上 下
12 / 109

王座につくべき方

しおりを挟む
「……君が、守ってくれるんだろう?」

 ディアルトが放った一撃は、リリアンナのレイピアの突きより鋭い。
 あまりの風圧に風の中に含まれる雷の精霊までが共鳴し、巻き起こった風はリリアンナの手からレイピアを奪い、スカートを大きくめくり上げた。

「ッヒュウ!」

 白いペチコートが膨らんだ中に真っ白な下着が見えて、騎士たちが喝采を上げる。

「…………」

 カランッと音をたててリリアンナのレイピアが地面に落ち、遅れて彼女のポニーテールや衣服がフワリと戻ってゆく。リリアンナは呆然として目を見開き、固まっていた。
 猫がびっくりしたような顔を見たからか、ディアルトが焦って声を掛けてくる。

「ご、ごめん。この技は使わない約束だったな」
「……いいえ。私はそのようなこと、一言も申し上げておりません」

 我に返ったリリアンナは、冷静に衣服や髪を整えるとレイピアを拾いに行った。

「俺が使わないと言ったんだよ」

 その言葉の裏に、「威力が強すぎてリリアンナの軽装を捲ってしまうから」という意味があったが、もちろんリリアンナは知らない。
 加えてリリアンナは自分を〝令嬢〟と思わず〝女の格好をした騎士〟と思っているので、多少下着が見えた程度で動揺しない。

「殿下の奥の手を失念していました。さすが、お強いですね。張っておいた風の障壁も、今の一撃で吹き飛んでしまいました」

 レイピアを腰の鞘に収めると、リリアンナは一度休憩を取るため歩き出す。

(こんなにお強いのはやはり……)

 胸の奥にある思いが沸き起こり、リリアンナは諦念に似た笑みを浮かべる。

「リリアンナ、どうかしたのか?」

 そんなリリアンナの雰囲気に気づいたのか、ディアルトはベンチに座ったリリアンナの隣に座り、顔を覗き込んできた。

「……いいえ。ただ殿下は、やはり将来王座につくべき方だと再認識しただけです」
「それはそうだけど……。今のは本気を出した時のみの恩恵だ。……俺には精霊は見えないから」

 何気なく言った言葉は、誰もが知っていることだ。
 王家の者が多く有する金の目を持ちながら、ディアルトは精霊を見ることができない。よって、自分の意志のままに行使することもできない。だから彼は、ただ純粋に己の肉体を鍛え上げていった。

 そのことを特に王妃ソフィアは声高に陰口を言う。彼女の取り巻きたちも、ディアルトを嗤っていた。
 幼い頃は神童と呼ばれ、誰もがディアルトが今までにない王になることを期待していた。だが子供時代のある日、彼の体から根こそぎ守護精霊が失われてしまう。本来なら先王ウィリアの息子として、現在ディアルトが若き王になっているはずだった。

 しかしディアルトが精霊を見られないことを理由に、ソフィアの息がかかった大臣たちが即位に反対した。よってディアルトに力が戻るまでは、暫定的にウィリアの弟のカダンが王位につくことになったのだ。
 ディアルト派の者が「体のいいことを」と渋面になるのは仕方がない。
 彼がもう一度精霊を見られるようになるには、どうしたらいいか。そんなこと、誰も分からないからだ。

「……そのうち、私が必ず精霊が見られるお体にしてみせます」

 リリアンナの呟きに、ディアルトは何も気にしていないように笑う。

「気にしなくていいよ。俺だって王座なんてもの、つかなくていいならそれで楽だ」
「殿下」

 咎めるような声に、ディアルトはペロリと舌を出す。

「……本当は、君が側にいてくれるなら、何だっていいんだけどね」
「……またそのようなことを……」
「さ、あと二戦ほどしようか」
「はい」

 汗を拭き水分補給をした二人は立ち上がり、また剣を交えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。

シェルビビ
恋愛
 明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。  いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。  監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。  元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。  しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。 「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

イケボな宰相と逃げる女騎士

ほのじー
恋愛
イケボな宰相×腰がくだけないよう踏ん張る女騎士 【Hotランキング2位ありがとうございます!!】 生真面目なジュリアは王妃の女騎士となり、二年が経った。22歳となり行き遅れとなった彼女はもう結婚も諦め一生王妃に仕えると心で誓っていた。 真面目で仕事中感情を乱さない彼女にも苦手な人物がいる。それは誰もが恐れる“氷の宰相”サイラスだ。なぜなら彼の中性的な声が腰にくるからで・・・ サイラス:「ジュリア殿、この書類間違ってませんかね」 ジュリア:「っ・・・もう一度確認しておきます!失礼します!!」 ーバタンー ジュリア:「はぅぅ・・」(耳元で話しかけないでー!!) ※本編はR15程度です。番外編にてR18表現が入ってきます

処理中です...