422 / 525
二日目の夜の葛藤 編
不安
しおりを挟む
「んー……、旅行に行くつもりでいて、そろそろ相談しようかと思ってた」
「尊さんと一緒ならおうちでゆっくりでも嬉しいですからね。ただでさえ忙しくなったんですから、寛がないと。……それに、速水家の皆さんと過ごすお盆もいいんじゃないですか?」
せっかく打ち解けられたんだし……と思って言うと、尊さんはクスッと笑った。
「確かにそれもある。実はちえりさんから『いつか親睦を深めるために、みんなで温泉にでも行かないか』って言われていて。まだいつかという話はしていないから、秋の連休にでもして、夏は朱里を優先……と考えていた」
「皆さんとの交流を優先しましょうよ。私は一緒に暮らしていますし、本当にいつでも大丈夫なんです。速水家の皆さんは、みんな忙しくされてるから、お盆休みとかのほうがいいんじゃないですか?」
「確かに……、それも一理あるな」
尊さんの返事を聞いてから、私はザブザブと顔を洗ってダブル洗顔し、基礎化粧品でフェイスケアをしていく。
「そのうち、嫌でも家族サービスを優先しなきゃなりませんよ」
いずれくる三人、もしくは四人家族での未来を示唆すると、尊さんは微笑む。
「それも楽しみだけど……。でも朱里と二人きりの時間も大切にしないと」
彼の返事を聞いた私は、にっこり笑った。
「そうやって私を優先してくれる意志があるだけで、充分ですよ」
「……いじらしいけど、今から自分を後回しにする癖がついたら駄目だな。徹底的に甘やかさないと」
ニヤッと笑った尊さんの言葉を聞き、私はクスクス笑った。
「やだ。尊さんに甘やかされたら、人間のカタチを留めていられなくなるから怖い」
全部終えて手を洗ってからベッドに戻ると、尊さんにギュウッと抱き締められた。
「人間から猫になるか?」
こめかみにキスをしてくる尊さんを抱き締め返し、私はスリスリと彼の胸板にキスをした。
**
(えっと……、えっと……)
部屋に入ったあと、その豪華さを満喫する暇もなく、私はソファに腰かけたまま固まっている。
「恵ちゃん? 先にサッとシャワー入っちゃうけどいい?」
「はっ、ハイッ」
涼さんはリラックスモードで、初めて会う女子と同じ部屋に泊まる事をなんとも思っていないみたいだ。
「慣れてるのかな」と思うと、ちょっと悔しい。
固まっているうちに彼はバスルームに行き、やがて水音が聞こえてきた。
(今……、彼、全裸? シャワーブースで全裸? MAPPA?)
クワッと頭に血が上ったあと、私は自分を落ち着かせるべく深呼吸する。
(いや、何もしないって言ったし。添い寝って言っても隣に転がってるだけ。抱き枕と同じ。…………!? 抱き……っ!?)
自分の考えに翻弄され、私はワタワタと手の前で両手を振る。タコ音頭か。
たまに腰が痛くなった時、横向きになって抱き枕に脚をかけると楽なので、愛用してはいるけれど、あれが涼さんだと思った時点で即、脳内が詰んだ。
(無理でしょ!)
頭の中に某有名塾講師が浮かび、なんならその手のジェスチャーもつけつつ、私は心の中で突っ込む。
(落ち着け……。朱里が一人、朱里が二人、朱里が三人……。可愛い……)
脳内で小さな朱里がポコポコ登場し、目の前のテーブルの上でかけっこしたり、スキップしたり、不思議そうな顔でこちらを見る妄想をする。
そんな妄想を日常的にしていたぐらい、朱里の事が大好きだったはずなのに、今は私の頭の中を涼さんが侵食してくる。それが慣れなくて嫌だ。
(〝大切〟が変わるかもしれないって、こんなに不安な事なんだ)
今までは朱里が一番で、結婚できなくても友達枠なら一生側にいられると思っていた。
一緒にいるためなら愛のない結婚だってするつもりでいたし、そんな歪んだ想いを持つ私を朱里も受け入れてくれていたから、余計にその考えを正当化しようとしていた。
朱里は女性だし、親友だから私に危害を加えない。
可愛くて美人で自慢の友達で、彼女を守るという崇高な信念があったから、今まで強い中村恵をやってこられた。
(……でも、男性に守られる自分って想像してなかった)
守ってほしいと思ってる訳じゃないけど、涼さんの高スペックを前にすれば、私はあらゆる意味で劣っていると認めざるを得ない。
涼さんは「隣を歩いてほしい」と言っていたけれど、もしも今後ずっとお付き合いが続いていくなら、色んな面で彼を頼る場面が発生するに違いない。
そうなると、自立した大人の女性としての自分が揺らぎそうで怖かった。
いや、弱さを認めるというべきか……。
「尊さんと一緒ならおうちでゆっくりでも嬉しいですからね。ただでさえ忙しくなったんですから、寛がないと。……それに、速水家の皆さんと過ごすお盆もいいんじゃないですか?」
せっかく打ち解けられたんだし……と思って言うと、尊さんはクスッと笑った。
「確かにそれもある。実はちえりさんから『いつか親睦を深めるために、みんなで温泉にでも行かないか』って言われていて。まだいつかという話はしていないから、秋の連休にでもして、夏は朱里を優先……と考えていた」
「皆さんとの交流を優先しましょうよ。私は一緒に暮らしていますし、本当にいつでも大丈夫なんです。速水家の皆さんは、みんな忙しくされてるから、お盆休みとかのほうがいいんじゃないですか?」
「確かに……、それも一理あるな」
尊さんの返事を聞いてから、私はザブザブと顔を洗ってダブル洗顔し、基礎化粧品でフェイスケアをしていく。
「そのうち、嫌でも家族サービスを優先しなきゃなりませんよ」
いずれくる三人、もしくは四人家族での未来を示唆すると、尊さんは微笑む。
「それも楽しみだけど……。でも朱里と二人きりの時間も大切にしないと」
彼の返事を聞いた私は、にっこり笑った。
「そうやって私を優先してくれる意志があるだけで、充分ですよ」
「……いじらしいけど、今から自分を後回しにする癖がついたら駄目だな。徹底的に甘やかさないと」
ニヤッと笑った尊さんの言葉を聞き、私はクスクス笑った。
「やだ。尊さんに甘やかされたら、人間のカタチを留めていられなくなるから怖い」
全部終えて手を洗ってからベッドに戻ると、尊さんにギュウッと抱き締められた。
「人間から猫になるか?」
こめかみにキスをしてくる尊さんを抱き締め返し、私はスリスリと彼の胸板にキスをした。
**
(えっと……、えっと……)
部屋に入ったあと、その豪華さを満喫する暇もなく、私はソファに腰かけたまま固まっている。
「恵ちゃん? 先にサッとシャワー入っちゃうけどいい?」
「はっ、ハイッ」
涼さんはリラックスモードで、初めて会う女子と同じ部屋に泊まる事をなんとも思っていないみたいだ。
「慣れてるのかな」と思うと、ちょっと悔しい。
固まっているうちに彼はバスルームに行き、やがて水音が聞こえてきた。
(今……、彼、全裸? シャワーブースで全裸? MAPPA?)
クワッと頭に血が上ったあと、私は自分を落ち着かせるべく深呼吸する。
(いや、何もしないって言ったし。添い寝って言っても隣に転がってるだけ。抱き枕と同じ。…………!? 抱き……っ!?)
自分の考えに翻弄され、私はワタワタと手の前で両手を振る。タコ音頭か。
たまに腰が痛くなった時、横向きになって抱き枕に脚をかけると楽なので、愛用してはいるけれど、あれが涼さんだと思った時点で即、脳内が詰んだ。
(無理でしょ!)
頭の中に某有名塾講師が浮かび、なんならその手のジェスチャーもつけつつ、私は心の中で突っ込む。
(落ち着け……。朱里が一人、朱里が二人、朱里が三人……。可愛い……)
脳内で小さな朱里がポコポコ登場し、目の前のテーブルの上でかけっこしたり、スキップしたり、不思議そうな顔でこちらを見る妄想をする。
そんな妄想を日常的にしていたぐらい、朱里の事が大好きだったはずなのに、今は私の頭の中を涼さんが侵食してくる。それが慣れなくて嫌だ。
(〝大切〟が変わるかもしれないって、こんなに不安な事なんだ)
今までは朱里が一番で、結婚できなくても友達枠なら一生側にいられると思っていた。
一緒にいるためなら愛のない結婚だってするつもりでいたし、そんな歪んだ想いを持つ私を朱里も受け入れてくれていたから、余計にその考えを正当化しようとしていた。
朱里は女性だし、親友だから私に危害を加えない。
可愛くて美人で自慢の友達で、彼女を守るという崇高な信念があったから、今まで強い中村恵をやってこられた。
(……でも、男性に守られる自分って想像してなかった)
守ってほしいと思ってる訳じゃないけど、涼さんの高スペックを前にすれば、私はあらゆる意味で劣っていると認めざるを得ない。
涼さんは「隣を歩いてほしい」と言っていたけれど、もしも今後ずっとお付き合いが続いていくなら、色んな面で彼を頼る場面が発生するに違いない。
そうなると、自立した大人の女性としての自分が揺らぎそうで怖かった。
いや、弱さを認めるというべきか……。
187
お気に入りに追加
1,346
あなたにおすすめの小説
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

次期社長と訳アリ偽装恋愛
松本ユミ
恋愛
過去の恋愛から恋をすることに憶病になっていた河野梨音は、会社の次期社長である立花翔真が女性の告白を断っている場面に遭遇。
なりゆきで彼を助けることになり、お礼として食事に誘われた。
その時、お互いの恋愛について話しているうちに、梨音はトラウマになっている過去の出来事を翔真に打ち明けた。
話を聞いた翔真から恋のリハビリとして偽装恋愛を提案してきて、悩んだ末に受け入れた梨音。
偽恋人として一緒に過ごすうちに翔真の優しさに触れ、梨音の心にある想いが芽吹く。
だけど二人の関係は偽装恋愛でーーー。
*他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正版です。
性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる