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番外編 2 タワマン事件簿
自浄できるよう努力しましょう
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「画面の向こう側にいる人って、アイコンやハンドルネーム、画像の写真からしか情報が分かりません。でもこの世界に生きている〝誰か〟なんです。心ない言葉を向けられたら傷付きます。大人なんですから、それぐらいの想像力を働かせましょうよ」
私は三笠さんを見つめ、訴える。
「たとえその人が何かミスをしたのだとしても、責める権利があるのは、損害を被った相手だけです。ネットで見ているだけの傍観者に、とやかく言う資格はありません」
私は彼を見つめて、ハッキリと告げる。
「自分が正しいと思い込んで、誰かを悪に仕立て上げるのは確かに快楽を伴います。もしかしたら三笠さんには、攻撃しているという意識もないかもしれません。『正しい事を言ってやっている』と思っているんでしょう。でもその時点で、自分がいかに異常な事をしているか、自覚できていないヤバさがあります。それはただの正義中毒です」
以前、五十嵐さんにあれこれされた時もそうだった。
「いま私たちにドン引きされて気まずく思っているでしょう? これは〝表〟にでたらまずい趣味だって、ご自身も分かっていますよね? ご家族や友人に堂々と教えられる事じゃないですよね?」
私は過去に浜崎くんたちに色々されていたから、こういう事への嫌悪感が強い。
「〝これ〟が理由で身を滅ぼすのは、三笠さん自身です。今回の事で私たちが被害を受けたのは、盗撮の写真のみです。それ以外の人への行動を咎める理由はありません。ただ、お節介な忠告として、今後のあなたのためにも、こういう事から手を引く事をお勧めします」
ほんの少しでも彼と関わって、普通に会話をした経験があるからこそ、目を覚ましてほしいと願ってしまう。
「こんな事をしなくても、ストレス発散できるはずです。さやかさんから〝こういう情報〟を教えてもらったように、ネガティブな事をしていると似た者同士が集まるんです。三笠さんが憧れて仲良くしたいと思う人は、裏で誰かの悪口を嬉々として言う人ですか?」
三笠さんは私に尋ねられ、苦しげな表情で「…………いや……」と首を横に振る。
「憧れている人に近づきたいって思うなら、その人のいい所を真似していきましょうよ」
私は力を抜き、苦笑いして言う。
「誰だってストレスを抱えていますし、しんどい思いを叫んで、何かに叩きつけて発散したいです。けど最後の一歩で『それをやっちゃ駄目だ』って踏みとどまらないといけないんです」
それが人としての理性だ。
「どんなに毎日楽しそうに見えている人だって、大なり小なりつらい事はあると思いますよ。成功者に思える美形の俳優やアイドルだって、その裏につらい事を隠しているんです。やけくそになりそうな思いを何とか騙して、日々自分にちょっとのご褒美をあげて、歯を食いしばって頑張っているんです」
文香は成功者に見える典型的な例だけれど、彼女が色んなものを犠牲にしているのを私は知っている。
「友達に愚痴を聞いてもらうとか、ある程度のガス抜きは必要です。でもそれ以上の毒を自分で発しすぎてしまったら、いずれ自滅します。だから、自浄できるよう努力しましょう?」
私は三笠さんを見つめる。
慎也と正樹が溜め息をついたのは、「同情してやるなんて甘いな」って思ってるんだろう。
確かに三笠さんのしてる事は最低だ。ヤバすぎ案件だ。
でも彼のしている事を目にして、自分に関する事だけ「もうしない」と約束させ、あとは放っておくのは気持ち悪い。
結局、どれだけの言葉を重ねても、五十嵐さんの時のように本人次第なんだと思う。
それに、言葉は無料だ。
私がお節介をしても、誰も何も損しない。
だから言うだけ言って、あとは彼の良心に任せようと思っていた。
言うべき時に、第三者としての意見は厳しく言う。
でもこのあと、彼が考えや行いを改めても、変えなくても、私たちには関係ない。
そこまで責任を持たないし、持ちたくない。
私が見つめる先、三笠さんは強張った表情をして固まっていた。
やがて「う……っ」とうめいて唇を震わせ、泣き始める。
「……っそりゃ、久賀城さんみたいに眩しい光を浴びてまっすぐ進みたいですよ……っ! でも、久賀城さんのところみたいに大きくない僕の会社は、毎日が戦場なんですっ。溜まりに溜まったストレスを飲んで晴らして、金の匂いを嗅ぎつけて近寄ってくる女性と遊んで……っ、でも信じられなくて……っ。ムシャクシャして、だからプロの女性なら安心できると思ったら、ドハマリしてしまって……っ」
〝成功している男性〟に見える三笠さんのメッキが、ボロボロと剥がれていく。
「っ体調も良くないし、けどストレスで酒と女と買い物はやめられなくて……っ! 華やかにしていないと、仲間たちからハブられるし……っ、……だからっ、…………っ」
「〝弱者〟いじめしてた?」
ソファに座った正樹が、脚を組んで腕組みし、冷め切った声で言う。
「可愛い子を見たら写真撮りたくなる? 下着を盗撮されるのは、スカート穿いてるほうが悪い? ネットで叩かれるような事をするほうが悪い?」
薄ら笑いをした正樹は、結構怒ってるみたいだ。
私は三笠さんを見つめ、訴える。
「たとえその人が何かミスをしたのだとしても、責める権利があるのは、損害を被った相手だけです。ネットで見ているだけの傍観者に、とやかく言う資格はありません」
私は彼を見つめて、ハッキリと告げる。
「自分が正しいと思い込んで、誰かを悪に仕立て上げるのは確かに快楽を伴います。もしかしたら三笠さんには、攻撃しているという意識もないかもしれません。『正しい事を言ってやっている』と思っているんでしょう。でもその時点で、自分がいかに異常な事をしているか、自覚できていないヤバさがあります。それはただの正義中毒です」
以前、五十嵐さんにあれこれされた時もそうだった。
「いま私たちにドン引きされて気まずく思っているでしょう? これは〝表〟にでたらまずい趣味だって、ご自身も分かっていますよね? ご家族や友人に堂々と教えられる事じゃないですよね?」
私は過去に浜崎くんたちに色々されていたから、こういう事への嫌悪感が強い。
「〝これ〟が理由で身を滅ぼすのは、三笠さん自身です。今回の事で私たちが被害を受けたのは、盗撮の写真のみです。それ以外の人への行動を咎める理由はありません。ただ、お節介な忠告として、今後のあなたのためにも、こういう事から手を引く事をお勧めします」
ほんの少しでも彼と関わって、普通に会話をした経験があるからこそ、目を覚ましてほしいと願ってしまう。
「こんな事をしなくても、ストレス発散できるはずです。さやかさんから〝こういう情報〟を教えてもらったように、ネガティブな事をしていると似た者同士が集まるんです。三笠さんが憧れて仲良くしたいと思う人は、裏で誰かの悪口を嬉々として言う人ですか?」
三笠さんは私に尋ねられ、苦しげな表情で「…………いや……」と首を横に振る。
「憧れている人に近づきたいって思うなら、その人のいい所を真似していきましょうよ」
私は力を抜き、苦笑いして言う。
「誰だってストレスを抱えていますし、しんどい思いを叫んで、何かに叩きつけて発散したいです。けど最後の一歩で『それをやっちゃ駄目だ』って踏みとどまらないといけないんです」
それが人としての理性だ。
「どんなに毎日楽しそうに見えている人だって、大なり小なりつらい事はあると思いますよ。成功者に思える美形の俳優やアイドルだって、その裏につらい事を隠しているんです。やけくそになりそうな思いを何とか騙して、日々自分にちょっとのご褒美をあげて、歯を食いしばって頑張っているんです」
文香は成功者に見える典型的な例だけれど、彼女が色んなものを犠牲にしているのを私は知っている。
「友達に愚痴を聞いてもらうとか、ある程度のガス抜きは必要です。でもそれ以上の毒を自分で発しすぎてしまったら、いずれ自滅します。だから、自浄できるよう努力しましょう?」
私は三笠さんを見つめる。
慎也と正樹が溜め息をついたのは、「同情してやるなんて甘いな」って思ってるんだろう。
確かに三笠さんのしてる事は最低だ。ヤバすぎ案件だ。
でも彼のしている事を目にして、自分に関する事だけ「もうしない」と約束させ、あとは放っておくのは気持ち悪い。
結局、どれだけの言葉を重ねても、五十嵐さんの時のように本人次第なんだと思う。
それに、言葉は無料だ。
私がお節介をしても、誰も何も損しない。
だから言うだけ言って、あとは彼の良心に任せようと思っていた。
言うべき時に、第三者としての意見は厳しく言う。
でもこのあと、彼が考えや行いを改めても、変えなくても、私たちには関係ない。
そこまで責任を持たないし、持ちたくない。
私が見つめる先、三笠さんは強張った表情をして固まっていた。
やがて「う……っ」とうめいて唇を震わせ、泣き始める。
「……っそりゃ、久賀城さんみたいに眩しい光を浴びてまっすぐ進みたいですよ……っ! でも、久賀城さんのところみたいに大きくない僕の会社は、毎日が戦場なんですっ。溜まりに溜まったストレスを飲んで晴らして、金の匂いを嗅ぎつけて近寄ってくる女性と遊んで……っ、でも信じられなくて……っ。ムシャクシャして、だからプロの女性なら安心できると思ったら、ドハマリしてしまって……っ」
〝成功している男性〟に見える三笠さんのメッキが、ボロボロと剥がれていく。
「っ体調も良くないし、けどストレスで酒と女と買い物はやめられなくて……っ! 華やかにしていないと、仲間たちからハブられるし……っ、……だからっ、…………っ」
「〝弱者〟いじめしてた?」
ソファに座った正樹が、脚を組んで腕組みし、冷め切った声で言う。
「可愛い子を見たら写真撮りたくなる? 下着を盗撮されるのは、スカート穿いてるほうが悪い? ネットで叩かれるような事をするほうが悪い?」
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