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番外編3:新婚調教10

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 連日、リディアはオーガストに体を求められる。

 昼間は倦怠感を引きずってぼんやりとし、体力が回復しきっていないまま、夜になると朝まで抱かれる。
「疲れるからいや」と口では言っても、オーガストに「お願い」と求められると断ることができない。おまけに一度キスをし、体に触れられれば、それまで頑固に「感じてなるものか」と思っていた心と体があっけなく開かされる。

 その日もまた、広々とした部屋でリディアはまどろんでいた。
 オーガストは少し離れたところで本を読み、リディアは故郷の家族に手紙を書いているところだ。
 しかしいつの間にかリディアはペンを置き、幅広のソファに身をもたれさせうとうとと目を閉じている。

「……リディア」
「……ええ」

 オーガストの声にふぅっと意識が戻り、リディアは目をしばしばさせてペンを持とうとする。

「そんなに疲れてるのか?」

 ふとオーガストが本を閉じ、立ち上がってこちらにやってきた。

「平気よ」

 口ではそう言うのだが、実際眠たくて堪らない。

「あなたを求めるのは自然なことだから、反省はしないし謝らない。だが心配はさせてくれ」

 リディアが座っているソファに腰掛けると、オーガストは彼女を引き寄せ自分の膝に頭を乗せさせる。

「こうやって少し眠ればいい。大丈夫、ここにいる間は仕事も何もないから」
「……ええ……」

 オーガストの香りが鼻腔を満たし、リディアは静かに深呼吸をしたあと目蓋を閉じる。優しく頭を撫でられているうちに意識が深い場所へ落ちていって、そのままぐっすりと眠ってしまった。






「ん……」

 目覚めると幾分気持ちがスッキリしているように思える。

「ありがと……。オーガスト……」

 まだ寝起きのポヤポヤとした声で礼を言うと、額をサラリと撫でられた。

「本……読んでるの?」

 リディアは仰向けで寝ていて、オーガストの手元に『経済進化論』という堅苦しいタイトルの本があるのに気づく。

「読んで『いた』。あなたが目覚めたなら、あなたとの時間を大事にしたい」

 新婚の夫らしいことを言われ、つい胸の奥が甘く疼く。
 しかしオーガストが手を動かし、サラリとリディアの乳房を撫でたものだから、驚いて起き上がった。

「え……っ。えぇっ?」

 コルセット等を用いないリディアのシュミーズドレスは、すっかり胸元が晒されて乳房がまるごと出てしまっている。

「ま、また悪戯をしたの!?」
「俺の前で眠るあなたが悪い。俺はあなたが寝ている間に悪戯をする、常習犯だと分かっているだろう」

 しかし悪びれもせず言い返されるので、リディアとしても論破する言葉が見つからない。

「それはそうだけれど……。ああ、もう。私ってつい、オーガストに『いい子』とか『良い夫』の姿を求めてしまうのよね。現実は『お母様が寝ている間に体を弄んだ悪い子』で、『年相応の欲を持つ夫』なのに、どうしてこう……。オーガストに夢を見てしまうのかしら?」

「あぁ……」と溜め息をつきつつ、リディアは乳房を隠しまたオーガストの膝に頭を乗せる。

「俺は『悪い子』で『年相応』か?」

 しかしリディアは、その言葉がオーガストが最も気にしている〝年齢差〟を逆撫でしたと気づいていない。
 オーガストがどんな想いでリディアの就寝中に手を出し、今だって彼女の前では年齢以上に見られる落ち着きと威厳を兼ね揃えるよう努力しているかなど、彼女は知らない。

 周囲から見ればオーガストは二十一歳と思えない落ち着きがあり、先見の明もあり立派に国王として務めを果たしている。
 しかしリディアから見れば、オーガストはいつまで経っても『まず息子』であり、それが『夫になった』のは変わらない。

 パタン、と本をサイドテーブルに置き、オーガストは両腕でリディアの上半身を抱え自分にもたれさせる。
 剥き出しになった乳房をやわやわと揉み、リディアの唇を摘まんだ。

「散々あなたに種付けしている俺を、いまだ子供扱いするのか?」

 毎日興が乗ると自分から「母上」と言っているくせに、オーガストはねちねちとリディアを責める。
 薄いドレスの上から秘部に手を置き、揉み込むように刺激してゆく。

「ぁん……。だ、だから子供扱いはしていないってば……。いまのあなたは私の旦那様でしょう? それはちゃんと分かっているわ」

 リディアとて、己の胸に沸き起こる気持ちをどう説明すればいいか分からない。

 最初こそ、『殿下』が自分に懐いてくれて本当に嬉しかった。
 ブライアンに気に入られたいと思うと同時に、オーガストとも懇意になり、血は繋がっていなくても本当の家族のようになれれば……と思った。

 だがブライアンが逝去し、リディアが愛情を向ける存在はただ一人になった。
 ブライアンの中に『男』を感じる間もなく、彼はいなくなってしまう。もちろんリディアもそれまで恋愛らしい恋愛をしていない。

 目の前でぐんぐん成長してゆくオーガストは、『男の子』から『少年』へ変わり、母であるリディアに我が儘を言ったり不器用に甘えてくる。

 その頃からやけにボディタッチが多いと思っていたが、彼が『青年』になる頃には、オーガストの目に込められる熱に気づいてしまった。

 リディアが裁縫やレース編みをしている時、視線を感じて顔を上げればオーガストがじっと見ている。「なに?」と尋ねても「別に」と言って、視線を逸らした。だがまたリディアが手を動かすと、あのまとわりつくような視線を感じるのだ。
 髪を上げた時の首筋や、ドレスから覗く胸元、コルセットで締めた腰やそこからドレスに覆われる臀部。そのようなものに視線を感じていた。

 思春期だから、近くにいる自分が気になるのだろう。

 そう思おうとしても、他にも侍女や女官、メイドたちがおり、オーガストにもっと年齢が近い者だって毎日側で仕事をしている。

 だというのに、なぜ『母親』である自分にそのような目を向けるのだろう? と、疑問と共にゾクリとした背徳を覚えた。
 オーガストが自分を『女』として扱うたび、口では毅然として「いけません」と拒絶するのに、内なる女が悦んでしまうのだ。
 リディアはそれを、懸命に「自分は男性を知らないからだ」と言い聞かせていた。

 どんな男性にも特別扱いされず、女として求められなかった。だから、オーガストに優しくされて、独占欲を見せられ、求められると嬉しくなってしまう。
 しかしそれは「いけないことだ」というのも、重々分かっている。

 彼はいずれ国王となり、どこかから王女なり大貴族の令嬢なりを娶る。そのときリディアは『国王の母』として存在し、彼から一歩離れた場所に立たなければいけない。
 もしかしたら同じ屋根の下でオーガストは花嫁と毎日子作りに励むかもしれないし、世継ぎが生まれたら自分は『おばあさま』だ。

『それ』はガーランドを思えば、喜ぶべき光景だ。

 しかし一個人のリディアからすれば、見たくない光景でもあった。

 オーガストに求められれば求められるほど、リディアも彼に依存し離れがたくなってしまう。
 そうなってしまう前に、政略結婚でもいいからどこか遠い場所に嫁いでしまいたかった。大切なオーガストとの思い出を胸に、別の男の妻となり、オーガストを想って抱かれるのだ。

 いずれ子を孕み、完全に別の家の人間となって、公の場でオーガストとよそよそしい挨拶をする……。

 ――そこまでの未来を覚悟していた。




 だから、知るよしもない。

 オーガストが最初からリディアを妻にしようと画策し、手放す気など毛頭無かったなど。
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