上 下
8 / 109

殿下はどうかされています

しおりを挟む
 鎧を着けたままの体が、ドサッとディアルトの体の上に倒れ込む。体勢を立て直す間もなく、ディアルトが逆にリリアンナを仰向けにした。

(嘘! 鎧も着ているから重たいですから! 殿下っ!)

「っあ……、でん――」

 抵抗しようとすると、両手を掴まれ容易く片手でまとめられる。すぐに唇が訪れて、何度もリリアンナの唇を愛してきた。

 ――柔らかくて、気持ちいい。

 マシュマロのような唇の感触に加え、ディアルトからは石鹸の香りがする。
 フワフワとした心地に、リリアンナは混乱して抵抗するタイミングを失ってしまった。
 通常の彼女なら、あり得ない失態だ。
 やげてディアルトの舌がチロリとリリアンナの唇の内側を探ってきた。

(!)

 腰のあたりがゾクッとし、リリアンナはとっさにディアルトから距離を取ろうとする。
 しかし彼によって組み敷かれ、騎士であるリリアンナの力でもっても抗えない。

 ――いや、本気で抵抗しようとすれば、リリアンナはディアルトの急所を蹴ってでもこの状況から脱する事ができただろう。

 しかしリリアンナの中にもディアルトを想う気持ちがあるからこそ、結局逆らえずにいた。

「ふ……、ん、……ぁ、あぁ」

 クチュ……と舌で口内が掻き混ぜられ、息継ぎの合間にリリアンナの唇から艶冶な声が漏れる。
 リリアンナの胸元は銀色の胸当てで守られているが、太腿は膝上のペチコートがあるのみで無防備だ。そこにスッとディアルトの手が入り込み、ねっとりとリリアンナの太腿を撫で回してきた。

「ん……っ、ン」

 ゾクゾクと体を震わせたリリアンナは、とっさに両手でディアルトの肩を押してしまった。

「……は……」

 ディアルトがキスを終え、リリアンナを見つめたままペロリと自身の唇を舐める。
 やっと解放された頃には、リリアンナは顔を真っ赤にさせクタリと脱力していた。

「さて、約束通り起きないと」

 ディアルトの寝姿は、トラウザーズを穿いているものの半裸だ。
 ムクリと起き上がった彼は見事な上半身を晒し、リリアンナはまた劣情に苛まれて彼を見る。

(本当に目の毒だわ……。いい匂いがするし、鍛えた体も寝起きの顔も色っぽいし……。ああ、もう! こんな呆けていたら、護衛としてのお勤めを果たせないわ)

「ああ、いい目覚めだ」

 黒髪をかき上げて笑うディアルトに、リリアンナはむっつりと怒って返事する。

「……昨日から殿下はどうかされています」

 ゆっくり起き上がったリリアンナは、太腿が剥き出しになり乱れているスカートを直した。もしかしたら彼に下着を見られてしまったかもしれないという羞恥を、持ち前の無表情でやり過ごす。

「もう自分の心に嘘をつかないと決めたんだ。欲しいものは欲しいと言う。いいと思わないか?」

 先にベッドから下りて伸びをするディアルトから、ポキポキと小さな音がする。しなやかな筋肉は美しい動物を思わせ、朝日を浴びる半裸は軍神像のようだ。

「……その姿勢は大変ご立派です。ですが今回の場合、私という〝相手〟がいることをお忘れなきよう」

 冷静さを失わず、リリアンナもベッドから下りて乱れた衣服や髪を直す。

(……どうしたらいいの。二人で寝台から下りて衣服を整えるだなんて……。まるで情事のあとみたいじゃない。こんな場面をシアナ様に見られてしまっては、誤解を受けるわ)

 月の離宮には、ディアルトだけではなく彼の母シアナも同居している。
 実際のところディアルトの母――シアナは、息子がリリアンナを想っているのを全力で応援していた。リリアンナの性格や武勲、すべてを気に入っているシアナは、彼女をすでに嫁のように扱っている。母子そろってリリアンナにベタ惚れなのだ。
 だがシアナに良くしてもらっている自覚はあれど、リリアンナは自分が彼女に認められていると思っていない。あくまで自分はディアルトの護衛なのだとわきまえている。

「でも、君。嫌がってなかったじゃないか」

 続き部屋になっている衣装部屋へ向かいつつ、ディアルトが笑う。

「……殿下のお手が早いからです」

 あたかも自分がディアルトに気があるという言い方をされては不本意で、リリアンナは脊髄反応のように言い返す。だがそもそもにしてキスを拒まないということ自体、ディアルトに気があるということを失念しているのだった。

 それからディアルトが着替える間、リリアンナは寝室にあるソファで待っていた。
 手持ち無沙汰に乱れたベッドを整えるのは、メイドの仕事を奪うことなので控えている。
 だが早朝の沈黙の中、ディアルトが着替える衣擦れの音しか聞こえないというのは、いささか心臓に悪い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。

シェルビビ
恋愛
 明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。  いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。  監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。  元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。  しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。 「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

イケボな宰相と逃げる女騎士

ほのじー
恋愛
イケボな宰相×腰がくだけないよう踏ん張る女騎士 【Hotランキング2位ありがとうございます!!】 生真面目なジュリアは王妃の女騎士となり、二年が経った。22歳となり行き遅れとなった彼女はもう結婚も諦め一生王妃に仕えると心で誓っていた。 真面目で仕事中感情を乱さない彼女にも苦手な人物がいる。それは誰もが恐れる“氷の宰相”サイラスだ。なぜなら彼の中性的な声が腰にくるからで・・・ サイラス:「ジュリア殿、この書類間違ってませんかね」 ジュリア:「っ・・・もう一度確認しておきます!失礼します!!」 ーバタンー ジュリア:「はぅぅ・・」(耳元で話しかけないでー!!) ※本編はR15程度です。番外編にてR18表現が入ってきます

処理中です...