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番外編 2 タワマン事件簿

ふざけんなよ

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「やっぱ詰めが甘いんだよ、三流は。あちこちでポロポロ証拠を落とす。どっかで不満を漏らしたら、そこからさらに話が流れるとか考えないのかねー。ま、大体誰かを悪く言う奴の周りって、似た者同士だから、秘密なんて守られないだろうけど」

 ハッと正樹が鼻で笑い、三笠さんは居心地悪そうにしている。

 私は疲れ切って遠い目をしていた。

 彼女には何もしてないつもりなんだけどなぁ。

 何が癪に障ったんだろ。

 慎也と正樹と暮らしている事? 夫が久賀城ホールディングスの副社長っていう事? 容姿? 毎日楽しそうだから? 子供がいて幸せそうに見えるから?

 考えて――、段々腹が立ってきた。

「……ふざけんなよ」

 私はうなるように呟く。
 二人は私を勇気づけるように、トンッと背中を叩いてきた。

「三笠さん、今この場で写真のデータを削除してください」

 ムカムカしたまま、私は彼を睨む。

「あ、ああ……」

 彼は慌ててスマホを取り出し、操作し始める。
 と、正樹が立ちあがって彼の手元を確認した。

「うっわ……。女の子の盗撮ばっかりじゃん。キモ……。銀座のホステスが好きなんじゃなかったの?」

 ドン引きした正樹に、三笠さんは慌てて言い訳しようとする。

「こっ、これは……っ」

「まぁ、そういうのいいからさぁ。優美ちゃんの写真は復元できないようにしっかり消してよ。あとの写真は僕らの管轄外だから知らない」

 また正樹が強めに言って三笠さんの言葉を遮る。
 彼は縋るように正樹を見たけれど、言葉を挟んだのは慎也だった。

「俺たちはあなたにどんなへきがあっても興味がありません。ただ、うちの妻をよこしまな目で見て、盗撮をした事だけは許したくない。それだけです。今回は盗撮というより肖像権の侵害で、刑事事件にはなりませんが、侵害を主張する事はできます」

 慎也がスラスラ言った言葉を聞いて、三笠さんはさらにビビる。

「お……っ、お願いですから、大事おおごとにしないでください……っ」

 何だかなぁ……。

 あれだけギラギラした人が、女性の写真を勝手に撮って、こんな平身低頭になって謝って……。

 こんな事になるなら、最初からしなきゃいいのに。

 そう思っても、やってしまう人はやる。

 道徳やら倫理やらがすべての人に備わっているなら、犯罪なんて起こらないだろう。

 ネットでも有名人にクソリプ飛ばしている人がいるけど、そういう人はあとから誹謗中傷で訴えられるとか考えていない。

 物凄いつわものは、周りで訴えられる人が現れても「自分だけは大丈夫」と謎の自信を持って誹謗中傷し続ける。
 なんなら、裁判沙汰になっても反省せず、また同じ事を繰り返す。

 その人の中でそれは〝正義〟〝当たり前の事〟〝それぐらいの事〟だからだ。

 心のどこかで何かが壊れてしまっている人は、〝表〟ではまともな人のように振る舞っておきながら、〝裏〟ではドン引きする事をやっている。

 痴漢を何回も繰り返す人もそうだし、万引きが癖になってしまっている人もそう。

 そういう事をやらないと自分を保っていられないんだと思う。

 ある種の依存症だ。

 本当なら、病院に行ってしっかり自分と向き合ってほしいと言うべきなんだろう。

 けど今の私は被害者であって、三笠さんにそこまで言う義理はない。

「盗撮癖があってさやかさんにも脅されたんでしょう。ホステスの女性に付きまとっているのも、普通の感覚と思えません」

 私は厳しい目で三笠さんを見つめる。
 彼は日に焼けた顔を真っ青にさせていた。

「三笠さん、久賀城家は被害者としてあなたの事を弁護士に相談する事もできます」

 慎也が淡々と言う。

「す……っ、すみませんっ、すみません! もう二度としませんから……っ」

 私は乱暴に溜め息をつく。

「本当に二度としないんですか?」

「優美ちゃん」

 正樹が「許すの?」と咎めるような目で私を見てくる。

「しっ、しない! しません!」

 三笠さんはソファから床の上に下りて、土下座する。

 ……やだなぁ。

 こういう事されたくない。ほんっとうに嫌だ。

 這いつくばって謝られるって、本当に気が滅入る。

 怒って彼をさらになじりたい気持ちより、早くやめてほしいからこの土下座タイムをどうにかしたい思いが上回っている。

「一回だけですよ」

 私は人差し指を立てて、三笠さんに向ける。
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