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二日目の夜の葛藤 編

俺とキスしてみる?

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「~~~~っ、……なんで、……そんなに優しくするんですか……っ」

 このままじゃ、今までの私がボロボロと崩れて別の生き物になってしまいそうだ。

 変わってしまう事は怖い。

 でも、彼の手をとって変わる勇気を持たないと、きっと私は今後も親友に報われない感情を抱いたまま、誰の手をとる事もなく生きていく気がする。

 今日、朱里が言っていた。

『私は恵とママ友になりたいな。お互い家庭を持ってこれからも尊さんと涼さんも親友同士のまま、四人で付き合っていけたら最高じゃない?』

 そう言った彼女は、知らない間にとても強く頼もしくなったように見えた。

 今までは田村に翻弄される彼女を見て、『私が側で支えないと』と強く思っていたのに……。

 篠宮さんと付き合うようになってから朱里はとても幸せそうに見え、目に見えて明るくなった。

 以前ほど必要とされていないと思うと寂しいけれど、朱里は私に守られる事ではなく、二人で〝妻〟になって同じ幸せを得る事を望んでいた。

 ソロリと顔を上げると、穏やかに微笑んでいる涼さんがいる。

「恵ちゃんを見ていると『放っておけない』っていう気持ちになる。こんな気持ち、俺も初めてだよ」

 彼は私の頭を優しく撫でて言う。

「痴漢に遭った事も含めて、今までつらい目に遭ったのに一人で頑張ってきたんだなって思うと、いじらしくて抱き締めたくなる」

「…………っ」

 いじらしいなんて言葉、私に似合わない。

 サッと頬を紅潮させて俯くと、涼さんは私の顎に手を掛けて顔を上向かせた。

「君は守られるべき女の子なんだ。それを自覚して」

「~~~~っ、そんっ、な……っ」

 血液が沸騰しているかのように、全身が熱い。

 ポッポッと体が火照って堪らず、お風呂に入ったばかりなのに変な汗を掻いてしまいそうだ。

「恵ちゃんは可愛い。俺が見たどの女の子より可愛いよ」

 甘い言葉がくすぐったくて、私は真っ赤になって俯く。

「強がっているところも可愛いけど、もっとたっぷり甘やかして安心させてあげたい。俺を信頼してくれたら、『世界で一番大切にされてる』って思えるよ」

 涼さんは座り直して距離を詰め、両腕を開いた。

「おいで。抱き締めさせて」

 その言葉を聞いて、胸の奥が甘酸っぱく疼く。

 彼はいつも、私の意志を大切にしてくれる。

 その気になれば強引に自分から抱き締めたり、キスをする事だってできるはずだ。

 なのにモテ男の余裕なのか、大人の余裕からか、涼さんはがっつかず、私に決めさせる。

 手を握る程度なら自分からするけど、抱き締める以上の事はちゃんと私の意志を窺ってくれる。

 そこが、――――好きだ。

 私は覚悟を決めると、両目をギュッと閉じて彼に抱きついた。

「んっ」

 ……………………いい匂いがするっ!

 同じボディソープを使ってお風呂に入ったはずなのに、どうしてだろう。

 それに朱里とはまったく違う、すっぽり包み込む体の大きさを感じると、彼が〝男〟なのだと思い知らされる。

「可愛いね、恵ちゃん。大丈夫。俺は君を害さないよ」

 囁くように言った涼さんは、私の額に唇を押し当て、トントンと背中を叩いてくる。

 ガチガチに緊張していたはずなのに、気がついたら私は少しずつ体の力を抜いていた。

 胸の高鳴りは落ち着かないけれど、不安は多少解消されたと思う。

「嫌じゃない?」

 尋ねられ、私はコクンと頷く。

「……じゃあ、このまま添い寝してみる?」

 言われて失念していた事を思いだし、私はビクッと体を震わせ顔を上げる。

 すると目の前に物凄い美形の顔があり、目が潰れそうな美貌を直視できない私は、グリンッと横を向く。

「そんな真横を向かなくても……」

 涼さんはクックッと笑い、私を抱き締めたままポスンとベッドの上に横になった。

「わっ」

 マットレスの上で僅かに体をバウンドさせた私は、男性と同じベッドに寝ている現実にまた赤面する。

「デリケートな質問をするけど、元彼とはどれぐらいの事までした?」

 涼さんに背中を向ける事もできないので、私は俯いたままボソボソと答えた。

「……キスまで。……そのキスも、何とも思わなかったし、むしろ気持ち悪かったです」

「じゃあ……」

 彼は私の頬に手を添えると、小指にクッと力を入れて私の顔を上げさせる。

「俺とキスしてみる?」
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