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君は俺の愛する人だ
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「……ご心配、お掛けしました」
どうして三か月も眠っていたのか、自分でもよく分からない。けれど主を守る職務を放棄してしまったのは、変えようのない事実だ。
「寂しかった」
「申し訳ございません」
互いの温もりを確認しつつ、リリアンナは「帰ってきた」という安堵感を抱いていた。
どのようにして護衛の役目を放棄していたことを詫びようかと考えていると、ディアルトが耳元で不可解なことを呟いた。
「……俺を許してくれるか?」
「? それはどういう意味ですか?」
ディアルトの肩をそっと押して体を離し彼の顔を見ると、ディアルトは今まで見たことのない、苦しく悲しげな顔をしている。
「俺は……君から風の意志を奪ってしまった」
いつかリリアンナが血を吐く思いで告白したことを、今度はディアルトが口にした。
「そのせいで、君は三か月も寝込むことになってしまった。風の意志という大きな力を俺に譲渡してしまい、生命力を維持する精霊すら失いかけた」
「あぁ……」
そのせいか。と、リリアンナは納得する。
確かに〝あの時〟、自分はどうなってもいいからディアルトだけは助かってほしいと心から願った。
「では……。〝あの時〟殿下は助かったのですね? 私がこうして生きている理由は分かりませんが、きっと殿下が私を助けてくださったのだと信じています」
嬉しそうに微笑むリリアンナを、ディアルトは辛そうな顔で見たままだ。
「君は……どうして〝そう〟なんだ」
「え?」
何をしてそう言われたのか分からず、リリアンナは瞬きをする。
ディアルトは今にも泣き出しそうなぐらい顔を歪め、リリアンナの両肩を掴んだ。
「どうしてあの時『自分は死んでもいいから』なんて思ったんだ!」
烈しく「どうして」と言われても、リリアンナの中では当たり前の選択だった。
「それが私の役目です。私は殿下の護衛です。いざという時は自分の命をなげうってでも、殿下を守る必要があります」
まだいつものように腹の底から声を出せないが、リリアンナは目に強い光を宿し自身の誇りを語る。
「……っだから。……君は俺の愛する人だと何回も言っているのに……。そんな命を軽く扱うようなこと、俺が許さない!」
再びリリアンナをギュッと抱き締め、ディアルトが体を震わせる。
リリアンナはそっとディアルトの背中に手を回し、目を閉じた。
(殿下はこんなにも私を想ってくださっている)
それは、身に余る光栄だ。
護衛として何よりの誉で、一人の女として本望と言うべきことだ。
いつもならここで「それでも私は護衛です」と反発したかもしれない。
けれど詳細は分からずとも、何となく「すべてが終わった」と察したリリアンナは、今とても穏やかな気持ちになっていた。
「ありがとうございます。これからは気を付けます」
前向きで柔軟なリリアンナの言葉に、ディアルトはもう一度リリアンナの顔を見て苦笑する。
「君って人は……」
参った、というように笑ってリリアンナの頭をポンポンと撫でると、ディアルトは飽きずに見つめてくる。
その視線がどこか面映ゆく、リリアンナは話題を変えた。
「では殿下は、いま精霊が見えているのですか?」
風の意志を奪った、と先ほど彼は言った。
ならば、ディアルトは五歳のとき以来ぶりに精霊が見えているはずだ。
「そうだけど……。でも君は、以前の圧倒的な強さを失ってしまった」
「そんなこといいのです。殿下……、あぁ。良かった……!」
ずっと望んでいた夢が叶い、リリアンナはクシャッと破顔した。
その目に涙が浮かび、誤魔化すように手で乱暴に拭い、また彼に抱きつく。
「私……っ、殿下の力を奪ってしまったと、ずっと……っ」
ぎゅうっとディアルトを抱く腕に力が入り、指が彼のジャケットに皺をつける。リリアンナの体は小さく震え、ときおりグスッと洟を啜る。
珍しく感情を露わにするリリアンナの背中を、ディアルトはポンポンと撫でて宥めた。
どうして三か月も眠っていたのか、自分でもよく分からない。けれど主を守る職務を放棄してしまったのは、変えようのない事実だ。
「寂しかった」
「申し訳ございません」
互いの温もりを確認しつつ、リリアンナは「帰ってきた」という安堵感を抱いていた。
どのようにして護衛の役目を放棄していたことを詫びようかと考えていると、ディアルトが耳元で不可解なことを呟いた。
「……俺を許してくれるか?」
「? それはどういう意味ですか?」
ディアルトの肩をそっと押して体を離し彼の顔を見ると、ディアルトは今まで見たことのない、苦しく悲しげな顔をしている。
「俺は……君から風の意志を奪ってしまった」
いつかリリアンナが血を吐く思いで告白したことを、今度はディアルトが口にした。
「そのせいで、君は三か月も寝込むことになってしまった。風の意志という大きな力を俺に譲渡してしまい、生命力を維持する精霊すら失いかけた」
「あぁ……」
そのせいか。と、リリアンナは納得する。
確かに〝あの時〟、自分はどうなってもいいからディアルトだけは助かってほしいと心から願った。
「では……。〝あの時〟殿下は助かったのですね? 私がこうして生きている理由は分かりませんが、きっと殿下が私を助けてくださったのだと信じています」
嬉しそうに微笑むリリアンナを、ディアルトは辛そうな顔で見たままだ。
「君は……どうして〝そう〟なんだ」
「え?」
何をしてそう言われたのか分からず、リリアンナは瞬きをする。
ディアルトは今にも泣き出しそうなぐらい顔を歪め、リリアンナの両肩を掴んだ。
「どうしてあの時『自分は死んでもいいから』なんて思ったんだ!」
烈しく「どうして」と言われても、リリアンナの中では当たり前の選択だった。
「それが私の役目です。私は殿下の護衛です。いざという時は自分の命をなげうってでも、殿下を守る必要があります」
まだいつものように腹の底から声を出せないが、リリアンナは目に強い光を宿し自身の誇りを語る。
「……っだから。……君は俺の愛する人だと何回も言っているのに……。そんな命を軽く扱うようなこと、俺が許さない!」
再びリリアンナをギュッと抱き締め、ディアルトが体を震わせる。
リリアンナはそっとディアルトの背中に手を回し、目を閉じた。
(殿下はこんなにも私を想ってくださっている)
それは、身に余る光栄だ。
護衛として何よりの誉で、一人の女として本望と言うべきことだ。
いつもならここで「それでも私は護衛です」と反発したかもしれない。
けれど詳細は分からずとも、何となく「すべてが終わった」と察したリリアンナは、今とても穏やかな気持ちになっていた。
「ありがとうございます。これからは気を付けます」
前向きで柔軟なリリアンナの言葉に、ディアルトはもう一度リリアンナの顔を見て苦笑する。
「君って人は……」
参った、というように笑ってリリアンナの頭をポンポンと撫でると、ディアルトは飽きずに見つめてくる。
その視線がどこか面映ゆく、リリアンナは話題を変えた。
「では殿下は、いま精霊が見えているのですか?」
風の意志を奪った、と先ほど彼は言った。
ならば、ディアルトは五歳のとき以来ぶりに精霊が見えているはずだ。
「そうだけど……。でも君は、以前の圧倒的な強さを失ってしまった」
「そんなこといいのです。殿下……、あぁ。良かった……!」
ずっと望んでいた夢が叶い、リリアンナはクシャッと破顔した。
その目に涙が浮かび、誤魔化すように手で乱暴に拭い、また彼に抱きつく。
「私……っ、殿下の力を奪ってしまったと、ずっと……っ」
ぎゅうっとディアルトを抱く腕に力が入り、指が彼のジャケットに皺をつける。リリアンナの体は小さく震え、ときおりグスッと洟を啜る。
珍しく感情を露わにするリリアンナの背中を、ディアルトはポンポンと撫でて宥めた。
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