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亮平 編
拉致
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「血が繋がってなくても兄妹なんだから、〝女〟とか言うのやめて」
ピシャッと言うと、それっきり亮平は黙ってしまった。
(何でこうなったんだろ……)
溜め息をついた時、気づいてしまった。
「あれ……?」
車で西日暮里から吉祥寺に向かうのはこれが初めてではないから、いつもの道のりは分かっている。
「なんで曲がった? ……ドーム見えるじゃん……」
本来なら新青梅街道を通ってまっすぐ西に向かわないといけないのに、車は南に向かっている。
「ねぇ!」
ハンドルを握っている亮平を見ると、彼は白々しく言った。
「中華食いたくなった」
「は?」
私は目をまん丸に見開いてしばし固まったあと、亮平に拉致されている事に気づく。
(マジか……!)
「おぉう……」
思わず声を漏らすと、「どこの国出身だよ」と突っ込まれた。
「あーあ、もう……。私がまた美奈歩に睨まれるんだからね」
諦めて溜め息をついた私は、スマホで母に連絡を入れる。
「言っておくけど! 変な真似しようとしたら、降りて一人で帰るからね。さっきあんたが言った事も家族にバラす」
「……分かってるよ。ちょっと継妹と出かけたいって思っただけだろ。なんで犯罪者扱いされないといけないんだよ」
「キモいから」
「……キモいって言うなよ。シンプルに傷付く」
「シンプルに気持ち悪い」
言い返すと、亮平は「はー……」と溜め息をついた。
「……俺、こんな反応をされるほど嫌な事をしたか? いじめた覚えはないし、できるだけ平和的に過ごしていたつもりだ。でもお前は一度も俺に心を開かなかっただろ」
正面切って言われ、私は溜め息をついて亮平に向き合う覚悟を決めた。
「……人のせいにしたい訳じゃないけど、親が再婚する時、あんた達はすでに仲良し兄妹だったじゃない。美奈歩は亮平の事大好きだし」
「確かに仲は悪くない。兄妹だと妹に『気持ち悪い』って言われる事が多いらしいから、そうならないように気を遣って〝いい兄〟でいようと努力した結果だと思ってる」
「兄妹仲がいいのはいい事だけど、もう二人は兄妹として〝完成〟されてる。だから外部から得体の知れない女が入ってこようとして、美奈歩は居心地のいい巣を守るために敵対心を持ったんじゃない?」
「巣って……、動物じゃないんだから」
亮平は呆れたように言う。
「人が人を嫌うのって、本能的な感情だと思うよ。話した事もない人を家の中に上げたくないじゃない。物を盗むかもしれないし、傷つけてくるかもしれない。私が男だったら美奈歩は性的な恐怖を覚えたかもしれない」
「だからって……。もう十年だぞ」
溜め息混じりに言う亮平は、美奈歩が私に向ける敵意を分かっていないんだろう。
「女だから女を嫌うんだよ。私はよく同性に嫌われるから、そういう視線や態度に敏感なの」
そう言った私は、あまり同性の友達に恵まれなかった人生を振り返る。
「女子って群れを作りたがるから、自分の敵にならないかを重視する。平均的で、長いものに巻かれるタイプの人は、周りに溶け込むからうまくやっていけるんじゃない? でもちょっとでも目立つと〝異物〟扱いされるの」
私は助手席で脚を組み、溜め息をつく。
「自分で言いたくないけど、私、よく『美人』とか『胸が大きい』とか言われる。すぐに褒め言葉が出てくる人って、それが理由で敵も作りやすいの。私にその気がなくても、『彼氏をとられるかもしれない』と思い込む人がいるし、普通に男の人と話しているだけなのに『色目を使った』って陰口叩かれる。これでも胸が目立たないように、下着や服にお金を掛けて努力してるのに、『体で誘惑してる。下品』とか、好き放題言われるの。……なんならこの脂肪くれてやるっつの」
吐き捨てるように言うと、女性の事情を知らなかったらしい亮平は「大変なんだな」と呟いた。
「勿論、全員がそうじゃない。こんな私に魅力を感じて『仲良くしたい』って近づいてくれる同性もいる。そういう人はありがたいから、良い関係を築けるように努力してるけどね。……でもその人たちに『やめときなよ』って囁く人がいる。私に味方が増えるのが気に食わないから、一人でも多く自分たちの泥沼に引きずり込みたいの」
「なんでそこまでして敵視されるんだよ。朱里、今まで誰かの男をとったのか?」
「まさか! そんな事する訳ないでしょ」
悲鳴混じりに言ったあと、私は溜め息をついた。
ピシャッと言うと、それっきり亮平は黙ってしまった。
(何でこうなったんだろ……)
溜め息をついた時、気づいてしまった。
「あれ……?」
車で西日暮里から吉祥寺に向かうのはこれが初めてではないから、いつもの道のりは分かっている。
「なんで曲がった? ……ドーム見えるじゃん……」
本来なら新青梅街道を通ってまっすぐ西に向かわないといけないのに、車は南に向かっている。
「ねぇ!」
ハンドルを握っている亮平を見ると、彼は白々しく言った。
「中華食いたくなった」
「は?」
私は目をまん丸に見開いてしばし固まったあと、亮平に拉致されている事に気づく。
(マジか……!)
「おぉう……」
思わず声を漏らすと、「どこの国出身だよ」と突っ込まれた。
「あーあ、もう……。私がまた美奈歩に睨まれるんだからね」
諦めて溜め息をついた私は、スマホで母に連絡を入れる。
「言っておくけど! 変な真似しようとしたら、降りて一人で帰るからね。さっきあんたが言った事も家族にバラす」
「……分かってるよ。ちょっと継妹と出かけたいって思っただけだろ。なんで犯罪者扱いされないといけないんだよ」
「キモいから」
「……キモいって言うなよ。シンプルに傷付く」
「シンプルに気持ち悪い」
言い返すと、亮平は「はー……」と溜め息をついた。
「……俺、こんな反応をされるほど嫌な事をしたか? いじめた覚えはないし、できるだけ平和的に過ごしていたつもりだ。でもお前は一度も俺に心を開かなかっただろ」
正面切って言われ、私は溜め息をついて亮平に向き合う覚悟を決めた。
「……人のせいにしたい訳じゃないけど、親が再婚する時、あんた達はすでに仲良し兄妹だったじゃない。美奈歩は亮平の事大好きだし」
「確かに仲は悪くない。兄妹だと妹に『気持ち悪い』って言われる事が多いらしいから、そうならないように気を遣って〝いい兄〟でいようと努力した結果だと思ってる」
「兄妹仲がいいのはいい事だけど、もう二人は兄妹として〝完成〟されてる。だから外部から得体の知れない女が入ってこようとして、美奈歩は居心地のいい巣を守るために敵対心を持ったんじゃない?」
「巣って……、動物じゃないんだから」
亮平は呆れたように言う。
「人が人を嫌うのって、本能的な感情だと思うよ。話した事もない人を家の中に上げたくないじゃない。物を盗むかもしれないし、傷つけてくるかもしれない。私が男だったら美奈歩は性的な恐怖を覚えたかもしれない」
「だからって……。もう十年だぞ」
溜め息混じりに言う亮平は、美奈歩が私に向ける敵意を分かっていないんだろう。
「女だから女を嫌うんだよ。私はよく同性に嫌われるから、そういう視線や態度に敏感なの」
そう言った私は、あまり同性の友達に恵まれなかった人生を振り返る。
「女子って群れを作りたがるから、自分の敵にならないかを重視する。平均的で、長いものに巻かれるタイプの人は、周りに溶け込むからうまくやっていけるんじゃない? でもちょっとでも目立つと〝異物〟扱いされるの」
私は助手席で脚を組み、溜め息をつく。
「自分で言いたくないけど、私、よく『美人』とか『胸が大きい』とか言われる。すぐに褒め言葉が出てくる人って、それが理由で敵も作りやすいの。私にその気がなくても、『彼氏をとられるかもしれない』と思い込む人がいるし、普通に男の人と話しているだけなのに『色目を使った』って陰口叩かれる。これでも胸が目立たないように、下着や服にお金を掛けて努力してるのに、『体で誘惑してる。下品』とか、好き放題言われるの。……なんならこの脂肪くれてやるっつの」
吐き捨てるように言うと、女性の事情を知らなかったらしい亮平は「大変なんだな」と呟いた。
「勿論、全員がそうじゃない。こんな私に魅力を感じて『仲良くしたい』って近づいてくれる同性もいる。そういう人はありがたいから、良い関係を築けるように努力してるけどね。……でもその人たちに『やめときなよ』って囁く人がいる。私に味方が増えるのが気に食わないから、一人でも多く自分たちの泥沼に引きずり込みたいの」
「なんでそこまでして敵視されるんだよ。朱里、今まで誰かの男をとったのか?」
「まさか! そんな事する訳ないでしょ」
悲鳴混じりに言ったあと、私は溜め息をついた。
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