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亮平 編
守られてるんだ
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「『YOU』」
「ユー?」
私は思わずオウム返しに尋ねたあと、「あっ」と声を上げた。アプリだ。
『YOU』は恋人用にも使えるし、ビジネスでも使えるアプリで、特定の相手とスケジュールを同期し、通話やメッセージも使える上に、位置情報も確認できる。
なんでも共有したい恋人にはぴったりだし、仕事でも秘書がよく使うらしい。
付き合い始めた頃に、予定を共有するのに二人でアプリを入れる事にし、位置情報の事なども確認されたけれど、特に抵抗はなかった。
まさかそれが役立つとは……。
スマホは亮平にとられたままだけど、私はスマートウォッチ派なのでそちらを追跡してくれたんだと思う。
「あんまり位置情報を多用するのは良くないかと思ったけど、さっき電話の向こうに誰かいたみたいだったし、変な雰囲気だったから問答無用で使って、車をかっ飛ばした。……無事で良かったよ」
言われてその時に気づいたけれど、尊さんは慌てて出てきたような格好をしていた。
いつものように髪をセットしてないし、むしろ寝癖がついてる。
カーキ色のモッズコートの下は、オレンジのパーカーとジーンズ。靴はスニーカー。いつもなら考えられないカジュアルさだ。
(……でもそんな尊さんもカッコイイ……)
イケメンは何を着ても似合ってしまうのだ。たとえ寝癖がついていてもカッコイイ。むしろ可愛い。
「……なんで横浜にいる? 今日、実家に行くんじゃなかったのか?」
尊さんは戸惑った顔で尋ねてくる。
そうなるのは無理ない。私だって想像していなかったから。
「……亮……、……継兄が迎えに来たんだけど、途中から変な感じになって、車でそのまま……」
気まずく言うと、尊さんは「あー……」と納得したように声を漏らして何回か頷いた。
「変な事はされてないか?」
「うん、大丈夫です。あの人、変な空気を醸し出すのはいつもの事だけど、私に直接手を出す勇気はないと思う。ヘタレだもん」
「……〝いつもの事〟か……」
尊さんは溜め息混じりに言い、私の手を握っている手に少し力を込める。
「……家族間の事だろうけど、今度からは、抵抗がなかったら俺に相談してくれ。家族仲を壊す真似はしない。でも朱里の気持ちを楽にする手助けをできるかもしれないし、恋人として失礼にならない範囲でお兄さんに一言いう事もできる」
「……はい」
思いやる言葉を聞いて、今になって自分に彼氏ができた実感を得た。
亮平や美奈歩の事は、今まで母に言う事もできず、一人で対処するしかなかった。
恵や昭人には愚痴を聞いてもらっていたけれど、二人が『何か言おうか?』って提案してくれても、事態が悪化するのを怖れて拒否していた。
でも尊さんなら、事を荒立てずに上手に私を守ってくれるかもしれない。
(……守られてるんだ。……頼っていいんだ……)
生まれて初めて、誰かの手をとって頼り、縋る事ができる。
なんでも『一人でなんとかしなきゃ』と思っていた私には、周囲から見れば些細な事であっても大きな変化だった。
「…………っ」
立ち止まった私は、尊さんに抱きつく。
「ん? どうした?」
彼は私の頭をポンポンと撫で、優しい声を掛けてくる。
「…………っ、ありがとう……っ、――――ございます……っ」
泣いてしまうのを必死に堪えたけれど、声は震えてしまった。
それを聞いて、尊さんは何か感じたんだろうか。
「大丈夫だ。俺が守る」
彼は理由を深く聞かなかったけれど、そう言って優しく私を抱き締めてくれた。
「っ~~~~……っ」
――ありがとう。
泣いたら困らせると思ったのに、涙がポロポロ零れてしまう。
尊さんは静かに嗚咽する私を抱き締め、人目から守るように大きな体でそっと隠してくれた。
落ち着いたあと、私たちは横浜中華街を楽しむ事にした。
「尊さん、来た事あるんですか?」
「何度かな。そこまで詳しい訳じゃねぇけど、自分で調べたのに加えて、知り合いからも話を聞いてオススメの店を教えてもらってはいる」
「さすがグルメ……」
感心して呟くと、尊さんが意地悪にニヤッと笑った。
「お前は食いしん坊だから、センサーが働くんじゃないか? この辺からピピッと」
そう言って、彼は私の額をツンツンつつく。
「もぉぉ……」
笑って肘で尊さんを小突いた時――、聞きたくない声が耳に届いた。
「……朱里?」
ギクッとして身を竦ませ、ゆっくりそちらを見ると、雑踏の向こうに亮平がいた。
「ユー?」
私は思わずオウム返しに尋ねたあと、「あっ」と声を上げた。アプリだ。
『YOU』は恋人用にも使えるし、ビジネスでも使えるアプリで、特定の相手とスケジュールを同期し、通話やメッセージも使える上に、位置情報も確認できる。
なんでも共有したい恋人にはぴったりだし、仕事でも秘書がよく使うらしい。
付き合い始めた頃に、予定を共有するのに二人でアプリを入れる事にし、位置情報の事なども確認されたけれど、特に抵抗はなかった。
まさかそれが役立つとは……。
スマホは亮平にとられたままだけど、私はスマートウォッチ派なのでそちらを追跡してくれたんだと思う。
「あんまり位置情報を多用するのは良くないかと思ったけど、さっき電話の向こうに誰かいたみたいだったし、変な雰囲気だったから問答無用で使って、車をかっ飛ばした。……無事で良かったよ」
言われてその時に気づいたけれど、尊さんは慌てて出てきたような格好をしていた。
いつものように髪をセットしてないし、むしろ寝癖がついてる。
カーキ色のモッズコートの下は、オレンジのパーカーとジーンズ。靴はスニーカー。いつもなら考えられないカジュアルさだ。
(……でもそんな尊さんもカッコイイ……)
イケメンは何を着ても似合ってしまうのだ。たとえ寝癖がついていてもカッコイイ。むしろ可愛い。
「……なんで横浜にいる? 今日、実家に行くんじゃなかったのか?」
尊さんは戸惑った顔で尋ねてくる。
そうなるのは無理ない。私だって想像していなかったから。
「……亮……、……継兄が迎えに来たんだけど、途中から変な感じになって、車でそのまま……」
気まずく言うと、尊さんは「あー……」と納得したように声を漏らして何回か頷いた。
「変な事はされてないか?」
「うん、大丈夫です。あの人、変な空気を醸し出すのはいつもの事だけど、私に直接手を出す勇気はないと思う。ヘタレだもん」
「……〝いつもの事〟か……」
尊さんは溜め息混じりに言い、私の手を握っている手に少し力を込める。
「……家族間の事だろうけど、今度からは、抵抗がなかったら俺に相談してくれ。家族仲を壊す真似はしない。でも朱里の気持ちを楽にする手助けをできるかもしれないし、恋人として失礼にならない範囲でお兄さんに一言いう事もできる」
「……はい」
思いやる言葉を聞いて、今になって自分に彼氏ができた実感を得た。
亮平や美奈歩の事は、今まで母に言う事もできず、一人で対処するしかなかった。
恵や昭人には愚痴を聞いてもらっていたけれど、二人が『何か言おうか?』って提案してくれても、事態が悪化するのを怖れて拒否していた。
でも尊さんなら、事を荒立てずに上手に私を守ってくれるかもしれない。
(……守られてるんだ。……頼っていいんだ……)
生まれて初めて、誰かの手をとって頼り、縋る事ができる。
なんでも『一人でなんとかしなきゃ』と思っていた私には、周囲から見れば些細な事であっても大きな変化だった。
「…………っ」
立ち止まった私は、尊さんに抱きつく。
「ん? どうした?」
彼は私の頭をポンポンと撫で、優しい声を掛けてくる。
「…………っ、ありがとう……っ、――――ございます……っ」
泣いてしまうのを必死に堪えたけれど、声は震えてしまった。
それを聞いて、尊さんは何か感じたんだろうか。
「大丈夫だ。俺が守る」
彼は理由を深く聞かなかったけれど、そう言って優しく私を抱き締めてくれた。
「っ~~~~……っ」
――ありがとう。
泣いたら困らせると思ったのに、涙がポロポロ零れてしまう。
尊さんは静かに嗚咽する私を抱き締め、人目から守るように大きな体でそっと隠してくれた。
落ち着いたあと、私たちは横浜中華街を楽しむ事にした。
「尊さん、来た事あるんですか?」
「何度かな。そこまで詳しい訳じゃねぇけど、自分で調べたのに加えて、知り合いからも話を聞いてオススメの店を教えてもらってはいる」
「さすがグルメ……」
感心して呟くと、尊さんが意地悪にニヤッと笑った。
「お前は食いしん坊だから、センサーが働くんじゃないか? この辺からピピッと」
そう言って、彼は私の額をツンツンつつく。
「もぉぉ……」
笑って肘で尊さんを小突いた時――、聞きたくない声が耳に届いた。
「……朱里?」
ギクッとして身を竦ませ、ゆっくりそちらを見ると、雑踏の向こうに亮平がいた。
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