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帰宅して 編

彼氏かよ

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「あっ!」

 私は思わず大きな声を上げ、立ちあがる。

「ん? 覗いたら駄目か? 後ろめたい?」

 尊さんは腕を組み、試すように私を見てニヤリと笑う。

「……う、後ろめたくはないけど……。変な物じゃないけど……。普通のプレゼントだけど……」

「ほう。やっぱり花束以外にプレゼントをもらったのか」

「あっ」

 語るに落ちた私は、両手で頭を抱えて「くぅぅ~~!」と悶える。

「じゃあ質問を変える。ラブレターをもらったか?」

「えっ? 手紙なんてもらってません。『これからのご活躍をお祈りします。ささやかなプレゼントを受け取ってください』ってカードならありましたけど。あっ」

 滑らかに自供してしまった私は、また両手で頭を抱えて悶える。

「……お前の嘘つけないところ、好きだよ」

 尊さんは生温かい目で私を見て、にこやかに微笑む。

「もぉぉ……。……まぁ、本当に普通のプレゼントだから、特に見られても構わないんですが」

 私は紙袋の所まで歩き、ゴソゴソと白い紙袋とチョコレートの大きな箱を出す。

「やっぱり餌付けされてたか」

 それを見て、尊さんは溜め息をつきつつ呟く。

「凄く立派なプレゼントをもらったんですよ」

 神くんからのプレゼントは、丸の内にあるショコラティエ、パレドオールの一番大きなショコラの箱と、ゲランの香水とリップ、アイシャドウ、フェイスパックだった。

「…………彼氏かよ」

 物凄いプレゼントの数々を見て、尊さんは溜め息をつく。

 リップは使いやすいピンクベージュで、専用のケースは大理石柄。アイシャドウも汎用性の高いブラウン系で、仕事にも使える。

 そして香水が……、毎年春になると、あちこちのブランドで桜ものが出るけれど、ゲランのチェリーブロッサムの香水も色んな意味で有名だ。

 まずボトルが超絶可愛い。

 円柱形のボトルにはブランドアイコンの蜂の模様が刻まれ、ドーム状の屋根の上には可愛い桜のオーナメントがついている。

 ミツコやシャリマーなどで有名なゲランだから、もちろん高級香水という意味でオードトワレであっても高価だけれど、シリアルナンバー入りの数量限定ものだからか、値段がとてつもなくえぐい。

 桜ものは大好きで一通りチェックするけれど、これは異次元の値段なのでいつもネットで見るに留めている。

「見事な瓶だな。金額の事を言ったらアレだけど、これ、結構するだろ」

「…………じゅ、十万……」

 震える声で言うと、尊さんは大きめの溜め息をついてもう一度突っ込んだ。

「彼氏か!」

 強めに言ったあと、尊さんはまた溜め息をついて髪を掻き上げる。

「はぁ……。最後の最後で重くきたな」

「さすが御曹司ですね」

 さっき開封した時、まさかのチェリーブロッサムがあって度肝を抜かれ、違うかもしれないと自分に言い聞かせて箱にしまい、他の物と一緒に部屋の隅に置いておいたのだ。

「……花束にしてはやけに重いなって思ってたんですが、沢山入ってました」

「気付けよ。……って言いたいけど、さっきはワチャワチャしてたから、それどころじゃなかったか」

 尊さんはまた溜め息をつき、床の上に座ってコスメの数々を見る。

 そして「よし」と言って顔を上げると、いい笑顔で言った。

「今度百貨店に行って、好きなだけコスメや香水買おう」

「張り合わないでください」

 思わず突っ込んだ私は、肩を落として溜め息をつく。

「私は尊さんがいてくれたらそれでいいんですから。毎日美味しい物も食べさせてもらってるし」

「……もうちょっと、おねだりしてくれよ」

 よく分からないけど、尊さんが本格的に拗ねてる。拗ねミコ可愛い。

「そんなのいいですから。……ね? ほら、おっぱい触らせてあげる」

 私はそう言って尊さんの両手首を掴み、パフッと胸を包ませる。

 尊さんは無言で私の胸を揉んでいたけれど、項垂れて「はぁ……」と溜め息をついた。でも手はまだ揉んでる。正直な手だ。

「俺はこのぱいに釣り合う男になりたい」

「そんな名ぱいじゃないですよ。ホラホラ、もういいから。あんまり張り合わないでくださいよ」

 私は胡座をかいた尊さんの膝の上に座り、チュッチュッと頬にキスをする。

 けれど婚約者が他の男性から高価なプレゼントを受け取ったと知った尊さんは、多分男の見栄的な何かでとても落ち込んでいる。

「高級な婚約指輪と結婚指輪を買ってもらうんですし」

「それはそれ、これはこれだろ。頼む。我が儘言ってくれ。指輪と食い物、旅行とか以外の物をねだってくれ」

 溜め息混じりに言われ、よく分からないけど彼がとてもダメージを負ったのは分かった。
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