505 / 539
番外編 2 タワマン事件簿
そういうのいいからさぁ
しおりを挟む
嘘をつき慣れている人はスイスイッと嘘を言うけど、そうじゃない人は一瞬の迷いを生む。
一拍おいたあとにモソモソッと答えた時は、大体嘘だ。
だから、今のリアクションは、何となく嘘じゃないなと感じた。
そのあと、三笠さんは唇を歪める。
何か言いたいけど素直に言えない。そんな感じだ。
「誰がやったのか、知っているんですか?」
私の問いに、三笠さんは私たちに目を合わせないまま、視線を泳がせた。
「じゃあ、質問を変えます。誰に『写真を撮ってほしい』と頼まれましたか?」
しばらく、沈黙が落ちた。
こんなふうに、誰かを追い詰めるのは嫌なんだけどなぁ……。
何だかんだで遠回りしてしまったけど、彼に聞くのが一番早い気がした。
立て続けに事件が起こって、私たちは事件Aの犯人はA、事件Bの犯人はBと思っていた。
けど、このマンションで起こった事すべてが、まるっと誰か一人の意思によるものなら……と思うと、話は変わってくる。
口を微かに開いては閉じ……と繰り返している三笠さんを見て、正樹が思いきり大きな溜め息をついた。
「僕から言いましょうか? 三笠さん、あなたは銀座のホステスに入れあげているでしょう?」
「な……っ」
彼は目を剥き、「どうして知っている」という顔をする。
私も「なんで?」という顔をして隣を見た。
正樹は私の手をポンポンと叩いてくる。
「僕らも結構色んな事件に遭遇してまして、怪しいなぁ~と思う女性に行き当たったんですよね。で、彼女は元売れっ子ホステスときた。それで現在裏が取れていないのは、その彼女と三笠さんだけ。仮に……、この二人が繋がってたら?」
正樹は両手の人差し指を立て、ゆっくり近づけてトンと当てる。
「僕、接待でクラブとか誘われるんですよ。あまり興味がないので積極的には行きませんが、ママと知り合いになれば少し得する事もあるので、情報収集がてら行く事もあります。で、知り合いのママに〝彼女〟の事を聞いたら、『秘密ですよ』と教えてくれました。……ついでにあなたの名前も出してみたら……」
そこまで言って、正樹はいい笑顔になる。
一方で三笠さんは真っ青だ。
……というか、正樹、そこまで動いてたんだ。
教えてくれたら……と思ったけど、ギリギリだったのかもしれないし、切り札に使いたかったのかもしれないし、分からない。
特に慎也は正樹より頭に血が上りやすいから、知ったらすぐ殴り込みに行くかもしれなかった。
このつかみ所のない感じが、正樹の強みでもあるのかな。
「ここまでお膳立てされて、言わない訳にいきませんよねぇ? 黙ってる意味がないんですから」
あーあー、正樹、楽しそうだなぁ。
本人は「僕、性格悪いよ」って言ってるけど、こういう時に発揮されてる。
三笠さんは大きな溜め息をついて、ガックリと項垂れた。
「…………仰る通り、通っていたクラブのホステスに本気になりました。彼女と結婚を考えていて、彼女も僕を好きになってくれたと思って、…………家を調べて訪れたり、プレゼントや指輪を贈りました」
わあ。
「優しくて美しくて僕好みの女性で、何度かホテルに行きました。なのに僕の告白にはハッキリした返事をしなくて、それも〝営業〟の一部かと思っていたのですが……、……あの女、僕の他にも男がいて……」
うわあああ……。
実在した……。
「それで付きまとって迷惑行為をしているんですか?」
慎也がスパッと言う。容赦ねぇ。
「つ、付きまといなんてしていません! 僕は本気で、彼女だって僕を」
「そういうのいいからさぁ」
三笠さんの言葉を、正樹の少し大きな声が遮る。
あー、チンピラモード入った。
「三笠さんのゴチャゴチャした気持ちなんて、どうでもいいんですよ。うちの優美ちゃんを隠し撮りしたのは認めたんでしょう? あれー? 好きな女がいるのに、よその家の女に色目向けたんですねぇ。あららー。浮気性だ」
「ちが……っ」
……なんか、ちょっと三笠さんが哀れに思えてきた。
「その辺りもまとめて、奥原さやかさんに何か言われたんですよねぇ?」
……おかしい。正樹の側に尋問用のライトが見える気がする。
三笠さんは表情を歪め、私を見てから、また項垂れる。
一拍おいたあとにモソモソッと答えた時は、大体嘘だ。
だから、今のリアクションは、何となく嘘じゃないなと感じた。
そのあと、三笠さんは唇を歪める。
何か言いたいけど素直に言えない。そんな感じだ。
「誰がやったのか、知っているんですか?」
私の問いに、三笠さんは私たちに目を合わせないまま、視線を泳がせた。
「じゃあ、質問を変えます。誰に『写真を撮ってほしい』と頼まれましたか?」
しばらく、沈黙が落ちた。
こんなふうに、誰かを追い詰めるのは嫌なんだけどなぁ……。
何だかんだで遠回りしてしまったけど、彼に聞くのが一番早い気がした。
立て続けに事件が起こって、私たちは事件Aの犯人はA、事件Bの犯人はBと思っていた。
けど、このマンションで起こった事すべてが、まるっと誰か一人の意思によるものなら……と思うと、話は変わってくる。
口を微かに開いては閉じ……と繰り返している三笠さんを見て、正樹が思いきり大きな溜め息をついた。
「僕から言いましょうか? 三笠さん、あなたは銀座のホステスに入れあげているでしょう?」
「な……っ」
彼は目を剥き、「どうして知っている」という顔をする。
私も「なんで?」という顔をして隣を見た。
正樹は私の手をポンポンと叩いてくる。
「僕らも結構色んな事件に遭遇してまして、怪しいなぁ~と思う女性に行き当たったんですよね。で、彼女は元売れっ子ホステスときた。それで現在裏が取れていないのは、その彼女と三笠さんだけ。仮に……、この二人が繋がってたら?」
正樹は両手の人差し指を立て、ゆっくり近づけてトンと当てる。
「僕、接待でクラブとか誘われるんですよ。あまり興味がないので積極的には行きませんが、ママと知り合いになれば少し得する事もあるので、情報収集がてら行く事もあります。で、知り合いのママに〝彼女〟の事を聞いたら、『秘密ですよ』と教えてくれました。……ついでにあなたの名前も出してみたら……」
そこまで言って、正樹はいい笑顔になる。
一方で三笠さんは真っ青だ。
……というか、正樹、そこまで動いてたんだ。
教えてくれたら……と思ったけど、ギリギリだったのかもしれないし、切り札に使いたかったのかもしれないし、分からない。
特に慎也は正樹より頭に血が上りやすいから、知ったらすぐ殴り込みに行くかもしれなかった。
このつかみ所のない感じが、正樹の強みでもあるのかな。
「ここまでお膳立てされて、言わない訳にいきませんよねぇ? 黙ってる意味がないんですから」
あーあー、正樹、楽しそうだなぁ。
本人は「僕、性格悪いよ」って言ってるけど、こういう時に発揮されてる。
三笠さんは大きな溜め息をついて、ガックリと項垂れた。
「…………仰る通り、通っていたクラブのホステスに本気になりました。彼女と結婚を考えていて、彼女も僕を好きになってくれたと思って、…………家を調べて訪れたり、プレゼントや指輪を贈りました」
わあ。
「優しくて美しくて僕好みの女性で、何度かホテルに行きました。なのに僕の告白にはハッキリした返事をしなくて、それも〝営業〟の一部かと思っていたのですが……、……あの女、僕の他にも男がいて……」
うわあああ……。
実在した……。
「それで付きまとって迷惑行為をしているんですか?」
慎也がスパッと言う。容赦ねぇ。
「つ、付きまといなんてしていません! 僕は本気で、彼女だって僕を」
「そういうのいいからさぁ」
三笠さんの言葉を、正樹の少し大きな声が遮る。
あー、チンピラモード入った。
「三笠さんのゴチャゴチャした気持ちなんて、どうでもいいんですよ。うちの優美ちゃんを隠し撮りしたのは認めたんでしょう? あれー? 好きな女がいるのに、よその家の女に色目向けたんですねぇ。あららー。浮気性だ」
「ちが……っ」
……なんか、ちょっと三笠さんが哀れに思えてきた。
「その辺りもまとめて、奥原さやかさんに何か言われたんですよねぇ?」
……おかしい。正樹の側に尋問用のライトが見える気がする。
三笠さんは表情を歪め、私を見てから、また項垂れる。
0
お気に入りに追加
1,817
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる