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合流した三人
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彼の腕の中でシーラは身じろぎをし、ルドガーの腕の中で少し体力が回復したのを感じる。
まだ頭はボゥッとしているが、自分の足で立てないほどではない。
そう判断すると、シーラはルドガーの胸をそっと押し「自分で立てます」と告げた。
優しく地面に下ろされたあと、シーラはルドガーの言葉の続きを受け継いだ。
「カリューシアとガズァルは、セプテアの友人です。今回の黒幕は宰相殿だという事も承知しています。正当な血筋であるルドガー陛下と話し合いの卓につき、いま一度三国の永久なる平和について確認します。そしてセプテアの害となる者をどうするかは、あなた達セプテアの民が決める事です」
先ほどまで圧倒的な歌唱力を見せつけていたシーラを、セプテアの兵は全員畏怖の目で見ていた。
その彼女がカリューシアの王女としてこう言うのだ。彼らとて、最早言うべき事もない。
「竜姫殿下の仰せのままに致します。我らは陛下を信じ、連綿と続いた皇室の後ろ盾となります」
誰かが呟き、周囲が頷いた。
その時――。
「シーラ! ルド!」
草原を走る蹄の音がし、懐かしいとつい思ってしまう声がする方を見れば、ライオットが供を二人だけ連れてこちらに来るところだ。
「ライオット」
「ライ!」
黒い甲冑姿の彼はすぐに二人の元に着き、シーラを抱き締めルドガーとがっちり手を握り合った。
バンバンと互いに背中を叩き合い、シーラから見れば痛そうな事この上ない。
「三人が揃っただけで、こんなにも心強くなるのですね」
微笑むシーラに、ライオットが太陽のような笑みを浮かべた。
「俺たちは互いに信じ合っている。近くにいればいるほど、幸せになるし何でもできる。それが俺たちの絆の力だ」
「そうだな」
ルドガーが頷き、積み荷を見る。
その視線を追ってシーラとライオットも黒い箱を積んだ荷馬車を見た。
「この積み荷について、上層部に何か言われているか?」
ルドガーが騎士たちに問うと、皆顔を見合わせた後に一人がおずおずと言う。
「……竜を狂わせるための兵器だと聞きました。箱の中にあるだけで効果を発し、触れなければ人間に害はないと……」
「私はその箱に、宰相殿のお抱え呪い師が中身を入れている現場を見ました」
別に口を開いたのは、上官魔導士だ。
「どういう物を入れていたのですか? 呪い師は、素手で触っていましたか?」
シーラの問いに、彼は目を眇めて記憶を手繰っているようだ。
「正直、『あの時』なぜか頭がボーッとしていてよく覚えていなかったのです。ただ呪い師が両手に竜の皮でできた手袋をし、それで黒い塊を持っていた気がします」
上官魔導士の言葉に、三人は顔を見合わせる。
察するに、酷く強力な呪いで普通の人が素手で触れば、よくて発狂悪くて死ぬぐらいは考えても良さそうだ。
シーラは振り向いて暗くなった遠くの空を見た。
歌い終えると同時に再び呪いは効果を発揮して竜たちを惑わせるだろうから、歌の最後に彼らに退避するよう伝えた。
竜たちは全員自由の身になって解放され、ガズァルの竜は主の元へ遠回りで戻っている。
しかし彼らとてこの呪いがある限り、自ら進んで河のほとりに来ようとしないだろう。
この場にいた竜を救えて今は安堵しているが、シーラは竜に害をなすこの呪いが許せない。
『これ』をどうにかしなければ、この先の安楽はないのだ。
「やはり……。皇竜の庇護を受けた私が、何とかするしかありません」
「シーラ!」
「何か他の手がないか考えよう。私の刻印を時間をかけて浄化したというのに、またその身に穢れを宿せばどうなるか分からない」
二人が渋面になり阻止しようとするが、シーラは自分しかいない事を分かっている。
皇竜の加護を持つ存在は、両親も当てはまる。
だが国王と王妃という重要な地位についている両親に比べれば、体調が悪くなり休む事があっても差し支えのない自分が適任だと思った。
「私はきっと、すべての元凶であった竜樹の呪いを解放するために、時空の旅に出たのだと思います。ですから……やらせてください」
強い光を瞳に湛え、シーラが一歩荷馬車に向かって進んだ。
二人は顔を見合わせていたが、他に手立てもないと理解したのだろう。
渋々頷くと、荷馬車に手を掛け上に上がる。
「お手伝い致します!」
「俺も!」
「私も!」
その姿を見た周りの騎士や魔導士たちが、次々に荷馬車に上がり頑丈な鎖を外しだした。
戦場の半ばほどにいる者たちは、シーラたちの姿を遠巻きに見ている。
遙か後方では天幕の周囲でまだ不穏な空気が感じられるが、こちらを静観しているようだ。
まだ頭はボゥッとしているが、自分の足で立てないほどではない。
そう判断すると、シーラはルドガーの胸をそっと押し「自分で立てます」と告げた。
優しく地面に下ろされたあと、シーラはルドガーの言葉の続きを受け継いだ。
「カリューシアとガズァルは、セプテアの友人です。今回の黒幕は宰相殿だという事も承知しています。正当な血筋であるルドガー陛下と話し合いの卓につき、いま一度三国の永久なる平和について確認します。そしてセプテアの害となる者をどうするかは、あなた達セプテアの民が決める事です」
先ほどまで圧倒的な歌唱力を見せつけていたシーラを、セプテアの兵は全員畏怖の目で見ていた。
その彼女がカリューシアの王女としてこう言うのだ。彼らとて、最早言うべき事もない。
「竜姫殿下の仰せのままに致します。我らは陛下を信じ、連綿と続いた皇室の後ろ盾となります」
誰かが呟き、周囲が頷いた。
その時――。
「シーラ! ルド!」
草原を走る蹄の音がし、懐かしいとつい思ってしまう声がする方を見れば、ライオットが供を二人だけ連れてこちらに来るところだ。
「ライオット」
「ライ!」
黒い甲冑姿の彼はすぐに二人の元に着き、シーラを抱き締めルドガーとがっちり手を握り合った。
バンバンと互いに背中を叩き合い、シーラから見れば痛そうな事この上ない。
「三人が揃っただけで、こんなにも心強くなるのですね」
微笑むシーラに、ライオットが太陽のような笑みを浮かべた。
「俺たちは互いに信じ合っている。近くにいればいるほど、幸せになるし何でもできる。それが俺たちの絆の力だ」
「そうだな」
ルドガーが頷き、積み荷を見る。
その視線を追ってシーラとライオットも黒い箱を積んだ荷馬車を見た。
「この積み荷について、上層部に何か言われているか?」
ルドガーが騎士たちに問うと、皆顔を見合わせた後に一人がおずおずと言う。
「……竜を狂わせるための兵器だと聞きました。箱の中にあるだけで効果を発し、触れなければ人間に害はないと……」
「私はその箱に、宰相殿のお抱え呪い師が中身を入れている現場を見ました」
別に口を開いたのは、上官魔導士だ。
「どういう物を入れていたのですか? 呪い師は、素手で触っていましたか?」
シーラの問いに、彼は目を眇めて記憶を手繰っているようだ。
「正直、『あの時』なぜか頭がボーッとしていてよく覚えていなかったのです。ただ呪い師が両手に竜の皮でできた手袋をし、それで黒い塊を持っていた気がします」
上官魔導士の言葉に、三人は顔を見合わせる。
察するに、酷く強力な呪いで普通の人が素手で触れば、よくて発狂悪くて死ぬぐらいは考えても良さそうだ。
シーラは振り向いて暗くなった遠くの空を見た。
歌い終えると同時に再び呪いは効果を発揮して竜たちを惑わせるだろうから、歌の最後に彼らに退避するよう伝えた。
竜たちは全員自由の身になって解放され、ガズァルの竜は主の元へ遠回りで戻っている。
しかし彼らとてこの呪いがある限り、自ら進んで河のほとりに来ようとしないだろう。
この場にいた竜を救えて今は安堵しているが、シーラは竜に害をなすこの呪いが許せない。
『これ』をどうにかしなければ、この先の安楽はないのだ。
「やはり……。皇竜の庇護を受けた私が、何とかするしかありません」
「シーラ!」
「何か他の手がないか考えよう。私の刻印を時間をかけて浄化したというのに、またその身に穢れを宿せばどうなるか分からない」
二人が渋面になり阻止しようとするが、シーラは自分しかいない事を分かっている。
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