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長い一月六日 編
この人だけは敵に回したくない
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「本当なら風磨さんが私に『結婚するつもりはない』と言えば話は済むはず。ですがあなた達は役者を揃えてまで、私に何かを伝えようとしている。……この面子からして、恐らく気に食わない母親へ仕返しをしたい。……という解釈でいいですか?」
この人、話が早いなぁ……!
「あなたはそれを聞いてどう思った? 巻き込まれたくない? なら、ここで終わりにしてもいい」
尊さんが試すような言い方をする。
春日さんはその言葉を聞いただけで、尊さんがどんな性格なのか、首謀者が誰なのか察したようだった。
「まさか! こんな面白そうなイベントを逃したら勿体ないです」
春日さんは明るく笑って、とんでもない事を言った。面白そうなイベントって……。
そのあと彼女は目に冷淡な光を宿して言う。
「正直、こんなあってないような縁談、持ち込まれるだけ時間の無駄ですね。私も実家の会社でバリバリ働いて時間の大切さは分かっているつもりですから、無駄な事って本当に嫌いなんです」
おお……、三ノ宮重工でビシバシ働いてるのか。それはカッコイイ。
私の中で彼女のイメージが、清楚で守ってあげたくなるようなお嬢様から、地に足をつけたキャリアウーマンへとどんどん変わっていく。
「『時は金なり』です。時間を無駄にされた事で、私は怜香さんに腹を立てています。ですが根本的な性格などが治らない限り、彼女は今後も不特定多数の人に迷惑を掛けるでしょう。風磨さんのお母様を悪く言って申し訳ないですが、私、そういう人が大嫌いなんです」
ビシッと言い切る彼女は潔く、格好いい。
「いえ、構いません。母に対する認識は、僕もまったく同じです」
風磨さんが静かに言う。
「法に触れない事なら、協力しても構いませんよ。私も今まで色んな人を見てきました。『金持ち喧嘩せず』と言いますが、中にはそうでない方々もいます。お金を持っているから心に余裕ができ、争わない……のは一理ありますが、『もっと』と果てのない欲望を持っている人は、へたに高慢になっているだけ、周囲に迷惑を掛けても何とも思わない場合が多いです」
春日さんは、言葉通り〝色んなもの〟を見てきたようだ。
「篠宮フーズさんの社長夫人に強く言える人は、あまりいないはずです。ですが怜香さんがすり寄ろうとしている三ノ宮家の私なら、聞き入れる耳もあるのではないですか?」
言ったあと、春日さんはニッコリ笑った。
「私、〝分かっていない〟人に〝分からせる〟のって大好きなんです」
うん、笑顔が恐い!
きっと尊さんは心の中で「こえー女」と呟いてるに違いない。
分かります。私もこの人だけは敵に回したくない。
「話が早くて良かった。多少なりともあなたに迷惑を掛けてしまうが、協力を頼みたい。……で、何か望むものは? あなたほどの女性が、無償で協力するとは思えない」
尊さんに尋ねられ、春日さんはしばし考える。
「特に今は思い当たりませんが……。そうですね、ビジネス的な話を思いついたら、あとでご連絡します。今はとりあえず……」
微笑んだ彼女は、私とエミリさんを順番に指さした。
「はい?」
「私ですか?」
私と彼女は自分を指さし、目を瞬かせる。
すると春日さんは笑みを深めた。
「私、人の恋バナ聞くのだーい好きなんです。彼女たちと女子会させてもらえるなら、どれだけでも協力します。その代わり、ちょっときわどい話もしたいです」
んー! そっちかぁ!
私は笑顔で固まり、変な汗を垂らす。
エミリさんも、最初はライバルと思っていただろうに、こんな求められ方をするとは思っていなかっただろう。
「よし、朱里行ってこい」
尊さんが私の背中をポンと叩く。あっさりだなぁ!
「エミリは?」
風磨さんが気遣わしげに彼女を見る。
「私も問題ありません。むしろこんなふうに言ってもらえると思っていなくて、ぜひじっくりお話してみたいです」
「じゃあ、決まりですね。お洒落にワイン……とかもいいですが、いい日本酒バーを知っているので、いつか付き合ってほしいです。二人とも、お酒はいける口ですか?」
尋ねられ私はこっくり頷いた。
「大っ好きです」
「ああ、こいつの酒好きは俺が保証する」
尊さんが変な太鼓判を押してくれる。
「エミリもなかなか強いと思うよ。僕の前でクタクタになって介抱させてくれる……、なんて夢を見させてくれない女性だから」
風磨さんがそう言い、彼女は「やめてくださいよ」と照れ笑いしている。
うん、エミリさん、そこは照れるところじゃないと思うよ。
「じゃあ、決まり! 二人ともあとで連絡先を教えてくださいね」
春日さんは笑顔でそう言ったあと、尊さんを見て悪い笑みを浮かべた。
「……で、あなたの企みは?」
この人、話が早いなぁ……!
「あなたはそれを聞いてどう思った? 巻き込まれたくない? なら、ここで終わりにしてもいい」
尊さんが試すような言い方をする。
春日さんはその言葉を聞いただけで、尊さんがどんな性格なのか、首謀者が誰なのか察したようだった。
「まさか! こんな面白そうなイベントを逃したら勿体ないです」
春日さんは明るく笑って、とんでもない事を言った。面白そうなイベントって……。
そのあと彼女は目に冷淡な光を宿して言う。
「正直、こんなあってないような縁談、持ち込まれるだけ時間の無駄ですね。私も実家の会社でバリバリ働いて時間の大切さは分かっているつもりですから、無駄な事って本当に嫌いなんです」
おお……、三ノ宮重工でビシバシ働いてるのか。それはカッコイイ。
私の中で彼女のイメージが、清楚で守ってあげたくなるようなお嬢様から、地に足をつけたキャリアウーマンへとどんどん変わっていく。
「『時は金なり』です。時間を無駄にされた事で、私は怜香さんに腹を立てています。ですが根本的な性格などが治らない限り、彼女は今後も不特定多数の人に迷惑を掛けるでしょう。風磨さんのお母様を悪く言って申し訳ないですが、私、そういう人が大嫌いなんです」
ビシッと言い切る彼女は潔く、格好いい。
「いえ、構いません。母に対する認識は、僕もまったく同じです」
風磨さんが静かに言う。
「法に触れない事なら、協力しても構いませんよ。私も今まで色んな人を見てきました。『金持ち喧嘩せず』と言いますが、中にはそうでない方々もいます。お金を持っているから心に余裕ができ、争わない……のは一理ありますが、『もっと』と果てのない欲望を持っている人は、へたに高慢になっているだけ、周囲に迷惑を掛けても何とも思わない場合が多いです」
春日さんは、言葉通り〝色んなもの〟を見てきたようだ。
「篠宮フーズさんの社長夫人に強く言える人は、あまりいないはずです。ですが怜香さんがすり寄ろうとしている三ノ宮家の私なら、聞き入れる耳もあるのではないですか?」
言ったあと、春日さんはニッコリ笑った。
「私、〝分かっていない〟人に〝分からせる〟のって大好きなんです」
うん、笑顔が恐い!
きっと尊さんは心の中で「こえー女」と呟いてるに違いない。
分かります。私もこの人だけは敵に回したくない。
「話が早くて良かった。多少なりともあなたに迷惑を掛けてしまうが、協力を頼みたい。……で、何か望むものは? あなたほどの女性が、無償で協力するとは思えない」
尊さんに尋ねられ、春日さんはしばし考える。
「特に今は思い当たりませんが……。そうですね、ビジネス的な話を思いついたら、あとでご連絡します。今はとりあえず……」
微笑んだ彼女は、私とエミリさんを順番に指さした。
「はい?」
「私ですか?」
私と彼女は自分を指さし、目を瞬かせる。
すると春日さんは笑みを深めた。
「私、人の恋バナ聞くのだーい好きなんです。彼女たちと女子会させてもらえるなら、どれだけでも協力します。その代わり、ちょっときわどい話もしたいです」
んー! そっちかぁ!
私は笑顔で固まり、変な汗を垂らす。
エミリさんも、最初はライバルと思っていただろうに、こんな求められ方をするとは思っていなかっただろう。
「よし、朱里行ってこい」
尊さんが私の背中をポンと叩く。あっさりだなぁ!
「エミリは?」
風磨さんが気遣わしげに彼女を見る。
「私も問題ありません。むしろこんなふうに言ってもらえると思っていなくて、ぜひじっくりお話してみたいです」
「じゃあ、決まりですね。お洒落にワイン……とかもいいですが、いい日本酒バーを知っているので、いつか付き合ってほしいです。二人とも、お酒はいける口ですか?」
尋ねられ私はこっくり頷いた。
「大っ好きです」
「ああ、こいつの酒好きは俺が保証する」
尊さんが変な太鼓判を押してくれる。
「エミリもなかなか強いと思うよ。僕の前でクタクタになって介抱させてくれる……、なんて夢を見させてくれない女性だから」
風磨さんがそう言い、彼女は「やめてくださいよ」と照れ笑いしている。
うん、エミリさん、そこは照れるところじゃないと思うよ。
「じゃあ、決まり! 二人ともあとで連絡先を教えてくださいね」
春日さんは笑顔でそう言ったあと、尊さんを見て悪い笑みを浮かべた。
「……で、あなたの企みは?」
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