【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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二日目の夜の葛藤 編

不安

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「んー……、旅行に行くつもりでいて、そろそろ相談しようかと思ってた」

「尊さんと一緒ならおうちでゆっくりでも嬉しいですからね。ただでさえ忙しくなったんですから、寛がないと。……それに、速水家の皆さんと過ごすお盆もいいんじゃないですか?」

 せっかく打ち解けられたんだし……と思って言うと、尊さんはクスッと笑った。

「確かにそれもある。実はちえりさんから『いつか親睦を深めるために、みんなで温泉にでも行かないか』って言われていて。まだいつかという話はしていないから、秋の連休にでもして、夏は朱里を優先……と考えていた」

「皆さんとの交流を優先しましょうよ。私は一緒に暮らしていますし、本当にいつでも大丈夫なんです。速水家の皆さんは、みんな忙しくされてるから、お盆休みとかのほうがいいんじゃないですか?」

「確かに……、それも一理あるな」

 尊さんの返事を聞いてから、私はザブザブと顔を洗ってダブル洗顔し、基礎化粧品でフェイスケアをしていく。

「そのうち、嫌でも家族サービスを優先しなきゃなりませんよ」

 いずれくる三人、もしくは四人家族での未来を示唆すると、尊さんは微笑む。

「それも楽しみだけど……。でも朱里と二人きりの時間も大切にしないと」

 彼の返事を聞いた私は、にっこり笑った。

「そうやって私を優先してくれる意志があるだけで、充分ですよ」

「……いじらしいけど、今から自分を後回しにする癖がついたら駄目だな。徹底的に甘やかさないと」

 ニヤッと笑った尊さんの言葉を聞き、私はクスクス笑った。

「やだ。尊さんに甘やかされたら、人間のカタチを留めていられなくなるから怖い」

 全部終えて手を洗ってからベッドに戻ると、尊さんにギュウッと抱き締められた。

「人間から猫になるか?」

 こめかみにキスをしてくる尊さんを抱き締め返し、私はスリスリと彼の胸板にキスをした。



**



(えっと……、えっと……)

 部屋に入ったあと、その豪華さを満喫する暇もなく、私はソファに腰かけたまま固まっている。

「恵ちゃん? 先にサッとシャワー入っちゃうけどいい?」

「はっ、ハイッ」

 涼さんはリラックスモードで、初めて会う女子と同じ部屋に泊まる事をなんとも思っていないみたいだ。

「慣れてるのかな」と思うと、ちょっと悔しい。

 固まっているうちに彼はバスルームに行き、やがて水音が聞こえてきた。

(今……、彼、全裸? シャワーブースで全裸? MAPPA?)

 クワッと頭に血が上ったあと、私は自分を落ち着かせるべく深呼吸する。

(いや、何もしないって言ったし。添い寝って言っても隣に転がってるだけ。抱き枕と同じ。…………!? 抱き……っ!?)

 自分の考えに翻弄され、私はワタワタと手の前で両手を振る。タコ音頭か。

 たまに腰が痛くなった時、横向きになって抱き枕に脚をかけると楽なので、愛用してはいるけれど、あれが涼さんだと思った時点で即、脳内が詰んだ。

(無理でしょ!)

 頭の中に某有名塾講師が浮かび、なんならその手のジェスチャーもつけつつ、私は心の中で突っ込む。

(落ち着け……。朱里が一人、朱里が二人、朱里が三人……。可愛い……)

 脳内で小さな朱里がポコポコ登場し、目の前のテーブルの上でかけっこしたり、スキップしたり、不思議そうな顔でこちらを見る妄想をする。

 そんな妄想を日常的にしていたぐらい、朱里の事が大好きだったはずなのに、今は私の頭の中を涼さんが侵食してくる。それが慣れなくて嫌だ。

(〝大切〟が変わるかもしれないって、こんなに不安な事なんだ)

 今までは朱里が一番で、結婚できなくても友達枠なら一生側にいられると思っていた。

 一緒にいるためなら愛のない結婚だってするつもりでいたし、そんな歪んだ想いを持つ私を朱里も受け入れてくれていたから、余計にその考えを正当化しようとしていた。

 朱里は女性だし、親友だから私に危害を加えない。

 可愛くて美人で自慢の友達で、彼女を守るという崇高な信念があったから、今まで強い中村恵をやってこられた。

(……でも、男性に守られる自分って想像してなかった)

 守ってほしいと思ってる訳じゃないけど、涼さんの高スペックを前にすれば、私はあらゆる意味で劣っていると認めざるを得ない。

 涼さんは「隣を歩いてほしい」と言っていたけれど、もしも今後ずっとお付き合いが続いていくなら、色んな面で彼を頼る場面が発生するに違いない。

 そうなると、自立した大人の女性としての自分が揺らぎそうで怖かった。

 いや、弱さを認めるというべきか……。
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