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番外編 2 タワマン事件簿
〝そういう目〟で見てしまいました
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彼は疲れた顔をしていたけれど、溜め息をついてドアを開いた。
「インターフォンで見た時点で、久賀城さんだって分かってましたよ。……いつ聞かれるかと思っていましたが、逃げられないのは分かってます。お入りください」
ちょっと彼に申し訳ないと思ったけど、あの写真を見て怖い思いをしたのは確かだ。
きちんと話し合いたいと思い、私たちは彼の家に入った。
「ちょっと待っててください。寝起きなんで準備します」
そう言って三笠さんは私たちにリビングのソファに座るよう言い、自分は奥の部屋に消えた。
マンションなので、作りは成宮家や、さやかさんの家と同じだ。
でもやっぱりインテリアが違って、シンプルでダークトーンの物が多いからか、男性の一人暮らしという感じがした。
座っているソファも正樹の話ではイタリアの高級家具ブランドらしい。
私はまだそういうものの目利きや、善し悪しがまったく分からないので、「すごいなぁ」としか感想がない。
やがて三笠さんが黒いTシャツにジーンズ姿で出てきた。
さっきはパジャマっぽいTシャツに、ハーフパンツだったもんなぁ。
「すみません、今何か出します」
そう言って彼が冷蔵庫を開けるので、慎也が「お構いなく」と言う。
けれど三笠さんは冷蔵庫から細いボトルを出すと、グラスを四つ出して注ぎ始めた。
お茶っぽいけど、高級な奴だ……。
やがてお茶が四つテーブルの上に置かれ、向かいに三笠さんが座る。
彼は昨日夜遊びしていたのか、疲れと寝不足が残る顔をしている。
加えてこれから何を言われるか理解しているようで、表情がとても暗かった。
「お気遣いありがとうございます」
まず慎也がそう言って、彼の厚意を受け入れるつもりでお茶を一口飲んだ。
私と正樹もそれに倣い、息をつく。
「以前も優美の写真についてお聞きしましたが、今度は誤魔化さずに、もう一度しっかり教えてほしいです。俺たちはマンションで起こった出来事から、関わった人たちの色んな事情を知りました。そのすべてを三笠さんに言うつもりはありません。プライベートの秘密にしておいたほうがいい事もありますし」
三笠さんは少し背中を丸め、疲れた表情のままお茶を飲む。
「色んな事が立て続けにあって、俺たちも混乱していました。事件が起こるたび、『あの人か、この人か』と疑う気持ちをあちこちに向けました。……でも最終的に、誰かが自分を疑わせないように、意図的に攪乱しているように感じられました。そしてそれに三笠さんも関わっている」
断定されても、彼は否定しなかった。
「最初、俺があなたを訪れて妻の写真について尋ねた時、『頼まれた』と言っていましたね。あのあと色んな事があって後回しになってしまいましたが、あの時きちんと聞いてくべきでした。誰に言われて妻の写真を撮ったんですか?」
慎也が強い目で三笠さんを見つめる。
気迫から、「もう逃がさない」と言っているのが分かる。
三笠さんは私たち三人をチラッと見て、最後に私に視線を走らせて溜め息をついた。
「……まず、優美さんにお詫びします。あなたを美しいと思い、ジムで見かけた時もプロポーションが良くて〝そういう目〟で見てしまいました」
今度は私が溜め息をつく。
慎也と正樹以外の男性に性的に見られても、気持ち悪いだけだ。
色々言いたい事はあるけど、今はネチネチ文句を言って彼を責めるのではなく、望む答えを引き出す時だ。
あの穴だらけになった写真を思いだして、私は微かに身震いする。
けど両側に二人の夫がいてくれると思い直し、勇気を出す。
「私の写真を撮りましたか?」
「……はい。共有スペースや、見かけた時にこっそり撮りました。美人だから手元で写真を見ていたいという気持ちからでした」
私はもう一度溜め息をつく。
普通に会話している時に「魅力的ですね」と言われたら、褒め言葉だと思って素直に喜んだ。
でもさすがにこれは喜べない。気持ち悪い。
「盗撮は肖像権にも関わります。もうやめてください」
「はい。申し訳ございません」
静かに言うと、三笠さんは素直に謝ってくれる。
「一つ、ハッキリさせておきたいんですけど、優美ちゃんの写真に穴を空けたの、三笠さんですか?」
それまで黙っていた正樹が、ズバッと尋ねた。
「ちっ、違います!」
三笠さんは弾かれたように否定する。
今の〝間〟的に違和感はなかったから、嘘じゃないだろうな。
「インターフォンで見た時点で、久賀城さんだって分かってましたよ。……いつ聞かれるかと思っていましたが、逃げられないのは分かってます。お入りください」
ちょっと彼に申し訳ないと思ったけど、あの写真を見て怖い思いをしたのは確かだ。
きちんと話し合いたいと思い、私たちは彼の家に入った。
「ちょっと待っててください。寝起きなんで準備します」
そう言って三笠さんは私たちにリビングのソファに座るよう言い、自分は奥の部屋に消えた。
マンションなので、作りは成宮家や、さやかさんの家と同じだ。
でもやっぱりインテリアが違って、シンプルでダークトーンの物が多いからか、男性の一人暮らしという感じがした。
座っているソファも正樹の話ではイタリアの高級家具ブランドらしい。
私はまだそういうものの目利きや、善し悪しがまったく分からないので、「すごいなぁ」としか感想がない。
やがて三笠さんが黒いTシャツにジーンズ姿で出てきた。
さっきはパジャマっぽいTシャツに、ハーフパンツだったもんなぁ。
「すみません、今何か出します」
そう言って彼が冷蔵庫を開けるので、慎也が「お構いなく」と言う。
けれど三笠さんは冷蔵庫から細いボトルを出すと、グラスを四つ出して注ぎ始めた。
お茶っぽいけど、高級な奴だ……。
やがてお茶が四つテーブルの上に置かれ、向かいに三笠さんが座る。
彼は昨日夜遊びしていたのか、疲れと寝不足が残る顔をしている。
加えてこれから何を言われるか理解しているようで、表情がとても暗かった。
「お気遣いありがとうございます」
まず慎也がそう言って、彼の厚意を受け入れるつもりでお茶を一口飲んだ。
私と正樹もそれに倣い、息をつく。
「以前も優美の写真についてお聞きしましたが、今度は誤魔化さずに、もう一度しっかり教えてほしいです。俺たちはマンションで起こった出来事から、関わった人たちの色んな事情を知りました。そのすべてを三笠さんに言うつもりはありません。プライベートの秘密にしておいたほうがいい事もありますし」
三笠さんは少し背中を丸め、疲れた表情のままお茶を飲む。
「色んな事が立て続けにあって、俺たちも混乱していました。事件が起こるたび、『あの人か、この人か』と疑う気持ちをあちこちに向けました。……でも最終的に、誰かが自分を疑わせないように、意図的に攪乱しているように感じられました。そしてそれに三笠さんも関わっている」
断定されても、彼は否定しなかった。
「最初、俺があなたを訪れて妻の写真について尋ねた時、『頼まれた』と言っていましたね。あのあと色んな事があって後回しになってしまいましたが、あの時きちんと聞いてくべきでした。誰に言われて妻の写真を撮ったんですか?」
慎也が強い目で三笠さんを見つめる。
気迫から、「もう逃がさない」と言っているのが分かる。
三笠さんは私たち三人をチラッと見て、最後に私に視線を走らせて溜め息をついた。
「……まず、優美さんにお詫びします。あなたを美しいと思い、ジムで見かけた時もプロポーションが良くて〝そういう目〟で見てしまいました」
今度は私が溜め息をつく。
慎也と正樹以外の男性に性的に見られても、気持ち悪いだけだ。
色々言いたい事はあるけど、今はネチネチ文句を言って彼を責めるのではなく、望む答えを引き出す時だ。
あの穴だらけになった写真を思いだして、私は微かに身震いする。
けど両側に二人の夫がいてくれると思い直し、勇気を出す。
「私の写真を撮りましたか?」
「……はい。共有スペースや、見かけた時にこっそり撮りました。美人だから手元で写真を見ていたいという気持ちからでした」
私はもう一度溜め息をつく。
普通に会話している時に「魅力的ですね」と言われたら、褒め言葉だと思って素直に喜んだ。
でもさすがにこれは喜べない。気持ち悪い。
「盗撮は肖像権にも関わります。もうやめてください」
「はい。申し訳ございません」
静かに言うと、三笠さんは素直に謝ってくれる。
「一つ、ハッキリさせておきたいんですけど、優美ちゃんの写真に穴を空けたの、三笠さんですか?」
それまで黙っていた正樹が、ズバッと尋ねた。
「ちっ、違います!」
三笠さんは弾かれたように否定する。
今の〝間〟的に違和感はなかったから、嘘じゃないだろうな。
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