上 下
512 / 539
番外編 2 タワマン事件簿

あなたは可能性に満ちているんです

しおりを挟む
「あのさぁ、僕らが〝眩しい光を浴びてまっすぐ進んでる〟って、誰が言った? 僕ら、君とじっくり話すの初めてだよね? 僕らの家庭の事とか、仕事の話もまったくしてないよね? 勝手に決めつけないでくれる?」

 強い口調で言われ、三笠さんは涙混じりの目で正樹を見る。

「そーいう『じゃあ、久賀城さんにもつらい事あるの?』って伺うような目をされるのも不快なんだけど。お前に話す事なんて一つもねーよ。この犯罪者が」

 初めて正樹の口調が乱れた……というか、マジモードになって、私は瞠目して彼を盗み見た。
 正樹は少し顎を上げた尊大な態度で、珍しく顔に不快感を露わにしている。

「悪い所が分かってるなら、そこでブレーキ踏んで自分で何とかしろよ。どうにもできなくて他人を羨んで、挙げ句関係ない人にまで迷惑掛けて、自分は被害者です? 言ってる事もやってる事もキモいんだよ」

 正樹に容赦のない言葉を掛けられ、三笠さんは視線を伏せる。

 私は「あんまり言い過ぎなくていいよ」っていう意味で、正樹の太腿に触れる。
 けど彼は応えなかった。

 というか、私もかなりズバズバ言っちゃったから、フォローできる立場でもない。

「どんな規模であれ会社の代表やってるなら、責任取れ。お前の下で働いてる社員が気の毒だ」

 ……そっか。正樹は社長をしてるから、同じ立場として余計に三笠さんのやってる事が許せないのか。

 私が納得した時、慎也が口を開いた。

「あなたが置かれている状況は想像できますし、大変だと思います。久賀城ホールディングスは確かに大企業と言われる部類にありますが、何もせず業績が右肩上がりになっている訳ではありません。サービス業ですから、日々お客様の事を考えて働くしかありません。毎日努力しなければいけないのは、誰だって同じなんです」

 言われて、立っていた三笠さんは溜め息をついてソファに腰を下ろした。

 かなり精神的にやられてるみたいで、肩を落として座っている姿を見ると、あのギラギラした感じが嘘のようだ。

 私は息をつき、少しフォローに回る。

「『自分は不幸だ』と思うのにプライドが高いと、うまくいっているように思える人に嫉妬してしまいます。でなければ、自分を守るために他者を見下してしまいます。そうしないと自分の価値を認められなくなるからです」

 私は静かに話し始める。

「色んな欲があるのは結構ですが、現在の自分を冷静に分析した上で、『ある程度幸せ』だと認められませんか? 他人の羨ましいところばかり見ていたら、そりゃ自分が劣っているように感じます。自分を見失わないために、今までどれだけ努力したか、何を得たか、もうちょっと認めてあげましょうよ。そんなに自分に厳しくしなくていいし、目標を高く掲げなくていいんです」

 三笠さんは放心したまま私の言葉を聞く。
 その様子を見て、少し気の毒に思ってしまった。

「今『自分はどん底にいる』と思っても、ずっとは続きませんよ。絶対に」

 彼を崖から突き落としたのが私たちなら、帰り道のハシゴもきちんと用意しておきたい。

 そう思ってフォローする。

「『良くなりたい』と思う意思があるなら、あなたは可能性に満ちているんです。自分を見つめ直す事だって、交友関係も会社をもっと成長させる事だって、三笠さんの気持ち一つなんです。〝今〟をターニングポイントにしたら、これから良くなっていくかもしれませんよ。一番駄目なのは、今回の事で諦めて投げやりになる事です。会社の部下にだって、ミスをしたら改善してほしいでしょう? 一発退場になんてさせないでしょう? それと同じです」

 言ってから、伝わったらいいな、と願った。

 そして改めて今の状況を見て、早くこの場から立ち去りたいと思った。

 幾ら三笠さんが私を盗撮して、ヤバい事をしていたと分かっても、三人で論破しているこの状況はあまりに一方的だ。

 どれだけ正しい事も、力加減を誤れば暴力になる。

 気持ち悪い思いをしたし、三笠さんが改心しても五十嵐さんのように好きになれないと思う。

 けど、徹底的に潰していいかと言われたら、それは違う。

 それでも、彼の事を一から十まで導く必要はない。

 例え相手が俊希でも、ある程度の年齢になれば「親の言う事をすべて聞けば間違いない」なんて言わない。
 大人なんだから、ある程度のヒントを出したあとは、彼の選択に委ねるしかない。

 私たちは彼の人生に責任を持たないんだから。

 悪者を作って叩くだけなら、どんな人にだってできる。

 でも私たちがしたいのは注意、忠告だ。

『今やっている事をやめてください。改善するなら見逃します』という意味だ。

 その改善方法も少しお膳立てしたのだから、あとは本人の責任で選択してほしい。

「もうそろそろ、おいとましますね。……あとは三笠さんの判断にお任せします。私たちは関わりません」

 私が〝終わり〟を切り出すと、慎也と正樹は息をついた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...