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篠宮家 編

また日常に戻る

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 翌朝、私たちは美味しい朝食をとったあとにチェックアウトし、ホテルを出た。

 デートが終わったあと、尊さんは私を家まで送ってくれる。

 家に上がってお茶でも……と思ったけれど彼は辞退し、そのまま帰っていった。





 月曜日になり、「誰にもバレてないよね……?」とビビりながら出社したけれど、見事なまでに皆いつも通りだった。

 私は淡々と仕事をこなし、差し迫ったバレンタイン企画の仕事をしつつ、その先の春のお菓子についても案を考えていた。

 私は企画三課に所属していて、三課はお菓子専門だ。

 職場は開放的な内装になっている。

 フロアにはデスクがある〝島〟の他、ジョイントマットの上にクッションやソファがあり、リラックスしてディスカッションできる場所もある。

 実際に調理して試作する場所もあり、飲料を扱う二課の人たちがメインに使う、お洒落なバースタイルのカウンターもある。

 それぞれ透明な壁で仕切られているので、皆が何をしているのかすぐ分かるのがいい。

 私が以前に尊さんに襲われた会議室は、重役も訪れる別フロアのものだ。

 ……ホントにね、どこで襲ってきたんだっていう話……。

 そんな彼は窓際の個室にいて、その姿が透明な壁ごしに確認できた。

(日差し当たって暑そう。……いつだったか『窓際族』って言ってたっけ)

 私はアイデアノートをめくりつつ、遠くにいる尊さんを観察する。

「朱里、週末連絡つかなかったけど、どうしたの?」

 話しかけてきたのは、学生時代からの腐れ縁の恵だ。

 学生時代は頼れる性格や姉御肌なのもあって、周囲から「お恵」と呼ばれていた。

 親友同士だから同じ会社に入ろうと思った訳じゃないけど、あまりにも仲がいいからか思考回路も似ていて、就職したいと思った業界も同じで、就職先も被ってしまった。

 結果オーライで今は同僚になり、配属先も同じというミラクルだ。

 彼女は身長百六十センチメートルほどの標準体型で、サラッとしたボブヘアの、爽やかな雰囲気の女性だ。

 学生時代はスポーツ万能で、女子バスのキャプテンもしていた。

 彼女の周囲には人が集まっていて、当時の私は眩しさすら感じていた。

 あきらかな陽キャでカリスマ性のある人なのに、どうしてか私の事を気に入ってくれた。

 そして学校生活でも遊びに行く時も、私に合わせて付き合ってくれていた。

 グループの子たちは彼女を慕っていたから、そちらと私を両立するのは大変だったと思う。

 彼女たちは『もっとお恵といたいのに、どうして上村さんばかり構うんだろう』と思っていただろう。

 その関係で虐められたとかはないけれど、多分恵が気を遣ってくれていたんだと思う。

 恵がいてくれたから、私は楽しい学生生活を送れていた。

 放課後は昭人とデートするか、恵と遊ぶか、アルバイトをするかだ。

 それであの家に帰る時間を遅らせ、居場所がない居心地の悪さから逃げていた。

 そんな親友に週末の事を尋ねられ、私は気まずく押し黙り、視線を泳がせる。

(尊さんとデートしてた間、スマホの電源オフにしてたからなぁ……)

「や、ごめん。スマホの電池が切れたの放置して、爆睡したり、作り置きのおかずを作るのに忙しかったりで」

 親友に嘘をついて、チリッと胸が痛む。

「いや、いいんだけどね。田村くんの事で荒れてたから、どうだったのかなって心配になっただけ。やっぱり寝たり集中して何かすると、気持ちが紛れるよね」

「……う、うん……」

 すみません。昭人と出くわして、そのあと尊さんとホテルでイチャついてました……。

 いや、こんな不誠実なのダメだ。いつか尊さんに許可もらって、恵にだけは教えないと。

 彼女がいたから、今の私がいると言っても過言ではない。

 そんな恵に隠し事をしたくない。

(ごめんね、あとできちんと話すから)

 私は心の中で恵に謝り、仕事に戻った。





 お昼は恵と社員食堂に向かった。

 二人でパスタセットを頼み、いつものようにお喋りをしながらランチタイムをとる。

 尊さんの話を聞いて篠宮家の事情を知りたいと思った私は、友達が多くて情報通の彼女が何か知っていないか聞いてみる事にした。

「ねぇ、副社長ってまだ独身だっけ」

「みたいだね。おっ、狙ってる?」

「いやいや、違うよ。ハイスペックイケメンらしいけど、まだフリーなんだなーって思っただけ」

「でも噂では秘書課の子とできてるって話だけど」

 恵はサラダを咀嚼しつつ言う。
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