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幸せの竜姫 (完)

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 ふとこの世界のダルメアとカティスが、今どうしているのか考えたが、すぐに気持ちを切り替えた。

 自分は運命と世界を変えてしまった。

 ならばそれに付随して誰かの運命も変わってしまう事を、受け入れなければ。

 かつてあれほどルドガーを苦しめ、憎たらしいと思った相手だ。
 あの時は彼を倒す事を目的としていたのだから、今の世界が平和だからと言って情けを掛けてはいけない。

 可能性の芽は、いつ発芽するか分からない。

(私は――、周りからどれだけ鬼だ悪魔だと罵られても、この二人を幸せにしなければ。他の誰を不幸にしても、私はこの二人を択りたいのだから)

 心の中で固く決意すると、シーラは裏腹に柔らかに微笑み沿道に立っている三国の民に手を振った。

 高地にあるクメルからは、ガズァルやセプテアの大地までもが一望できる。

「私は、この世界と二人の夫を愛します。生涯竜に祈りを捧げ、その恩恵に感謝します」

 シーラの言葉に、両隣にいるライオットとルドガーが微笑んだ。

「君の願いを、俺たちも支えるよ」

「セプテアは、いつまでもカリューシアとガズァルと共にある。竜の加護なくとも、大切な友が尊きとするものを、セプテアも守ろう」

 二人の夫は左右から優しく約束してくれた後、シーラの頬にキスをした。

 それを見て沿道の者たちがワッと沸き、建物の上階から花びらが撒かれる。

 花びらは風に舞い上がり、カリューシアの空を色とりどりに染めていった。
 竜たちの鼻先をかすり、彼らの羽ばたきでまた舞い、どこまでも祝福の花びらが飛んでゆく。

 遙か向こうに、日差しを浴びてキラキラと輝いているレティ湖が見えた。
 幼い日あそこで三人で遊んでいた時、シーラはライオットに突き飛ばされてずぶ濡れになってしまった。

 当時は可愛いシーラを気にする二人は、つい意地悪をしてしまう年頃だったのだ。
 驚いて泣いてしまうシーラと右往左往する二人を、大人たちは笑顔で見ていた。

 厳しい旅の中で忘れかけていた平和な景色が、またこの手に戻って来ている。

(色々落ち着いたら、また皆でレティ湖に行ってみたいわ)

 そう思うと、シーラは一人微笑む。

 ふと彼女の前に花びらが舞い込んできて、咄嗟にシーラは白い花弁を握っていた。
 掌の花びらを見つめたあと、シーラ祈りと感謝を込めてそれを吹いた。

 フワッと舞い上がった花びらは、カリューシア特有の強い風に煽られどこまでも飛んでゆく。

 自分が時空を越えた時の花びら同様、この花がカリューシアの守護者に届くよう願った。

 ――どうか、この感謝がヴァウファールに届きますように。

 碧空に舞う花びらを見上げ、シーラは今ある幸福を白金の気高き竜に感謝するのだった。



 完
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