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彼女の実父について 編
彼女の実父について
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「じゃあ、私たちはお暇しましょうか」
エミリさんが立ちあがり、伝票を確認しようとする。
と、それを神くんが手で制し、ニコッと笑って言った。
「ここは僕が持ちますからいいですよ」
「いいの?」
目を瞬かせて尋ねると、彼は「はい」と微笑む。
「春日さんと引き合わせてくださったお礼です」
神くんがこちらを向いて爽やかに言った向こうで、春日さんはまた真っ赤になってクネクネしている。
「じゃあ、ありがとう。ごちそうさまです! 仲良くね!」
ペコリとお辞儀をすると、恵も「ごちそうさま」とお礼を言う。
「神くん、ありがとう。春日さん、あとから報告してくださいね」
エミリさんも言い、私たちはカフェをあとにした。
「しかし、神くんが御曹司だったなんてね……」
恵が言い、私は苦笑いする。
「本人は隠しているつもりはないけど、『聞かれてないから答えてない』みたいなスタンスっぽいよ」
「お兄さんがいるなら、きっと会社を継ぐのはお兄さんなんでしょうね。神くんは次男だから篠宮フーズにいても許されるというか……。もしくはいずれアンド・ジンに戻るとして、その前に一般社員の経験を積んでおくつもりなのか」
エミリさんが言い、私たちは「そうですねぇ……」と頷く。
「でもどっちにしろ、大企業の跡継ぎ兄弟がいると、ちょっと複雑そうですよね」
「そうね。風磨さんは前社長の息子でエリート街道を進んできた人だけど、そうなって当然とは思っていないし、彼なりに悩みはあるわ。……恵まれた環境にいると傲慢になりがちだけど、私は謙虚な彼が好きだわ。……と言っても、怜香さんが反面教師になったがゆえに……だと思うけれど」
歩きながらエミリさんが言い、私はニヤニヤして彼女をつつく。
「ラブラブで何よりです」
「確かにちょっと頼りないところはあるけれど、仕事はしっかりするし、プライベートでなら甘えられても『どんとこい』と思えるしね。公私両方の姿を見ているから、『私だけが風磨さんを理解できる』って思えるのかも」
「今度はエミリさんの惚気話を聞きたいなぁ~……」
恵がニヤニヤして言い、私も「賛成!」と笑う。
そして私たちは二軒目のカフェ代が浮いたのをいい事に、もう一軒のカフェに入ったのだった。
というか、一軒目のレストランも春日さんが持ってくれてるので、ありがたいやら申し訳ないやら……。
**
先方に指定を受け、俺は十一時半に吉祥寺にある上村家を訪れた。
車で向かうと家の前には若菜さんが出ていて、家の前のスペースに駐車していいと言われてそうする。
「お久しぶりです」
挨拶をすると、どことなく朱里に面差しが似ている彼女はニッコリ笑う。
「前回にお会いした時より暖かくなりましたね。月日が経つのは早いわ。……じゃあ、中にお入りください」
若菜さんに先導されてお宅にお邪魔し、ジャケットを脱いでからリビングダイニングに入る。
「速水さん、よくお越しになられました」
ソファに座っていた貴志さんが立ちあがると、お互い頭を下げて挨拶し、手土産を渡す。
「お茶の用意をしますね。今日は亮平も美奈穂もいませんから、ご安心ください」
若菜さんはそう言って台所に向かい、準備ができるまでの間、俺は貴志さんと朱里の様子を話したり、今は婚約指輪を決めている最中だという事を伝えた。
やがてお茶とお茶菓子が出され、しばしたわいのない話をしたあと、若菜さんが切りだした。
「今日お越しいただいたのは、朱里と実父……、私の前の夫の事についてお話するべきと思ったからです」
先日、若菜さんから連絡が入り【六月になる前に朱里と彼女の父についてお話したい事があります】とあり、重大な話だと思った俺は覚悟を決めて今日上村家を訪れた。
「六月に何かあったのですか?」
尋ねると、若菜さんは視線を落として言う。
「前の夫……、今野澄哉は六月十五日、梅雨のさなかに当時暮らしていた賃貸マンションのベランダで、首を吊って亡くなりました」
それを聞き、腹に重たい一撃を食らったような感覚に陥った。
同時に、中学生頃の朱里が、なぜあそこまで父親の死に動揺していたのかも理解する。
エミリさんが立ちあがり、伝票を確認しようとする。
と、それを神くんが手で制し、ニコッと笑って言った。
「ここは僕が持ちますからいいですよ」
「いいの?」
目を瞬かせて尋ねると、彼は「はい」と微笑む。
「春日さんと引き合わせてくださったお礼です」
神くんがこちらを向いて爽やかに言った向こうで、春日さんはまた真っ赤になってクネクネしている。
「じゃあ、ありがとう。ごちそうさまです! 仲良くね!」
ペコリとお辞儀をすると、恵も「ごちそうさま」とお礼を言う。
「神くん、ありがとう。春日さん、あとから報告してくださいね」
エミリさんも言い、私たちはカフェをあとにした。
「しかし、神くんが御曹司だったなんてね……」
恵が言い、私は苦笑いする。
「本人は隠しているつもりはないけど、『聞かれてないから答えてない』みたいなスタンスっぽいよ」
「お兄さんがいるなら、きっと会社を継ぐのはお兄さんなんでしょうね。神くんは次男だから篠宮フーズにいても許されるというか……。もしくはいずれアンド・ジンに戻るとして、その前に一般社員の経験を積んでおくつもりなのか」
エミリさんが言い、私たちは「そうですねぇ……」と頷く。
「でもどっちにしろ、大企業の跡継ぎ兄弟がいると、ちょっと複雑そうですよね」
「そうね。風磨さんは前社長の息子でエリート街道を進んできた人だけど、そうなって当然とは思っていないし、彼なりに悩みはあるわ。……恵まれた環境にいると傲慢になりがちだけど、私は謙虚な彼が好きだわ。……と言っても、怜香さんが反面教師になったがゆえに……だと思うけれど」
歩きながらエミリさんが言い、私はニヤニヤして彼女をつつく。
「ラブラブで何よりです」
「確かにちょっと頼りないところはあるけれど、仕事はしっかりするし、プライベートでなら甘えられても『どんとこい』と思えるしね。公私両方の姿を見ているから、『私だけが風磨さんを理解できる』って思えるのかも」
「今度はエミリさんの惚気話を聞きたいなぁ~……」
恵がニヤニヤして言い、私も「賛成!」と笑う。
そして私たちは二軒目のカフェ代が浮いたのをいい事に、もう一軒のカフェに入ったのだった。
というか、一軒目のレストランも春日さんが持ってくれてるので、ありがたいやら申し訳ないやら……。
**
先方に指定を受け、俺は十一時半に吉祥寺にある上村家を訪れた。
車で向かうと家の前には若菜さんが出ていて、家の前のスペースに駐車していいと言われてそうする。
「お久しぶりです」
挨拶をすると、どことなく朱里に面差しが似ている彼女はニッコリ笑う。
「前回にお会いした時より暖かくなりましたね。月日が経つのは早いわ。……じゃあ、中にお入りください」
若菜さんに先導されてお宅にお邪魔し、ジャケットを脱いでからリビングダイニングに入る。
「速水さん、よくお越しになられました」
ソファに座っていた貴志さんが立ちあがると、お互い頭を下げて挨拶し、手土産を渡す。
「お茶の用意をしますね。今日は亮平も美奈穂もいませんから、ご安心ください」
若菜さんはそう言って台所に向かい、準備ができるまでの間、俺は貴志さんと朱里の様子を話したり、今は婚約指輪を決めている最中だという事を伝えた。
やがてお茶とお茶菓子が出され、しばしたわいのない話をしたあと、若菜さんが切りだした。
「今日お越しいただいたのは、朱里と実父……、私の前の夫の事についてお話するべきと思ったからです」
先日、若菜さんから連絡が入り【六月になる前に朱里と彼女の父についてお話したい事があります】とあり、重大な話だと思った俺は覚悟を決めて今日上村家を訪れた。
「六月に何かあったのですか?」
尋ねると、若菜さんは視線を落として言う。
「前の夫……、今野澄哉は六月十五日、梅雨のさなかに当時暮らしていた賃貸マンションのベランダで、首を吊って亡くなりました」
それを聞き、腹に重たい一撃を食らったような感覚に陥った。
同時に、中学生頃の朱里が、なぜあそこまで父親の死に動揺していたのかも理解する。
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