上 下
48 / 71

番外編1義息子の劣情:二十歳の企み1

しおりを挟む
「母上、おはようございます。今朝は遅かったですね」
「おはよう、オーガスト。……そうね、少し体がだるいような気がして」

 朝食の席に、リディアはいつもより遅れて姿を現した。

 貞操帯をつけて二日目だからか、その歩き姿は幾分ぎこちない。

 しかしリディアの体調不良はそれだけではない。

 昨晩獣のような声を出すほど感じさせられ、そのあとオーガストの熱杭でたっぷりと擦られた。
 本当に抱かれたときと遜色ない体力の使い方をし、目覚めてすぐ起き上がれなかったほどだ。

 何も知らないリディアは、それもこれも慣れない貞操帯というものをつけたせいだと決め込んだ。なのでオーガストを見る目も、若干恨みがましいものだったのだが……。

 けれど正直を言えば、このように体の疲れを感じて目覚めるのも、ここ数年ずっとだ。だから本心では、まだ二十代だが歳を取って疲れが抜けなくなったのだなと悲しく思っていた。

「あなたは国母ですから、どうぞお体を大切に。もし政務が無理なようなら、自室で横になっていていいですからね」
「気持ちはありがたいけれど、お仕事をお休みすることなどできないわ」

 何事もなかったかのような顔でリディアに提案したオーガストは、たっぷりと睡眠をとり英気を養っていた。

 昨晩リディアを自らの手で清めたあと、ちゃんと貞操帯をつけさせ同じデザインのネグリジェを着せる。

 それから空が白む時間まで、リディアを抱き枕にぐっすりと眠ったのだ。

 早朝はいつも騎士たちと体を鍛えることになっている。
 淫戯自体も四年前から続けているので、起きる時間も把握していた。
 朝になれば隠し通路を通って自分の寝室に戻り、それとなく寝具を乱して鍛錬に出掛ける。

 少なくとも彼はこの生活を、二十一歳になるまでずっと続けるつもりだ。


**


 そしてオーガストが二十一歳になる前日。

『すべて』の準備を終え明日を待つだけとなったオーガストは、リディアと盃を交わしていた。

「本当におめでとう、オーガスト。明日であなたは殿下ではなく陛下と呼ばれる存在になるわ」

 すでに二十八歳の誕生日を迎えたリディアは、艶然と微笑んだ。

 六年前よりもさらに女っぷりに磨きがかかり、その肢体も官能的になった彼女は、目にした者の心を奪う魔性の美しさを醸し出している。
 その彼女はいつも何かしら忙しく働いていて、個人的に近付きたいと思う者を自然と阻んでいた。

 リディアにあれこれ仕事を振り分けるのも、オーガストの差し金だったのだが。
 そんな彼女の個人の時間を独り占めできるのはオーガストだけだし、明日強引に結婚してしまえば、一生彼女を自分のものにできる。

 ――実に結構。

 オーガストは内心舌なめずりをしていた。

 加えてこの六年で、リディアも貞操帯に慣れたようだ。

 同時に真夜中の淫戯も遠慮がなくなり、挿入する以外のことは一通りこなした。

 十一歳のときからずっとリディアの閨に忍び込んでいるので、彼女の月のものの周期も把握している。
 いまではオーガストの秘密の手帳にメモをし、新婚となったあかつきにいつなら確実に孕ませられるかも分かっていた。

 リディアが自分を思う以上に、オーガストという男はリディアを分かっている。

 反抗期の頃ならすぐリディアと喧嘩をしていたが、いまなら彼女がカリカリしているのを見て「ああ、『そろそろ』なのか」と生暖かい気持ちで理解を示すほどだ。

「すべて母上が側で見守り、深い愛情で包み込んでくださったからですよ」

 意味深長な言葉を口にするが、リディアは字面を受け取って微笑む。

「いいえ、私の愛情だけでオーガストが育ったのではないわ。あなたがたゆまぬ努力をし、精進し続けたからよ。お母様は鼻が高いわ」

 もうすっかり『母』の顔をしているリディアの心のなかに、ブライアンが占める箇所はほぼないのだろう。

 ドレスも宝石も、すべてオーガストが見立てた。

 ブライアンのことを考える暇もなくオーガストが相手をし、彼女が一人になる時間があれば『息子』の顔をして甘える。
 そうすれば、リディアは絶対に断れないと分かっているからだ。

 いまなら何を言えばリディアが喜び、悲しみ、怒るのかすべて理解している。
 なので普段はリディアの理想の息子を演じ、オーガストが立腹したときだけわざと意地悪を言うことにしていた。

 結果リディアはオーガストの言葉に揺さぶられ、見事なまでに息子の言うなりになる。
 息子の我が儘に振り回されているのではなく、リディアは「自分は母としてオーガストの言葉すべてを迎え入れている」と思い込んでいた。

 年を追うごとに、リディアのオーガストへの執着は増してゆく。
 本当はそれよりもオーガストの執着のほうが凄まじいのだが、彼は周囲に気付かれる素振りを見せていない。

「リディア様は本当に殿下がお好きなのですね」と周囲に笑われるほど、リディアの世界はオーガスト一色に塗り変わっていた。

 いまリディアは幸せいっぱいという顔をし、白ワインのグラスを傾けている。
 彼女にとっては祝杯なのだろう。

「母上、あまり調子に乗って飲み過ぎないように。明日は大事な式典がありますから」
「ええ、分かっているわ。でもこのワイン美味しいから、もう一杯……」

 手酌でワインをおかわりしようとするリディアの手から、オーガストがボトルを取り上げた。

「この一杯でおしまいですよ? あなたはあまり酒が強くないのだから」
「分かったわ。約束する」

 トクトクと薄い琥珀色が注がれ、リディアはエメラルドグリーンの瞳を細めてその様子を見守っている。

「明日で国王陛下になる方に、お酌をしてもらうなんて贅沢だわ」
「何を言っているんです。母上なら毎日でも酌をしますよ」

「駄目よ。あなたには隣に座るべき王妃陛下がいるのだから。私は明日で『あれ』を外すけれど、オーガストも約束通り結婚する相手は決めたの? いままで舞踏会を開いても、これといった噂話を聞かなかったけど……」

 突如始まったお説教にも、オーガストは動じない。

「ええ、もう決めてありますからご心配なく」
「本当!?」

 いきなり雪でも降ったかのような表情で驚いたリディアの手元で、チャプッとワインが撥ねた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】記憶喪失な新妻は国王陛下の寵愛を乞う【挿絵付】

臣桜
恋愛
ウィドリントン王国の姫モニカは、隣国ヴィンセントの王子であり幼馴染みのクライヴに輿入れする途中、謎の刺客により襲われてしまった。一命は取り留めたものの、モニカはクライヴを愛した記憶のみ忘れてしまった。モニカと侍女はヴィンセントに無事受け入れられたが、クライヴの父の余命が心配なため急いで結婚式を挙げる事となる。記憶がないままモニカの新婚生活が始まり、彼女の不安を取り除こうとクライヴも優しく接する。だがある事がきっかけでモニカは頭痛を訴えるようになり、封じられていた記憶は襲撃者の正体を握っていた。 ※全体的にふんわりしたお話です。 ※ムーンライトノベルズさまにも投稿しています。 ※表紙はニジジャーニーで生成しました ※挿絵は自作ですが、後日削除します

【R18】侯爵令嬢の私は弟から溺愛されて困っています

ねんごろ
恋愛
侯爵令嬢の私、アイシア・レッドフィールドは毎日のように弟から溺愛されています。 しかもその溺愛の様が常軌を逸していて…… お姉ちゃんは困ってしまいます。

【R-18】SとMのおとし合い

臣桜
恋愛
明治時代、東京の侯爵家の九条西家へ嫁いだ京都からの花嫁、大御門雅。 彼女を待っていたのは甘い新婚生活ではなく、恥辱の日々だった。 執事を前にした処女検査、使用人の前で夫に犯され、夫の前で使用人に犯され、そのような辱めを受けて尚、雅が宗一郎を思う理由は……。また、宗一郎が雅を憎む理由は……。 サドな宗一郎とマゾな雅の物語。 ※ ムーンライトノベルズさまにも重複投稿しています ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

【R-18】やさしい手の記憶

臣桜
恋愛
フース王国の王子フリッツは雨の酷い晩に落馬して怪我をし、そこをアメリアという偽名を名乗る女性に命を救われた。しかしアメリアはフリッツが自分の姿を見る事を許さず、フリッツはアメリアの小屋で過ごす間ずっと目隠しをされていた。 アメリアへの想いを残したまま怪我が治って城へ戻ったフリッツの前に現れたのは、クロエという新しい世話係。隣国ロシェの名を持つクロエの秘密と、謎の女性アメリアとの共通点は――。 ※表紙はニジジャーニーで生成しました ※ムーンライトノベルズさまにも投稿しています

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

【R-18】死神侯爵と黄泉帰りの花嫁~記憶喪失令嬢の精神調教~【挿絵付】

臣桜
恋愛
コレットは死にゆこうとしていた。だが気が付けば彼女は温かな寝床におり、ジスランという男性の介護を受けていた。次第に元気を取り戻したコレットだが、彼女は自分が何者であるかまったく覚えていない。それでもジスランに恩返しをしたいと願うコレットは、彼の愛人となる事を受け入れた。熱っぽい目で見つめられ、毎度熱い精を注がれる。だがジスランはキスだけは決してしてくれなかった。いつかこの関係にも終わりが来るのかと思っていた時、コレットを知る人物が城を訪れ始める。徐々に明かされる自身の過去と対峙した時、コレットの身に襲いかかったのは――。 ※ドロドロなダークシリアスです。直接的な描写はそれほどありませんが、血生臭かったりがっつり近親相姦などがあります。タグに気を付けてお読みください。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。 ※表紙はニジジャーニーで生成しました。挿絵は自分で描きましたが、表紙とそぐわないのでいずれ削除する予定です。

【R18】9番目の捨て駒姫

mokumoku
恋愛
「私、大国の王に求婚されたのよ」ある時廊下で会った第4王女の姉が私にそう言った。 それなのに、今私は父である王の命令でその大国の王の前に立っている。 「姉が直前に逃亡いたしましたので…代わりに私がこちらに来た次第でございます…」 私は学がないからよくわからないけれど姉の身代わりである私はきっと大国の王の怒りに触れて殺されるだろう。 元々私はそう言うときの為にいる捨て駒なの仕方がないわ。私は殺戮王と呼ばれる程残忍なこの大国の王に腕を捻り上げられながらそうぼんやりと考えた。 と人生を諦めていた王女が溺愛されて幸せになる話。元サヤハッピーエンドです♡ (元サヤ=新しいヒーローが出てこないという意味合いで使用しています)

処理中です...