【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

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親友の恋 編

手つなぎとハグ

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「……三日月さんが嫌じゃないなら……」

 そんな消極的な答え方しかできない自分が嫌だ。

「会って一日目で君を『愛してる』とは言えない。でも、とても好ましく思ってるよ。だから試しに手を繋いでハグをしてみて、お互いのフィーリングを試してみたい。恋愛関係において〝試す〟なんて遊び人っぽいけど、何事も実践してみないと分からないと思う。結婚相談所みたいに書類で相手のステータスが分かっても、実際に話してみるまでは分からないだろ?」

「……そうですね」

 今まで男性に気やすく触る女を見下していたし、「尻軽」と思っていた。

 でも彼女たちなりに、ボディタッチはより良い彼氏をゲットするために用いる一つの手段だと、様々な経験の上で理解したからかもしれない。

(……男の人に触るって、こんなに勇気の要る事だったんだ……)

 私はドキドキと胸を高鳴らせながら、バルコニーの欄干に置かれてある三日月さんの手を見る。

 彼の手は私の手よりずっと大きくて、ゴツゴツしている。

 私は朱里みたいにスラッとした綺麗な手じゃないし、ネイルだってこだわっていない。

 結構パワーがあるほうだし、ゲームセンターのパンチングマシーンでそこそこいい得点を出せる手だ。

 なのにその「逞しい手」と思っていた自分のそれが、三日月さんの隣にあると頼りない〝女性の手〟になってしまう。

(……恥ずかしい)

 並んだ手を見つめて赤面していると、不意に三日月さんが私の手を握ってきた。

「ひぁっ!」

 途端に、びっくりして声が出てしまい、そんな声を上げた事がないので慌ててもう片方の手で自分の口元を塞ぐ。

 とっさに彼を見ると、パチッと目が合う。

 すると三日月さんはクシャッと笑って「可愛い」と言った。

(~~~~っ、『可愛い』とか!)

 私は手を握られたまま、反対側を向いてプルプルと打ち震える。

「……っははっ、ホントに可愛いな。手を握っただけでこんな反応するなんて、ハグしたらどうなるの?」

 愉快そうな三日月さんの声が聞こえ、私は首の可動域の限界までそっぽを向いたまま、「……し、知りません……」と答える。

 すると三日月さんは両腕を広げ、「おいで」と微笑んだ。

「えっ……?」

(いきなり『おいで』と言われても……)

 脳裏に浮かんだのは、ご主人様のもとにまっしぐらな忠犬の姿だ。

 そういえば、SNSで両腕を広げたご主人様に、助走付きジャンプで抱っこされる犬の動画があったっけ……、なんて思いだしてしまった。

 それを見て「余程の信頼感と『好き』という感情がないとできないな」と思ったけれど、人間の場合もある程度似ている。

 好意がなかったらハグなんてさせないし、自分に危害を加えないと信じていなければ、どうとでもできる距離になんていられない。

 極端な話、治安の悪い所でなら、近づいただけで危害を加えられる可能性だってあるからだ。

(でも……)

 私を見てニコニコしている三日月さんからは、純粋な好意しか感じられない。

 加えて大らかそうな雰囲気や、余裕、ゆったりとした立ち姿も相まって、彼を見る人は一目で「信頼できる」と思うだろう。

(……いい人だって分かってるけど……)

 私は欄干にもたれ掛かっていた体を起こし、不安げな表情で三日月さんに対峙する。

 けれど男の人に抱きついた事なんてないから、ビビってしまって足が進まない。

 戸惑ったまま固まっていると、三日月さんが「ハグしても?」と尋ねてきた。

「……い、……いい、……ですけど……」

 どうしてツンデレみたいな答え方になってしまうのか。

 そっと横を向いて黙っていると、彼が歩み寄って静かに抱き締めてきた。

「っひ、…………ぅっ」

 大きい。

 背の高い人だとは思っていたけど、顔が胸元ぐらいになってしまう。

 加えてめっちゃいい匂いがするし、温かいし、朱里みたいに華奢で柔らかくなく、筋肉質でしなやかな体をしてる。

 ――男の人だ。

 そう理解した瞬間、ブワッと全身の毛穴から汗が噴き出したように思えて、カッカッと体が火照ってくる。

(どうっ、……すればいいの……っ)

 ガチガチに固まって棒立ちになっている私の背中を、三日月さんはトントンと叩いてリラックスするよう促してきた。

 そして、耳元で囁く。
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