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年末イチャイチャ 編
年末、実家へ
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「俺……、どこに住んでるか教えたっけ」
――まずい。浮かれて口を滑らせてしまった。
私は立ち止まり、顔を強張らせる。
「お前……、もしかして……」
尊さんが私を見て、何かを言いかける。
しばらく私たちは雑踏の中で立ち止まったまま、お互いを見つめていた。
やがて尊さんが息を吐き、私に手を差し伸べてくる。
「行こう。俺、多分どっかでお前に言ってたんだと思う」
「…………はい……」
私は少し震える手を伸ばす。
いつもと違って遠慮がちだったからか、尊さんがギュッと私の手を握ってきた。
「手袋ないのかよ。買わないとな」
「も、持ってます!」
尊さんが何事もなかったように歩き始めたので、私は慌ててついていく。
「そうか? でも俺があげた手袋を嵌めて出社するってのも、なかなかいいよな。アクセサリーなら目ざとい奴に気づかれそうだけど、手袋ならあんまりバレないだろ」
「そうですね……」
尊さんの言葉を聞き、私は気が抜けた返事をする。
本当に、なかった事にしてくれるんだ。
自分の家を知ってるヤバイ奴とか思わないんだ。
……この人はどこまで優しいんだろう。
――どこまでも、あなたについていくからね。
私は誰にも打ち明けられない思いを抱いたまま、ギュッと彼の手を握った。
**
仕事納めをしたあと、私は二十九日の午前中に実家に顔を出した。
二十八歳の継兄、亮平は、都内で一人暮らしをしていて、私と同じように年末になったら実家に戻って過ごしている。
二十四歳の継妹、美奈歩は実家暮らしのままで、私が帰ったのを見ると素っ気なく「お帰り」と言ってスイッと自室に向かった。
「朱里、お帰り。あら? 荷物少なくない?」
母が私を迎え、ショルダーバッグだけなのを見て目を瞬かせる。
「今年は別のところで過ごすから、挨拶だけしに来たの」
「そう。彼氏でもできた?」
「そんなとこ」
答えた時、リビングのソファでテレビを見ていた亮平が、チラッと私を見た。
「これ、いとこのお年玉、渡しておいてくれる?」
私は母にポチ袋を渡す。毎年お財布が寂しくなるけど、文房具店で可愛いポチ袋を選んで、一言書いたメッセージカードも入れている。
そうしているのは父の影響だ。
父はお年玉と一緒にメッセージカードをくれ、私は今もそれをお菓子の缶に入れて大切にとってある。
「正月料理作ってるの? 夕方まで手伝うよ」
「そう? ありがと」
「お継父さんは?」
「朱里のために注文していた、お寿司を取りにいってるわ」
「そんなんしなくていいのに」
私は笑いながらコートを脱ぎ、ソファの側に丸めてバッグと一緒に置く。
普通にウォームブラウンのタートルネックニットに、ジーンズという服装だけど、また亮平が私をチラッと気にしたのが分かった。
……やりづらいなぁ。
「元気だった?」
彼に声を掛けられ、私は「うん」と返事をする。
「そっちは?」
「そこそこ。……彼氏できたんだ? どんな人?」
「結婚するつもりだから、その内ちゃんと連れてくる」
詮索されるのが嫌で、ビシッと釘を刺しておく。
結婚するって言っておけば、こいつも変な目で見てこなくなるでしょ。
「ふぅん……」
継兄との会話が終わった時、冷蔵庫を開けた母が「いけない!」と大きな声を上げた。
「どうしたの?」
「椎茸と柚子と……」
言いながら母は慌ててメモを書く。
「買ってきてあげるよ」
「そう? ごめんね。任せたわ」
話していると、亮平がこちらを見て言った。
「じゃあ俺も行こうかな。年末のテレビ、つまんないし」
「そうしてくれる? ついでにおやつも沢山買ってきていいわよ。お小遣いあげるから、好きな物買ってきなさい」
……母よ。あなたは娘を幾つだと思っているんだ。
――まずい。浮かれて口を滑らせてしまった。
私は立ち止まり、顔を強張らせる。
「お前……、もしかして……」
尊さんが私を見て、何かを言いかける。
しばらく私たちは雑踏の中で立ち止まったまま、お互いを見つめていた。
やがて尊さんが息を吐き、私に手を差し伸べてくる。
「行こう。俺、多分どっかでお前に言ってたんだと思う」
「…………はい……」
私は少し震える手を伸ばす。
いつもと違って遠慮がちだったからか、尊さんがギュッと私の手を握ってきた。
「手袋ないのかよ。買わないとな」
「も、持ってます!」
尊さんが何事もなかったように歩き始めたので、私は慌ててついていく。
「そうか? でも俺があげた手袋を嵌めて出社するってのも、なかなかいいよな。アクセサリーなら目ざとい奴に気づかれそうだけど、手袋ならあんまりバレないだろ」
「そうですね……」
尊さんの言葉を聞き、私は気が抜けた返事をする。
本当に、なかった事にしてくれるんだ。
自分の家を知ってるヤバイ奴とか思わないんだ。
……この人はどこまで優しいんだろう。
――どこまでも、あなたについていくからね。
私は誰にも打ち明けられない思いを抱いたまま、ギュッと彼の手を握った。
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仕事納めをしたあと、私は二十九日の午前中に実家に顔を出した。
二十八歳の継兄、亮平は、都内で一人暮らしをしていて、私と同じように年末になったら実家に戻って過ごしている。
二十四歳の継妹、美奈歩は実家暮らしのままで、私が帰ったのを見ると素っ気なく「お帰り」と言ってスイッと自室に向かった。
「朱里、お帰り。あら? 荷物少なくない?」
母が私を迎え、ショルダーバッグだけなのを見て目を瞬かせる。
「今年は別のところで過ごすから、挨拶だけしに来たの」
「そう。彼氏でもできた?」
「そんなとこ」
答えた時、リビングのソファでテレビを見ていた亮平が、チラッと私を見た。
「これ、いとこのお年玉、渡しておいてくれる?」
私は母にポチ袋を渡す。毎年お財布が寂しくなるけど、文房具店で可愛いポチ袋を選んで、一言書いたメッセージカードも入れている。
そうしているのは父の影響だ。
父はお年玉と一緒にメッセージカードをくれ、私は今もそれをお菓子の缶に入れて大切にとってある。
「正月料理作ってるの? 夕方まで手伝うよ」
「そう? ありがと」
「お継父さんは?」
「朱里のために注文していた、お寿司を取りにいってるわ」
「そんなんしなくていいのに」
私は笑いながらコートを脱ぎ、ソファの側に丸めてバッグと一緒に置く。
普通にウォームブラウンのタートルネックニットに、ジーンズという服装だけど、また亮平が私をチラッと気にしたのが分かった。
……やりづらいなぁ。
「元気だった?」
彼に声を掛けられ、私は「うん」と返事をする。
「そっちは?」
「そこそこ。……彼氏できたんだ? どんな人?」
「結婚するつもりだから、その内ちゃんと連れてくる」
詮索されるのが嫌で、ビシッと釘を刺しておく。
結婚するって言っておけば、こいつも変な目で見てこなくなるでしょ。
「ふぅん……」
継兄との会話が終わった時、冷蔵庫を開けた母が「いけない!」と大きな声を上げた。
「どうしたの?」
「椎茸と柚子と……」
言いながら母は慌ててメモを書く。
「買ってきてあげるよ」
「そう? ごめんね。任せたわ」
話していると、亮平がこちらを見て言った。
「じゃあ俺も行こうかな。年末のテレビ、つまんないし」
「そうしてくれる? ついでにおやつも沢山買ってきていいわよ。お小遣いあげるから、好きな物買ってきなさい」
……母よ。あなたは娘を幾つだと思っているんだ。
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