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体調不良 編
早く元気になりだい
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「今頃昭人も寝込んでたりして。へへ、ざまーみろ」
反対側の手でグッとサムズアップしてみせると、尊さんは私の前髪をクシャリと撫でてきた。
「あいつとお揃いで寝込んでるなんて、すげぇやなんだけど」
そんな事で嫉妬してくれるのが嬉しくて、私は思わず笑う。
「尊さんは仲間に入れてあげませんよ。体調崩したら大変な人なんですから」
冗談めかして言うと、彼はなおもサラサラと私の髪を撫でて言った。
「……まったく。……それはそうと、こんな時になんだけど、お楽しみを設定しておこうか」
「……お楽しみ?」
目を瞬かせると、尊さんは優しく微笑む。
「バレンタイン前の連休、温泉行かないか?」
連休デートキター!
私は具合が悪いのも吹っ飛ばして、テンションをぶち上げてしまう。
「いぎまず!」
あまりに勢いづいて言ったので、掠れ声になってしまった。
「寒い冬にあえて北海道へ行って、雪まつりを堪能してから、寿司をたらふく食って、温泉でカニ」
「……最高……!」
私はまた布団から手を出し、サムズアップする。
「……早く元気になりだい……」
尊さんと北海道デートするだけで、どん底だった気分が一気に急上昇し、旅行の事しか考えられなくなる。
「ん、よしよし。じゃあゆっくり休んで温かくしておけよ」
「はい」
また頭を撫でられて目を細めた時、尊さんに少しまじめなトーンで言われた。
「さっきから頻繁に部屋を出入りしてるけど、つらくて眠れないか?」
お手洗いに立っている事を指摘され、私は彼から視線を逸らす。
「その……」
「妙な勘ぐりをして『気持ち悪い』って思ったらすまないが、頻繁にトイレに行かないとならないぐらい大量に出血してる? 女性の普通がどれぐらいか分からないが、三十分に一度は替えないとならないものか?」
尊さんが真剣に心配してくれているのを知り、私は彼の手をキュッと握ってボソボソと答える。
「……立派なベッドだし、シーツとかもきっと高級な物に決まってるし、汚したら申し訳ないと思うと眠れなくて……」
私の答えを聞いた尊さんは溜め息をつき、クシャクシャと私の髪を掻き回してきた。
「あのなぁ……、もうお前はこの家に住む事になるんだから。家具も何もかも自分の物だと思ってくれよ。汚したら洗えばいいんだし、気にするな。まずはゆっくり休む事を考えろ」
半ば呆れたように言われ、私は眉を下げる。
「朱里の遠慮がちなところは美徳だ。でも家族になる相手、自分の家になる場所にまで気を遣わなくていい」
「……はい」
小さく返事をすると、尊さんはマスク越しに私の額にキスをした。
「何も心配しなくていいから、ゆっくり寝てくれ」
彼は私の手をキュッと握り、その指先にもキスをする。
「最悪な時こそ、幸せな未来を想像して過ごすんだ。薬は飲んだし、あとは良くなっていくだけ。一週間もすれば仕事に戻れるし、復帰したあと二週間すれば北海道。どうだ? ワクワクするだろ」
「……ん」
コクンと頷くと、尊さんは私の両手を羽布団の中にしまい、頭をポンポンと撫でた。
「おやすみ。眠れなかったら俺の事でも考えてくれ」
「んふふ、もう」
尊さんと話すと、さっきより大分気持ちが落ち着いているのを自覚した。
(やっぱり凄いな、この人)
「……おやすみなさい」
小さな声で言うと、彼は微笑んで手を振ってくれる。
そして静かに部屋を出て、また書斎に向かった。
(尊さんのためにも、まず早く元気にならないと)
自分に言い聞かせたあと、私はまだ行った事のない北海道に思いを馳せ、ニヤァ……と笑ったのだった。
**
体が痛くてちょいちょい目が覚めたけれど、なんとか朝を迎えられた私は係長にメッセージを入れた。
尊さんに『休め』と言われたものの、いつもは係長に連絡しているから彼に話を通さなければならない。
尊さんが「今日は上村さん休みだから」って言ったら、皆「どうして部長が?」ってなるに決まってるし。
【おはようございます。上村です。すみません、インフルになってしまいまして、熱が四十度近くあるので、お休みさせてください】
するとすぐに既読がついて返事がきた。
【分かった。ゆっくり休めよ。俺も以前にインフルになった時、部長が『一週間は休め』って言ってくれたから、心身共に気楽に休養できたんだよな。課長は文句言うだろうけど、うまく言っとくから大丈夫。お大事に。完治したらバレンタインチョコ楽しみにしてる!】
(あはは……)
係長は物分かりのいい人なので安心したものの、やっぱりチョコ諦めてないのか……と、乾いた笑いが漏れる。
その時、廊下の奥から物音が聞こえ、私はノロノロと起き上がるとお手洗いに行ってからリビングに向かった。
「おはようございます」
まだ掠れた声で挨拶をすると、ワイシャツにベスト姿の尊さんがキッチンに立っていた。
反対側の手でグッとサムズアップしてみせると、尊さんは私の前髪をクシャリと撫でてきた。
「あいつとお揃いで寝込んでるなんて、すげぇやなんだけど」
そんな事で嫉妬してくれるのが嬉しくて、私は思わず笑う。
「尊さんは仲間に入れてあげませんよ。体調崩したら大変な人なんですから」
冗談めかして言うと、彼はなおもサラサラと私の髪を撫でて言った。
「……まったく。……それはそうと、こんな時になんだけど、お楽しみを設定しておこうか」
「……お楽しみ?」
目を瞬かせると、尊さんは優しく微笑む。
「バレンタイン前の連休、温泉行かないか?」
連休デートキター!
私は具合が悪いのも吹っ飛ばして、テンションをぶち上げてしまう。
「いぎまず!」
あまりに勢いづいて言ったので、掠れ声になってしまった。
「寒い冬にあえて北海道へ行って、雪まつりを堪能してから、寿司をたらふく食って、温泉でカニ」
「……最高……!」
私はまた布団から手を出し、サムズアップする。
「……早く元気になりだい……」
尊さんと北海道デートするだけで、どん底だった気分が一気に急上昇し、旅行の事しか考えられなくなる。
「ん、よしよし。じゃあゆっくり休んで温かくしておけよ」
「はい」
また頭を撫でられて目を細めた時、尊さんに少しまじめなトーンで言われた。
「さっきから頻繁に部屋を出入りしてるけど、つらくて眠れないか?」
お手洗いに立っている事を指摘され、私は彼から視線を逸らす。
「その……」
「妙な勘ぐりをして『気持ち悪い』って思ったらすまないが、頻繁にトイレに行かないとならないぐらい大量に出血してる? 女性の普通がどれぐらいか分からないが、三十分に一度は替えないとならないものか?」
尊さんが真剣に心配してくれているのを知り、私は彼の手をキュッと握ってボソボソと答える。
「……立派なベッドだし、シーツとかもきっと高級な物に決まってるし、汚したら申し訳ないと思うと眠れなくて……」
私の答えを聞いた尊さんは溜め息をつき、クシャクシャと私の髪を掻き回してきた。
「あのなぁ……、もうお前はこの家に住む事になるんだから。家具も何もかも自分の物だと思ってくれよ。汚したら洗えばいいんだし、気にするな。まずはゆっくり休む事を考えろ」
半ば呆れたように言われ、私は眉を下げる。
「朱里の遠慮がちなところは美徳だ。でも家族になる相手、自分の家になる場所にまで気を遣わなくていい」
「……はい」
小さく返事をすると、尊さんはマスク越しに私の額にキスをした。
「何も心配しなくていいから、ゆっくり寝てくれ」
彼は私の手をキュッと握り、その指先にもキスをする。
「最悪な時こそ、幸せな未来を想像して過ごすんだ。薬は飲んだし、あとは良くなっていくだけ。一週間もすれば仕事に戻れるし、復帰したあと二週間すれば北海道。どうだ? ワクワクするだろ」
「……ん」
コクンと頷くと、尊さんは私の両手を羽布団の中にしまい、頭をポンポンと撫でた。
「おやすみ。眠れなかったら俺の事でも考えてくれ」
「んふふ、もう」
尊さんと話すと、さっきより大分気持ちが落ち着いているのを自覚した。
(やっぱり凄いな、この人)
「……おやすみなさい」
小さな声で言うと、彼は微笑んで手を振ってくれる。
そして静かに部屋を出て、また書斎に向かった。
(尊さんのためにも、まず早く元気にならないと)
自分に言い聞かせたあと、私はまだ行った事のない北海道に思いを馳せ、ニヤァ……と笑ったのだった。
**
体が痛くてちょいちょい目が覚めたけれど、なんとか朝を迎えられた私は係長にメッセージを入れた。
尊さんに『休め』と言われたものの、いつもは係長に連絡しているから彼に話を通さなければならない。
尊さんが「今日は上村さん休みだから」って言ったら、皆「どうして部長が?」ってなるに決まってるし。
【おはようございます。上村です。すみません、インフルになってしまいまして、熱が四十度近くあるので、お休みさせてください】
するとすぐに既読がついて返事がきた。
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(あはは……)
係長は物分かりのいい人なので安心したものの、やっぱりチョコ諦めてないのか……と、乾いた笑いが漏れる。
その時、廊下の奥から物音が聞こえ、私はノロノロと起き上がるとお手洗いに行ってからリビングに向かった。
「おはようございます」
まだ掠れた声で挨拶をすると、ワイシャツにベスト姿の尊さんがキッチンに立っていた。
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