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北海道旅行 編

ホットケーキ

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 そのあと大通公園まで歩き、一丁目から順番に雪まつりを見学していった。

 スケートリンクがあったり、中にはジャンプ台があってイベント時に華麗なアクロバットジャンプを披露する所もある。

 勿論、大雪像もあるし、有志が作った小さめの雪像もある。

 三丁目には食の広場があって、屋台で色んなどさんこグルメがあり、お腹いっぱいなのに何か食べたくなってしまう。

 十二丁目まで歩いたあと、西十一丁目から地下鉄に乗り、大通公園まで戻る。

 地下鉄から出ると三越やパルコがあり、尊さんが「カフェで一休みするか?」と言ってくれたので、沢山歩いて疲れた私は天の助けを得た気持ちになり、コクコク頷いた。

 尊さんは何回も札幌に来ているらしく、お店もよく分かっているみたいだ。

 だからお土産や写真スポット以外は、基本的にお任せしてる。

 そんな尊さんが連れて行ってくれたのは、パルコから少し東側にあるピヴォクロスという商業ビルの七階だ。『椿サロン』という名前のホットケーキのお店で、天井が高い空間にはグランドピアノもある。

「銀座と渋谷にも店舗があるんだけど、発祥は北海道なんだ。ここは本店じゃないんだけど」

 ホットケーキが大好きな私は、めちゃテンションを上げてメニューを見る。

 メニュー数はあまり多くないけれど、その分味に自信があるんだと思う。

 二月の期間限定メニューはフォンダンショコラのホットケーキがあり、それを頼む事にした。

 尊さんは普段進んで甘い物を食べないけど、今回は付き合ってくれるらしく、彼は一番ベーシックな物を頼んでいた。

「こういうお店、どうやって知るんですか?」

「ちょいちょい話に挟まってる、札幌の知り合いが食道楽なんだ。あ、男な」

「へぇ。今回は会わなくていいんです?」

「朱里と一緒だし、その気になればいつでも会えるから大丈夫」

 尊さんは微笑んでから、その知り合いとの馴れそめを教えてくれる。

「……俺、色々あったろ。それで自尊心がとても低かった。少しでも幸せを感じられる事をしたいと思って、海外旅行に行って経験積んだし、美味いもんを美味いと思いてぇな、と感じたんだ。……一時期、何を食べても同じに思えていた時があって、町田さんに失礼だった。あの人は食のプロなのに、せっかく作ってくれた物を大して美味くねぇと感じてしまっていたんだ」

「……あぁ、なるほど……」

 私は溜め息混じりに言い、頷く。

「『まともな人間になりてぇな』と思った。朝起きて走って、仕事して、飯食って美味いと思って、余暇には旅行をして、音楽にも触れて心を豊かにして……。果たしてそうする事で本当に自分が幸せになれるかは置いておいて、〝ふり〟から始めたんだ。まずやってみないと分からないと思って」

「そうやって、まず行動してみるところ、尊敬してますよ」

 微笑んで言うと、尊さんは嬉しそうに笑った。

「それでメッセージアプリのオープンチャットで、全国の食いしん坊が集まってる所に入って、あちこちから情報を仕入れたんだ。その中で興味のある情報があったら質問して、個人でメッセージするようになり、直接会ったりとか。そういう、目的ありきのメッセージは好きだな」

「ほう、実用的ですね」

 頷いた時、スタッフの一人がグランドピアノのほうに行き、演奏を始めた。

「いい音色だな」

 尊さんは嬉しそうに笑い、目を細める。

(……あ、そっか。このカフェ、ピアノがあるから尊さんのお気に入りなのかもしれない)

 腕時計を見たら十五時で、決まった時間に演奏しているみたいだ。

「だから、全国あちこちに食通の知り合いがいる。直接会う人は、メッセージの中で『大丈夫そうな人だな』と思った厳選した人だけだけど。メッセージする頻度も用事があれば……っていう感じだから、気楽な関係だ」

 そのあとホットケーキが運ばれてきて、私は映えるそれを撮影してから、フォークとナイフを手に取る。

 ホットケーキとは別に、ガラスの器にはブラマンジェと苺が盛られていて、それぞれ独立したスイーツとして楽しめるようになっている。

 パンケーキって言うと、何枚も重ねて、その上にソースやホイップクリーム、フルーツが沢山……っていうイメージが強いけれど、シンプルにした分、その他スイーツをセパレートしたんだろう。

 これはこれで洗練された雰囲気があって、高見えする。

「おお……」

 ナイフとフォークでパンケーキを切ると、中からトロッとチョコレートが溢れてきた。

「おいひ……」

 ふわっふわのホットケーキは幾らでもいけてしまう感じで、ブラマンジェもとても美味しい。

「夜の寿司の時間は少し遅くしたから、頑張って消化してくれ」

「はい!」

 外は暗くなり始めていて、窓から見える街路樹のイルミネーションがとても綺麗だ。

(はぁ~、幸せ……)

 ちょっと前の痴漢騒ぎで確かにダメージは受けたけど、今こんなに幸せならプラマイゼロ、いや、プラス百ぐらいに感じている。
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