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両親の協力

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 だからシーラからダルメアという宰相といけ好かない娘が、愚かしい事情から戦争を起こした――かもしれないという可能性を聞き、暗澹たる気持ちになる。

「……お前が話した事はすべて信じよう。他国の令嬢との間に波を立たせてしまったのはよくないが、私がその場にいたとしても竜を貶められ黙っていられる気はしない」

 神殿のこぢんまりとした居住スペースで、疲労顔の国王イグニスが言う。

「宣戦布告と言っても……。セプテアの動向はどうなっているのです?」

 シーラの問いに、イグニスが答える。

「現在ガズァルの竜騎士が国境近くを飛んで警戒しているようだ。竜騎士が我が国の上空に入る事も許可していて、レティ河を越えようとすればすぐ守ってくれるらしい」

 レティ河の川中島には二十年前に、シーラ達の親世代によって平和記念碑が建てられていた。

 仲良しの王家は年に一度プライベートで会い、川中島でピクニックをする事も多かった。
 子供たちが成長したり、セプテアの先王夫婦が亡くなった事から近年はそれも催されていないが――。

「……ライオットたちも頑張ってくれているのですね」

 シーラが呟いた時、王妃デボラが娘を心配する。

「戦争の事はお父様やガズァルの国王陛下にお任せするとして……。あなたは先日からここに籠もって、何をしているのですか? 禊ぎをすると言っても今までこんなに連泊した事はないではありませんか」

 母の鋭い指摘に、シーラは一瞬気まずく視線を逸らす。
 サラリと何かいい嘘をつこうと思い、変わらない表情のまま思考を巡らせていたのだが――。

「あなたは何か誤魔化そうとする時、逆に何でもない顔をします。隠し事をしているのなら無駄ですよ? 祈りを捧げたいとか禊ぎをしたいとかは日常茶飯事ですが、こんなに数日籠もっていれば逆に疑われると知りなさい」

 デボラもまたシーラの母だけあって、譲らない時は譲らない。
 イグニスも心配そうにシーラを見つめ、背中の疼きも気になったシーラは、とうとう降参してすべて話す事にした。

 順を追って、自分が元いた世界で何があったかという事から、皇竜の協力を得て運命を変えたいと立ち向かっている現在まで。
 包み隠さず話すシーラの言葉を、両親は眉間に深い皺を寄せ静かに聞いていた。

「本当にあなたは……。無理ばかりして……」

 目に涙を溜めたデボラは、シーラをしっかりと抱き締めた。

「その刻印というのは、禊をすれば本当に取れるのか?」

「はい。皇竜のお墨付きです。彼の気が満ちるこの神殿で大人しくしていれば、竜樹の呪いも解けるだろうという話でした」

 両親共に、はぁー……と重たい溜め息をつき、しばらく沈黙が落ちる。

「その刻印を見せてみなさい」

 デボラがシーラを衝立の向こうに連れて行き、娘は母に向かって背中を出す。 
 背後でデボラが静かに息を吸い込んだのが分かったが、やがて「分かりました」と言う声と共に巫女服が戻された。

「あなたはこのまま禊に集中なさい。何か必要なものがあれば、すぐに手配させます。わたくしもなるべく神殿に来るようにしますから」

「お母様……。ですが今は大事な局面で……」

「国の情勢も大切ですが、あなたの事は母として当たり前に大事にしています。あなたは刻印を綺麗にし終わったら、次にすべき事を考えなさい」

「……はい」

 理解のある両親に感謝をし、シーラは力強く頷く。





 それからシーラは数週間、集中して禊に挑んだ。

 全身を冷たい水に浸らせ一心に祈り続ける事は、生半可な覚悟ではできない。体力も削られるし、体が辛くなるあまり祈りがおろそかになる事も多々ある。

 祈りが弱まれば、その分呪いが解けるのも遅くなってしまう。

 連続して祈りを捧げるのは約一時間として、シーラは太古からの竜の怒りを静めるべく祈り続けた。




 戦況はレティ河沿いに帝国の魔導兵団と騎士団、ガズァルの竜騎士団と騎士団がぶつかり合っていた。

 カリューシアが持つ軍は二国に対し微々たるもので、ガズァルの軍に交じって交戦している。元からカリューシアとガズァルの軍事演習はよくしていて、それが功を奏した。

 しかし王家の目線で言えば、そのような備えなど役に立たなければ良かったのだが……。

 最初は竜たちの連携もあり、ガズァルの竜騎士団が圧倒していた。
 竜は背中にいる騎士を運び、彼らの攻撃を補佐する他に、竜自身も強い魔力を帯びてブレスを吹いたり魔法を使う。

 セプテアは押されていて二国は楽観的な目で見ていたのだが、ある日戦況が変わった。

 帝国の首都から運ばれた何か禍々しい物の登場により、竜たちの動きがおかしくなったのだ。

 どうにも、その『何か』に気持ちを乱されているらしい。
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