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番外編2:子爵令嬢キャロルの転機1 ☆

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 それは、三月にリディア王妃が二十九歳の誕生日を迎えたパーティーでのことだ。

 アップルヤード子爵令嬢キャロルは、意気揚々と王宮で開かれた舞踏会に向かった。

 なにせ元・子爵令嬢から王妃の座まで上り詰めたリディアは、キャロルのような令嬢たちにとって憧れの存在だ。

 加えてリディアには幾つものあだ名がつき、その美貌は同性ですら悩ましい息をついてしまうほど。
 衰えることを知らないみずみずしい美貌は、いまだどこかに少女っぽい無垢さを窺わせる。それに反して体はすっかり成熟し、張りのある大きな乳房や妖艶なボディラインは人々の目を引く。
 女性なら「ああなりたい」と羨望の眼差しを向け、男性なら思わず股間を硬くして気まずく黙り込む。そんな魅力があるのが、王妃リディアだ。

 傾国の美女と言って差し支えない彼女は、目下年下の夫に夢中で浮いた話は一切ない。

 昨年戴冠式を経て正式な国王となったオーガストも、先王ブライアンに負けない善政を敷き、貴族や民からの支持を得ていた。

 辣腕のカルヴィンが失脚したと聞いた時は、貴族たちは半分「まさか……」と嘆き、半分は「やはりか」と納得していたようだ。

 カルヴィンは容姿に恵まれ宰相という座にいるに関わらず、あまりに長いあいだ野心を見せなさすぎた。
 ブライアンが存命の頃は、彼の目があったので何もできなかったと言っていい。だがブライアンがいなくなり、国王不在の期間が続いたとき、誰もがカルヴィンが牙を剥くと予想していたのだ。

 しかしカルヴィンはオーガストが成人するまで見守り、あくまで良い宰相を演じていた。
 その先に、王妃リディアと懇意にしているという噂があり、誰もが「狙いは王妃か」と納得していたのだ。

 だがカルヴィンの野望は果たされることなく、オーガストによって悪事を暴かれ失脚した。一緒にオーガストを迫害していたというパールも刺されたというのだから、誰もがカルヴィンとパールの繋がりを想像し、何度も頷く。
 カルヴィンとパールはまさに似たもの同士で、己の野心のためなら何でも踏み台にするという雰囲気があった。

 ブライアン存命の頃から、カルヴィンとパールが密通しているという噂がある。しかしクレイグが現れてその噂もうやむやになり、オーガストが即位したあとの事件へ発展したのだが……。
 厚顔無恥にも王宮へ戻ったパールが、元のさやを頼ってカルヴィンと寝てもおかしくない。裏の事情を知っている貴族たちは、皆そう囁き合っていた。

 しかし現在の王宮は非常に風通しがよくなり、王妃の誕生会でもみな素直な祝福を口にする。
 舞踏会でお似合いのオーガストとリディアが見られたのなら僥倖。彼らと目通り叶わなくても、王宮主催の舞踏会は、出会いの宝庫だ。


**


「本当に素敵な舞踏会ねぇ」

 目付役からとっとと逃げ出したキャロルは、高い天井に描かれたフレスコ画や、その周囲にある精緻な彫り模様を見て溜息をつく。
 皓々と明かりが灯ったダンスホールには、盛装した男女がひしめき、音楽に合わせてワルツを踊っている。

 一番最初に踊ったのはもちろんオーガストとリディアで、キャロルは人々の合間から二人が踊る様子をうっとりと見ていた。

 オーガスト国王はまだ二十二歳で、スラリと背が高く騎士にも負けない見事な体躯をしている。黒地に赤の装飾がついた衣装を着こなし、彼が身を翻すたび女性たちが黄色い悲鳴を上げていた。
 また彼と見つめ合って踊るリディアも、同じ人間と思えない女神のような美を放っていた。彼女が回転するたび銀色の後れ毛がふんわりとそよぎ、月光に絹糸が反射したかのように煌めく。髪と目の色に合わせた、銀色のドレスと体の要所につけたエメラルドの宝石も、彼女を引き立てる役割をしっかり果たしている。

 まさに完璧な二人が見事に踊りきったあと、場内はしばらく異様な熱気に包まれ拍手がやまなかった。

 王妃リディアは現在妊娠中で、ふんわりとしたドレスのお腹もだいぶ大きくなっている。
 大事をとるためか、リディアは舞踏会が始まって二、三時間してオーガストと共にどこかへ消えてしまった。

 しかし二人の大ファンであるキャロルは、どうしても二人に目通り叶い、一言祝いの言葉を述べたくて堪らない。


 なので、一人でこっそり城内を歩き回ってしまったのだ。


**


 しかし歩哨が歩き回る城の中を……というにも限界があり、見張りにやんわりと「お戻りください」と言われたキャロルは落胆して裏庭に出ていた。

 裏庭から国王夫妻の部屋の明かりが見られたら……。

 そんな気持ちで一人散策していたのだが――。

「駄目よ、オーガスト」

 遠くからそんな声が聞こえ、キャロルはビクッと肩を跳ねさせ周囲を見回した。

(いま……確かにオーガストって言った? 国王陛下をそんな風に呼べるのって、王妃様しか……)

 お祝いを言えるチャンスだと思い、キャロルは必死に声がした方向に足を忍ばせた。

(あ……)

 キャロルの目に入ったのは、誰もいない裏庭の噴水の端に座ったオーガストとリディアだ。
 リディアは大きくなったお腹に手を這わせ、何度も撫でている。そんな彼女をオーガストは抱き寄せ、額や頬にキスを落としていた。

(こっ……国王陛下とリディア様……っ!)

 興奮したキャロルは、息を殺して木の幹と一体化しようと試みる。耳をそばだてれば、二人の会話も噴水の音に混じって聞こえてきた。

「リディア、最近していない」
「だからって外はないでしょう。早めに休憩をと思って中座した意味がないわ」

 リディアは何やらごねているのだが、オーガンジーの肩布を両側に下ろされ、美しい肩や鎖骨、デコルテが露わになった。

(きゃああああ! 美しいわ! 本当に女神!)

 大興奮したキャロルはゴクリと喉元で唾を嚥下した。
 やがて月光を浴びたリディアは大きく張った乳房までも晒し、オーガストの手によってやんわりと揉みしだかれる。

「あ……、ん。ん……ぁ」

 真っ白な乳房の先端は、濃く色づいて勃ち上がっている。だが決してくすんだ色ではなく、熟れた果実でもついているかのようだ。

「リディア、キス」

 オーガストが甘い声でねだり、キャロルが見守っている先で二人は深いキスを交わし始めた。
 見ているキャロルとしても、二人が絶世の美男美女なのでその光景を芸術品か何かのように捉えていた。

 これが多少憧れている幼馴染みなどのレベルなら、拗ねる気持ちと共に幻滅していただろう。しかしオーガストとリディアの場合、国王と王妃という雲の上の存在だ。天上人の秘め事に、キャロルは夢心地になっていた。

 やがてオーガストはリディアの靴を脱がせ、噴水の縁を跨がせた。ドレスや足が濡れるのも構わず、オーガストは銀色のオーガンジーを捲り上げ真っ白な脚を曝け出してしまう。

「下着をつけず皆の前に出てどうだった? 姿を現す前にたっぷり濡らして、脚に蜜が伝っていたんじゃないか? 淫らな王妃様」
「やだ……。も……、意地悪しないで……」

 リディアの脚は長靴下に包まれており、太腿にある繊細なレースが魅惑的だ。しかしその上に靴下留めはあっても、彼女は下着を穿いていなかった。
 離れた場所にいるキャロルからも、銀色の和毛が月光を反射しているのが見える。そしてその下にも、濡れて輝く箇所が……。

(王妃様……綺麗……)

 今まで女性の下肢などもちろん見た事がなかったが、後にも先にもリディアのそれは別格だと思った。
 ごくり、とキャロルの喉が鳴り、美しくも淫らなリディアの姿を見ているだけで胸がドキドキする。
 そのうちオーガストがリディアの秘部に指を挿し入れ、噴水の水音に混じってクチュクチュと濡れた音が聞こえてきた。

「あ……っ、ぁ、あ、やぁ……っ、ンぁ、……ぁ」

 艶冶な声も聞こえ、リディアが身じろぎするたびに、パシャパシャと噴水の水面を足が叩く音もする。
 ついにはオーガストがリディアの足元に跪き、その麗しい顔を秘められた場所に埋めた。

「っあぁあんっ、オーガスト、だめ、こんな所で……っ、あぁ、あ……」

 リディアの声は一層甘く高くなり、キャロルの胸は爆発寸前だ。
 やがてリディアの声が引き絞るように高くなったあと、彼女は遠目から見ても分かるほど震え、絶頂を極めた。

(すごい……。なんて美しいお姿なの……)

 汗を浮かべしどけなく横たわったリディアは、女神が午睡しているようだ。乳房を晒し秘部までも月光に光らせているというのに、その淫らさは決して彼女の品格を損なわせない。
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