【R-18】悪人は聖母に跪く

臣桜

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私たち二人が紡ぐ未来

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「私はもう、祥吾さんの婚約者ですから。あなたの責任は、私も負います。二人で歩んでいきましょう」

「っ~~~~……っ」

 目の前で祥吾の端正な顔がクシャリと歪む。
 そして透明な涙が零れた。

(……綺麗)

 彼の泣き顔を見て、鞠花は素直に思う。

 そして彼を優しく抱き締め、囁いた。



「私たち二人が紡ぐ未来は、これから始まるんです」



**



 年末に祥吾は退院し、そのあと鞠花は仙台からまた東京に居を移した。

 引っ越し先は祥吾のマンションだ。
 もともと鞠花が住んでいた場所からとても近いので、土地勘的な事で不便はない。

 そのタイミングで祥吾の両親に紹介された。




「初めまして。西城鞠花と申します」

 祥吾に買ってもらったシンプルで綺麗めのワンピースを着て、鞠花は彼の両親に丁寧な挨拶をした。

「まぁ……! 祥吾が選んだにしては、とってもきちんとしているお嬢さんじゃない」

「どこでこんないい人を見つけたんだ」

 初めて会った祥吾の両親は、いかにも育ちのいいお金持ちのお嬢様が、そのまま大人になった母と、厳格で苦労人そうながらも、どこかお人好しそうな父だった。

 彼らの好物を事前に聞いて、用意しておいた和菓子を煎茶と一緒に出すと、特に母は「気が利くわね」と褒めて好感を高めた。

 そしてお茶菓子を食べて鞠花自身の話となった時、祥吾がまじめな表情で彼女の両親の事を語った。

 さすがに二人とも青ざめて強張った表情をしていたが、鞠花が終始柔らかな雰囲気を崩さずにいたからか、恐る恐る窺ってくる。

「本当に祥吾の事を恨んでいないの? 私たちからも謝罪し、あなたには最大限のお詫びをしたいと思っています。……でもどうか、この子に復讐するのが目的なら……」

「母さん」

 母の言葉を祥吾が制し、背筋を伸ばしてきっぱり言い放つ。

「俺がクズで、俺がすべて悪かったのは変わりないんだ。そして鞠花はそんな俺を赦してくれている。彼女が復讐しようとしているなんて、絶対に思わないでくれ」

 強い口調で言われ、母は「でも……」と言いよどむ。

「鞠花は俺のプロポーズを受ける条件として、俺が今まで横暴な態度を取った人々全員への謝罪を求めた。俺もその禊を受けて、生まれ変わってから鞠花と結婚したいと思っている。それぐらい、彼女は俺を変えてくれたんだ」

 祥吾のまっすぐな瞳を受け、彼の両親はしばらく黙っていた。
 やがて息をついたのは父だ。

「……分かった。祥吾の生き方について、私たちは今まで特に言及しないでいた。だが思うところがない訳でもなかった。祥吾自身がそう言うなら、お前の気持ちを尊重したい。そして祥吾を変えてくれた鞠花さんを歓迎しよう」

「そうね。鞠花さんを受け入れるのなら、罪滅ぼしとしてではなく、祥吾を変えてくれた恩人として鳳家に迎えたいわ」

 母もにっこり笑う。

(思っていたのと違うな……)

 古くからの名家の当主とその妻なので、もっと高慢な人だと思っていたのが、いい意味で裏切られた。
 それを見透かしたのか、祥吾の母が微笑んだ。

「鳳家は大企業を抱えているがゆえに、世間から注目されているわ。私たちは模範となる生き方をしなければなりません。今までの祥吾は模範から逸脱していたけれど、思い直してくれて私たちはとても喜んでいるのよ。だから、鞠花さんには感謝しているわ」

(そうか……。お金持ちはお金持ちで、別の苦労があるのかもしれない)

 彼らの事を少し理解できた気がした鞠花は、自分こそ今まで誤ったフィルターで鳳家を見ていたのを認めた。

「これから、どうぞ宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しくね」

 最初は鞠花の素性を打ち明けてぎこちなかった空気も、今はすっかり和やかなものになっていた。



**
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