上 下
285 / 449
彼の祖父母 編

松濤の篠宮家

しおりを挟む
「……なに、その顔」

 恵は私の顔を見て、不審げな表情になる。

「……四人でランド行けたらいいね……」

 ネチャア……と笑うと、恵はすべてを察してうんざりした顔になる。

「またそれ? 大体、朱里だってその人に会ってないんでしょ?」

「会ってないけど~……、いずれくる未来の話」

「ラノベのタイトルみたいに言うな」

「てへっ」

「可愛く笑っても駄目」

「も~……」

 下唇を突き出してむくれると、恵は手を伸ばして私の腕をトントンと叩いてくる。

「最初からデートの相手って言われたら、抵抗が生まれるのは理解して。どんな人か分からないのに〝相手〟って言われるの、複雑だから」

「……うん、ごめん。半分は冗談だったんだけど」

「分かってる。朱里はそういう事を言わない」

 その言葉の中に色んな感情、意味が含められていて、私は頷きながら微笑む。

「まー、普通に友達候補として紹介するならいいよ? そのあと友達になるかどうかは、私が決める。例の人の親友だからといって、私にとっていい人とは限らない。もしかしたら、一緒にいるだけでイライラする人かもしれない。でも、もしかしたら気が合うかもしれない」

「うん」

 恵の、こうやって公平に考えてくれるところが好きだ。

「ま、全部向こうの奢りで、朱里と一緒に泊まりでランド楽しめるのはありがたいけどね」

 恵らしい言い方を聞き、私はクシャッと笑った。



**



 その週は平日が四日だけで、木曜日まで働いたあと金曜日に手土産などの用意をし、土曜日に松濤にある篠宮家へ向かう事となった。

 私はベージュのワンピースを着て、控えめなパールアクセサリーをつけ、まとめ髪にした上でコートを羽織った。

 尊さんは「外れないから」と、ネイビーのスーツを身に纏っている。

 松濤の一丁目、二丁目、神山町は、特に豪邸が建っている場所らしく、付近を通ってもあまり地元の人が歩いている気配はなく、シンとしている。

 一軒あたりの面積も信じられないぐらい広く、塀がどこまでも続いている。

 尊さんは車を篠宮邸の前に停め、スマホのメッセージでお祖父さんに到着した事を知らせた。

 すると通りに面したガレージが開き、彼はその中に車を停めた。

「こっち」

 尊さんはガレージの横手にあるドアから外に出て、塀の内側に出る。

「わぁ……」

 塀の中に隠れていたのは和風の豪邸で、石灯籠などがある日本庭園が広がっていた。

 庭には椿の花が咲いていて、小さな太鼓橋が架かった池まである。

「あそこって鯉いるんですか?」

「いるよ。今は冬だからジッとしてると思う」

 私は目を見開いたまま、うんうんと頷き、尊さんに連れられるまま玄関に向かった。

 尊さんが簾戸すどの横にあるチャイムを押すと、女性の声で「どうぞお入りください」という返事があった。

「家政婦さんだ」

 彼に説明され、私はコクンと頷く。

 コートを脱いでから緊張して玄関に入ると、思っていた以上に広い空間になっていて、お屋敷の裏手にある庭を望める大きな窓があった。

 その脇には丸いガラステーブルとソファのセットがあり、多分ちょっとしたお客さんならここで応接するのかもしれない。

「いらっしゃい」

 初めて入る豪邸に圧倒されていたけれど、柔らかな雰囲気の声がし、私はハッとしてそちらを見る。

 すると銀鼠の着物を着た老婦人と、家政婦さんらしき五十代の女性がこちらにやってくるところだ。

「久しぶりね、尊。そしてあなたが朱里さん? 初めまして。篠宮琴絵ことえです」

 尊さんの祖母――琴絵さんは、可愛らしいお嬢さんがそのまま歳を重ねた雰囲気を持っていた。

 お祖父様は矍鑠かくしゃくとした方と窺っていたから、このおっとり感が亘さんに継がれたのかもしれない。

「初めまして、上村朱里と申します。本日はご多忙ななか、お時間を作っていただきありがとうございます」

 ペコリと頭を下げると、琴絵さんは目を細めて微笑んだ。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

Good Bye 〜愛していた人〜

鳴宮鶉子
恋愛
Good Bye 〜愛していた人〜

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

処理中です...