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番外編 2 タワマン事件簿

いつかは成長のもとにしてやる

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 家族に愛されるという事は何か。

〝他人〟を〝母〟と呼んでいいのか、懐いていいのか。

 玲奈さんを愛してしまえば、記憶がほぼないとはいえ実母への裏切りにならないのか。

 幸せそうに見える父と〝母〟〝弟妹たち〟の中に、自分が混じっていいのか。

 いつか死んでしまう相手に、自分の重たすぎる感情を預けていいのか。

 正樹はずっと、自分に問い続けてきた。

 挙げ句、自分の外見や肩書きに群がってくる女性たちに絶望した。

 誰を信じたらいいか分からなかっただろうし、何を大切にすべきか判断がつかなかっただろう。

 女性との複数プレイに嵌まっていた時期も、その行為に安堵を求めていたと言っていたけれど、私は別のものも感じた。

 あまりに心がズタズタになって、誰を頼ったらいいか分からなくなったから、どんどん自分を傷つけて堕としていくしかなかった。

 正直に悩みを打ち明けて向き合ってくれる人を探すより、理性のタガを外した行為ができる仲間を探すほうが、ずっとたやすいからだ。

 真剣に交際できる人を探すより、適当に遊べる人のほうが見つかりやすいのと似ている。

 そのほうが、心の労力を使わなくて済むから。

 正樹が荒れていた当時、もしかしたら玲奈さんに心配されても、よそ行きの笑顔で婉曲に「あなたには関係ありません」みたいな事を言ったかもしれない。

 それでも表面上明るく振る舞い続け、余計に心と原動の間に乖離が生まれてしまった。

 そんな心の傷があるから、正樹は自分と似た匂いのする人を嫌う。

 五十嵐さんが苦手なのもそうだけど、「かつてうまく立ち回れず、己を傷つける事ばかりしていた自分を思いだして嫌になる」かららしい。

 今は私が「どすこい!」と受け止めて、全部愛しているから落ち着いている。

 けれど心の底に何かの〝欠け〟がある人は、きっかけがあると揺らぎやすい。

 私自身、ダイエットが成功して自分に自信が持てたと思っても、いまだ精神が揺さぶられる事はある。
 あまりに馬鹿にする態度で過去の体型を揶揄されると、冷静さを失ってしまう。

 五十嵐さんを相手にした時や、同窓会の時なんかがいい例だ。

 それでも私は、自分を奮い立たせるために心の傷と向き合っている。

 鏡の前に立つ時、いつも一瞬昔の自分が映る気がする。

 自信がなさそうで、「余ったお肉が魔法のように消えたらいいな」と願っている、悲しげでどこか諦めた目をした、気弱そうな少女。

 ダイエットに成功した今は、一瞬移った〝彼女〟に「大丈夫だからね!」と言い聞かせて〝今〟の私の戦場に向かう。
 そしてかつての〝彼女〟ならできなかっただろう、ハキハキした言い方をして男性に肩を並べて働く。

 でもしんどい時は〝彼女〟に向き合わず、そっぽを向いていいと思っている。

 けど心の奥に〝彼女〟がいる事は認めないといけない。

 過去は変えられないし、深く傷付いた出来事だって、いつかは成長のもとにしてやると思って私は生きている。
 それが失敗、挫折を乗り越えていく事だと思っている。

 過去とは向き合ったり逃げたり、その時の調子に合わせて、いい感じに共存して丁度いいぐらいだと思う。

 過去の傷に向き合いすぎて「私は可哀想!」って思い込むと、結果的に色んな人を傷つけていく。

 慰めてくれる人に依存したり、自分より不幸だと思う人にマウントをとってしまう。

 そうしていると、周りから人が離れていく。

 人はある程度なら愚痴を聞くし、親切な人は「役に立ちたい」と思うから相談に乗る。
 でも毎回同じ事をグダグダ言っていると、負担に思うし自分のメンタルだって引っ張られる。

 結局、自分を守るために、ネガティブな事ばかり言う人から距離を取る。

 残るのは、不幸自慢沼から抜けられない人や、「あの人は可哀想だから自分よりマシ」という思考を持つ人だけになる。

「自分可哀想」に嵌まっていると心地いいけれど、前には進めない。

 だから他人で自分を癒すより、自分で自分のご機嫌をとって癒していくほうが、ずっと前向きなんじゃないかと思う。

 カラオケ行って大きい声を出したり、欠点を補うためにさらに努力するとか、美味しい物を食べたり、友達と遊んだり楽しい所に行ったり、恋人や家族と過ごしたり。

 少なくとも、自分を心地よくするための行動をとれば、何かしらプラスになる。

 傷付いた過去に囚われて過ごすのは勿体ない。

 立ち止まって文句ばかり言うぐらいなら、私は生産的な事をしたい。

 自戒すべき過去があっても、〝今〟を生きる自分にまで鞭を打ち続けなくていい。

 過去の出来事はすでに過ぎ去った。

〝今〟は自分の人生という道を歩いている真っ最中だ。

 後ろ向きに歩いていたら、前にある障害物に気づかず転んでしまう。
 だから前を向いて、もう転ばないように注意する。

 そしてせっかくだから、綺麗な景色がないか楽しみながら進んでいきたい。










 すみません、最新部分ですが、ちょいちょい直して書き加えていたので少しずつズレています。
 ここ数話、少し削ったり加筆したりしているので、良ければ更新が止まっている時とかにでも読んで頂ければ。
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