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二次会 編
涼とバーへ
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「その気になれば、みんな手を差しだして助けてくれるんです。背中を押してもらって、進みましょう」
「だな」
微笑み返した尊さんは、私をジッともの言いたげに見る。
「……ん?」
小首を傾げると、彼は「いや」と笑って姿勢を戻した。
「戻るか。大事な話はもうほとんど終わったと思うし、あとは楽しく飲もう」
「はい」
私たちはまた席に戻り、美味しい鯛飯とお味噌汁、香の物を食べたあと、柚子シャーベットで食事を締めた。
尊さんが言った通り、速水家が抱える重ための話はすべて終わったからか、あとは和やかな雰囲気となる。
「朱里ちゃん、尊くんのピアノ聴いた事ある?」
弥生さんに尋ねられ、私は首を小さく横に振る。
「それがまだなんですよ。ちょっと踊ってくれた事はありましたが」
「弾いてもらいなって。尊くんも定期的に弾かないと腕が落ちるよ」
「はいはい」
尊さんは弥生さんの言葉を軽くあしらい、苦笑いする。
「なんなら、うちの教室に来て弥生と連弾してもいいわよ」
ちえりさんが目をキラキラさせて言い、私は思わず「わ、素敵」と相好を崩す。
「あまり期待しなくていいから」
尊さんは手をヒラヒラ振ってごまかし、少し私に顔を寄せると「今度な」と笑った。
食事会は二十一時すぎまで続き、あまり遅くなっても……という事でお開きとなる。
別れ際、ちえりさんが言った。
「お彼岸のお参りについて、詳細が決まったら連絡を入れるわね」
「はい」
ちえりさんや小牧さん、弥生さんたちが「朱里さん、連絡先交換しよ!」と言ってくれ、私は彼女たちとメッセージアプリのIDを交換し、さらに尊さんも含めた〝チーム速水〟のグループにも入れてもらった。
お店を出たあと、涼さんが言った。
「一時間ぐらい、飲まない?」
「ぜひ!」
あまり涼さんとはお話できていなかったので、酔いの勢いで尊さんより先に返事をすると、彼は苦笑いして「しゃーねぇな」と言った。
そのあと、私たちは銀座二丁目にあるバーに入った。
尊さんと涼さんはウィスキーを飲み、私はカクテルにする。
「改めまして、初めまして。上村朱里です。尊さんからお話は窺っていました」
お店のコーナーにあるソファ席で、私は涼さんに挨拶をした。
「俺もちょいちょい聞いてたよ」
「えっ? どういう話ですか?」
前のめりになって尋ねると、尊さんが「いいから」と手で制してくる。
「尊がずっとしつこく想っていたのは知ってるんだよな?」
涼さんに確認され、私は「はい」と頷く。
すると彼は少し気の毒そうな顔をして、枝豆をぷちりと食べる。
「病み期の時は凄かったよ。朱里ちゃんがいなかったら死ぬ、ぐらいの重さだった」
思わず尊さんを見ると、彼はそっぽを向いてグラスを傾けていた。
ふふ、照れておるな。愛いやつよ。
「……仕方ないだろ。実際そういう時期があったんだから」
尊さんはふてくされたように言い、ウィスキーを呷る。
「分かってますよ。私の事、しゅきしゅきですもんね~」
尊さんの腕を組んで肩に顔を押しつけると、照れ隠しか、彼は乱暴な溜め息をついて私の頭をわしわしと撫でる。
涼さんはそんな私たちを見て愉快そうに微笑み、脚を組む。
「でも安心したよ。ずっと不安定で〝世界一の不幸男〟みたいな顔をしてたけど、あの継母を断罪してから吹っ切れたみたいだな。今は幸せそうで何より」
涼さんはグラスを掲げて尊さんに乾杯し、機嫌良さそうにお酒を飲んだ。
「大学生時代に知り合ったんでしたっけ?」
「そう。なんか知らんが、話しかけられた」
尊さんが言い、涼さんはニヤニヤ笑う。
「薄幸そうな文豪みたいな雰囲気があったから、一緒にいたら面白いかなと思って」
「お前な……」
私はつい、太宰治や芥川龍之介を思いだして「むふっ」と笑う。
確かに尊さんはまじめな顔をしていると、少し陰のある思い詰めた美形みが増すので、文豪と言われてしっくりきた。
「はい! 突っ込んだ質問していいですか?」
私はシュッと挙手する。
「だな」
微笑み返した尊さんは、私をジッともの言いたげに見る。
「……ん?」
小首を傾げると、彼は「いや」と笑って姿勢を戻した。
「戻るか。大事な話はもうほとんど終わったと思うし、あとは楽しく飲もう」
「はい」
私たちはまた席に戻り、美味しい鯛飯とお味噌汁、香の物を食べたあと、柚子シャーベットで食事を締めた。
尊さんが言った通り、速水家が抱える重ための話はすべて終わったからか、あとは和やかな雰囲気となる。
「朱里ちゃん、尊くんのピアノ聴いた事ある?」
弥生さんに尋ねられ、私は首を小さく横に振る。
「それがまだなんですよ。ちょっと踊ってくれた事はありましたが」
「弾いてもらいなって。尊くんも定期的に弾かないと腕が落ちるよ」
「はいはい」
尊さんは弥生さんの言葉を軽くあしらい、苦笑いする。
「なんなら、うちの教室に来て弥生と連弾してもいいわよ」
ちえりさんが目をキラキラさせて言い、私は思わず「わ、素敵」と相好を崩す。
「あまり期待しなくていいから」
尊さんは手をヒラヒラ振ってごまかし、少し私に顔を寄せると「今度な」と笑った。
食事会は二十一時すぎまで続き、あまり遅くなっても……という事でお開きとなる。
別れ際、ちえりさんが言った。
「お彼岸のお参りについて、詳細が決まったら連絡を入れるわね」
「はい」
ちえりさんや小牧さん、弥生さんたちが「朱里さん、連絡先交換しよ!」と言ってくれ、私は彼女たちとメッセージアプリのIDを交換し、さらに尊さんも含めた〝チーム速水〟のグループにも入れてもらった。
お店を出たあと、涼さんが言った。
「一時間ぐらい、飲まない?」
「ぜひ!」
あまり涼さんとはお話できていなかったので、酔いの勢いで尊さんより先に返事をすると、彼は苦笑いして「しゃーねぇな」と言った。
そのあと、私たちは銀座二丁目にあるバーに入った。
尊さんと涼さんはウィスキーを飲み、私はカクテルにする。
「改めまして、初めまして。上村朱里です。尊さんからお話は窺っていました」
お店のコーナーにあるソファ席で、私は涼さんに挨拶をした。
「俺もちょいちょい聞いてたよ」
「えっ? どういう話ですか?」
前のめりになって尋ねると、尊さんが「いいから」と手で制してくる。
「尊がずっとしつこく想っていたのは知ってるんだよな?」
涼さんに確認され、私は「はい」と頷く。
すると彼は少し気の毒そうな顔をして、枝豆をぷちりと食べる。
「病み期の時は凄かったよ。朱里ちゃんがいなかったら死ぬ、ぐらいの重さだった」
思わず尊さんを見ると、彼はそっぽを向いてグラスを傾けていた。
ふふ、照れておるな。愛いやつよ。
「……仕方ないだろ。実際そういう時期があったんだから」
尊さんはふてくされたように言い、ウィスキーを呷る。
「分かってますよ。私の事、しゅきしゅきですもんね~」
尊さんの腕を組んで肩に顔を押しつけると、照れ隠しか、彼は乱暴な溜め息をついて私の頭をわしわしと撫でる。
涼さんはそんな私たちを見て愉快そうに微笑み、脚を組む。
「でも安心したよ。ずっと不安定で〝世界一の不幸男〟みたいな顔をしてたけど、あの継母を断罪してから吹っ切れたみたいだな。今は幸せそうで何より」
涼さんはグラスを掲げて尊さんに乾杯し、機嫌良さそうにお酒を飲んだ。
「大学生時代に知り合ったんでしたっけ?」
「そう。なんか知らんが、話しかけられた」
尊さんが言い、涼さんはニヤニヤ笑う。
「薄幸そうな文豪みたいな雰囲気があったから、一緒にいたら面白いかなと思って」
「お前な……」
私はつい、太宰治や芥川龍之介を思いだして「むふっ」と笑う。
確かに尊さんはまじめな顔をしていると、少し陰のある思い詰めた美形みが増すので、文豪と言われてしっくりきた。
「はい! 突っ込んだ質問していいですか?」
私はシュッと挙手する。
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