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両国の発展に
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一目見た時から男の直感で、カンヅェルがリリアンナに含んだ感情を持っているのを知った。
だが彼の見た目が派手で強引そうだからと言って、そのまま粗野な人間かと思えば違う。獰猛な肉食獣に似た瞳の奥に、如何に相手を効果的に追い詰めるか虎視眈々と策略を練る狡猾な光がある。
「美しくて強くて、スタイルもいい。ディアルト様もいい思いをされているのでは?」
「とんでもありません。いつもすげなく断られていますよ。それに彼女が素晴らしいのは、外見だけではありません。陛下はご存知ないでしょうけれど」
リリアンナのことを『その気になれば、すぐ応える外見だけ美しい女』と言われ、ディアルトは内心頬を引き攣らせていた。
丁寧な言葉の裏に「リリアンナの事を何も知らないくせに」という毒を込めて言い返す。
そこにリリアンナが席に戻り、微妙な沈黙になる。
「異常なしとのことでした。カンヅェル陛下の御前で、大変失礼致しました」
「いや? 気が済むまで調べてくれ。俺も交渉のテーブルで毒が入ったとなれば寝覚めが悪い。俺は毒を盛るぐらいなら、正面から切りつけるタイプなのでな」
「はは、確かにそうお見受けします」
その後、他愛のない話がなされ、横で調理が進んでゆく。
交わされていた言葉は、主にリリアンナに関することだ。先ほどまでの内容の続きで、軽口にも似ている。
平時ならリリアンナは自分を話題にされて、あまり快く思わなかったかもしれない。
だが今は大事な会談前なので、自分が話題の種になることで会談前の大事な空気が保たれるのなら、何を言われてもいいと思っていた。
「ファイアナの食事は、スパイシーな物が多いと聞きました。いい香りですね」
運ばれてきた食事は香辛料がたっぷり使われている。サラダなどは見た目も美しく、暑い土地ならではの鮮やかな食用花も使われていた。
食器は両国の王にのみ金の縁がついた皿を使われ、リリアンナと騎士団長、そしてアドナ将軍には銀の縁がついた皿が使われた。残る者は従者という意味合いで、普通の食器だ。
「両国の発展に」
カンヅェルが酒の入ったグラスを掲げ、全員が同じようにグラスを掲げた。
酒は鼻に抜ける強い香りがあり、喉を通るとカァッと体が熱くなる強い物だ。嚥下すると軽やかでフルーティーな香りが鼻に抜け、爽快感がある。
「……美味しい」
グラスから唇を離し、リリアンナが呟く。
「だろう? お前が望むなら、これから先の展開に寄っては破格で輸出してもいい」
「ありがとうございます」
場の雰囲気がいいのは、リリアンナという〝女性〟がいるからという理由もあるのだろう。彼女が砦に到着した時と同様に、自分ではそれほど求めていない女性性が、良い方向に働く場合もある。
料理は全体的に味が濃く、舌にピリリとくる物もある。けれど舌休めにあっさりとした味の果物が挟まれ、辛さが口に残ることはない。
砂漠ならではの味付けに精通した、素晴らしいフルコースだ。
ウィンドミドルでは滅多に食べられない火牛のステーキは、脂が乗っていて非常に美味だった。最後にカラフルなフルーツの盛り合わせで締めくくりになり、皆が幸せそうな顔になったあと――。
「……では、茶でも飲みながら話を始めましょうか」
カンヅェルが切り出し、ディアルトが頷く。
食事中も会話はさほど多くなかったが、そこから先の空気はピンと張り詰めてまったく別のものになる。
「和平を結ぶのが目的として、ディアルト殿下はこの会談で何が必要だと感じられますか?」
先手を打ったのはカンヅェルだ。
「双方、条件は同じかと思います。兵が死傷しているのも同じ、互いの国の先王が亡くなっているのも同じ。どちらかが下になって不利な条件を負う必要はないと思っています」
それにディアルトも引かない。
ここで自国を優先することを口にすれば、王としての資質が問われる。
勿論自国を一番に考えるのは国王のすることだが、それだけではいけない。自らが一番という理念で政治を通せば、いずれ他国とぶつかってまた戦争が起こる。世界の一部としてウィンドミドルが他国と平和にやっていくには、まず互いのことを考えなければいけない。
ディアルトの聡明な返事にカンヅェルは笑みを深め、さらに言葉を重ねる。
「先に戦争をふっかけたのがこちらの国であっても?」
「……終戦後、この戦争で亡くなった遺族より申し立てがあれば、相応の謝罪を求めるでしょう。ですがファイアナより同じように謝罪要求があれば、我が国もできる限り対応するつもりです」
「ふん……」
鼻で息を吐いたカンヅェルは、「これぐらい手応えがなくてはつまらない」というように、ニヤリと笑った。そして言葉を続ける。
だが彼の見た目が派手で強引そうだからと言って、そのまま粗野な人間かと思えば違う。獰猛な肉食獣に似た瞳の奥に、如何に相手を効果的に追い詰めるか虎視眈々と策略を練る狡猾な光がある。
「美しくて強くて、スタイルもいい。ディアルト様もいい思いをされているのでは?」
「とんでもありません。いつもすげなく断られていますよ。それに彼女が素晴らしいのは、外見だけではありません。陛下はご存知ないでしょうけれど」
リリアンナのことを『その気になれば、すぐ応える外見だけ美しい女』と言われ、ディアルトは内心頬を引き攣らせていた。
丁寧な言葉の裏に「リリアンナの事を何も知らないくせに」という毒を込めて言い返す。
そこにリリアンナが席に戻り、微妙な沈黙になる。
「異常なしとのことでした。カンヅェル陛下の御前で、大変失礼致しました」
「いや? 気が済むまで調べてくれ。俺も交渉のテーブルで毒が入ったとなれば寝覚めが悪い。俺は毒を盛るぐらいなら、正面から切りつけるタイプなのでな」
「はは、確かにそうお見受けします」
その後、他愛のない話がなされ、横で調理が進んでゆく。
交わされていた言葉は、主にリリアンナに関することだ。先ほどまでの内容の続きで、軽口にも似ている。
平時ならリリアンナは自分を話題にされて、あまり快く思わなかったかもしれない。
だが今は大事な会談前なので、自分が話題の種になることで会談前の大事な空気が保たれるのなら、何を言われてもいいと思っていた。
「ファイアナの食事は、スパイシーな物が多いと聞きました。いい香りですね」
運ばれてきた食事は香辛料がたっぷり使われている。サラダなどは見た目も美しく、暑い土地ならではの鮮やかな食用花も使われていた。
食器は両国の王にのみ金の縁がついた皿を使われ、リリアンナと騎士団長、そしてアドナ将軍には銀の縁がついた皿が使われた。残る者は従者という意味合いで、普通の食器だ。
「両国の発展に」
カンヅェルが酒の入ったグラスを掲げ、全員が同じようにグラスを掲げた。
酒は鼻に抜ける強い香りがあり、喉を通るとカァッと体が熱くなる強い物だ。嚥下すると軽やかでフルーティーな香りが鼻に抜け、爽快感がある。
「……美味しい」
グラスから唇を離し、リリアンナが呟く。
「だろう? お前が望むなら、これから先の展開に寄っては破格で輸出してもいい」
「ありがとうございます」
場の雰囲気がいいのは、リリアンナという〝女性〟がいるからという理由もあるのだろう。彼女が砦に到着した時と同様に、自分ではそれほど求めていない女性性が、良い方向に働く場合もある。
料理は全体的に味が濃く、舌にピリリとくる物もある。けれど舌休めにあっさりとした味の果物が挟まれ、辛さが口に残ることはない。
砂漠ならではの味付けに精通した、素晴らしいフルコースだ。
ウィンドミドルでは滅多に食べられない火牛のステーキは、脂が乗っていて非常に美味だった。最後にカラフルなフルーツの盛り合わせで締めくくりになり、皆が幸せそうな顔になったあと――。
「……では、茶でも飲みながら話を始めましょうか」
カンヅェルが切り出し、ディアルトが頷く。
食事中も会話はさほど多くなかったが、そこから先の空気はピンと張り詰めてまったく別のものになる。
「和平を結ぶのが目的として、ディアルト殿下はこの会談で何が必要だと感じられますか?」
先手を打ったのはカンヅェルだ。
「双方、条件は同じかと思います。兵が死傷しているのも同じ、互いの国の先王が亡くなっているのも同じ。どちらかが下になって不利な条件を負う必要はないと思っています」
それにディアルトも引かない。
ここで自国を優先することを口にすれば、王としての資質が問われる。
勿論自国を一番に考えるのは国王のすることだが、それだけではいけない。自らが一番という理念で政治を通せば、いずれ他国とぶつかってまた戦争が起こる。世界の一部としてウィンドミドルが他国と平和にやっていくには、まず互いのことを考えなければいけない。
ディアルトの聡明な返事にカンヅェルは笑みを深め、さらに言葉を重ねる。
「先に戦争をふっかけたのがこちらの国であっても?」
「……終戦後、この戦争で亡くなった遺族より申し立てがあれば、相応の謝罪を求めるでしょう。ですがファイアナより同じように謝罪要求があれば、我が国もできる限り対応するつもりです」
「ふん……」
鼻で息を吐いたカンヅェルは、「これぐらい手応えがなくてはつまらない」というように、ニヤリと笑った。そして言葉を続ける。
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