122 / 464
確かめ合う気持ち 編
側にいますし、支えます
しおりを挟む
「怜香さんが舞台から去った今、私たちの結婚に反対する人はいなくなったと思います。……でもそれだけじゃ済みませんよね」
気になっていた事を言うと、彼は真剣な表情で重々しく頷く。
「ああ、あいつがやらかした事がニュースになれば、篠宮フーズの株価は大暴落、バッシングされるだろう。母が社長の不倫相手と知られれば、父が叩かれるのは勿論、俺が婚外子である事も明るみになり、渦中の人となる」
これから訪れる事を予想し、私はギュッと尊さんの手を握った。
「側にいますし、支えます」
「……これから父や兄貴、役員たちが火消しに奔走するだろう。騒ぎが収まるまでは静かにしていたほうがいい。結婚式を挙げるまでは時間が掛かるし、式場や招待客などもまだ決まってない。会社ではしばらく今まで通り上司と部下を通して、ほとぼりが冷めた頃に式を挙げよう。何もこっちから周りを刺激する必要はないから」
「はい」
亘さんは特に大変な思いをするだろうけど、彼がすべての元凶でもあるんだから、しっかり責任を取ってほしい。
「……尊さんは大丈夫ですか?」
「ん?」
彼は優しい顔で尋ねてくる。
「今まで〝速水部長〟として過ごしてきたのに、実は社長の息子とか、社長夫人にお母さんと妹さんを殺されたとか……、噂の的になるでしょう」
「んー、ストレス耐性は強いからな。まったくダメージを負わない訳じゃないけど、俺には朱里がいる。それに糾弾されるべき〝悪〟は俺じゃないしな。むしろ、うまく立ち回れば俺は被害者の側で済むと思うけど」
そこまで言って、尊さんはニヤリと笑う。
「下手すれば、親父は辞任だな。後釜には風磨がつくかもしれねぇし、若すぎるって声が出たなら他の役員が社長になるだろう。不祥事があっても篠宮フーズはでけぇ会社だから、倒産の危機はない。今後の方針は上層部……、祖父さんたちの話し合い次第だな」
「お祖父さんって……、名誉会長?」
尋ねると、尊さんは鼻で笑う。
「そ、定年のない妖怪。死ぬまで会社から金をもらってるから、そりゃあ優雅なもんだよ。それも年収何千万の世界だ」
「ひえ……」
まさか定年がなく、そんなに大金をもらっている人がいると思わず、私は目を見開く。
「ひでー世界だろ? 妖怪は親父なんかよりずっと権力を持ってるからな。そいつらから見れば、親父なんてただの駒だ。あいつが辞任しても会社は困らないし、火消しができるなら喜んで辞任させるだろ。それで子会社かどこかに新しいポストを用意するんだよ」
「うわぁ……。天上人の闇……」
私のような平社員には分からない世界なので、ドン引きだ。
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「お、ようやく来たか」
バスローブ姿の尊さんはソファから立ちあがり、出入り口に向かう。
そして服を持ってきたコンシェルジュさんと会話をしてから、紙袋を手にして戻ってきた。
「お前も着替えろよ。レストランの席を用意してくれるって言ってたから、気分転換に飯を楽しもうぜ」
「はい」
尊さんは気を遣ってくれてベッドルームで着替えるらしく、私はちょっと迷ってから洗面所で着替える事にした。
服を汚したと言われてもほんのちょっとで、濡れタオルでちょんちょん拭けば大丈夫な程度だ。
(でも気にしてるんだろうな。あそこまで弱った姿を見せてしまった訳だし)
ボロボロに傷付いて泣いて、嘔吐した彼を思いだすと胸の奥がギュッとなる。
紙袋に入っていたのは、百貨店に入っている系のブランド服だった。
値札は当然取られているけれど、トップス、ボトムスそれぞれ万は超える……と思う。
(いやいや、贈られた物の値段を考えたら失礼だ!)
私はピシャッと両手で頬を叩き、着ていた服を脱いで着替え始める。
替える必要がないのに、ストッキングまでお高級そうな新品が入っていた。
彼がコンシェルジュさんに伝えて買ってきてもらったのは、黒いハイネックの縦リブニットで、バルーンスリーブの手首がやや長めに絞ってある。それに合わせるボトムスは、ハイウエストで白と黒の千鳥格子柄のマーメイドスカートだ。
……うん、いや、こういう服好きだけど、さっき感情が乱れていた中で、よくここまで私にマッチした服を頼めたな……。さすがだ。しかもサイズピッタリじゃん。
(ニットは伸びるから、胸元気にしなくていいんだよな。ボトムはそれほど苦労しないんだけど)
スカートのウエストファスナーを上げながら思い、せっかく洗面所にいるのでうがいをした。
(ちょっとファンデよれてるかな。少しメイク直しするか)
もと着ていた服は紙袋に入れ、私はリビングダイニングに戻る。
「お待たせです。私、ちょっと化粧直し……、…………あぁ……」
私は着替えた尊さんの姿を見て、感嘆の溜め息をついてしまう。
気になっていた事を言うと、彼は真剣な表情で重々しく頷く。
「ああ、あいつがやらかした事がニュースになれば、篠宮フーズの株価は大暴落、バッシングされるだろう。母が社長の不倫相手と知られれば、父が叩かれるのは勿論、俺が婚外子である事も明るみになり、渦中の人となる」
これから訪れる事を予想し、私はギュッと尊さんの手を握った。
「側にいますし、支えます」
「……これから父や兄貴、役員たちが火消しに奔走するだろう。騒ぎが収まるまでは静かにしていたほうがいい。結婚式を挙げるまでは時間が掛かるし、式場や招待客などもまだ決まってない。会社ではしばらく今まで通り上司と部下を通して、ほとぼりが冷めた頃に式を挙げよう。何もこっちから周りを刺激する必要はないから」
「はい」
亘さんは特に大変な思いをするだろうけど、彼がすべての元凶でもあるんだから、しっかり責任を取ってほしい。
「……尊さんは大丈夫ですか?」
「ん?」
彼は優しい顔で尋ねてくる。
「今まで〝速水部長〟として過ごしてきたのに、実は社長の息子とか、社長夫人にお母さんと妹さんを殺されたとか……、噂の的になるでしょう」
「んー、ストレス耐性は強いからな。まったくダメージを負わない訳じゃないけど、俺には朱里がいる。それに糾弾されるべき〝悪〟は俺じゃないしな。むしろ、うまく立ち回れば俺は被害者の側で済むと思うけど」
そこまで言って、尊さんはニヤリと笑う。
「下手すれば、親父は辞任だな。後釜には風磨がつくかもしれねぇし、若すぎるって声が出たなら他の役員が社長になるだろう。不祥事があっても篠宮フーズはでけぇ会社だから、倒産の危機はない。今後の方針は上層部……、祖父さんたちの話し合い次第だな」
「お祖父さんって……、名誉会長?」
尋ねると、尊さんは鼻で笑う。
「そ、定年のない妖怪。死ぬまで会社から金をもらってるから、そりゃあ優雅なもんだよ。それも年収何千万の世界だ」
「ひえ……」
まさか定年がなく、そんなに大金をもらっている人がいると思わず、私は目を見開く。
「ひでー世界だろ? 妖怪は親父なんかよりずっと権力を持ってるからな。そいつらから見れば、親父なんてただの駒だ。あいつが辞任しても会社は困らないし、火消しができるなら喜んで辞任させるだろ。それで子会社かどこかに新しいポストを用意するんだよ」
「うわぁ……。天上人の闇……」
私のような平社員には分からない世界なので、ドン引きだ。
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「お、ようやく来たか」
バスローブ姿の尊さんはソファから立ちあがり、出入り口に向かう。
そして服を持ってきたコンシェルジュさんと会話をしてから、紙袋を手にして戻ってきた。
「お前も着替えろよ。レストランの席を用意してくれるって言ってたから、気分転換に飯を楽しもうぜ」
「はい」
尊さんは気を遣ってくれてベッドルームで着替えるらしく、私はちょっと迷ってから洗面所で着替える事にした。
服を汚したと言われてもほんのちょっとで、濡れタオルでちょんちょん拭けば大丈夫な程度だ。
(でも気にしてるんだろうな。あそこまで弱った姿を見せてしまった訳だし)
ボロボロに傷付いて泣いて、嘔吐した彼を思いだすと胸の奥がギュッとなる。
紙袋に入っていたのは、百貨店に入っている系のブランド服だった。
値札は当然取られているけれど、トップス、ボトムスそれぞれ万は超える……と思う。
(いやいや、贈られた物の値段を考えたら失礼だ!)
私はピシャッと両手で頬を叩き、着ていた服を脱いで着替え始める。
替える必要がないのに、ストッキングまでお高級そうな新品が入っていた。
彼がコンシェルジュさんに伝えて買ってきてもらったのは、黒いハイネックの縦リブニットで、バルーンスリーブの手首がやや長めに絞ってある。それに合わせるボトムスは、ハイウエストで白と黒の千鳥格子柄のマーメイドスカートだ。
……うん、いや、こういう服好きだけど、さっき感情が乱れていた中で、よくここまで私にマッチした服を頼めたな……。さすがだ。しかもサイズピッタリじゃん。
(ニットは伸びるから、胸元気にしなくていいんだよな。ボトムはそれほど苦労しないんだけど)
スカートのウエストファスナーを上げながら思い、せっかく洗面所にいるのでうがいをした。
(ちょっとファンデよれてるかな。少しメイク直しするか)
もと着ていた服は紙袋に入れ、私はリビングダイニングに戻る。
「お待たせです。私、ちょっと化粧直し……、…………あぁ……」
私は着替えた尊さんの姿を見て、感嘆の溜め息をついてしまう。
71
お気に入りに追加
1,257
あなたにおすすめの小説
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる