上 下
504 / 539
番外編 2 タワマン事件簿

〝そういう目〟で見てしまいました

しおりを挟む
 彼は疲れた顔をしていたけれど、溜め息をついてドアを開いた。

「インターフォンで見た時点で、久賀城さんだって分かってましたよ。……いつ聞かれるかと思っていましたが、逃げられないのは分かってます。お入りください」

 ちょっと彼に申し訳ないと思ったけど、あの写真を見て怖い思いをしたのは確かだ。

 きちんと話し合いたいと思い、私たちは彼の家に入った。





「ちょっと待っててください。寝起きなんで準備します」

 そう言って三笠さんは私たちにリビングのソファに座るよう言い、自分は奥の部屋に消えた。

 マンションなので、作りは成宮家や、さやかさんの家と同じだ。
 でもやっぱりインテリアが違って、シンプルでダークトーンの物が多いからか、男性の一人暮らしという感じがした。

 座っているソファも正樹の話ではイタリアの高級家具ブランドらしい。
 私はまだそういうものの目利きや、善し悪しがまったく分からないので、「すごいなぁ」としか感想がない。

 やがて三笠さんが黒いTシャツにジーンズ姿で出てきた。
 さっきはパジャマっぽいTシャツに、ハーフパンツだったもんなぁ。

「すみません、今何か出します」

 そう言って彼が冷蔵庫を開けるので、慎也が「お構いなく」と言う。

 けれど三笠さんは冷蔵庫から細いボトルを出すと、グラスを四つ出して注ぎ始めた。
 お茶っぽいけど、高級な奴だ……。

 やがてお茶が四つテーブルの上に置かれ、向かいに三笠さんが座る。

 彼は昨日夜遊びしていたのか、疲れと寝不足が残る顔をしている。
 加えてこれから何を言われるか理解しているようで、表情がとても暗かった。

「お気遣いありがとうございます」

 まず慎也がそう言って、彼の厚意を受け入れるつもりでお茶を一口飲んだ。
 私と正樹もそれに倣い、息をつく。

「以前も優美の写真についてお聞きしましたが、今度は誤魔化さずに、もう一度しっかり教えてほしいです。俺たちはマンションで起こった出来事から、関わった人たちの色んな事情を知りました。そのすべてを三笠さんに言うつもりはありません。プライベートの秘密にしておいたほうがいい事もありますし」

 三笠さんは少し背中を丸め、疲れた表情のままお茶を飲む。

「色んな事が立て続けにあって、俺たちも混乱していました。事件が起こるたび、『あの人か、この人か』と疑う気持ちをあちこちに向けました。……でも最終的に、誰かが自分を疑わせないように、意図的に攪乱しているように感じられました。そしてそれに三笠さんも関わっている」

 断定されても、彼は否定しなかった。

「最初、俺があなたを訪れて妻の写真について尋ねた時、『頼まれた』と言っていましたね。あのあと色んな事があって後回しになってしまいましたが、あの時きちんと聞いてくべきでした。誰に言われて妻の写真を撮ったんですか?」

 慎也が強い目で三笠さんを見つめる。
 気迫から、「もう逃がさない」と言っているのが分かる。

 三笠さんは私たち三人をチラッと見て、最後に私に視線を走らせて溜め息をついた。

「……まず、優美さんにお詫びします。あなたを美しいと思い、ジムで見かけた時もプロポーションが良くて〝そういう目〟で見てしまいました」

 今度は私が溜め息をつく。

 慎也と正樹以外の男性に性的に見られても、気持ち悪いだけだ。

 色々言いたい事はあるけど、今はネチネチ文句を言って彼を責めるのではなく、望む答えを引き出す時だ。

 あの穴だらけになった写真を思いだして、私は微かに身震いする。
 けど両側に二人の夫がいてくれると思い直し、勇気を出す。

「私の写真を撮りましたか?」

「……はい。共有スペースや、見かけた時にこっそり撮りました。美人だから手元で写真を見ていたいという気持ちからでした」

 私はもう一度溜め息をつく。

 普通に会話している時に「魅力的ですね」と言われたら、褒め言葉だと思って素直に喜んだ。

 でもさすがにこれは喜べない。気持ち悪い。

「盗撮は肖像権にも関わります。もうやめてください」

「はい。申し訳ございません」

 静かに言うと、三笠さんは素直に謝ってくれる。

「一つ、ハッキリさせておきたいんですけど、優美ちゃんの写真に穴を空けたの、三笠さんですか?」

 それまで黙っていた正樹が、ズバッと尋ねた。

「ちっ、違います!」

 三笠さんは弾かれたように否定する。

 今の〝間〟的に違和感はなかったから、嘘じゃないだろうな。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...