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私を駄目な女にしないでください

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(きゃああああああ!!)

 うなじに唇をつけられ、リリアンナはとっさに逃げだそうとする。しかしディアルトが逃がさないと言わんばかりに両手をテーブル押さえつけてきた。
「もう……」と内心嘆息し、リリアンナは観念して大人しくなった。

「……好きだ」

 首筋に熱い吐息がし、ディアルトが呟く。

「……お戯れは……」

(うそうそうそうそうそうそ。心臓壊れるのでやめてください)

「本気だよ」

 リリアンナの手を押さえていた手は、そっと彼女の体にまわった。胸元に置かれた手が、残念そうに甲冑をコンコンと指でノックする。

「……あーあ、甲冑じゃなかったら君の胸に触れたのに」

(触られたら、羞恥で死んでしまいます!)

「そのための甲冑でもあります」
「はは……」

 シンとした執務室の中、ディアルトが何度もリリアンナの口筋に唇をつける音が響いた。

(ううう……。唇柔らかい……、熱い……)

「……殿下……」
「ディアルト。……と呼んでくれないか?」

 またチュ、と音がしてリリアンナのうなじが吸われる。背後から抱きしめられて顔は見られていない。声を出して反応しない代わりに、リリアンナは顔を真っ赤にさせていた。

「殿下は……、殿下です」
「ディアルト、だよ」

 チュッとまた同じ場所が吸われ、リリアンナの肩がヒクッと跳ねた。

(変な声でちゃうから、本当にやめてください……っ)

 自分の腹部に回っているディアルトの手に手を重ね、リリアンナは軽くディアルトの手を引っ掻く。

「……殿下、お茶が」
「リリィ?」

 今度はカプッと耳を噛まれ、「ひっ」とリリアンナの唇から悲鳴が漏れた。

「で、殿下……。や、やめてくださ……っ」

(くすぐったいくすぐったい! 殿下のお声が耳に響く……!)

「リリィ」

 最後まで抵抗していたリリアンナだが、耳たぶを舐められてとうとう降参した。

「ディ……っ、ディアルトっ」
「……いい子だね」

 普段の彼女なら絶対に出さないか細い声に、ディアルトは満足気に目を細める。

(〝男性〟の雰囲気になられているわ。こうなったら抵抗しづらい……)

 リリアンナが珍しく気弱になっていると、ディアルトは腕の中でクルリと彼女の体を反転させ、真っ赤になった顔を見て微笑んだ。

「……たまには男女の雰囲気もいいね?」
「……任務に差し支えがでます」

(――私を駄目な女にしないでください……っ)

 まだ顔の熱は引いていないが、リリアンナは目を逸らして反抗した。

「俺のこと好きな癖に」

 ディアルトがリリアンナの耳元で低く囁く。ビクッと肩を跳ねさせた隙に、彼はリリアンナの唇を奪ってきた。

「……ん……。ぅ」

 ちゅっ、ちゅっとリップ音が何度も続き、リリアンナはその合間に切なく息を吸い込んだ。後頭部を押さえたディアルトの手は、指で髪の流れをたどっている。
 その「大事にされている」という手つきに、リリアンナは胸の中が切なさと愛しさに溢れ、何かが漏れ出てしまう気持ちになっていた。




 ――愛しい。

 ディアルトの心中は、ただその感情に尽きる。

 初めて見た時から、可愛い子だと思っていた。
 女だてらに騎士たちに混ざり、自分を護衛すると言って目の前に立ったあの日から、リリアンナは並々ならぬ覚悟を持っていたと思う。
 武器を持った刺客が襲ってきた時だってあったし、ディアルト自身が毒を口にして苦しんだ時もあった。
 そのすべての時間、リリアンナは側にいて、手を握ってくれていた。

 愛情が生まれない方がどうかしている。
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