濡らしていた。

 そこに長い指が入り、グチュグチュと水音を立てて私の官能を煽ってくる。

「あ……っ、あ、~~~~っそこ……っ」

 陰核の裏側辺りを擦られるとゾクゾクして、私は腰を浮かせる。

「ん、分かった」

 彼は優しい声で頷き、淫芽もコリュコリュと転がしながら執拗にそこばかりを擦り続けた。

「あぁああ……っ、駄目……っ、駄目……っ!」

 こみ上げた愉悦を堪えきれず、私はブシュッと愛潮を漏らす。
 恥ずかしいと思う間もなく、ポチくんは私を愛撫し続け、それから立て続けに何回も指で達かされた。

「舐めて」

 放心して仰向けになっていると、彼が私の顔を跨いでシックスナインの体勢になり、ガチガチに強張ったモノを口元に寄せてくる。

 唇を開いて荒い呼吸を繰り返していると、まだ「いいよ」と言っていないのにポチくんは亀頭を私の唇に押しつけて、ぐぷりと押し込んできた。

 同時に彼も私のとろけきった秘所に舌を這わせ、また指で蜜孔をほじりながら淫芽を吸い立てた。

 あまりに快楽に獣めいた嬌声を上げ、何度も達かされた。

 ぐったりして疲れ切った私の脚を広げ、ポチくんは言う。

「〝お礼〟で気持ちよくなったみたいだけど、俺の事も気持ちよくして?」

 そう言って彼はお財布からゴムを出し、自身の屹立に被せると遠慮なく押し込んできた。

「ひぁあああ……っ、――――う、……ぅ……っ」

 感じた事のない大きな一物に貫かれ、私ははくはくと口を喘がせる。

「あぁ……。気持ちいい……。名器じゃね?」

 彼は髪を掻き上げ、新しい煙草に火を付けて私を犯し始める。
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