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番外編 2 タワマン事件簿

もう食べられない

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 いっぽう、慎也は細くてカーブした眉毛になり、目元はもともと彫りが深いほうだけど、完全に欧米の女性みたいな目になっている。

 しかもその目はブルーアイだ。
 顔の輪郭はすんなりと細く、色白でつやつやの肌をしている。

 髪はワンレングスで緩くウェーブしたロングヘアで、こちらもまた宣材写真みたいな、完璧な笑顔だ。

「すごぉ……。最新技術すごぉ……」

「いつかマンネリになったら、僕ら、女装してみようか?」

「そこまで求めてない」

 笑いながら言うと、正樹は「悪くないと思うけどなぁ」と首を傾げている。

 そうやってくだらない話をしながら、ウェルカムスイーツを摘まみ、お喋りをした。





 やがてランチタイムになり、部屋のダイニングに和食のテーブルセットがされた。

 赤い漆塗りのお盆が置かれ、お箸に紙ナプキン、それに各自オーダーした飲み物がグラスに入っている。

 私はシャンパンにして、慎也と正樹は日本酒だ。
 乾杯してスッキリした飲み口のシャンパンに「ぷはー!」と息をついたあと、先付が出された。

 夏らしく北海道の甘みのあるホワイトコーンで作った、小さなお豆腐に、お出汁味のジュレが掛かり上にちょんと雲丹がのっている。

「おいし……」

 上品な味に思わずホッと息をつく。

 室内は静かで、リビングからは、先ほど正樹がかけたバッハのチェロ無伴奏が流れている。
 私たちと給仕してくれる人以外は、誰もいない贅沢な空間で、美味しい和食を心行くまで楽しむ。

 贅沢だなぁ……。

 子持ちになると、ついつい俊希と一緒に楽しみたい、彼にも美味しいものを……って思ってしまうけど、今は今で、夫婦が恋人だった頃に戻る時間だ。

 夜になれば母に戻るので、それまでは夢のようなこの時間を楽しんだほうがいい。

 まあ、離れていて心配じゃないかと言われたら、勿論気になっちゃうけど、玲奈さんたちを信じているし、何かあったら必ず連絡してくれる約束をしている。

 そのあと、汁物にはお魚でできた素麺のような物が出され、お造りが出された。
 焼き八寸には見るも涼しい群青色のお皿に上に、小鉢に一口サイズのお楽しみが入れられ、メインには銀だらの西京漬けがあった。

 また、小鉢の中にあったトマトのレモン煮が美味しいったら。

 トマトのゼリーって大好きだし、某銀座のラーメン屋さんについている、ミニトマトのピクルスも大好きだ。
 生のトマトは、あまり好きでも嫌いでもなく、夏場は甘くて美味しいなって思ってるぐらいだけど、それほど強い感情は持たないんだけどね……。

 でも、以前人に教えてもらったレシピで、生姜汁やレモン汁、お酢に蜂蜜と一緒に和えたやつは、無限に食べられるので凄い。

 つくづく、調理っていうのは素晴らしい。トマトソース師匠には、もはや頭が上がらない。

 煮物には山芋やお豆腐、お魚などを繋げたがんもどきをメインに、透明なお出しのあんかけが掛かっている物だ。
 柔らかく煮られたズッキーニやパプリカなどの夏野菜、それにズワイガニが美味しい。

 メインは但馬牛をトロットロに似た、和風ポトフだ。

「うっま……。これ、歯が要らないね」

「優美ちゃんに歯がなくなっても、愛し続けるよ」

「それはまた、結構な決め台詞で……」

 私はケタケタ笑いながら、二杯目のドリンクのお高級な緑茶を飲む。

 ご飯ものはお寿司が出て、お皿にのっているのは三貫だけど、コースならそれで十分だ。
 美味しいトロに平目、シャッキリした帆立を食べて口が満足だ。

 お味噌汁はちょっと濃い目の赤出汁で飲み終わると、「ああ、食べた!」っていう気持ちになる。

 最後は綺麗なうぐいす色の焼き物に入ったコーヒーと、抹茶アイスを中心にした平皿でのパフェだ。

 わらび餅白玉、フルーツが添えられていて、しっかり和風なのに映える。
 抹茶アイスは甘すぎず、品のいい味がして、こちらも満足。

「ごちそうさまでした……!」

 私はぱんっと胸の前で両手を合わせ、ご機嫌に言う。

 シャンパンでちょっとほろ酔いになっているのもあり、本当にいい気分だ。

 ダイニングを片付けてもらっている間、私たちはさらにドリンクを持ってきてもらって、リビングに移った。

「あぁ……。もう食べられない」

 座る所は沢山あるので、私は長ソファに寝そべる。
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