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番外編 2 タワマン事件簿
もう、怒ってるの飽きました
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「やめて……っ! 何様のつもり!?」
「いつまで意地張って『私不幸です』ムーブかましてるつもりですか!?」
私は言い返す。
「幸せになりたい気持ちは分かりますけど、『欲しい』って大声で喚いていても、誰もくれないんですよ。『この人と結婚したい』っていう人が見つかったら、自分と結婚したらどんだけ利点があるか、アピールしていくんです。アピールポイントがなければ、これから作っていくしかない」
私は彼女の肩に手を置き、涙で滲んだ目を見つめる。
「料理が苦手なら、さっき言ったみたいに料理教室に行きましょう。外見は十分おつりがくるほど整っているから、その長所を伸ばしつつ、他の部分もサブの長所として伸ばしていくんです。さやかさん、働いていた時にめちゃくちゃ努力したんでしょう? 何より自分の幸せのためなら、色んな事をガンガン取り入れていきましょうよ」
そう言ったあと、私は彼女の前にしゃがんで目を合わせる。
「努力家のあなたならできます! 今はただ、躓いて転んでしまった傷が痛くて、ちょっとしゃがみ込んでいただけ。また立ちあがって、何をどうやったら自分の成功、幸せに繋がるのか、計算高く生きていきましょうよ。銀座ナンバーワンで勝ち抜けたなら、そのあとの人生も華麗に決めるんです」
私はビシッとサムズアップしてニッカリ笑う。
彼女は困惑した顔をしていたけれど、毒気の抜かれた表情で呟く。
「……あなたを陥れようとした私を、励ますの? 正気?」
「もう、怒ってるの飽きました」
私は真顔になり、きっぱり言う。
「さっきも言いましたけど、怒るってエネルギーを必要とするんです。これから仮に一週間ぐらい、あなたの事を思いだしてはムカムカするとします。心の中で『私は被害を受けた』って被害者になって、悪者を作って心の中でネチネチと攻撃するんです。私、夫や子供っていう大切な人がいるのに、さやかさんの事ばっかり考えているんですよ? 時間の無駄じゃないです?」
言われて、彼女は唇を曲げる。
「よっぽど腹立つ事があるとしても、三日を限度にしています。時々思いだしてしまうのは仕方がないです。でもなるべく意識的に他の事を考えます。その代わり、ムカついた時は思いっきりムカついて、家族や友達に愚痴を言って、カラオケで叫んで思いっきり怒りを発散させます。けど、四日目からは切り替えます。そうしたら残る三日は有効利用できます。人生は有限ですから」
「……私はそんな風に生きられない」
「やってみましょう。強制的に忙しくしたら、つらい事を考える暇ってなくなります。暇な上、他人ばっかり見てるからネガティブな感情が生まれるんです。仕事をしたり、さやかさんならエステなり、自分を磨くための何かのレッスンを受けて、プラス行動して良くなっていく〝自分〟を見ましょう」
私は両手の指でプラスマークを作る。
「思いっきり活動して、夜はお風呂でたっぷり自分をいたわってケアして、早い時間に寝る。早く目が覚めたら、ウォーキングなりジョギングなりしてみる。公園で瞑想とかでもいいですね。いつもと違う時間に違う場所に行ったら、見える物、感じる物が変わるかもしれませんよ。毎日同じ場所で同じ事をしているから、考えも凝り固まったままになるんです」
両手でギュッと彼女の手を握る。
彼女の手は指先が少し冷えていて、私はその手をにぎにぎした。
「冷え性ですか? 基礎代謝が下がっているかもしれないので、体が温まる物、ついでに鉄分もしっかりとって、筋肉量も増やして血の巡りを良くしましょう。踵の上げ下げするだけで、ふくらはぎのポンプ機能が刺激されますよ。あと、ダイエットしてません? 十分痩せてるので体型を気にする事はありませんからね? もしも気になるなら、筋トレして体を引き締めましょう」
次々に言う私を見て、さやかさんは目を丸くしている。
「ストレスが溜まってると、交感神経が優位になります。夜はリラックスして副交感神経を優位にして眠れるように、安眠グッズとかホットミルク、ハーブティーとか、色々試してみましょう。あと、両手首、足首、首。五つの首をしっかり温めて。そうやって、体のリズムをしっかり整えていきましょう」
彼女はすっかり困惑していた。
「……何なの? 医者なの?」
それに、私はにっこり笑った。
「いいえ。ただの、永遠のトレーニーです。その代わり、何でも貪欲に学んでいる途中です」
例の、私を担当してくれたパーソナルトレーナーさんから、色んな事を教わった。
知識もだし、トレーニングの仕方も、考え方も。
学んだ事を、私で止めてはいけない。
十八歳の時からさらに我流で学んで「いい」と思えた事を、どんどん人に教えていく。
そうやって、いい事の連鎖、循環を生んでいきたい。
「人は対価を払って得たものに重きを置きます。相応にお金と時間を掛けて得た地位の人……、先生や教授、プロの人の言葉なら、聞き入れやすいと思います。でも私はただの一般人です。何かを言っても説得力がないかもしれません」
それはきちんと自覚してる。
「いつまで意地張って『私不幸です』ムーブかましてるつもりですか!?」
私は言い返す。
「幸せになりたい気持ちは分かりますけど、『欲しい』って大声で喚いていても、誰もくれないんですよ。『この人と結婚したい』っていう人が見つかったら、自分と結婚したらどんだけ利点があるか、アピールしていくんです。アピールポイントがなければ、これから作っていくしかない」
私は彼女の肩に手を置き、涙で滲んだ目を見つめる。
「料理が苦手なら、さっき言ったみたいに料理教室に行きましょう。外見は十分おつりがくるほど整っているから、その長所を伸ばしつつ、他の部分もサブの長所として伸ばしていくんです。さやかさん、働いていた時にめちゃくちゃ努力したんでしょう? 何より自分の幸せのためなら、色んな事をガンガン取り入れていきましょうよ」
そう言ったあと、私は彼女の前にしゃがんで目を合わせる。
「努力家のあなたならできます! 今はただ、躓いて転んでしまった傷が痛くて、ちょっとしゃがみ込んでいただけ。また立ちあがって、何をどうやったら自分の成功、幸せに繋がるのか、計算高く生きていきましょうよ。銀座ナンバーワンで勝ち抜けたなら、そのあとの人生も華麗に決めるんです」
私はビシッとサムズアップしてニッカリ笑う。
彼女は困惑した顔をしていたけれど、毒気の抜かれた表情で呟く。
「……あなたを陥れようとした私を、励ますの? 正気?」
「もう、怒ってるの飽きました」
私は真顔になり、きっぱり言う。
「さっきも言いましたけど、怒るってエネルギーを必要とするんです。これから仮に一週間ぐらい、あなたの事を思いだしてはムカムカするとします。心の中で『私は被害を受けた』って被害者になって、悪者を作って心の中でネチネチと攻撃するんです。私、夫や子供っていう大切な人がいるのに、さやかさんの事ばっかり考えているんですよ? 時間の無駄じゃないです?」
言われて、彼女は唇を曲げる。
「よっぽど腹立つ事があるとしても、三日を限度にしています。時々思いだしてしまうのは仕方がないです。でもなるべく意識的に他の事を考えます。その代わり、ムカついた時は思いっきりムカついて、家族や友達に愚痴を言って、カラオケで叫んで思いっきり怒りを発散させます。けど、四日目からは切り替えます。そうしたら残る三日は有効利用できます。人生は有限ですから」
「……私はそんな風に生きられない」
「やってみましょう。強制的に忙しくしたら、つらい事を考える暇ってなくなります。暇な上、他人ばっかり見てるからネガティブな感情が生まれるんです。仕事をしたり、さやかさんならエステなり、自分を磨くための何かのレッスンを受けて、プラス行動して良くなっていく〝自分〟を見ましょう」
私は両手の指でプラスマークを作る。
「思いっきり活動して、夜はお風呂でたっぷり自分をいたわってケアして、早い時間に寝る。早く目が覚めたら、ウォーキングなりジョギングなりしてみる。公園で瞑想とかでもいいですね。いつもと違う時間に違う場所に行ったら、見える物、感じる物が変わるかもしれませんよ。毎日同じ場所で同じ事をしているから、考えも凝り固まったままになるんです」
両手でギュッと彼女の手を握る。
彼女の手は指先が少し冷えていて、私はその手をにぎにぎした。
「冷え性ですか? 基礎代謝が下がっているかもしれないので、体が温まる物、ついでに鉄分もしっかりとって、筋肉量も増やして血の巡りを良くしましょう。踵の上げ下げするだけで、ふくらはぎのポンプ機能が刺激されますよ。あと、ダイエットしてません? 十分痩せてるので体型を気にする事はありませんからね? もしも気になるなら、筋トレして体を引き締めましょう」
次々に言う私を見て、さやかさんは目を丸くしている。
「ストレスが溜まってると、交感神経が優位になります。夜はリラックスして副交感神経を優位にして眠れるように、安眠グッズとかホットミルク、ハーブティーとか、色々試してみましょう。あと、両手首、足首、首。五つの首をしっかり温めて。そうやって、体のリズムをしっかり整えていきましょう」
彼女はすっかり困惑していた。
「……何なの? 医者なの?」
それに、私はにっこり笑った。
「いいえ。ただの、永遠のトレーニーです。その代わり、何でも貪欲に学んでいる途中です」
例の、私を担当してくれたパーソナルトレーナーさんから、色んな事を教わった。
知識もだし、トレーニングの仕方も、考え方も。
学んだ事を、私で止めてはいけない。
十八歳の時からさらに我流で学んで「いい」と思えた事を、どんどん人に教えていく。
そうやって、いい事の連鎖、循環を生んでいきたい。
「人は対価を払って得たものに重きを置きます。相応にお金と時間を掛けて得た地位の人……、先生や教授、プロの人の言葉なら、聞き入れやすいと思います。でも私はただの一般人です。何かを言っても説得力がないかもしれません」
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