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三月 編
ホワイトデーのお返し
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「じゃあ、お肉ご馳走してください。『ガツンとステーキ』みたいなやつ」
「……A5ランクのやつとかは?」
「……またパパ活みたいな事言う……。若者は質より量なんです」
「ホワイトデーにガーリック効いたステーキかよ……。色気ねぇな」
「ふふん? 夜にニンニク臭をぷーんとさせながら、誘ってさしあげますよ。速水尊ニンニク耐久一本勝負! みたいな」
「ガスマスクつけて抱くかな……」
「あははははは!」
軽口の叩き合いに我慢できず、とうとう私は笑い始めた。
尊さんは笑っている私を見て微笑み、食事の続きに取りかかる。
「……俺、こういう何気ない時間が一番幸せだよ」
「私もです」
特別な時には「幸せ」という言葉が出るだろう。場合によっては「自分が世界一幸せ」と思いたくなる。
でも平凡で穏やかな時間こそ、本当は一番大切なのだと自覚し、照れずに認められるのは素敵な事だ。
「これからも毎日一緒にご飯食べましょうね」
「俺、朱里の食いっぷりが好きなんだよな」
「ほら、そうやってすぐ食いしん坊にもってくー」
私がブスーッと膨れると、尊さんはおかしそうに笑った。
**
三月十四日のホワイトデー当日は、普通に平日なので仕事をこなし、帰りにお高級なフレンチレストランで食事をした。
その上、美味しいチョコレートとマカロン、クッキーをプレゼントしてもらった。
「ホワイトデーのお返しって、贈る物で意味が違うの知ってます?」
「あー、なんか小学生の時に女子が言ってたな」
仕事のあとにレストランに寄って尊さんもお酒を飲んだので、会社に行く時も帰りもハイヤーだ。
「マカロンが『特別』、キャンディが『好き』、クッキーは『友達』、マシュマロは『嫌い』」
「へぇ……」
改めて教えてもらった尊さんは、興味深そうに聞いている。
「そーしーてー……。チョコレートは『もらった気持ちをお返しします』! あはは!」
「はぁ? ……ったく……。朱里はそんなの構わず食うよな?」
「当然の助です」
グッと拳を握ると、尊さんは少し黙ったあと、ややうろたえて言う。
「今回は評判のいいパティスリーでまとめて買ったんだけど……。マカロンが代表な。残りはサブ」
「んふふ、気にしてる~」
ツンツンとつつくと、尊さんは溜め息をつく。
「そういえば、時沢にもなんかもらってたな」
今日の職場での事を思いだした尊さんが言い、私は「あー」と頷いて手荷物を見る。
「バレンタインに、あまりにしつこいからパキットチョコをあげたんですよ。なのに高級な焼き菓子セット持ってきたから、びっくりしちゃった」
紙袋は海外ブランドの物で、値段の差がありすぎて気後れしてしまう。
「焼き菓子の意味は?」
尊さんが気にする。
「んー、マドレーヌが『もっと仲良くなりたい、特別な関係になりたい』だったかな。時沢係長がそこまで考えていると思えませんけど」
「どうかな。あいつ結構乙女なところがあるから。……あと、六条からももらってた?」
「……目ざといですね。六条さんとは付き合いが長くて、毎年もらってます。今年はなんだろ……。『出張のお土産』って言ってたんですけど」
そう言って私は深緑色の紙袋からカサリと包みを出す。
開けると、中から金平糖が出てきた。
「あら可愛い」
「あー、それ、京都の『緑寿庵清水』だろ」
「知ってるんですか?」
「日本で唯一の専門店だからな。京都のお土産と言えば……で、知ってる人には選ばれる」
「へぇ。お高級そう。心して大切に食べようっと」
金平糖をしまいつつ言うと、尊さんがジトリとした目で聞いてくる。
「金平糖の意味は?」
「ん? ……飴ちゃんと同じ位置づけじゃないでしょうか。……いや、でも出張のお土産って言ってましたし、センスのいい人だからあまり意味はないですって」
キャンディと同じ『好き』の意味を思いだし、私は誤魔化すために胸の前でパタパタと手を振る。
「……A5ランクのやつとかは?」
「……またパパ活みたいな事言う……。若者は質より量なんです」
「ホワイトデーにガーリック効いたステーキかよ……。色気ねぇな」
「ふふん? 夜にニンニク臭をぷーんとさせながら、誘ってさしあげますよ。速水尊ニンニク耐久一本勝負! みたいな」
「ガスマスクつけて抱くかな……」
「あははははは!」
軽口の叩き合いに我慢できず、とうとう私は笑い始めた。
尊さんは笑っている私を見て微笑み、食事の続きに取りかかる。
「……俺、こういう何気ない時間が一番幸せだよ」
「私もです」
特別な時には「幸せ」という言葉が出るだろう。場合によっては「自分が世界一幸せ」と思いたくなる。
でも平凡で穏やかな時間こそ、本当は一番大切なのだと自覚し、照れずに認められるのは素敵な事だ。
「これからも毎日一緒にご飯食べましょうね」
「俺、朱里の食いっぷりが好きなんだよな」
「ほら、そうやってすぐ食いしん坊にもってくー」
私がブスーッと膨れると、尊さんはおかしそうに笑った。
**
三月十四日のホワイトデー当日は、普通に平日なので仕事をこなし、帰りにお高級なフレンチレストランで食事をした。
その上、美味しいチョコレートとマカロン、クッキーをプレゼントしてもらった。
「ホワイトデーのお返しって、贈る物で意味が違うの知ってます?」
「あー、なんか小学生の時に女子が言ってたな」
仕事のあとにレストランに寄って尊さんもお酒を飲んだので、会社に行く時も帰りもハイヤーだ。
「マカロンが『特別』、キャンディが『好き』、クッキーは『友達』、マシュマロは『嫌い』」
「へぇ……」
改めて教えてもらった尊さんは、興味深そうに聞いている。
「そーしーてー……。チョコレートは『もらった気持ちをお返しします』! あはは!」
「はぁ? ……ったく……。朱里はそんなの構わず食うよな?」
「当然の助です」
グッと拳を握ると、尊さんは少し黙ったあと、ややうろたえて言う。
「今回は評判のいいパティスリーでまとめて買ったんだけど……。マカロンが代表な。残りはサブ」
「んふふ、気にしてる~」
ツンツンとつつくと、尊さんは溜め息をつく。
「そういえば、時沢にもなんかもらってたな」
今日の職場での事を思いだした尊さんが言い、私は「あー」と頷いて手荷物を見る。
「バレンタインに、あまりにしつこいからパキットチョコをあげたんですよ。なのに高級な焼き菓子セット持ってきたから、びっくりしちゃった」
紙袋は海外ブランドの物で、値段の差がありすぎて気後れしてしまう。
「焼き菓子の意味は?」
尊さんが気にする。
「んー、マドレーヌが『もっと仲良くなりたい、特別な関係になりたい』だったかな。時沢係長がそこまで考えていると思えませんけど」
「どうかな。あいつ結構乙女なところがあるから。……あと、六条からももらってた?」
「……目ざといですね。六条さんとは付き合いが長くて、毎年もらってます。今年はなんだろ……。『出張のお土産』って言ってたんですけど」
そう言って私は深緑色の紙袋からカサリと包みを出す。
開けると、中から金平糖が出てきた。
「あら可愛い」
「あー、それ、京都の『緑寿庵清水』だろ」
「知ってるんですか?」
「日本で唯一の専門店だからな。京都のお土産と言えば……で、知ってる人には選ばれる」
「へぇ。お高級そう。心して大切に食べようっと」
金平糖をしまいつつ言うと、尊さんがジトリとした目で聞いてくる。
「金平糖の意味は?」
「ん? ……飴ちゃんと同じ位置づけじゃないでしょうか。……いや、でも出張のお土産って言ってましたし、センスのいい人だからあまり意味はないですって」
キャンディと同じ『好き』の意味を思いだし、私は誤魔化すために胸の前でパタパタと手を振る。
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