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鞠花はよく頑張ってきたよ ☆
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修吾は彼女の体を抱き締め、ベッドのヘッドボードにもたれかかって包み込んだ。
「どうして?」
耳元で穏やかな声が聞こえ、鞠花はしゃくりあげながら言い訳をする。
「私……っ、一人で頑張らないとって思って、……元彼に可愛くない態度しか取れなかった……っ。母親みたいって言われて、……っと、当時は『しっかり者』って褒められてるんだなって思ってたけど……っ、そうじゃ、なかった……っ」
修吾は鞠花の背中をトントンと叩いてあやし、こめかみにキスをする。
「俺には甘えられる?」
小さな声で尋ねられ、鞠花は無言で頷いた。
元彼より付き合いが浅いのに、どうしてか修吾には安堵感を覚える。
彼のハイスペック的な所がどうこう……と言ったら理由がいやらしいが、修吾はあらゆる面で安定していて、鞠花がどんな性格であっても受け止められる度量がある。
だから少なくとも、今は彼に甘えられると思った。
「……ご両親が亡くなったって言ってたけど、深くは聞かない。でも今までよく頑張ってきたな」
修吾の胸板に顔をつけていると、彼の低い声が胸板を反響して伝わってくる。
「看護師ってただでさえ大変な仕事なのに、鞠花はよく頑張ってきたよ」
彼の言葉が慈雨のように染みこんでくる。
――そうだ。
――私はこうやって認められて、褒められたかったんだ。
――過剰なまでに、両親が死んだ事を哀れまれたい訳じゃない。
――ただ、自分の頑張りを認めてほしかった。
決して、今まで周りにそういう人がいなかった訳じゃない。
親戚はたびたび連絡をくれては、鞠花の近況を聞いてくる。
「大変だと思うけど、頑張ってね。いつでも力になるからね」と言ってくれる。
けれど親戚はあくまで親戚で、常に側にいてくれる訳ではない。
彼らには彼らの家庭があり、毎日の生活がある。
修吾のように鞠花のために時間を割いて、抱き締めて慰めてくれる訳ではない。
人の温もりが、頭や背中を撫でてくれる手が、こんなにも胸を苦しくさせるものとは思っていなかった。
病院で「手当て、と言うんですよ」と、小さな子供や老人など、病気や怪我のほかに心のケアも必要そうな患者の背中をさすった事は何度もある。
人の手の温もりは、どんな言葉よりも効果がある。
それを鞠花自身が一番よく分かっていたのに、誰も彼女には掌を与えなかった。
「……っ、あり、――が、と、……ぅ……っ」
グスグスと泣いて礼を言う鞠花の顎を摘まみ、修吾は自分の方を向かせる。
「鞠花はいい子だよ」
優しく細められた目に、子供のように泣きじゃくっている自分の顔が映る。
こんな風に人に弱いところを晒した事はなく、鞠花は心のやわい部分を曝け出したまま、両手を伸ばして修吾を求めた。
彼の首に手を回し、震えながらも目を閉じてキスを求める。
修吾は何も言わず、鞠花のうなじと腰を支えて唇を重ねてきた。
「ん……っ、……ぅ」
彼の唇を「柔らかい」と感じたあと、唇を何度かついばまれ、優しいキスの始まりに脳髄がとろけてゆく。
おずおずと彼の唇を舐めようとすると、舌先が触れ合った。
驚いて舌を引っ込める鞠花だが、修吾は性急に求めず、そのあともじっくりと彼女の唇をついばみ、上唇に下唇と舐めては音を立てて吸った。
まだディープキスと言えるものに至っていないのに、鞠花はもう体を火照らせ、必死に修吾に縋り付く。
チュプ、チュ……と、小さな水音が静かな室内に響いた。
修吾からは深く官能的な雄のフェロモンと言うべく、いい匂いがする。
きっと高級な香水を使っているんだろうな、と、こっそり息を吸い込んだ時、ヌルリと口内に修吾の舌が入ってきた。
「ん、……ん、ぅ」
唾液をたっぷりまぶした温かい舌が鞠花の舌に絡み、擦りつけてくる。
「んン……っ」
ゾクリと肌を粟立たせ、鞠花は身じろぎをした。
(あ……。気持ち……いい……)
後頭部をいい子、いい子と撫でられながら優しいキスを受けていると、修吾に包まれたまま、鞠花の存在そのものを肯定されている気持ちになった。
気付けば鞠花は修吾に抱きついたまま、彼の抱擁を受け、真摯な愛という名のキスを甘受していた。
元彼とはどんなキスをしても心の一部は冷静なままだったのに、今は修吾のキスに夢中だ。
だからバスローブの腰紐を引っ張られても、鞠花は何も抵抗しなかった。
体の前面に空気が触れたかと思うと、修吾がブラジャーを着けた胸元に手を這わせてくる。
「……大きい、な」
彼はキスの合間に息をつき、鞠花のボリュームのある胸元を見た。
「どうして?」
耳元で穏やかな声が聞こえ、鞠花はしゃくりあげながら言い訳をする。
「私……っ、一人で頑張らないとって思って、……元彼に可愛くない態度しか取れなかった……っ。母親みたいって言われて、……っと、当時は『しっかり者』って褒められてるんだなって思ってたけど……っ、そうじゃ、なかった……っ」
修吾は鞠花の背中をトントンと叩いてあやし、こめかみにキスをする。
「俺には甘えられる?」
小さな声で尋ねられ、鞠花は無言で頷いた。
元彼より付き合いが浅いのに、どうしてか修吾には安堵感を覚える。
彼のハイスペック的な所がどうこう……と言ったら理由がいやらしいが、修吾はあらゆる面で安定していて、鞠花がどんな性格であっても受け止められる度量がある。
だから少なくとも、今は彼に甘えられると思った。
「……ご両親が亡くなったって言ってたけど、深くは聞かない。でも今までよく頑張ってきたな」
修吾の胸板に顔をつけていると、彼の低い声が胸板を反響して伝わってくる。
「看護師ってただでさえ大変な仕事なのに、鞠花はよく頑張ってきたよ」
彼の言葉が慈雨のように染みこんでくる。
――そうだ。
――私はこうやって認められて、褒められたかったんだ。
――過剰なまでに、両親が死んだ事を哀れまれたい訳じゃない。
――ただ、自分の頑張りを認めてほしかった。
決して、今まで周りにそういう人がいなかった訳じゃない。
親戚はたびたび連絡をくれては、鞠花の近況を聞いてくる。
「大変だと思うけど、頑張ってね。いつでも力になるからね」と言ってくれる。
けれど親戚はあくまで親戚で、常に側にいてくれる訳ではない。
彼らには彼らの家庭があり、毎日の生活がある。
修吾のように鞠花のために時間を割いて、抱き締めて慰めてくれる訳ではない。
人の温もりが、頭や背中を撫でてくれる手が、こんなにも胸を苦しくさせるものとは思っていなかった。
病院で「手当て、と言うんですよ」と、小さな子供や老人など、病気や怪我のほかに心のケアも必要そうな患者の背中をさすった事は何度もある。
人の手の温もりは、どんな言葉よりも効果がある。
それを鞠花自身が一番よく分かっていたのに、誰も彼女には掌を与えなかった。
「……っ、あり、――が、と、……ぅ……っ」
グスグスと泣いて礼を言う鞠花の顎を摘まみ、修吾は自分の方を向かせる。
「鞠花はいい子だよ」
優しく細められた目に、子供のように泣きじゃくっている自分の顔が映る。
こんな風に人に弱いところを晒した事はなく、鞠花は心のやわい部分を曝け出したまま、両手を伸ばして修吾を求めた。
彼の首に手を回し、震えながらも目を閉じてキスを求める。
修吾は何も言わず、鞠花のうなじと腰を支えて唇を重ねてきた。
「ん……っ、……ぅ」
彼の唇を「柔らかい」と感じたあと、唇を何度かついばまれ、優しいキスの始まりに脳髄がとろけてゆく。
おずおずと彼の唇を舐めようとすると、舌先が触れ合った。
驚いて舌を引っ込める鞠花だが、修吾は性急に求めず、そのあともじっくりと彼女の唇をついばみ、上唇に下唇と舐めては音を立てて吸った。
まだディープキスと言えるものに至っていないのに、鞠花はもう体を火照らせ、必死に修吾に縋り付く。
チュプ、チュ……と、小さな水音が静かな室内に響いた。
修吾からは深く官能的な雄のフェロモンと言うべく、いい匂いがする。
きっと高級な香水を使っているんだろうな、と、こっそり息を吸い込んだ時、ヌルリと口内に修吾の舌が入ってきた。
「ん、……ん、ぅ」
唾液をたっぷりまぶした温かい舌が鞠花の舌に絡み、擦りつけてくる。
「んン……っ」
ゾクリと肌を粟立たせ、鞠花は身じろぎをした。
(あ……。気持ち……いい……)
後頭部をいい子、いい子と撫でられながら優しいキスを受けていると、修吾に包まれたまま、鞠花の存在そのものを肯定されている気持ちになった。
気付けば鞠花は修吾に抱きついたまま、彼の抱擁を受け、真摯な愛という名のキスを甘受していた。
元彼とはどんなキスをしても心の一部は冷静なままだったのに、今は修吾のキスに夢中だ。
だからバスローブの腰紐を引っ張られても、鞠花は何も抵抗しなかった。
体の前面に空気が触れたかと思うと、修吾がブラジャーを着けた胸元に手を這わせてくる。
「……大きい、な」
彼はキスの合間に息をつき、鞠花のボリュームのある胸元を見た。
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