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元彼との決着 編
婚約指輪について
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「悪い事があったあとには、いい事が待ってる。……たとえば、煮卵つきチャーシュー麺が食べられるとか」
おどけるように言われ、私は思わず「ぶふっ」と噴き出す。
「……さっき、麺がのびる話をしてたから?」
「それ。急にラーメン食いたくなってきた。どう?」
「いきます!」
顔を上げてキリッとした表情で言ったからか、尊さんはクスクス笑った。
「OK! この辺、朱里の縄張りだろ。オススメある?」
「だから~。縄張りって猫みたいに……。えっとですね、ごっついチャーシューを食べられるお店があってですね」
言いながら、私は西日暮里駅近くにある百名店に選出されたラーメン屋の店名を口にした。
「よし、そこ行くか!」
尊さんは後部座席のドアを開けて運転席に移動し、私も助手席に座る。
「出発ブンブン!」
あえて明るく言うと、尊さんはクスクス笑ってから「ブンブン」と言ってくれた。
駐車場を出たあと、運転しながら彼が言う。
「色々落ち込んじまう時はあるけど、大体カロリーとって寝たらどうにかなるよ。俺も元気を出したい時は、チャーシュー麺や肉食ってた」
「やっぱりお肉って正義ですよね……」
私がハッと気づいたように言ったので、尊さんは「ぶふっ」と噴き出す。
「だな、正義だ。これからも、やな事があった時は二人でチャーシュー麺食っていこうぜ」
「……独創的なプロポーズですね」
わざと真顔で突っ込むと、彼は「おい」と脱力する。
「嘘ですって!」
「そうだ、朱里」
「はい?」
今の流れなので軽い調子で返事をすると、赤信号で止まった尊さんはこちらを見てニヤッと笑う。
「婚約指輪と結婚指輪の希望、固めておけよ」
「へっ?」
目を丸くすると、クシャクシャと頭を撫でられる。
「もう上村家に挨拶したし、これから祖父様やちえりさんのところにも行って公認になる。その時、お前の指に篠宮家、速水家が納得する婚約指輪がなかったら、俺が皆に嗤われるよ」
「う……、うう……」
まさかそんな問題があると思わず、私は何も言えずにうめく。
「……お、お高い万円のはいいですからね?」
「諦めろ。一生に一度しかない結婚式なんだから、指輪もドレスも式場も料理も新婚旅行も、とことん金かけるぞ」
「Oh……」
「チャーシュー麺プロポーズしたからって、指輪が輪切りネギで済むと思うなよ」
「んぶふっ」
彼の冗談に思わず笑ってしまったものの、自分の指に高級な指輪が嵌まるのは想像できない。
お洒落は好きだから、アクセサリーもある程度持っている。
でも高級なアクセサリーを持つより美味しい物を食べたいので、ハイブランドの物は持っていなかった。
ボーナスが出た時に五万円ぐらいの指輪を買ったものの、『こういうのはハマったらキリがなくてやばそうだな』と思い、お気に入りのそれを毎日つける事にした。
それでもやっぱり、綾子さんみたいに高級ブランドを身につけている人を見ると、ちょっとだけ羨ましくなる。
けれど「自分が一番大切にしたいものは?」と改めて考えると、恵と一緒に美味しい物を食べたり、旅行に行く事だ。
勿論デパコスも好きなんだけど、絶対に欲しい物だけを厳選して買うようにしている。
他にもたまには家族にご馳走しようと思って食事会を開く事もあるし、自分にとって嬉しいお金の使い方って、誰かと喜びを共有する事だと気づいた。
だから私は高価な物を身につけていないし、そういう物に慣れていない。
「……婚約指輪って、どうやって買うんですか?」
「んー、気になるブランドをネットで調べて、公式サイトでデザインやら何やら、自分が気に入るもんに目星をつけて。店舗を絞って直接店に行って、嵌めてみて『これがいい』ってのを見つけるんじゃないか?」
「なるほど、確かにそれが一番現実的ですね」
ドラマでは急にジュエリー店に駆け込んで、彼女の指輪の号数を言って即日買い、いきなりプロポーズ! なんてのもあったから、いまいちリアル事情が分からなかった。
「あとはブライダル雑誌でも特集組んでるんじゃないか?」
「あー、確かにそうですね。でも誌面に載るのは一部でしょうし、やっぱりネットから探すほうがよさげかもです」
「じゃあ、帰ったら二人で見てみるか」
「はい」
会話をしている間にも車はラーメン屋の近くの駐車場に停まり、私たちは歩いてお店に向かう。
並び時間にスマホで指輪を調べたけれど、「色々あるなぁ」と思っている間に順番がきてしまった。
でっかいチャーシューがのった醤油ラーメンをハフハフと食べていると、多幸感に満ちあふれて昭人の事はどうでも良くなってくる。
(あんだけ尊さんが脅してくれたなら、多分もう姿を現さないだろうし、私もいい加減前を向こう)
逃がした魚は大きいと言うけれど、私の場合、よく見てみたら大した事のない魚だった。
それを確認できただけでもめっけもんだ。
ラーメンを食べたあとは、すぐ近くなので私の家に行き、お茶を飲みながら指輪のリサーチをして過ごした。
**
おどけるように言われ、私は思わず「ぶふっ」と噴き出す。
「……さっき、麺がのびる話をしてたから?」
「それ。急にラーメン食いたくなってきた。どう?」
「いきます!」
顔を上げてキリッとした表情で言ったからか、尊さんはクスクス笑った。
「OK! この辺、朱里の縄張りだろ。オススメある?」
「だから~。縄張りって猫みたいに……。えっとですね、ごっついチャーシューを食べられるお店があってですね」
言いながら、私は西日暮里駅近くにある百名店に選出されたラーメン屋の店名を口にした。
「よし、そこ行くか!」
尊さんは後部座席のドアを開けて運転席に移動し、私も助手席に座る。
「出発ブンブン!」
あえて明るく言うと、尊さんはクスクス笑ってから「ブンブン」と言ってくれた。
駐車場を出たあと、運転しながら彼が言う。
「色々落ち込んじまう時はあるけど、大体カロリーとって寝たらどうにかなるよ。俺も元気を出したい時は、チャーシュー麺や肉食ってた」
「やっぱりお肉って正義ですよね……」
私がハッと気づいたように言ったので、尊さんは「ぶふっ」と噴き出す。
「だな、正義だ。これからも、やな事があった時は二人でチャーシュー麺食っていこうぜ」
「……独創的なプロポーズですね」
わざと真顔で突っ込むと、彼は「おい」と脱力する。
「嘘ですって!」
「そうだ、朱里」
「はい?」
今の流れなので軽い調子で返事をすると、赤信号で止まった尊さんはこちらを見てニヤッと笑う。
「婚約指輪と結婚指輪の希望、固めておけよ」
「へっ?」
目を丸くすると、クシャクシャと頭を撫でられる。
「もう上村家に挨拶したし、これから祖父様やちえりさんのところにも行って公認になる。その時、お前の指に篠宮家、速水家が納得する婚約指輪がなかったら、俺が皆に嗤われるよ」
「う……、うう……」
まさかそんな問題があると思わず、私は何も言えずにうめく。
「……お、お高い万円のはいいですからね?」
「諦めろ。一生に一度しかない結婚式なんだから、指輪もドレスも式場も料理も新婚旅行も、とことん金かけるぞ」
「Oh……」
「チャーシュー麺プロポーズしたからって、指輪が輪切りネギで済むと思うなよ」
「んぶふっ」
彼の冗談に思わず笑ってしまったものの、自分の指に高級な指輪が嵌まるのは想像できない。
お洒落は好きだから、アクセサリーもある程度持っている。
でも高級なアクセサリーを持つより美味しい物を食べたいので、ハイブランドの物は持っていなかった。
ボーナスが出た時に五万円ぐらいの指輪を買ったものの、『こういうのはハマったらキリがなくてやばそうだな』と思い、お気に入りのそれを毎日つける事にした。
それでもやっぱり、綾子さんみたいに高級ブランドを身につけている人を見ると、ちょっとだけ羨ましくなる。
けれど「自分が一番大切にしたいものは?」と改めて考えると、恵と一緒に美味しい物を食べたり、旅行に行く事だ。
勿論デパコスも好きなんだけど、絶対に欲しい物だけを厳選して買うようにしている。
他にもたまには家族にご馳走しようと思って食事会を開く事もあるし、自分にとって嬉しいお金の使い方って、誰かと喜びを共有する事だと気づいた。
だから私は高価な物を身につけていないし、そういう物に慣れていない。
「……婚約指輪って、どうやって買うんですか?」
「んー、気になるブランドをネットで調べて、公式サイトでデザインやら何やら、自分が気に入るもんに目星をつけて。店舗を絞って直接店に行って、嵌めてみて『これがいい』ってのを見つけるんじゃないか?」
「なるほど、確かにそれが一番現実的ですね」
ドラマでは急にジュエリー店に駆け込んで、彼女の指輪の号数を言って即日買い、いきなりプロポーズ! なんてのもあったから、いまいちリアル事情が分からなかった。
「あとはブライダル雑誌でも特集組んでるんじゃないか?」
「あー、確かにそうですね。でも誌面に載るのは一部でしょうし、やっぱりネットから探すほうがよさげかもです」
「じゃあ、帰ったら二人で見てみるか」
「はい」
会話をしている間にも車はラーメン屋の近くの駐車場に停まり、私たちは歩いてお店に向かう。
並び時間にスマホで指輪を調べたけれど、「色々あるなぁ」と思っている間に順番がきてしまった。
でっかいチャーシューがのった醤油ラーメンをハフハフと食べていると、多幸感に満ちあふれて昭人の事はどうでも良くなってくる。
(あんだけ尊さんが脅してくれたなら、多分もう姿を現さないだろうし、私もいい加減前を向こう)
逃がした魚は大きいと言うけれど、私の場合、よく見てみたら大した事のない魚だった。
それを確認できただけでもめっけもんだ。
ラーメンを食べたあとは、すぐ近くなので私の家に行き、お茶を飲みながら指輪のリサーチをして過ごした。
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