上 下
166 / 464
恵 編

基本的に他人に興味ねぇし

しおりを挟む
「俺、とりあえずビール飲んどくわ」

 尊さんはチラッとドリンクメニューを見てから即決し、店員に注文する。

「篠宮さん、食べたい物があったら自分で注文してくださいね。あと、私たちは割り勘のつもりで控えめに注文してましたが、篠宮さんの奢りという事で遠慮なく食べます」

 恵の図々しいとも言える言葉を聞いても、尊さんは「ははっ」と笑うだけだった。

「どうぞ遠慮せず食ってくれ」

 そのあと三人で食べたい物を注文したあと、再度三人で「お疲れ様」と乾杯した。

「……で、二人の話は解決したのか?」

 尊さんが切り出し、私はコクンと頷く。

「二十代の篠宮さんが、どんだけ病んで朱里を気にしてたかは話してませんけど、お互い知ってる事を話して状況を把握しました」

 恵の言葉を聞き、尊さんはじっとりとした目で彼女を見る。

「中村さん、君ね……。割と……、言うね……」

「あはは! もう開き直りましたから」

 恵はケロッと明るく言い、手をヒラヒラと振る。

 その様子を見て、尊さんは微笑みながら溜め息をついた。

「……まぁ、良かったよ。俺のやってた事は非常識だったし、中村さんを利用して二人の友情に亀裂が入ったらどうしようとか……、会社で悶々としてた」

 やっぱりそう思ってたか。

「大丈夫ですよ。流れ上、尊さんが責任を感じるのは仕方ないですけど、私たち二十六歳ですよ? 成熟しきった……とは言えませんけど、ちゃんと話し合える大人で、親友同士です」

 私が言うと、尊さんは頷いてからビールを飲んだ。

「女の友情は固いな」

「そうですよ。篠宮さんが首を突っ込む前からの仲ですから」

「中村さん……、当たり強いのヤメテ……」

 尊さんがしょんぼり顔で言うものだから、私たちはつい顔を見合わせて笑ってしまった。

「……私の恋が叶わないのはともかく、付き合ってるなら朱里をちゃんとしたデートに誘ってあげてくださいよ」

 恵に言われ、尊さんは申し訳なさそうな顔で私を見た。

「すまん。ちゃんとする」

「や、いいんですよ! 付き合ってからバタバタしてたのは、私が一番分かってますし。こないだ横浜帰りに言ってましたけど、そのうち温泉とかランドとか色々行く……んですもんね?」

「ああ、朱里の行きたい所に、どこでも連れて行く」

「言質とりましたからね」

 恵はそう言ってからグラスを傾け、二杯目のビールを呷る。

 トン、とテーブルにグラスを置いてから、彼女は渦中の尊さんに話題を振った。

「それはそうと、噂の的ですけど大丈夫です? 私たちの心配をしてる場合じゃないでしょう」

「あー……」

 彼は少し上を向いて考える素振りを見せる。

「……まぁ、〝上〟の話し合いではなんとかなる……感じかな」

「前に予想していたような感じになります?」

 私が尋ねると、尊さんは「多分な」と頷いた。

 詳細を言わないのは〝外〟で不用意に社内の事を言いたくないからだろう。

「篠宮さんは大丈夫なんです? 色々言われてるじゃないですか」

「まーなぁ……」

 今日なんて、胸糞悪い会話を聞いてしまった。

 社食から戻る時、他部署の男性社員がこんな会話をしていた。

『速水部長ってあのイケメンだろ? 若くて部長なのに、実は御曹司ってマジかよ』

『天は二物を与えるのかね~。でも社長が不倫して生まれた子だろ? 隠し子が同じ会社にいるとか、どんな昼ドラだよ』

『速水部長と付き合いたいって女多いけど、金目当てで分かりやすっ。それに結婚しても、部長の両親からは祝福されないだろ? お気の毒ー』

『ウケる。父親は不倫で、母親は鬼籍? 継母は逮捕。それでも顔が良くて金持ってたら結婚したいのかね。女ってこえー』

 そんな会話を聞いた私は、後ろから思い切り殴ってやりたくて堪らなかった。

 恵が腕を組んで私を押さえてくれていたから、暴れずに済んだけど……。

 尊さんは生ハムを取り皿にとりつつ言う。

「俺、こないだ『人を大切にしたい』とは言ったけど、関わる人全員を……なんて、菩薩みたいな事は考えてねぇから大丈夫。外野の言葉でいちいち傷付かねぇわ」

 サラッと言ったのを聞いて、とりあえず安心した。

「朱里は俺を『愛情深い』って言ってくれるけど、本当に大切にしたいのはごく身近な人だけだ。あとはうまく生きていくために利用していく感じ。基本的に他人に興味ねぇし」

『興味がない』とハッキリ言われ、私は目を見開いた。
しおりを挟む
感想 267

あなたにおすすめの小説

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

処理中です...