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GW後半 編
契約書
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「さっきみたいに贈り物をするたびに『返せない』って負担に思ったら困るし、恵ちゃんが気にしそうな事を書いてみた。難しい文章にはしてないから、読んでみて。要するに『これらの事を約束しますよ』って話だから」
私はソファに座った涼さんから用紙を受け取ると、ドキドキしながら契約書を読んだ。
書いてあるのは、涼さんは私に贈り物や食事、旅行などを貢いでも見返りは求めず、仮に喧嘩をしたり、万が一別れる事があっても、いっさい返金は求めないという内容だ。
その他にも、不安に思う事があったら適宜相談するとか、私生活でトラブルに巻き込まれた時は遠慮せずに相談し、涼さんの顧問弁護士の助けを得るなども書かれてある。
付き合う事に関しても、性行為は必ず同意のもとで行うと記されていて、どんなに行為が途中でも、少しでも不安に感じたり恐怖を覚えたら、決められたセーフワードを口にすれば必ず行為を止める。止めなかった場合は、彼にあらゆる要求をしても構わないとまで書いてある。
いっぽうで、レストランでの食事や友人や知り合いに紹介する時など、TPOに合わせた服装が必要な場合、二人で決めた服を着て、その費用は涼さんが出すとも書いてある。
そして涼さん側が沢山与える事になるのは確かだけれど、可能なら「すみません」は言わないで「ありがとう」を言い、贈られた物については深く考えすぎないなども記されてあった。
他にも色々書いてあったけれど、私にペナルティが与えられる項目は一つもない。
むしろ見返りなしに贈り物をするけど、気にしないでという内容ばかりで、申し訳なさを感じるほどだ。
唯一、私がする事と言えば、涼さんが癒やしを求めた時、心身の調子と相談して可能だったら、キスやハグ、大丈夫だったらセックスに応じてほしいと書いてあるだけだ。
そして結婚を視野に入れて交際するけれど、何かあったら絶対相談し、私の負担にならないよう配慮してくれている。
「……これって……」
小さく溜め息をついて顔を上げると、不安そうな表情の涼さんと視線がかち合った。
「もし納得できない項目があったら言ってほしい。どれだけでも変更する」
「や、そうじゃなくて。……これって、涼さんが不利でしょう。私ばっかり旨みがあって、フェアじゃないです」
そう言うと、涼さんは少し安心したように肩を下げる。
「恵ちゃんの言いたい事は分かるけど、君と一緒にパーティーに出るとして、ジュエリーも含めて数百万の出費があるとしても、大して痛くはないんだ。こういう事を言うと嫌がられそうだけど、普段、飛行機を使う時はいつもファーストクラスだし、ホテルに泊まる時もスイートだ。嫌みかもしれないけど、これが俺の普通」
彼の言葉を聞き、私は静かに溜め息をつく。
ヨーロッパまでのファーストクラスは数百万って言うし、私の年収程度の金額を、彼は一度のフライトで使ってしまう事になる。
確かにそれだけ経済的な差があれば、私が大金と思っていても、涼さんにとっては痛くも痒くもない金額なんだろう。
「……一般家庭で育った恵ちゃんが俺と一緒に過ごすと、とてもストレスが掛かると思う。恵ちゃんが贅沢を好まないのは分かるけど、俺の住んでいる世界はどうしても金を使わざるを得ない場合がある。……慣れない環境に身を置くストレスはとても大きい。日本語を話して意思疎通ができても、価値観が合わない者と一緒にいるのは苦痛だ。……俺はなるべく恵ちゃんの希望を聞いて、それに添った事をしたいけど、どうしても我慢してもらわないとならない時もあると思う」
涼さんが物凄く私に寄り添ってくれているのは分かった。でも……。
「あなたはそれでいいんですか? 金銭的な負担を得る一方で、エッチだって無理強いしない。……私は何をすれば涼さんを満足させられますか?」
富の権化と言える涼さんに選ばれても、私自身には何も価値がない。
結婚を視野に入れてくれているのは嬉しいけど、彼の妻になったあと、何もできない能なしだと言われたら、悔しい以上に涼さんに申し訳ない。
「側にいてくれたらいいって言っても、恵ちゃんは納得できないんだろうね」
涼さんは苦笑いし、ソファの上に寝そべる。
そして仰向けになって、ポツポツと自分の事を語り始めた。
「俺の人生、恵まれて苦労知らずに思えるだろうけど、意外とそうじゃないんだ」
私は同じように仰向けになり、黙って彼の話を聞く。
「幸いな事に家族仲はいいし、両親も姉も弟妹も、性格のいい人たちだと思う。周りにいる人もそうって言いたいけど、恋愛が絡むと人は変わる。自分で言って馬鹿みたいだけど、俺は外見のスペックが高い上に金を持ってる。そうなったら、群がってくる女性の数が半端じゃないんだ」
「……何となく想像はできます」
涼さんは溜め息をつき、続ける。
「高校まではエスカレーター式の学校だったけど、俺と少し仲良くしただけで陰湿ないじめを受けて転校していった女子がいた。有名企業の令嬢がいて、その子は自分こそが俺の彼女に相応しいと思い込み、ずっと付きまとってきた。でも俺は彼女に興味を持てず、特別扱いをしなかった。だから俺が友達として接した女の子がいるだけで、その子は酷い嫉妬をしていた。何をするにも付きまとい、他の女子は遠慮する。……彼女でもないのに支配されているように感じた」
彼は私の手を握り、指を絡めてきた。
私はソファに座った涼さんから用紙を受け取ると、ドキドキしながら契約書を読んだ。
書いてあるのは、涼さんは私に贈り物や食事、旅行などを貢いでも見返りは求めず、仮に喧嘩をしたり、万が一別れる事があっても、いっさい返金は求めないという内容だ。
その他にも、不安に思う事があったら適宜相談するとか、私生活でトラブルに巻き込まれた時は遠慮せずに相談し、涼さんの顧問弁護士の助けを得るなども書かれてある。
付き合う事に関しても、性行為は必ず同意のもとで行うと記されていて、どんなに行為が途中でも、少しでも不安に感じたり恐怖を覚えたら、決められたセーフワードを口にすれば必ず行為を止める。止めなかった場合は、彼にあらゆる要求をしても構わないとまで書いてある。
いっぽうで、レストランでの食事や友人や知り合いに紹介する時など、TPOに合わせた服装が必要な場合、二人で決めた服を着て、その費用は涼さんが出すとも書いてある。
そして涼さん側が沢山与える事になるのは確かだけれど、可能なら「すみません」は言わないで「ありがとう」を言い、贈られた物については深く考えすぎないなども記されてあった。
他にも色々書いてあったけれど、私にペナルティが与えられる項目は一つもない。
むしろ見返りなしに贈り物をするけど、気にしないでという内容ばかりで、申し訳なさを感じるほどだ。
唯一、私がする事と言えば、涼さんが癒やしを求めた時、心身の調子と相談して可能だったら、キスやハグ、大丈夫だったらセックスに応じてほしいと書いてあるだけだ。
そして結婚を視野に入れて交際するけれど、何かあったら絶対相談し、私の負担にならないよう配慮してくれている。
「……これって……」
小さく溜め息をついて顔を上げると、不安そうな表情の涼さんと視線がかち合った。
「もし納得できない項目があったら言ってほしい。どれだけでも変更する」
「や、そうじゃなくて。……これって、涼さんが不利でしょう。私ばっかり旨みがあって、フェアじゃないです」
そう言うと、涼さんは少し安心したように肩を下げる。
「恵ちゃんの言いたい事は分かるけど、君と一緒にパーティーに出るとして、ジュエリーも含めて数百万の出費があるとしても、大して痛くはないんだ。こういう事を言うと嫌がられそうだけど、普段、飛行機を使う時はいつもファーストクラスだし、ホテルに泊まる時もスイートだ。嫌みかもしれないけど、これが俺の普通」
彼の言葉を聞き、私は静かに溜め息をつく。
ヨーロッパまでのファーストクラスは数百万って言うし、私の年収程度の金額を、彼は一度のフライトで使ってしまう事になる。
確かにそれだけ経済的な差があれば、私が大金と思っていても、涼さんにとっては痛くも痒くもない金額なんだろう。
「……一般家庭で育った恵ちゃんが俺と一緒に過ごすと、とてもストレスが掛かると思う。恵ちゃんが贅沢を好まないのは分かるけど、俺の住んでいる世界はどうしても金を使わざるを得ない場合がある。……慣れない環境に身を置くストレスはとても大きい。日本語を話して意思疎通ができても、価値観が合わない者と一緒にいるのは苦痛だ。……俺はなるべく恵ちゃんの希望を聞いて、それに添った事をしたいけど、どうしても我慢してもらわないとならない時もあると思う」
涼さんが物凄く私に寄り添ってくれているのは分かった。でも……。
「あなたはそれでいいんですか? 金銭的な負担を得る一方で、エッチだって無理強いしない。……私は何をすれば涼さんを満足させられますか?」
富の権化と言える涼さんに選ばれても、私自身には何も価値がない。
結婚を視野に入れてくれているのは嬉しいけど、彼の妻になったあと、何もできない能なしだと言われたら、悔しい以上に涼さんに申し訳ない。
「側にいてくれたらいいって言っても、恵ちゃんは納得できないんだろうね」
涼さんは苦笑いし、ソファの上に寝そべる。
そして仰向けになって、ポツポツと自分の事を語り始めた。
「俺の人生、恵まれて苦労知らずに思えるだろうけど、意外とそうじゃないんだ」
私は同じように仰向けになり、黙って彼の話を聞く。
「幸いな事に家族仲はいいし、両親も姉も弟妹も、性格のいい人たちだと思う。周りにいる人もそうって言いたいけど、恋愛が絡むと人は変わる。自分で言って馬鹿みたいだけど、俺は外見のスペックが高い上に金を持ってる。そうなったら、群がってくる女性の数が半端じゃないんだ」
「……何となく想像はできます」
涼さんは溜め息をつき、続ける。
「高校まではエスカレーター式の学校だったけど、俺と少し仲良くしただけで陰湿ないじめを受けて転校していった女子がいた。有名企業の令嬢がいて、その子は自分こそが俺の彼女に相応しいと思い込み、ずっと付きまとってきた。でも俺は彼女に興味を持てず、特別扱いをしなかった。だから俺が友達として接した女の子がいるだけで、その子は酷い嫉妬をしていた。何をするにも付きまとい、他の女子は遠慮する。……彼女でもないのに支配されているように感じた」
彼は私の手を握り、指を絡めてきた。
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