【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜

文字の大きさ
上 下
192 / 525
実家に挨拶 編

朱里を宜しくお願いします

しおりを挟む
「ご心配されるお気持ちはよく分かります。私は亡くした母と妹以外の、家族の愛をよく知りません。篠宮の父や兄とは深く関わらず、実母は速水家と絶縁した状態にありました。実母亡きあと、叔母や従兄妹と会う事があり、彼らとは仲良くしてもらえています。確かに一筋縄でいかない家だと思いますが、大きな会社の中にいるのは私たちと同じ〝人〟です」

 皆、まじめな表情で尊さんの言葉を聞いていた。

「父と兄には朱里さんとの結婚をすでに認めてもらい、父方の祖父にも結婚の了承を得ています。母方の親族とは一部の人としか会っていないのですが、これを機にしっかり向き合っていきたいと思っています。その時、何か言われる事があるなら、双方納得いくまで十分に話し合っていきたいと思っています。結婚後、朱里さんが心地よく生活していける環境を整えるのを第一の目標とします。……ですから、どうか私と朱里さんの結婚をお許しください」

 そこまで言い、尊さんは深く頭を下げた。

 私との未来のためにここまでしてくれる彼を見て、胸の奥から愛しさがこみ上げてくる。

 だから私も、両親を見て訴えた。

「私からもお願いします! 今まで、怜香さんも交えた色んな事があったの。でも尊さんはいつでも私を一番に考えてくれた。彼ほど私を愛してくれる人はいないし、私だって尊さん以外の人を好きになれない」

 話しているうちに、声が涙で歪んでしまう。

 どうしても許してほしくて、私は黙っておこうと思った事を口にした。

「私、中学二年生の時に、名古屋の橋から飛び降りようとした」

 それを聞き、母がハッと顔を強張らせる。

「お父さんを喪ってつらくて、ズタズタになって『生きていてもしょうがない』って思って死のうとした。……でもその時、二十歳の尊さんがいて私を引き留めてくれたの。彼も色んな事があって傷付いてるのに、『生きてくれ』って言ってくれた」

 ホテルで彼の話を聞いた時の事を思いだし、私は涙を零す。

「本当に、尊さんは酷い目に遭ったの。……でも、彼の心の中には大好きなお母さんと妹さんがいて、どんなに絶望してもいい人として生きていくって決めてる。他人の事なんて考える余裕がないぐらいつらいくせに、……っこの人、本当に優しいの」

 私は泣き笑いの表情になり、ボロボロと大粒の涙を零す。

「大丈夫だよ! 尊さんは絶対に私を守ってくれる。頭がいいし、人の事を考えられる器の大きな人だから、どんな事があっても人を大切にして円滑にやっていける能力がある。お母さんが言うとおり、名家の人たちから何を言われるか分からなくて不安なところはある。でも、尊さんが『大丈夫』っていうなら、大丈夫なんだと信じてる。できない約束はしない人だもん」

 私は尊さんの手を握り、もう一度両親を見て頭を下げた。

「お願いします! 私には尊さんしかいない。……結婚させてください」

 俯くと、ポトポトと涙が零れて膝の上に落ちる。

 悲しくもないのに、もっと冷静に話せるはずだったのに、感情が高ぶって涙が出てしまう。

 大切な人の事を伝えるだけで、こんなにも胸が一杯になる。

 私の中は、もう尊さんへの愛で満たされている。

 しばらく私たちは頭を下げていたけれど、継父が声を掛けてきた。

「頭を上げなさい。何も反対してる訳じゃないんだから」

 尊さんと一緒にゆっくり顔を上げると、両親は困ったように微笑んでいた。

「朱里の気持ちは十分に分かったわ。二人が愛し合ってるって分かったし、もう何も文句は言わない」

 母に言われ、私はホッ……と息を吐く。

「これから先、大変そうだけど大丈夫か心配になっただけなんだけど、不安にさせてごめんなさいね。でも朱里の力説を聞いて『大丈夫そう』って思えた。朱里がこんなに感情的になるの、初めて見た気がしたわ」

 微笑まれ、私はカーッと赤面する。……熱くなりすぎた……。

「今、篠宮さんの家は大変そうだけど、結婚式の予定はどうなってるかしら? 両家の挨拶とかも、それに合わせて行うべき時期があると思うし」

 先の事を話され、私は超えるべきハードルをクリアしたのを感じた。

 尊さんは微笑んで応える。

「その事もありまして、まだ少し先にしようと思っています。上村家ご家族の了承を得られても、披露宴をした時にいざ『噂の……』となっては興ざめです。朱里さんとは来年の後半ぐらいに……という相談はしています」

 彼の言葉を聞いて、両親は安心したようだった。

「そうですね。一年もあればテレビのニュースでも別の事が話題になっていると思います。それぐらい期間があればじっくり準備できると思いますし、思い出に残る式を挙げてください」

 継父に言われ、私は「じゃあ……」と期待して両親を見る。

「朱里を宜しくお願いします」

 承諾の言葉を得て、胸がキューッとなってしまい、私はポロポロ涙を零した。
しおりを挟む
感想 798

あなたにおすすめの小説

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ
恋愛
過去の恋愛から恋をすることに憶病になっていた河野梨音は、会社の次期社長である立花翔真が女性の告白を断っている場面に遭遇。 なりゆきで彼を助けることになり、お礼として食事に誘われた。 その時、お互いの恋愛について話しているうちに、梨音はトラウマになっている過去の出来事を翔真に打ち明けた。 話を聞いた翔真から恋のリハビリとして偽装恋愛を提案してきて、悩んだ末に受け入れた梨音。 偽恋人として一緒に過ごすうちに翔真の優しさに触れ、梨音の心にある想いが芽吹く。 だけど二人の関係は偽装恋愛でーーー。 *他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正版です。 性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

処理中です...