55 / 109
亮へのメッセージ
しおりを挟む
「わざとじゃなかったんだから、いいよ」
「当然! 事情を教えてもらったから、これからは気をつける!」
しっかり頷いた志保を見て、私は微笑む。
「もし変な事になったら、いつでも言ってね」
「うん、ありがとう」
志保に全部は言えていないけれど、親友が味方でいてくれるのは心強い。
彼女とたわいのない話をして飲み続けていると、やがて店に秀弥さんが入ってきた。
「あ、秀弥さん」
酔っぱらった私は、志保の前だというのに彼を名前で呼んでしまう。
そんな私を見て、志保は目をまん丸に見開き、無言で「きゃーっ!」と歓声を上げていた。
「お疲れさん」
秀弥さんはテーブルまで来ると、私の隣に腰かける。
「西崎さん、やっぱり夕貴と……」
志保がワクワクした顔で尋ねると、彼は頷いてから人差し指を唇の前で立てた。
「結婚する予定だけど、まだ内緒にしておいてくれ」
「勿論です! わ~! おめでとうございます!」
「口止め料としてここ驕るから、頼むな」
「やったー! もうちょっと食べよーっと」
嬉々としてメニューを捲る志保を見て、秀弥さんは「容赦ねーな」と笑う。
「西崎さん、何か飲みます?」
「車で来てるからノンアルにしとく」
志保の問いに答えた秀弥さんは、メニューを一通り見てから「ウーロン茶にするか」と呟く。
「夕貴、ちょっとスマホ貸してもらえる? 彼にメッセージしたいんだけど」
「あ、うん」
秀弥さんの言いたい事をすぐ理解した私は、スマホを立ち上げると彼に手渡した。
「サンキュ」
彼はお礼を言うと、少し考えてから亮にメッセージを打っていく。
少ししてからスマホを返され、気になった私は「見てもいい?」と尋ねる。
「夕貴のスマホだし、どうぞご自由に」
言われて、私は亮とのトークルームを開いた。
【はじめまして。西崎秀弥です。夕貴さんのスマホを借りてメッセージさせていただきました。突然の事で驚いたかと思いますが、お許しください】
【夕貴さんに高瀬奈々さんの話を聞き、彼女の身の危険を感じたので、当面我が家で一緒に生活する事にしました。また、彼女から高瀬さんに関する話を軽く聞き、第三者が介入したほうがいいと判断し、本日高瀬さんと会ってきました】
【長谷川姉弟に関わらないと約束してもらいたかったのですが、どれだけ話しても分かり合う事ができず、平行線のままに終わってしまいました。彼女は自分が亮くんに嫌われている事をあまり自覚していないようです。現実的な事を指摘したのですが、あまり言い過ぎると逆ギレして事態が悪化してしまいそうだったので、強く言ってやり込める事は避けました】
【結局〝話し合い〟は成功したとは言えませんが、次の手段がありますので、亮くんは彼女に連絡をとらず静観していてください。大切なお姉さんのために動きたい気持ちは察しますが、あなたと高瀬さんは相性が悪すぎます。私の言う事を聞くのが癪なのは分かりますが、亮くんを心配する夕貴さんのためにも、衝動的な行動はとらないようにお願いいたします】
【後日、ご挨拶に伺います。そのあとにでも、改めて亮くんとお話できたらと思っています。長文大変失礼いたしました】
意外にも秀弥さんは、とても丁寧な文面で亮にメッセージを送っていた。
「もっとバチバチな感じかと思った」
素直な感想を述べると、彼は首を竦める。
「怒りのままに高瀬に会いに行くなってお願いしてるのに、喧嘩腰になったらいかんだろ」
「確かに……」
その時、秀弥さんのウーロン茶と志保が頼んだ追加メニューが運ばれてきて、とりあえず三人で乾杯した。
「まー、私は二人を応援するよ。弟くんは以前にチラッと会った事があるけど、凄いイケメンだったよね。あの彼ならモテるのは頷けるから、変な女にも絡まれるんだろうけど、正義は勝つ! 頑張れ!」
いい感じにできあがっている志保はビールのジョッキを掲げ、ゴッゴッ……と飲んでいく。
「ありがと」
幸せになれる未来が確定した訳じゃない。
私も亮も秀弥さんも、それぞれ抱えているものがあり、問題がある。
(どんな形かはまだ分からない。……みんな幸せになれますように)
心の中で祈った私は、グラスに残っていたカシスオレンジを飲み干した。
**
「当然! 事情を教えてもらったから、これからは気をつける!」
しっかり頷いた志保を見て、私は微笑む。
「もし変な事になったら、いつでも言ってね」
「うん、ありがとう」
志保に全部は言えていないけれど、親友が味方でいてくれるのは心強い。
彼女とたわいのない話をして飲み続けていると、やがて店に秀弥さんが入ってきた。
「あ、秀弥さん」
酔っぱらった私は、志保の前だというのに彼を名前で呼んでしまう。
そんな私を見て、志保は目をまん丸に見開き、無言で「きゃーっ!」と歓声を上げていた。
「お疲れさん」
秀弥さんはテーブルまで来ると、私の隣に腰かける。
「西崎さん、やっぱり夕貴と……」
志保がワクワクした顔で尋ねると、彼は頷いてから人差し指を唇の前で立てた。
「結婚する予定だけど、まだ内緒にしておいてくれ」
「勿論です! わ~! おめでとうございます!」
「口止め料としてここ驕るから、頼むな」
「やったー! もうちょっと食べよーっと」
嬉々としてメニューを捲る志保を見て、秀弥さんは「容赦ねーな」と笑う。
「西崎さん、何か飲みます?」
「車で来てるからノンアルにしとく」
志保の問いに答えた秀弥さんは、メニューを一通り見てから「ウーロン茶にするか」と呟く。
「夕貴、ちょっとスマホ貸してもらえる? 彼にメッセージしたいんだけど」
「あ、うん」
秀弥さんの言いたい事をすぐ理解した私は、スマホを立ち上げると彼に手渡した。
「サンキュ」
彼はお礼を言うと、少し考えてから亮にメッセージを打っていく。
少ししてからスマホを返され、気になった私は「見てもいい?」と尋ねる。
「夕貴のスマホだし、どうぞご自由に」
言われて、私は亮とのトークルームを開いた。
【はじめまして。西崎秀弥です。夕貴さんのスマホを借りてメッセージさせていただきました。突然の事で驚いたかと思いますが、お許しください】
【夕貴さんに高瀬奈々さんの話を聞き、彼女の身の危険を感じたので、当面我が家で一緒に生活する事にしました。また、彼女から高瀬さんに関する話を軽く聞き、第三者が介入したほうがいいと判断し、本日高瀬さんと会ってきました】
【長谷川姉弟に関わらないと約束してもらいたかったのですが、どれだけ話しても分かり合う事ができず、平行線のままに終わってしまいました。彼女は自分が亮くんに嫌われている事をあまり自覚していないようです。現実的な事を指摘したのですが、あまり言い過ぎると逆ギレして事態が悪化してしまいそうだったので、強く言ってやり込める事は避けました】
【結局〝話し合い〟は成功したとは言えませんが、次の手段がありますので、亮くんは彼女に連絡をとらず静観していてください。大切なお姉さんのために動きたい気持ちは察しますが、あなたと高瀬さんは相性が悪すぎます。私の言う事を聞くのが癪なのは分かりますが、亮くんを心配する夕貴さんのためにも、衝動的な行動はとらないようにお願いいたします】
【後日、ご挨拶に伺います。そのあとにでも、改めて亮くんとお話できたらと思っています。長文大変失礼いたしました】
意外にも秀弥さんは、とても丁寧な文面で亮にメッセージを送っていた。
「もっとバチバチな感じかと思った」
素直な感想を述べると、彼は首を竦める。
「怒りのままに高瀬に会いに行くなってお願いしてるのに、喧嘩腰になったらいかんだろ」
「確かに……」
その時、秀弥さんのウーロン茶と志保が頼んだ追加メニューが運ばれてきて、とりあえず三人で乾杯した。
「まー、私は二人を応援するよ。弟くんは以前にチラッと会った事があるけど、凄いイケメンだったよね。あの彼ならモテるのは頷けるから、変な女にも絡まれるんだろうけど、正義は勝つ! 頑張れ!」
いい感じにできあがっている志保はビールのジョッキを掲げ、ゴッゴッ……と飲んでいく。
「ありがと」
幸せになれる未来が確定した訳じゃない。
私も亮も秀弥さんも、それぞれ抱えているものがあり、問題がある。
(どんな形かはまだ分からない。……みんな幸せになれますように)
心の中で祈った私は、グラスに残っていたカシスオレンジを飲み干した。
**
34
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる